私はクロスオーバーが苦手です。

でも、俺ガイルもウマ娘も大好きです。

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俺はサイレンススズカのトレーナーであるわけがなかった。

俺の名前は比企谷八幡。ひょんなことからトレセン学園のトレーナーになってしまった男だ。

 

今日も担当ウマ娘と一緒にトレーニングの予定なのだが...

 

「.....」

 

ぼんやりと何処か遠くを眺めている担当ウマ娘。

 

彼女の名前は...サイレンススズカ。

 

スカウトしたきっかけは....ターフを駆け抜ける彼女の美しさに心を奪われてしまったから....という単純なものだ。

 

「...」

 

....熱心に勧誘する俺はさぞ気持ち悪かっただろう。何故か手を取ってくれたスズカには感謝しかない。

 

どうして俺の勧誘を受けてくれたのか聞いてみたのだが、どうにも明瞭な答えは貰えなかった。

 

恐らく...たまたま声をかけたのが最初だったとか、そんな理由だろう。

 

「...比企谷さん。あの...メニューは...?」

 

「お、おう」

 

トレーナー室の入口に立ったまま尋ねて来たスズカ。

 

慌ててトレーニングメニューを探すものの、中々見つからない。

 

「.....」

 

特に感情が読めない表情。ぼんやりとしていて掴みどころがない子だ。

 

「あったあった。これが今日の練習メニューだ」

 

先程作成したメニューを手渡した。

 

「ありがとうございます」

 

トレーニングメニューを一通り眺めると、スズカは顔を上げた。

 

「あの....比企谷さん?」

 

「なんだ?」

 

何か聞きたいことがあるらしい。

 

「その...この併走トレーニングですが...どのような走り方をすればいいんですか?」

 

「併走相手の後ろに着いて走るんだ。スズカの大逃げのスタイルだと勝てなくなるからな」

 

「....わかりました」

 

はぁ....と小さくため息を吐いたスズカ。

 

....不満なのだろうか?

 

とはいえ、あの大逃げスタイルは周りのレベルが上がればリスクしかない。

 

多少我慢させても他の先方を学ばせるべきだ。

 

「では、行ってきます」

 

「ああ。俺も後から行く」

 

「...」

 

何となく、元気が無い様子のスズカを見送ったのだった。

 

====================

 

そんな日々が続いたとある日。

 

スズカはトレセン学園内の模擬レースに出走する事になっていた。

 

「スズカ、分かっているな?ギリギリまで先頭集団の中で耐えるんだ」

 

「.......わかりました」

 

不安そうな表情だった。

 

何とかしてあげたいのだが、何と声をかけたモノか。

 

「っ....」

 

足取りが重い様子のスズカ。

 

そんな彼女を....俺はただただ見送る事しか出来なかった。

 

不安な気持ちを抱えたまま、観客席へと足を運んだ。

 

ゲートに並び始めたウマ娘達。

 

模擬レースとはいえ、トップクラスの実力者が集まるトレセン学園。そんな学園内の模擬レースとなれば、本番さながらのギリギリの戦いになるだろう。

 

故に先行。故に体力の温存。故に作戦だ。

 

素直なスズカなら俺の気持ちをきっと理解してくれるはず。

 

そして、全員ゲートインが完了。

 

準備が整ったことを確認して、スタート。

 

一斉にウマ娘達が飛び出した。

 

芝を蹴る力強い足音。

 

風を切るウマ娘達。

 

逃げを選んだウマ娘が集団から一つ頭が出ており、その次点に先行集団が固まっている。

 

その中にスズカの姿も.....おや?

 

先頭集団にスズカの姿が無い。

 

彼女の実力的についていけないはずはない。

 

それに、後方で体力を温存して、最後に一気に差すような作戦も立てた記憶はない。

 

スズカ...どこだ...?ーーー居た...!

 

先頭集団と後方集団の間。中途半端な位置に彼女は着けていた。....どうしてそんなところに...?

 

「サイレンススズカ....今日は大逃げじゃないんだな」

 

「何か作戦があるんじゃないですか?」

 

そんな声が聞こえて来た。その通りだ。俺が立てた作戦ならきっと...!

 

しかし....遠目からははっきりと判断できないが、スズカはどこか不安げな表情を浮かべたままだ。

 

とてもレースに集中しているようには見えない。

 

このままでは....!

 

「.....」

 

そして、模擬レースは終了した。

 

スズカはスパートをかけることも無く、最初に付けた順位のままレースを終えた。

 

...視線を感じる。良くない視線だ。

 

俺がスズカのトレーナーであることは知られている。

 

―――作戦が失敗なんじゃないの?

 

―――やっぱりサイレンススズカは大逃げスタイルで走らせた方が良いんじゃ....

 

そんな声が聞こえてきそうだ。

 

俺は陰口を振り切るようにスズカの下へと向かったのだった。

 

「....スズカ」

 

「比企谷さん....」

 

浮かない表情のスズカ。

 

「....ごめんなさい。私の実力不足でした」

 

折れてしまった耳。力なく垂れ下がる尻尾。

 

「....とりあえず、反省会とトレーニングだ。それしかない」

 

「...はい」

 

俺は....気が付かなかった。

 

ほんのりと、スズカとの心の距離が開いていることに。

 

====================

 

それから数日。

 

俺の方針は変えることなかった。

 

しかし―――

 

「スズカ...ダメだろ。併走相手を追い越してぶっちぎるなんて」

 

「....ごめんなさい」

 

素直に謝るスズカ。

 

「あ....悪い。怒ってるわけじゃないんだ。スズカはその走り方の方が走りやすいのは知ってるから」

 

「そう....ですね」

 

曖昧な返事。

 

....曖昧なのは俺も同じか。

 

あれからずっと、俺は悩んでいた。

 

...このまま俺の作戦を押し付け続けても良いのか?

 

...本当はスズカが走りたいようにさせてあげた方がいいのではないか?

 

しかし...考えているうちに時間ばかりが過ぎていく。

 

今日も、もうトレーニングを終える時間だ。

 

「比企谷さん、少し走ってきますね」

 

トレーナー室に戻るなりスズカはそう告げた。

 

「あ....それは...」

 

少しオーバーワーク気味だ。

 

しかし、走ることを愛する彼女を無理やり止めることが...本当に正しい判断なのだろうか。

 

「比企谷さん?」

 

「あ....いや、何でもない。ほどほどにしておくんだぞ」

 

「はいっ!」

 

今日一番の笑顔だった。

 

....やはり、俺は間違っているのだろうか?

 

そんなことを椅子に腰かけてぼんやりと考えた。

 

思えば....俺は彼女にトレーニングや作戦を押し付けてばかりだった。

 

もう少し...スズカにも話を聞こう。

 

そう言えば...スズカとは一緒に出掛けたことすらない。同僚のトレーナーに話を聞く限り、専属の担当ウマ娘とは一緒に出掛けるなりして親睦を深めて信頼関係を築くものらしい。

 

「うーん....」

 

学生時代からロクな青春を送っていない俺にそんなことが出来るのだろうか。

 

雪ノ下....は似たようなモノだから参考にならないな。由比ヶ浜辺りに聞いて年頃の女の子が喜びそうなお出かけスポットを聞いてみよう。

 

「お出かけスポットか...」

 

人生においてはじめて口にしたワードかもしれない。

 

まあ良い。とりあえず、すぐに行動だ。

 

スマートフォンを取り出して電話帳を開く。

 

通話履歴を辿っても業務連絡と家族と戸塚の名前しか並んでいなかった。.....実は一番多いのは材木座なのが少し悲しい。まあ、ヤツも数少ない友人の一人だ。

 

仕方が無いので、由比ヶ浜の名前は電話帳の中から探し出した。

 

前に声を聞いたのはいつ以来だろうか。

 

そう思いながら電話のアイコンをタップしてコールした。

 

「...」

 

しばらくコールするも、なかなか出ない。

 

由比ヶ浜はいつもスマホを手元に置いているイメージかあるんだけどな。実際、電話をかけた際にはいつもすぐに繋がっていたような気がする。

 

『も、もしもし?○○ですが....』

 

確実に由比ヶ浜の声だった。画面を確認しても間違いない。しかし、電話口の相手は違う名前を名乗っていた。

 

「えっと...比企谷ですが...由比ヶ浜さんのお電話でよろしかったでしょうか?」

 

自信が無かったのでそっと尋ねてみた。

 

『え?ヒッキー!?』

 

懐かしいあだ名に少し安心した。

 

「ああ、俺だよ。久しぶりだな、由比ヶ浜」

 

『久しぶり~元気だった?』

 

明るく可愛らしい声。相変わらずの様子だ。

 

「まあ....ボチボチってとこだ」

 

『あははっ、ヒッキーらしいね。いつ以来だっけ?』

 

そう言えばいつ以来だろうか?もう何年も経っている気がする。

 

「確か...小町の結婚式以来じゃないか?」

 

『そうだっけ?ゆきのんの結婚式の時じゃない?』

 

「何それ聞いてない」

 

え?アイツ結婚したの?大丈夫?

 

『え?......あっ。そ、そうだね!小町ちゃんの結婚式以来だ!』

 

明らかに誤魔化していた。

 

.....やめておこう。どうせ聞いても辛いだけだ。

 

「とりあえず、お前も元気そうで安心したよ」

 

『まぁ、色々大変だけどね~....あ、ちょっと待ってね』

 

声が遠のいたと思いきや、遠くで子供の声と由比ヶ浜の声が聞こえてきた。

 

....親戚の子供でも居るのだろうか?

 

『ごめんごめん。上の子が暴れん坊の盛りでね~』

 

「...?親戚の子か?」

 

『あはは、違うよ~。アタシの子供!下の子はまだ生まれたばっかりなんだ~』

 

由比ヶ浜の子供か....

 

え?由比ヶ浜の子供?

 

「え?お前結婚してたの?」

 

『あれ?知らなかった!?』

 

心底驚いた様子だ。

 

「知らねえよ....って、そう言えば最初も違う名前を名乗ってたな」

 

『あはは...ごめんね。実は式は挙げてなくて、仲が良い人にしか伝えてなかったからなぁ....落ち着いてきたら式を挙げるから、その時には招待状送るね!』

 

「あ、ああ...」

 

何とも....寂しい気持ちになった。

 

寂しい?これは寂しいのだろうか?

 

.....分からない。

 

『そういえば、何か用事があったんじゃないの?』

 

そうだった。最近のお出かけスポットを聞く為に電話をかけたのだ。

 

.....しかし、子育てに忙しそうな彼女にくだらない事を聞くのはいかがなものか。

 

「....いや、何でもないんだ。久しぶりにお前の事を思い出したから電話しただけだよ」

 

『そう?』

 

「ああ。悪いな、忙しいときに」

 

『ううん!大丈夫だよ。また今度集まりたいね~』

 

「そう...だな」

 

少しだけ複雑な気分だ。

 

『ゆきのんは臨月だし、いろはちゃんも妊活中だから...しばらくは難しいからまた連絡するね!』

 

臨月...妊活...まあ、不思議では無いよな。

 

「あ.....ああ。じゃあな」

 

そう言って電話を切った。

 

「....」

 

静かに、優しく、深く....鈍い刃で心が裂かれていく気分だった。

 

「....やめたやめた」

 

こんな事を考えても仕方ない。

 

お出かけスポットなんてネットで調べるといくらでも情報は手に入る。

 

俺は、しばらくパソコンに向き合って情報収集を続けた。

 

====================

 

数日後。昼過ぎのトレーニングまでの時間、俺は何とも落ち着かない気分だった。

 

まだお出かけの目的地は決まっていない。だが、先に誘っても構わないだろう。

 

「こんにちは」

 

時間通り訪れた、練習着姿のサイレンススズカ。

 

....思わず聞き惚れてしまいそうになる綺麗な声だ。

 

「おう」

 

普段通りに接する。動揺を悟られないように。

 

「なあ、スズカ」

 

「はい?」

 

振り返って小首をかしげているスズカ。

 

「その....今週の日曜日は何か予定が有るか?」

 

「日曜日...ごめんなさい。朝から夕方まで予定が入っています」

 

まあ、仕方ないか。

 

「そうか...それなら土曜日はどうだ?」

 

「....お昼前までなら大丈夫です」

 

「よし。それなら...気分転換にどこか一緒に出掛けないか?」

 

「えっと...」

 

困惑している様子だ。

 

....まあ、いきなりこんな事を言われると困るよな。

 

「えっと...トレセン学園の近場で良ければご一緒します」

 

「良いのか?」

 

自分で聞いておきながら間抜けなことを聞いたと思っている。

 

「はい。ただ...お昼前には戻りたいです」

 

「分かった。じゃあ...朝の9時に校門で待ってるよ」

 

「はい。...では、トレーニングに行ってきますね」

 

スズカはそのままの勢いでトレーニングに行こうとした。

 

「ああ.....え?」

 

まだトレーニングに関して何も話していない。

 

「スズカ!」

 

「え...?」

 

彼女は心底不思議そうな表情で振り返った。

 

「まだトレーニングメニューについて何も話してないぞ」

 

「あ....そうでした。すみません....」

 

本当に忘れていたらしい。

 

...天然気味なスズカらしいな。

 

その後、簡単に打ち合わせをしてトレーニングに向かった。

 

今日は筋トレと走り込みの予定だ。

 

「っ...!」

 

軽やかにターフを駆けるスズカ。

 

キラキラと輝くロングヘアが美しい。

 

ああ....本当に、スズカは楽しそうに走る。

 

心から...走ることが好きなのだろう。

 

そんな彼女をぼんやりと眺めていると、不意に彼女が足を止めた。

 

「ん?」

 

こちらに向かって手を振っている...?

 

彼女も俺に心を開き始めているのだろうか?

 

そんな思いに応えようと、俺も軽く手を振ってみた。

 

「....?」

 

すると、スズカは中途半端に手を上げたまま不思議そうに首をかしげていた。

 

「え?」

 

妙なリアクションに首をかしげていると、いつの間にかスズカは再び走り出していた。

 

その時だった。

 

「ん?」

 

スマートフォンに着信が入ってきた。

 

「たづなさんか。....はい、比企谷です」

 

たづなさんの電話の内容は、少し打ち合わせしたい内容が有るので理事長室に来て欲しいとのことだった。

 

スズカのトレーニングがあるのだが....まあ、後はストレッチを残すのみだ。練習場には他のウマ娘や教官も居るので大丈夫だろう。

 

「スズカ!」

 

自分の中では最大の声量で彼女を呼んだ。

 

....それでも、ウマ娘の優れた聴力でなければ届かないらしい。

 

「比企谷さん?」

 

スズカは気が付いてくれた。

 

トコトコとこちらへ駆け寄ってきた彼女に、席を外すことを伝えた。

 

「悪いな。ちょっと打合せがあるから先に抜ける。今日はもう十分だからストレッチをして終わりにしてくれ」

 

「.....まだ走れますよ?」

 

その通りだ。今日のメニューは少し軽い。

 

しかし、これ以上増やしても中途半端に多いので終わりにしたのだ。

 

「....まあ、確かにその通りなんだけど、今日はもう終わりにしよう。何かあったらでは遅いからな」

 

「....わかりました」

 

渋々といった様子でターフへ戻るスズカ。

 

....折角、先程心を開きかけてくれたのに...なんだか悪い事をした気分だ。

 

そう思いながらくるりと踵を返した。

 

「....」

 

「....?」

 

俺のすぐ後ろに別のトレーナーが立っていた。

 

....知らない顔だな。新人トレーナーだろうか?

 

「お疲れ様です」

 

「....ども」

 

向こうから声をかけて来たので、思わず昔のようなコミュ障丸出しの挨拶を返してしまった。

 

そんな新人トレーナーとすれ違いながら、俺は練習場を後にする。

 

「.....?」

 

.....あのトレーナー....一体誰を見ていたのだろう....?

 

練習場にはデビュー済みのウマ娘はスズカ以外には居なかったはずだが...

 

....まあ、良いか。

 

====================

 

土曜日。9時前から待機していると、白いブラウスに水色のロングスカートという、非常に清楚で可愛らしい服装のスズカが9時ちょうどに表れた。

 

「すみません、お待たせしましたか?」

 

「いや、待ってないぞ。それじゃあ行こうか」

 

「はい」

 

特に世間話をすることも無く、近所のスポーツ用品店に向かった。

 

「あの...比企谷さんが行きたいところがあるんですか?」

 

「あー...」

 

そう尋ねられると困る。

 

俺も特に用事が有るわけでは無い。

 

故に、スポーツ用品店なら必要な備品の買い出しという大義名分も出来るかと思っていたところだ。

 

「俺は特に無いよ。スズカは?」

 

「私は...あっ」

 

何か思いついたらしい。

 

「どこか行きたいのか?」

 

「いえ...その...帰りにドラックストアに寄っていただければ」

 

「ドラックストアか...わかった」

 

ついでに俺も買い物をしていくか。

 

そして、黙々と歩いているうちにスポーツ用品店に到着した。

 

彼女たちウマ娘がレースやトレーニングで使用する重要な備品に関しては、専門の職人によるオーダーメイド品ばかりだ。だから、このようなお店では消耗品や簡単な備品の買い出しになる。

 

故に、俺もスズカも事務的な会話をしながらテキパキと買い物を済ませていった。

 

そして、ほんの30分にも満たない時間で買い物を終え、次の目的地であるドラックストアへ向かった。

 

どちらもトレセン学園からほど近い場所にあるので助かる。

 

「あの、それではまた後で。お店の前で待っていますから」

 

「え?あ、ああ...」

 

どうやら、こちらでは別々に買い物を済ませることになりそうだ。

 

まあ...仕方ないか。生理用品などは赤の他人と買い物したくないだろう。

 

俺も洗剤やシャンプーといった所帯じみた買い物を済ませ、店外に出た。

 

「ん?」

 

俺の方が早いとばかりに思っていたのだが、スズカの方が先に外で待っていた。

 

「いきましょうか」

 

「あ、ああ」

 

スタスタと歩き始めるスズカ。

 

その手に持たれているのは...黒いビニル袋に入れられた小さな何か。

 

中身が見れないように加工されたそのビニル袋を見る限り、やはり生理用日の類だろう....多分。

 

「....♪」

 

心なしか...スズカの足取りが軽い気がする。

 

このお出かけが存外楽しかったのだろうか?

 

....いや、そうとは思えない。

 

スズカとは事務的な会話しか交わさなかったし、ドラックストアに至っては別々に買い物をしていた。

 

恐らく...この後の予定が楽しみなのだろう。

 

「スズカ、この後は何をする予定なんだ?」

 

「......え?」

 

振り返って聞き返してきたスズカ。

 

「この後は何をするんだ?」

 

あくまでも世間話のつもりだった。

 

「それは...その...お泊りで遊ぶ予定なんです」

 

「泊まり?」

 

「はい。....あ、ちゃんと外泊届は出していますよ」

 

「そ、そうか...」

 

外泊届...学外の友人だろうか?

 

学園内なら寮で一緒なので外泊届など要らない。

 

「まあ...何にせよ気をつけてな」

 

「はいっ♪」

 

今日一番の笑顔だった。

 

「あの...私はここで」

 

「ああ。また月曜日に」

 

「はい。失礼します」

 

そう言い残して、スズカは寮の方へと歩いて行った。

 

「あ、しまった」

 

トレーナー室に忘れ物をしていたことを思いだした。

 

....まあいい。どうせ急いではいない。

 

ゆっくりと歩き、トレーナー室へと向かう。

 

そして、無事忘れ物を見つけてトレーナー寮へと向かう途中、あの新人トレーナーとすれ違った。

 

「あ、お疲れ様です」

 

「お疲れ」

 

爽やかな笑顔だった。歳は少し下だろうか?

 

「スズカとお出かけだったんですか?」

 

「...まあな」

 

なんで分かったんだ?

 

「ということは...お二人とももうお帰りなんですよね?」

 

「ああ。スズカはもう寮に戻ったよ」

 

「...そうですか」

 

スズカに何か用事だろうか?

 

それなら...彼女には予定が入っている事を伝えないとな。

 

「スズカなら、今日から明日の夕方まで外泊らしいぞ」

 

だから残念ながら会えないぞ、と言外に伝えたつもりだった。

 

「え?あ、そ、そうですね...わざわざありがとうございます」

 

「...」

 

不思議なリアクションだった。

 

まあいい...これでコイツもスズカとは会えないだろう。

 

そんなことを思いながら....休日は過ぎていったのだった。

 

====================

 

更に数日後、再び学園内で行われる模擬レースの日が訪れた。

 

「スズカ、作戦なんだか...」

 

「...」

 

返事がない。

 

「スズカ?」

 

「ぁ...はい。分かりました」

 

本当に理解したのか怪しいところだが...まあ良いか。

 

「....よし、行ってこい」

 

「行ってきます」

 

そう言ってターフへと向かうスズカ。

 

いつもであればこのまま観客席へと向かうのだが、今日は何となくスズカの後ろ姿を眺めていた。

 

「....ん?」

 

ターフへ向かう直前、スズカは誰かと話していた。

 

「あれは...」

 

以前にすれ違った新人トレーナー....?

 

====================

 

"トレーナーさん...!今日は....その....頑張りますね...?"

 

”ああ、君の好きに走ってごらん。一番の景色を...君だけの景色を見ておいで”

 

"はいっ...!"

 

====================

 

会話の内容は聞こえない。でも、スズカが楽しそうに話していることは分かる。

 

何とももやもやした気持ちを抱えたまま、俺は観客席へと向かった。

 

「....」

 

―――あれは誰だ?

 

―――俺の担当ウマ娘に何の用事だ?

 

そのような黒い感情が渦巻いている。

 

...やめよう。彼はトレーナーバッジをつけていた。間違いなく同僚だ。

 

同僚相手にそんな気持ちを抱くのは失礼と言うものだろう。

 

そう考えているうちにウマ娘達のゲートインが完了した。

 

そして....スタート。

 

ウマ娘達が一斉に飛び出す。

 

徐々に徐々に集団がばらけて、後方集団、先頭集団、そして逃げの作戦を選んだウマ娘達。

 

俺の作戦通りならスズカは先頭集団に―――

 

「あれ...?」

 

―――居ない。

 

どうしたものか。

 

再び後方に埋もれているのか?

 

そう思って後ろの集団を見ても....居ない。

 

「まさか...」

 

逃げを選んだウマ娘を探す。

 

先頭集団から大きく離れた位置。序盤からぶっちぎりの大逃げ。

 

掛かり気味の様子も無い...実に冷静な姿。

 

俺の担当ウマ娘のはずのサイレンススズカがそこに居た。

 

「どうして...」

 

"今日は逃げで行くんだな"

 

そんな声が聞こえて来た。

 

違う。俺の作戦ではない。

 

「よし....良いぞ」

 

「え?」

 

声の主に振り返った。

 

.....あの新人トレーナーだ。

 

振り返った俺に、その新人トレーナーも気が付いたらしい。

 

「あなたは...スズカのトレーナーさんですか?」

 

馴れ馴れしくスズカの名前を呼ぶ新人トレーナー。

 

「...そうだ」

 

「そうですか。....見事ですよね、彼女の走り」

 

「...そうだな」

 

それに惚れて俺はスズカを熱心に勧誘したんだ。それは俺が一番良く知っている....はずなんだ。

 

「本当に....彼女は楽しそうに走りますよね」

 

「....何が言いたい」

 

「いえ、スズカは....本当にあの景色が好きなんでしょうね」

 

どういう意味だ...?

 

「...」

 

どうやら会話は終わりらしい。

 

釈然としないまま、俺は再びターフへ視線を向けた。

 

「....!」

 

衝撃だった。

 

ペースが落ちてきて先頭集団との差が縮んでいるだろう。俺はそう思っていた。

 

しかし....スズカは後半から更に加速した。

 

加速して....更に後ろを突き放した。

 

「まじかよ...」

 

そして、そのまま一着でゴール。

 

圧倒的な大逃げだった。

 

「.....よしっ」

 

心から嬉しそうな様子の新人トレーナー。

 

「...」

 

俺は複雑な心境だった。

 

俺は間違っていたのか...?

 

ただただ担当ウマ娘に足枷をはめていただけなのか?

 

そんな俺の心の内をよそに、スズカは顔をほころばせて駆け寄ってきた。

 

パタパタと駆け寄ってきた。

 

そして、少し上気した笑顔を浮かべて―――

 

 

「勝ちました...!あなたのおかげです...."トレーナーさん"....っ...!」

 

 

―――俺の隣を通り過ぎていった。

 

「よく頑張ったね、スズカ」

 

親しげに彼女の名前を呼び、愛おしそうに頭を撫でる。

 

スズカも満更ではない様子だ。....いや、それどころか....見たことがない程に幸せそうな笑顔を浮かべている。

 

「お、おい...スズカ...」

 

情けない声を漏らしてしまった。

 

「...比企谷さん」

 

スズカの笑顔が薄くなっていく。

 

「スズカ...お前のトレーナーは...」

 

俺だろ...?

 

その言葉が出てこなかった。

 

「....ごめんなさい。この模擬レースで証明したかったんです」

 

「な、なにを...」

 

何を証明したいというのか...

 

「こちらの..."トレーナーさん"が...私をあの景色へ導いてくれるのか...と」

 

「ど、どういう意味なんだ...?」

 

そういえば新人トレーナーも似たようなことを言っていた気がする。

 

「私...最初にもお話したと思いますけれど、先頭の...誰も居ない景色が好きなんです。誰も居ない...私だけの景色。私だけのもの」

 

恋するように瞳を潤ませながら語るサイレンススズカ。

 

「"トレーナーさん"となら...私、その景色をたくさん見れると思うんです。それに...」

 

スズカは新人トレーナーの手を取った。

 

そして、ぎゅっと自分の胸に抱いた。

 

「それに...この人なら、私だけの景色の先で....待っていて欲しいから...♡」

 

「す、スズカ...人前では少し距離を取ろうって言ったじゃないか...」

 

「ぁ...ごめんなさい、トレーナーさん...♡」

 

蕩けるような甘ったるい声。

 

明らかに...トレーナーとウマ娘の一線を越えた甘い関係。

 

「お、お前たち...どうしてそんなに距離が...」

 

 

 

 

 

「....比企谷さん。後日、たづなさんからご連絡があると思います」

 

「な、なにを......」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「今までありがとうございました。これからは"トレーナーさん"と一緒に頑張っていきます...♡」




ここまで読んでいただければ何となく察していただけると思いますけど、私は"HACHIMAN"みたいなタグ付けをされている"とんでも設定のクロスオーバーモノ"が大嫌いなんですよ。

俺ガイルもウマ娘も両方好きな作品です。

俺ガイルはヒロインも魅力的ですし、主人公である八幡も男気が有る素敵な主人公だと思います。

ウマ娘もキャラクターが非常に魅力的ですし、元ネタである競走馬やその馬主さんやその関係者の方々に対して非常にリスペクトされているとてもいい作品だと思います。

この作品のような酷いクロスオーバーモノが減るように祈ります。

それと、忌憚のないご意見を並べられるのは結構ですが、度が過ぎれば発信者情報開示請求しますからね。

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