(社説)医療事故調査 課題洗い出して改善を

社説

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 医療事故調査制度ができて10年目に入った。事故の報告数は横ばいで、医療事故の原因を究明し再発防止につなげる目的にはまだ道半ばだ。制度への理解を深めるとともに現状の課題を整理し、改善を続けなければならない。

 医療事故調査制度は医療法の改正で2015年10月に始まった。医療で「予期せぬ死亡」が起きた場合、病院や診療所は、第三者機関の医療事故調査・支援センターに報告したうえで、原因を調べ、遺族やセンターに説明・報告する義務がある。目的は、再発防止や医療の質の向上で、責任追及ではない。

 届け出は年300~400件。地域や病院で差があり、人口あたり最多の宮崎県と最少の福井県では5倍の開きがある。600床以上の大病院のうち、約2割が23年末までに一度も報告がなかった。

 医療事故の疑いがある事案が起きたとき、事故と判断してセンターに届け出るかは病院側の判断に委ねられている。病院によって事故と認定する考え方や対応に格差があるとされる。日本の医療事故件数の実情は不明だが、届け出以外にも多くの事故が起きている可能性がある。

 遺族団体は、事故と疑われる事案を医療機関がセンターに届け出ず、遺族が届け出を求めても応じない事例が相次いでいると指摘する。

 日本弁護士連合会は制度の改善を求める意見書を22年にまとめた。(1)遺族から相談されたセンターは必要と判断したら医療機関に調査を促し、開始されない時はセンターが調査できる制度の創設(2)調査する医療機関への財政支援(3)医師らの過失の有無に関係なく補償する無過失補償制度の創設などだ。

 医療事故が表面化しなければ、教訓となる情報を共有できない。調査を始める対象の決め方、調査体制や方法、報告書に記載する内容などを標準化すれば、医療機関間の格差を減らしていけるはずだ。

 事故調査をめぐっては医療側と患者・遺族側の意見の隔たりが大きく、いまの制度は長い時間をかけてできた妥協の産物ともいわれる。見直しへの議論は鈍いが、センターに指定されている日本医療安全調査機構が先月、改善に向けて議論する検討会を設けた。医療者や弁護士、遺族らで構成され、1年かけて現状の課題を整理し、運用や機構の取り組みを検証して提言をまとめるという。

 ただ、本来なら制度の検証の先頭に立つべきは厚生労働省だ。現場や専門家の知見を集め、見直しの必要を検討する職務を怠ってはならない。

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