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調査あれこれ 2024年11月18日 (月)

「南海トラフ地震臨時情報」はどう受け止められたのか(2)~インターネット アンケートから見えた政府や自治体の対応~【研究員の視点】#561

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メディア研究部(メディア情勢)山本 智 古澤 健 / 世論調査部 中山 準之助

 2024年8月8日、日向灘を震源とするマグニチュード7.1の地震が発生し、気象庁は、同日午後7時15分、次の巨大地震に注意を呼びかける「南海トラフ地震臨時情報(巨大地震注意)」を発表しました。

 南海トラフ地震の防災対策の推進地域に指定されている「南海トラフ地震防災対策推進地域(以下、推進地域)」の29都府県の707市町村※1では、国のガイドラインを受けて作成された防災計画などをもとに、住民に対して、社会経済活動を続けながら地震への備えを改めて確認してほしいと呼びかけました。また、津波が想定される自治体では、避難所を開設し、高齢者などに対して地震が起きる前の事前避難を呼びかけました。しかし、祭りやイベントを、津波からの避難経路を伝えたうえで、予定どおり開いた自治体があった一方で、海水浴場を閉鎖した自治体もあるなど、対応が分かれるケースもあり、宿泊施設でキャンセルが相次ぐといった混乱も一部でみられました※2

 今回の南海トラフ地震臨時情報(巨大地震注意)の発表を、人々はどのように受け止め、どのように行動したのでしょうか。NHK放送文化研究所では、全国の約9,900人を対象に、インターネットを使ったアンケート※3を実施しました。
 1回目のブログでは、南海トラフ地震臨時情報の発表によって、人々の防災意識や防災対策がどのように変化したのか紹介しました※4。2回目は、「南海トラフ地震臨時情報(巨大地震注意)」の発表を受けて国や自治体、企業がとった対応を、人々はどのように受け止めたのか、アンケートの結果から読み解きます。


1. 企業や自治体の対応

 南海トラフ地震臨時情報が発表された際、企業や自治体はどのような対応をとるべきだと考えるのか、2つの選択肢を設けて尋ねました。「空振りでもよいので、命と暮らしを最優先にした対応をとってほしい」について、「そう思う(33%)」と「ややそう思う(57%)」と答えた人の合計は90%※5に上りました。一方で、「あまりそう思わない(8%)」と「まったくそう思わない(1%)」と答えた人の合計は9%にとどまりました。

1_Q12_命と暮らしを最優先_全体

「地震への警戒よりも、ふだんの暮らしを優先にした対応をとってほしい」について、「そう思う(8%)」、「ややそう思う(34%)」と答えた人は42%だったのに対して、「あまりそう思わない(51%)」、「まったくそう思わない(7%)」と答えた人は58%でした。

2_Q12_ふだんの暮らしを優先_全体

 アンケートでは、企業や自治体がとった対応のうち、「イベントや祭りの中止」、「避難所の開設」、「高齢者などへの避難呼びかけ」、「東海道新幹線の減速運転」、「旅行や帰省の自粛の呼びかけ」について、どのように受け止めたのか、尋ねました。

このうち、「大げさな対応だった」と「やや大げさな対応だった」と答えた人の合計が最も多かったのは、「旅行や帰省の自粛の呼びかけ」で24%でした。次いで、「イベントや祭りの中止」が22%、「東海道新幹線の減速運転」が18%、「避難所の開設」が12%、「高齢者などへの避難呼びかけ」が11%でした。
 また、「適切な対応だった」と答えた人が最も多かったのは、「高齢者などへの避難呼びかけ」で66%でした。次いで、「東海道新幹線の減速運転」と「避難所の開設」が64%、「イベントや祭りの中止」が58%、「旅行や帰省の自粛の呼びかけ」が57%でした。いずれの対応も半数以上が適切だったと考えていることがわかりました。

3_Q12_自治体や企業の対応への評価


2. 国の対応

 南海トラフ地震臨時情報(巨大地震注意)は1週間後の8月15日に呼びかけを終了しました。国は情報に伴う特別な注意の呼びかけを行う期間を、その後に地震が発生する可能性と社会的な受忍の限度を踏まえ、最初の地震発生から1週間としています。しかし、情報の発表から1週間が過ぎたからといって、大規模地震の発生の可能性がなくなるわけではありません。

 呼びかけの期間が1週間であることについて、どのように受け止めたのか、尋ねたところ、「長すぎた」と答えた人が15%、「適切だった」と答えた人が53%、「短すぎた」と答えた人が8%でした。
 推進地域※6とそれ以外を比較してみると、推進地域では、「長すぎた」と答えた人が17%、「適切だった」と答えた人が55%、「短すぎた」と答えた人が7%、推進地域以外では、「長すぎた」と答えた人が12%、「適切だった」と答えた人が51%、「短すぎた」と答えた人が10%でした。推進地域では、推進地域以外に比べて、「長すぎた」と答えた割合が若干、高くなりましたが、いずれの地域でも「適切だった」と答えた割合は半数以上となりました。

4_Q10_呼びかけ期間 1週間についての評価_推進地域

「南海トラフ地震臨時情報」の運用は、2019年5月末に、「南海トラフ地震に関連する情報」から改められる形で運用が始まりました。「南海トラフ地震臨時情報(巨大地震注意)」という名称からどのような印象を受けるか聞いたところ、「とても不安になる(25%)」と「やや不安になる(56%)」と答えた人の合計が81%に上った一方で、「あまり不安にならない(15%)」と「まったく不安にならない(3%)」と答えた人の合計は18%にとどまりました。また、推進地域では、「とても不安になる(27%)」と「やや不安になる(56%)」と答えた人の合計が83%、推進地域以外では、79%でした。

5_Q11_臨時情報という言葉への印象_推進地域


3. 内閣府 情報の伝え方の改善に向けた検討へ

 アンケートからは、自治体や企業がとった対策について、半数以上が「適切だった」と答えたことがわかりました。また、1週間の呼びかけ期間についても、半数以上が「適切だった」と答えたことがわかりました。一方で、「南海トラフ地震臨時情報(巨大地震注意)」という名称から受ける印象については、「不安になる」と答えた人の割合が80%を超える結果となりました。

 南海トラフ地震の防災対応を所管する内閣府は、呼びかけの対象となった707の市町村や運輸、観光、小売りの事業者などにアンケートを行って、防災計画の策定状況や受け止めを調べるとともに、専門家でつくるワーキンググループの意見も踏まえて、南海トラフ地震臨時情報の伝え方などの改善に向けた検討を進めることにしています※7。また、内閣府防災担当の森久保司参事官はNHKのインタビューで、「巨大地震注意」という名称について、「ことばが与える印象は非常に重要だ。有識者の議論を経た結果として今の制度になっているが、名称も含め不断の見直しは重要だと思う」と述べました※8

 次回のブログでは、南海トラフ地震臨時情報を人々はどのような形で入手していたのか、また、臨時情報に伴う偽情報や誤情報にどの程度、接していたのかについて、詳しく紹介します。


※1 南海トラフ地震防災対策推進地域指定市町村一覧(内閣府)
https://www.bousai.go.jp/jishin/nankai/pdf/nankaitrough_shichouson.pdf

※2 NHK NEWS WEB 2024年9月8日『「南海トラフ地震臨時情報」から1か月 各地で課題改善へ検討』
https://www3.nhk.or.jp/news/html/20240908/k10014574431000.html

※3 インターネット調査モニターのうち、47都道府県から15歳から79歳までの男女約200人ずつ抽出し、合わせて9,913人から回答を得た。調査期間は2024年10月17日(水)~21日(月)

※4 「南海トラフ地震臨時情報」はどう受け止められたのか(1)~インターネット アンケートから見えた防災意識の変化~【研究員の視点】#558
https://www.nhk.or.jp/bunken-blog/500/673123.html 

※5 アンケート結果の数値は小数点以下を四捨五入した。以下、すべての設問において同様である。

※6 東京都は南海トラフ地震防災対策推進地域を含むが、島しょ部のみであるため、「含まない」として分析を行った。

※7 NHK NEWS WEB 2024年9月8日『「南海トラフ地震臨時情報」から1か月 各地で課題改善へ検討』
https://www3.nhk.or.jp/news/html/20240908/k10014574431000.html

※8 NHK NEWS WEB 2024年8月26日『内閣府 南海トラフ地震臨時情報めぐり "伝え方の改善を検討"』
https://www3.nhk.or.jp/news/html/20240826/k10014559811000.html


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【山本 智】 メディア研究部
1990年入局、神戸局、報道局経済部、国際放送局、大阪局、広島局、前橋局などを経て2024年8月から放送文化研究所。


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【古澤 健】 メディア研究部
1993年入局、新潟局、報道局おはよう日本、福岡局、仙台局、高知局などを経て2024年8月から放送文化研究所。   


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【中山 準之助】 世論調査部
2018年からNHK放送文化研究所で、視聴者調査や社会調査の企画や分析に従事。 これまで「視聴率調査」「接触動向調査」、「東京五輪・パラ調査」「復帰50年沖縄調査」「中高生調査」などを担当。 アナウンサーとして盛岡局で勤務していたとき、東日本大震災が発生し、被災各地の取材を重ねた経験から災害・防災に関する調査を実施し、ライフワークとして研究中。