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#このラノ2024 ランクイン記念① 『不死探偵・冷堂紅葉』 零 雫先生書き下ろしSSを公開🦋✨ ーーーーーーーーーーーーーー 『冷堂紅葉に踏まれたい』  冷堂が俺のクラスに編入して一ヶ月ほどが経過した。  教室での冷堂は口数も少なくクールに過ごしているので、クラスに馴染んでいるかと言えば微妙なままだ。けれど、男子勢からは早い段階で圧倒的な人気を得ていた。  顔、スタイル共に百点では足りない美貌を持っているし、深窓の令嬢を思わせる冷たく儚げな印象は高嶺の花のように冷堂を魅せている。都会を歩けば声を掛けられ、座れば芸能人の撮影か何かと間違われそうだ。  要するに、モテる。  押しも押されもせぬ、モテにモテて然るべきといった存在なのだが、同時に冷堂のクールさが近寄りがたい雰囲気を漂わせていて、編入初日こそ大勢に囲まれていたが今となってはなかなか声を掛けようという者もいない。  今の冷堂の学校での立ち位置はそんな感じだった。  冷堂との関わりが深くなれば、実際はそんなに付き合いにくい性格ではないことはわかるのだが、遠巻きに見ているだけでは外面でしか判断できないだろう。  ……まぁ、あまり冷堂に男からの声が掛からないのは、ほぼ常に俺と一緒にいるからというのもあるかもしれないが。  ある日の事だった。教室に女子が不在、男だけしかいない珍しいタイミングがあった。そこで男達は各々が好きな女子の話をするという甘酸っぱい青春トークを繰り広げていた。  俺は離れた席で本を読んでいたのだが、会話の内容は丸聞こえだった。  話題に挙がっている対象はやはり冷堂、宮川が多い。なぜかと言えば、大きいからだ。  男って単純だな……。気持ちはわかるけども。芦原を推している男がいた時には、なかなかいいセンスじゃないかと俺は心の中で呟いていた。  そんな中、一人の男が腕組みをしたまま神妙な顔で言った。 「冷堂さんに踏まれたい」  その声はぴんと張った糸のように裏表がなく、揺るぎない本音なのだという真剣さが伺えた。  曰く、冷堂にいつもの黒タイツを履いたまま踏みつけられたいのだと。こんなことを普段は言えないので、今だからこそ話した、と男は言った。  それを聞いた他の面子は、なるほどそういう見方もあるか、確かにあのタイツ越しの美脚に踏まれるのは浪漫がある、としきりに頷いて同意していた。いい友達を持っているな。  ……おそらくあの男は冷堂のクールな印象から『踏まれたい』という願望が湧き出たのだと俺は推理する。そういう女性はサド寄りの指向であるという固定観念があるのだろう。  実際のところ、冷堂は女王様気質な性格ではない。あまり人を踏んで悦に浸るようなタイプとは違うだろう。Sっ気のある感じはしない。  つまり誤解から生まれた儚い願いなわけだが……、その『冷堂さんに踏まれたい』という話はなぜかずっと頭の片隅に残っていた。  隣を歩いていても、一緒に食事をしていても、冷堂を見るたびにそのことを思い出していた。  そんな八月のある日、いつものように冷堂は俺が住むアパートに来ていた。 「はぁ、暑かったですね……。お邪魔します」  真夏の炎天下から逃れて、ハンカチで汗を拭いて一息つきながら玄関で靴を脱ぐ。鯉が跳ねるように、ローファーからタイツを履いた冷堂の黒い爪先が出てきた。  それを見て、やはり教室で冷堂ファンの男が言っていたことを思い出す。  『冷堂さんに踏まれたい』。その言葉に俺の思考は支配されていた。 「……? 足に何かついてますか?」  あまりに俺が爪先を凝視していたせいか、訝しんだ冷堂は足を少し浮かして甲を見た。  床から離れた、踵の黒い曲線が俺を悩ませる……。  なんでもない、とその場は誤魔化して俺は冷堂を居室に招いた。  いつも通り二人でのんびり過ごしながら、俺はこれまでにないほど脳を回転させていた。  どうすれば冷堂に踏まれることができるだろうか、と。  仮に「踏んでくれって言ったらどうする?」などと聞けば、冷堂は暑さで頭がおかしくなったのかと心配するか、普通にドン引きするだろう。踏んでもらうことの了承を得るのは難しい。  つまり、故意では無理だ。事故のような形で踏まれなければならない。  制服のスカートを折り畳んで正座をしている冷堂の足裏は、吸い付くようにタイツが張り付いて形がよくわかる。  土踏まずの滑らかな窪みから母趾球の膨らみを超え、細く長い足の指が伸びている。指と指の間が少し透けているのを見ていると、どうしてもあの足に踏まれたくなってきた。  冷堂紅葉に踏まれたい。そんなタイトルの小説があったら作者は確実にヤバい変態だと思うが、俺の頭の中はその事でいっぱいだ。  そのためには策が必要だ……。  ふと視線を上げると、冷堂が不思議そうな顔をして俺を見ていた。 「天内くん、今日はずっと下の方を見ていますね。体調でも悪いんですか? 熱中症とか……?」  冷堂が俺の頬に触れる。純粋に心配してくれている様子だ。けど、俺が熱を向けているのは別の所なんだ……!  俺はなんとか知恵を絞って作戦をまとめると、頬に触れている冷堂の手をそっと掴んだ。  そのまま立ち上がり、座っていた冷堂を引き起こす。お互いに直立して向き合う形になった。  俺は冷堂を真っ直ぐ見つめながら言う。 「冷堂、目を閉じてくれ」 「え……。今ですか? 時間を戻したいんですか?」 「いや、そういうわけじゃないんだけど、目を閉じてほしい」  俺が真剣にそう言うと、冷堂はしばらく動きが停止した。 「……………」  数秒後、何かに思い当たったのか、顔を真っ赤にしてもじもじと髪の毛先を弄り出す。 「わ、私はいいですが……。異能力が目的でないなら、その……つまり……私と……」  しばらくごにょごにょと独り言を呟き、やがて冷堂は意を決したように顔を少し上げて目を閉じた。緊張しているのか、必要以上に力を入れて瞼をギュッと閉じている。唇は固くならないように力を抜いて、何かを受け入れるかのように待っているようだ。  俺は冷堂から少し離れて声を掛けた。 「よし、じゃあ目を閉じたまま前に三歩進んでくれ」 「え??」 「無事に来れたらお菓子があるぞ」 「は、はぁ……」  冷堂は言われるがまま、目を閉じたまま三歩前進した。俺の目の前まで来たところで口元にクッキーを持っていき、食べさせる。 「あ、美味しい……」  怪訝な様子を見せていた冷堂だったが、クッキーをサクサク頬張りながら口元を緩める。 「次はこっち」  再び俺は、冷堂から若干離れて声を掛ける。とはいえ、そんなに広い部屋ではないので大した距離ではない。  冷堂は声がした方向に振り向き、再び視界を塞いだまま歩いた。  無事に俺のところまで辿り着いたので、同じクッキーを口元に持っていく。 「美味しいです」  そりゃよかった、と言って俺は再び距離を取る。  二枚目ともなるとすっかり上機嫌になっていた。目を閉じろと言われたのをしっかり守っているところが可愛い。 「次はこっちだ」 「わかりました」  冷堂もそういうゲームなのだと理解したのか、意気揚々と声がした方向に歩き出す。  今だ、と俺は心の中で叫ぶ。そして、歩き出した冷堂の前にヘッドスライディングのように滑り込んだ!  次の瞬間、視界を塞いだ冷堂は俺に気づかないまま歩き、その足で思い切り顔を踏みつけた。  策は、成った。  黒タイツに包まれた冷堂の足裏が俺の顔に落ちる。  少ししっとりしていてすべすべした布の感触と、タイツ越しに伝わる冷堂の柔らかさが顔を包みこんだ。 「わ、何か踏ん──」  バランスを崩した冷堂は転ばないよう足に踏ん張りを効かせ、おそらく少しよろけたのだろう。俺の顔を踏んでいる右足に体重が掛かり、さらに足裏の圧力が増した。  冷堂の重みを受け止め脳が揺さぶられる一方、ボディーソープとタイツの洗剤、そして汗が混じり合った爽やかで花のような香りに胸が高鳴った。青空を背景に咲き誇るハイビスカスが脳裏で開花する。 「あっ……ごめんなさい! 大丈夫ですか!?」  思わず冷堂は目を開き、俺の顔を踏んでいたことに気づいて足を退けた。  まさか自分から踏まれに行ったとは考えてないのだろう。踏んでしまったことを詫びている。 「大丈夫大丈夫、やっぱ目を閉じて歩くのは危ないな」  顔の中心に足跡を付けた俺は、身を起こして問題ないことをアピールする。気にしないでくれ、と冷堂の口元にクッキーを持っていく。  罪悪感でしゅんとしながらもクッキーを口で受け取って頬張る冷堂を見ながら、先ほどのことに思いを馳せる。  ……踏まれていた時間はほんの一瞬だったものの、感触や重み、アクシデントで踏まれるという状況など、様々な物が足の裏に集約されていて充実した瞬間だった。  冷堂にとってはただの一歩だが、俺にとっては偉大な一歩だったなと思った。 #不死探偵 #GA文庫
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