プロ野球DeNA日本一、野手キラリ 貢献度リーグ首位
野球データアナリスト 岡田友輔
プロ野球のDeNAが2連敗からの4連勝と、鮮やかな逆転でソフトバンクとの日本シリーズを制した。セ・リーグ3位からの「下克上」というストーリーにスポットが当たったが、セイバーメトリクスの観点からみると、充実の野手陣を強みにした日本一という見方ができる。
レギュラーシーズン終盤に規定打席に到達し、打率3割1分6厘で首位打者を獲得したタイラー・オースティン。25本塁打と長打力でも存在感を見せた大砲の存在は、チーム力の底上げに大きく貢献した。
データ分析を手掛けるDELTA(東京・豊島)の算出によると、打撃、守備、走塁、投球の内容を総合的に評価し、代替可能な選手と比べてどれだけチームの勝利数を増やしたかを表す「WAR(Wins Above Replacement)」で、オースティンはセ・リーグトップの5.3をマークした。
チームの各部門をみても、オースティンが主に守った一塁手でDeNAのWARは5.6と12球団トップ。オースティンがけがで22試合の出場にとどまった昨年、チームの一塁手は0.2だったことをみても、このポジションで他球団に差をつけることができたのは大きかった。
DeNAは主に山本祐大がマスクをかぶった捕手のWARも12球団トップの3.9だった。見逃せないのが遊撃手の0.5。一見すると勝利への貢献度は決して大きくはなかったものの、昨年までの過去4年間は最高が2022年の0.0で、他の3年間は全てマイナスだったことを考えると、プラスに転じた意義は大きい。森敬斗の台頭が背景にあり、成長の余地を考えると来年はさらに良い数値になることが見込まれる。
ほかに、替えの利かない牧秀悟が守った二塁手は3.8、桑原将志や蝦名達夫が担った中堅手は2.9と、センターラインが堅調な数字だったチームの野手全体のWARはリーグトップの19.5。今永昇太、トレバー・バウアーのエース級が2枚抜け競争力を落とした投手と合わせた全体でも巨人に次いでリーグ2位の27.0と、野手側の貢献でシーズンを乗り切った。
パ・リーグはソフトバンクが野手全体で38.1、投手を合わせたチーム全体でも51.3と断トツの数字をマークした。戦力の豊富さがWARでも裏付けられたが、健闘したのが日本ハム。とりわけ捕手と内野手で数値の向上が目立った。
田宮裕涼が100試合守った捕手は2.3。過去5年間の最高は22年の1.0で、今年の打率が2割7分7厘の打てる捕手、田宮が一気に成長し、このポジションで他チームに引けを取らなかったのは大きかった。
過去5年間がいずれも1に満たなかった一塁手は1.6。アリエル・マルティネスとともに一塁を多く守った清宮幸太郎の貢献度が高かった。昨年、WARがマイナスだった二塁手と遊撃手はともにプラスに転じ、1.7と2.1をマーク。二塁は上川畑大悟と石井一成の働きが目立ち、遊撃は3年目の水野達稀の成長がものをいった。
チーム全体のWARは勝利数との相関が高いことから、過去数年間のWARの推移をみれば、どのポジションが強みか、弱点はどこかが分かり、強化の方針を明確化できる。低い数値のポジションで有望株を獲得しにいくのはもちろん、良い数値が出ているポジションでも、選手の年齢や在籍年数によってはいずれ来る力の衰えや、フリーエージェント(FA)移籍で去られる事態に備えて、次の世代の選手を手当てする必要がある。
そのようにしてチームの現状を分析し、必要な選手を獲得して弱点だったポジションが強みに変わったのが、DeNAと日本ハムの捕手や遊撃手だといえる。
チームづくりでは他球団に比べ大きな弱点となるポジションをつくらないことが競争力を高める近道だ。さらに上位を目指すには、勝敗に大きな影響を与えるトッププレーヤーをいかに多くそろえられるかが重要になる。セイバーメトリクスの見地からいえば、突出したWARの選手がチームに何人いるかがチームの成績を左右する。
今季、ソフトバンクが左翼手と三塁手で高いWARをマークしたのは、12球団トップの近藤健介(7.9)と同2位の栗原陵矢(6.5)がいたことが大きい。41盗塁でタイトルを獲得した中堅手の周東佑京(3.9)を含め、勝利に大きく貢献する選手を多くそろえられたことがリーグ制覇につながった。
日本シリーズが終わり今季の全日程が終了したが、FAでの戦力補強や新外国人獲得に動く今は、各球団にとって来季に向けた戦力整備の正念場の時期だ。キャンプやオープン戦を経て迎える来季のレギュラーシーズンは、新たに獲得した戦力が期待通りに働くかどうかを検証する場ともいえる。「ストーブリーグ」の名の通り、各球団の編成担当者が熱き闘いに身を投じるシーズンオフも球界から目が離せない。