群馬県内を走るJR高崎線や両毛線をはじめとする鉄道路線。駅で待っていれば予定時刻から大きく狂うことなく電車が到着し、私たちを目的地にほぼ時刻表通りに運んでくれる。当たり前のようなその日常は、社員らの並々ならぬ努力で支えられている。中でも運行の中心的役割を果たすのが運転士だ。重責を担う運転士はどのようにして一人前に養成されていくのか。JR東日本高崎支社前橋統括センター(前橋市)で訓練を重ね、今年1月に独り立ちした新米運転士の奮闘する姿を追った。

受験資格は20歳以上

 鉄道の運転士は正式には「動力車操縦者」といい、国土交通省の省令で定められた国家資格だ。新幹線やディーゼル車などいくつかの種類に分かれ、このうちいわゆる「電車」の運転免許は「甲種電気車運転免許」という。受験資格は20歳以上で、身体検査や適性検査を経て学科や技能試験に合格する必要がある。同社では入社後、駅勤務や車掌などを数年経験した上で運転士を目指すというキャリアが標準的なパターンという。

運転士を目指す動機を語る宮崎さん=2023年6月

 同支社で運転士を目指す「見習い」は熊谷、高崎、前橋のいずれかの統括センターに配属後、約3カ月にわたる学科講習で電車の構造や関係する法規、運転の理論、安全の基本などを学び、学科試験を受験する。合格すると約5カ月の技能講習へ進む。指導役の下、乗務を通じて定時運転の流れ、速度感覚、ブレーキなどの操作技術、非常時の対処法などを身に付ける。

 その後の技能試験に合格すれば免許取得となるが、この後、単独での乗務に向けた応用的な訓練が待っている。車で言えば「仮免許」の期間で、前橋統括センターではさらに4カ月程度、訓練を重ねた上で「見極め」に合格することで初めて1人での乗務が可能になる。学科で学び始めてから運転士として独り立ちするまでの期間はほぼ1年に及ぶ。

祖父、父の背中

 1月に独り立ちした宮崎健吾さん(29)は埼玉県鴻巣市出身で、2018年に同社に入社。渋川駅勤務や高崎運輸区(当時)の車掌などを経験した。祖父や父親も元国鉄・JR社員で、「運転士は必ずやりたいと思っていた」。車掌時代、沿線で電車に手を振る子どもの姿を電車の最後尾から見て「正面から手を振り返したい」と感じたという。

 訓練が始まって初めての乗務でハンドルを握った時、後ろを振り返ると多くの乗客の姿が目に入った。「これだけ多くの人の命を預かってる」。責任の重さを改めて痛感した瞬間だった。

前橋統括センターで訓練に臨む宮崎さん=2023年7月

 宮崎さんを含む同センターの見習いたちは運転技術のほか、営業運行前の出区点検の手順や非常時の対応法などについて十分に訓練し、必要な技能を身に付けた。次回は訓練のもようを紹介する。