526 FUTURE ROAD 2 「運命」の話
「あっ♡ グレイス様……っ♡ きつい……きついです♡」
全身を拘束される感触に、イルはあられもない声を出してしまっていた。影を拘束されて動きを封じられた後、騎士グレイスによって縄で縛られていた。
以前もグレイスに捕縛された経験があるが、あの時は楽しめるような状況ではなかった。だがここは安全なゲームの中。一対一で力ずくで捕縛され、しかもあの美しい銀色の瞳で見下されるなんて。いけない気持ちになってしまう。
「魔法鍛冶。あなたはタルシスの恩人ですが、この者を見過ごすことはできません」
グレイスは柩に目をやって言う。知り合いという設定のようで、話し方にトゲがない。この扱いの差も少しクセになりそうだ。
「王都の安全を脅かした大罪人です。お気をつけを」
騎士グレイスが言う。柩がそうであったように、イルにも何か過去があるらしい。
このゲームの中で何らかの身分なり経歴なりが設定されているようだ。グレイスの言いぶりからしてろくな設定ではないらしい。一体何をやらかしたのだろう。
「それはすっかり騙されたね~。その魔女とはさっき山でパーティになったばかりで」
「柩?」
あっさりとイルを売る柩に、イルは愕然とした。ゲームゆえの行動と信じたい。
だが柩の行動は賢明だ。システムに表示された騎士グレイスのレベルはこちらとは比較できない高さだ。
装備品の差もある。ファンタジー風の立派な騎士服の質は高そうだ。戦っても到底勝ち目はないだろう。こちらも少しはレベルが上がっているが、そんなものではどうにもならない。
突破口があるとすればまた例の「実績」である。それにしても、次の実績目標はずいぶんとまた直接的である。
第二話「新規実績目標:グレイス星巡騎士にハグをする」
実績はパーティ単位で蓄積されるため、誰かが実行すれば達成される。今回は柩がやれば簡単だろう。NPCの性格が本人に準拠したものであるならば。
だが、柩はそう思わないのだろう。もどかしいことだ。柩が本気で求めれば、グレイスは多分なんでもしてくれるのに。
そんなアドバイスをする間もなく、イルは兵士たちに連行され牢獄へと入れられた。
「だ~~~~し~~~~て~~~~!」
うきうきでゲームを楽しんでいたのに突然牢屋に閉じ込められてしまった。何時間もうろうろしてみたが、アイテムもなければ脱出イベントの一つも起こらない。不具合ではないのかと不安になる。
牢獄は丈夫なコンクリートのような材質だ。山の中にあったリッカの家が恋しくなるような冷たさである。世界観の設定はどうなっているのだろう。
「グレイス様ぁ……」
グレイスに縛ってもらえたのはほんの一瞬の出来事だった。尋問をしてもらえるわけでもなく、ただ放っておかれている。もっと反抗しておくのだった。そうすればもう少しいじめてもらえたのかもしれない。
それにしてもあのグレイスは、最近ブロッサムで会った箱つきのグレイスに似ている気がする。いつものグレイスはあそこまで冷たくない。
『ご明察』
そう思っていると、牢獄の隅でフードの女が言った。
顔は見えず、薄い笑みを浮かべた口だけが見える。相変わらず存在感がなく、どこにでも現れるナビだ。
『あれは天耀箱に残留したグレイスの人格データだよ。許可は本人とパロットから取った。柩のプレイ体験の中で何してもいいってさ』
羨ましい話をされた。イルだって、自由にできるグレイスの人工知能が欲しくてたまらない。
「そんなことより、ここからどう出ればいいんです?」
イルは質問した。ずいぶん探したが、攻略のヒントが何もない。
『そのうちイベント起きるよ。多分』
それだけ言い残し、フードは消えた。今の返答からわかるのは、何も起きないのは不具合ではないということくらいだった。
フードが言っていた通り、長い長い時間が経過してイベントが始まった。
「イルクツカヤ。星天騎士団に喧嘩を売った大罪人。なぜ戻ってきたの?」
ゲーム内時間が夜になった時、牢獄の壁から知らない声がした。
品のある、しかし投げやりな女性の声であった。どこかイルの幼馴染を思い出すが、あれに比べればまだ柔らかさがある。
「そんなことをした覚えはないんですけどね」
イルは言った。プレイ開始から今まで、罪になるようなことは何もしていない。
「面白いことを言うのね。
壁の声は、イルが過去に犯した罪とやらをそう説明した。
「光岩……そういえば」
イルは、ポケットの中から板を取り出した。
薄い石の板だ。最初の所持品の中にあった魔法の道具である。
これが光岩なのだろう。確かに光る岩である。
「その小さな魔導板は様々な波乱を呼んだ。あなたは研究所を脱走し、その際に星天騎士団の騎士を何人ものしていった。すごいことをすると思ったわ」
全く覚えがない。知らないところでイルは一体何をやらかしたというのだろう。
星天騎士団というのは王城を専門に守る騎士たちだ。外の兵士の会話を盗み聞きして知った。
町の治安維持を担当する星巡騎士、王族の護衛を専門とする星天騎士、そして外敵から国を守るためのタルシス軍。それがこの国の主な治安機関だ。
星天騎士への攻撃は国家の中枢への攻撃ということになる。手配されるには十分な理由だ。
「光岩、これを使って助けを呼ぶことができれば……?」
イルは思う。おそらくこの岩は魔法のスマート端末のようなものなのだろう。柩かシリウスに連絡をとれないだろうか。
「無駄よ。ここに入る時に魔力を全て没収されているでしょう?」
声は言う。確かに独房に入る時に脱力感があった。
魔力を奪うのは牢獄の中で魔法を使わせないためだ。そして、光岩とやらを使うには魔力が必要らしい。
魔力とはすなわちマジックポイント、MPのことだろう。生命力であるHPに対し、魔法を発動するのに消費するエネルギー。HPと違って奪われても死ぬわけではない。
「問題ないかもしれません」
イルは言い、自分のステータスを確認してみた。
やはりそうだ。イルにはちゃんとMPがある。
「どうして……?」
「どうやら、魔力を奪うのは一回だけのようです」
イルの固有スキルである「大地の恵み」は、時間経過で少しずつMPを回復するものだ。こんなところで役に立つとは。長い待ち時間には意味があった。
「あてはあるの?」
壁の声は言う。あるといえばあるが、居場所を知らせたところで柩やシリウスがここを攻略できるものだろうか。
そもそも、光岩には二人の連絡先が入っていなかった。友達のはずなのに、少し泣きそうになる。
「だったら私に貸して」
声は言う。どうするというのだろう。
「あなたも捕まってるんですか?」
イルは、うすうす気づいていたことを口にした。この壁の向こうも牢獄である。
「私も騎士団に喧嘩を売ってしまってね。それを貸してくれれば、相棒がここから出してくれるわ」
タルシスの風景は、今度こそ柩には見覚えのないものだった。
吹きさらしの崖に大きな建造物。その下には見渡す限り乾燥した塩の平原があり、地平線まで広がっている。
「これは船……なのか?」
崖の構造は、全体を見ると一貫性がある。腐食して半分が朽ち落ちているが、三層の内部構造を持つ船舶の残骸であった。
今歩いている場所は中層の舗装路で、もとは船底に近い所だったのだろう。アスファルトの地面にはかすれた白い識別文字が残っている。
その船を下っていくと、地面にはもっと古い都市の残骸がある。そこが最下層で、船とは関係のない廃墟だ。
下層の舗装路には古めかしい車が走っているのが見える。滅んだ文明の技術や建物を再利用し、商店や集合住宅が存在している。
遠くに赤い鉄塔。スクランブル交差点。ツインタワービル。これではまるで――。
「タルシスは、かつて大洪水を生き延びた方舟でした」
グレイスが説明的なセリフを言った。ゲーム用かもしれないが、普段のグレイスでもしそうな口ぶりだ。
今はグレイスと二人きりで歩いている。イルは捕まり、シリウスは行く場所があると言って離脱してしまった。
かつて全ての大地を襲った大洪水。それを生き延びるために作られた巨大船。洪水がおさまる頃、船は旧世代の都市の痕跡に流れ着いて人類再生の礎になったらしい。
いかにもゲーム的な設定だが、それだけには思えない。
「タルシス……」
地の果てという意味の言葉だ。その名前に覚えはないが、この方舟の設計は知っている。
それにしても気になるのは、塩の平原に向けていくつもの巨大な砲台が設置されていることだ。
魔導兵器らしいそれらは現代兵器に比べると無骨で古めかしく見えたが、いかにも強力そうだ。人々は一体何と戦っているのだろう。
不思議な世界観だ。リッカのブレードアースとは少し雰囲気が違い、別の星をくっつけたかのようである。
騎士グレイスはこのような世界観でも違和感なく存在している。もともと古めかしい人間なのと、巡騎士というのはこの世界の警察のことだからだろう。
「新しい店はどちらですか?」
薄めの表情でありつつ、知り合いに向ける態度を見せながらグレイスは言った。案内してくれるらしい。
騎士は一般兵よりも位が上だ。そんな身分でわざわざ道案内とは、知人だからなのだろうか。
「グレイス、さん」
「はい?」
知り合いのはずだが、そうでもないような。不思議な気分だった。これはゲームのキャラで、いわばグレイスの分身体である。
少し前にあのナビゲーターがふらりと現れ、このグレイスの存在を説明してくれた。
『似ているよね。あんたが感情の一部を切り離してトーカという特殊分身体を作ったように、これはグレイスが君に向けた愛を凝縮した特殊分身体なんだ』
愛。軽薄なナビの説明は極論に思えたが、特殊分身体という説明はしっくりくる。柩の能力をも複製できるグレイスなら分身体の一つくらいはあっても不思議ではない。
天耀箱を使っていた時に形成された人格をベースとしたNPCだ。その目的は柩の監視であり、その意識を凝縮したものということになる。愛というのは誇張としても、柩のための感情の具現化と言えなくない。
『何をしてもいいってさ』
それがナビゲーターの説明だった。そんなことを言う理由はわかっている。例の実績のことだ。
ハグ、つまり抱擁をするということ。簡単なことに思えるが、ゲームだからといって軽率にしていいわけがない。
『おかしなこと考える。同意済みと言ったよね?』
風に乗ってあのフードの声が聞こえた気がするが、柩はそれを無視した。
「騎士さん、この住所わかる?」
柩は少し他人行儀に言い、グレイスに住所のメモを渡した。リッカから受け取ったものだ。
「はい。ですが……本当にここで開業を?」
メモを見たグレイスは、少し困惑したような声を出した。
「何かおかしい?」
「下層の裏通りです。あまり安全な場所とはいえません」
グレイスは少し目を伏せて言った。
治安がよくないということなのだろうかと思ったが、どうもそういう理由ではないらしい。
「
グレイスは言う。ガストとは何だろう。
「ガストが何か……ですか。難しい質問です。機械に詳しいあなたでもわからないことでしたね」
問いかけに対し、グレイスは都合よく解釈して話を進めてくれた。
かつて人は、機械を使役して都市を作ろうとした。その行為が神の怒りに触れたか、世界は大洪水に襲われた。
塩の平原は元は巨大な湾か湖だったと考えられている。塩の下には今も機械のモンスターが大量に埋もれている。時折地上に現れては、人類の町に攻撃を仕掛けてくるのだそうだ。
機械の敵。そういえば山でも機械の牛人のような敵に遭遇した。このゲームの代表的なエネミーだ。
業風などという名はなかったが、似たものに覚えがあった。
それに、朽ちた船と都市の開発。柩の経験からはずいぶん様子が変わっているが、ここにはフラッドアースの名残がある。
その洪水はきっと神の怒りではない。かつてこの惑星で行われたのは、水のない惑星に大量の海水を呼び込む壮大なテラフォーミング計画だ。
送潮マーカーを設置する先遣隊は、ある場所を再現した無人の都市を建造させられた。そして都市が形になる頃、先遣隊の命は送り込まれた殺戮機械によって――。
「あなたの助力がなければ、数ヶ月前の大型ガストの襲撃を退けることはできなかったでしょう」
平原を見ながら、グレイスはそうつぶやいた。
彼女が言うには、柩は魔法鍛冶として町の砲台を改良して敵に対抗してみせたそうだ。柩自身も剣をとって戦場に赴き、その戦いで大怪我をして山奥の自宅に戻って療養したらしい。
そんな設定の割に最初は雪山登山をさせらたが、自分が置かれた状況と初期位置の意味はわかってきた。
「丁寧にしてくれるのは、やっぱり私が恩人だからなの?」
問いかけてみる。グレイスが礼儀を尽くしてくれているのは都市防衛の功績のおかげなのだろうか。
「いいえ。もっと前のことです」
柩の考えに対し、グレイスは明確に否定の言葉を口にした。
グレイスとはガスト襲撃の前に町で出会っていたらしい。怪しい魔法使いがいるということで通報があり、職務質問したのがきっかけだったそうだ。
どうせろくな出会い方ではないと思うが、それがなぜ今のような関係になれたのだろう。
「下層に行きましょう。一応、私から離れないようにしてください」
グレイスは言い、柩の手を引いて下に行くリフトに乗せた。
リフトの先は最下層で、そこは船の上ではなく地面だった。グレイスが言う通り、下層だからといって特に治安が悪そうではない。
通りに並ぶ店の前に妙なものがあるのに気づいた。石のような材質でできた板、画面のようなものだ。広告の文字が表示されている。
「光岩です。これの普及で便利になりましたが、従来はなかった犯罪が増えています」
グレイスが言う。ファンタジー風の電子機器といったところか。
そういえば、プレイヤーキャラの持ち物にもこれの縮小版のようなアイテムがあった。雰囲気を壊すと思い、柩は全然使っていない。
光岩はタルシス王女の一人の発明らしい。だがそれが原因になって大型ガストを大量に引き寄せてしまい、その王女は罪に問われることになった。
その話を聞き、この町に入ってきた時にとっつかまった人物の顔を思い浮かべた。確かにグレイスはあれを大罪人と呼んでいた。
光岩自体は便利なものであり、その後は安全に使用することができるようになったという。だが、電子機器の普及はそれを利用した悪事にもつながるものだ。王女ともども、いいイメージを持たない者もいるという。
「グレイスさんは、光岩を規制すべきだと思う?」
柩は興味本位で聞いてみた。世界観のことがわかるかもしれない。
「それは立法府が考えることです。私に意見はありません」
グレイスの意見は淡白だった。あまり興味がないのだろうか。
「ですが――私には、あなたが作る古い魔道具の方が性にあっていると思います」
その次に出た言葉には、少しだけ温度があるように思えた。
引き続き通りを歩いていくと、店にいる人々がぎょっとした顔をしていた。
みんなグレイスの顔を見ている。騎士がこんな所に来るのは珍しいのだろう。光岩の取り締まりに来たとでも思ったのだろうか。
調査局でもこういう場面を何度か見た。ゲームとはいえ胸が痛む。
「ここですね」
グレイスはメモを見ながら言い、物件を指さした。
もとは近代的なビルだったであろう場所が補修された、一階店舗部分だった。なかなか好みの寂れ具合である。
鍵を使うときちんと一致した。中に入るといくつかのシステムメッセージが表示され、どこを何に使うのかがわかるようになっていた。
「ここって……」
店の外装こそ違うものの、店内には見覚えがあった。
ブレードアースの王国に存在した行きつけの魔道具屋とよく似ているのだ。外はタルシスとやらだが、ここだけがリッカの世界観に準じた場所だ。
やはりここは、複数の世界をミックスした特徴を持っている。誰がこんな世界を設計したのか。
「助かったよ巡騎士さん。なにぶん王都には詳しくないものでね」
柩は言い、グレイスにまっすぐ向き合った。
「仕事ですので」
グレイスは言った。巡騎士の責務ということだろう。相変わらずの真面目ぶりだ。
グレイスの剣、そして手は傷だらけである。
この真面目さが優しさからくるものだと、なぜ誰も気づかないのだろうか。
「……ありがとう。いつも町を守ってくれて」
そこでつい、柩はいつもグレイスにかける言葉を口にしていた。
「……そういう所です」
「うん?」
別れるタイミングかと思ったが、グレイスは去らずに話を続けた。
「何気ない言葉のせいです。今のような」
何の話か一瞬わからなかった。
「あなたは会うたび、私に感謝を伝えてくれます。そういう人は珍しいので」
説明不足と思ったのか、グレイスはそう付け加えた。さっき聞いた丁寧にしてくれる理由、その答えであるらしい。
何か壮大な設定があるのかと思ったが、想像よりずっと小さなことだった。義理堅いグレイスらしいといえばらしい。
「出会った時の私の態度は友好的とは程遠いものでした。でも、あなたは嫌な顔をしなかった」
グレイスは言った。真面目で不器用なグレイスのこと、初対面の印象がよくないのは想像しやすい。
しかしそもそも、実は柩は無愛想な人間が結構好きなのである。理由が職務ならなおさらだ。嫌な顔をしなくて当然だろう。
柩がグレイスの真面目を拒絶しなかったから、二人は次第に仲良くなっていったという。その過程を体験できていないことが惜しいと思った。
超存在とカウンター。上司と部下。そんな関係でしか付き合ったことのない彼女と、もしこうして一般人と警官という関係で出会っていたら。
「……いいかな」
柩は言い、グレイスの頬に手を添えた。
そして、そのまま肩を引き寄せグレイスを包容した。
「!」
グレイスの体がびくん、と跳ねた。唐突すぎただろうか。
しかし、今しかないという気がした。
このまま斬られたとしても構わない。これはゲームだから。そんな言い訳をしてしまう。
動揺した様子を見せたグレイスだが、一言も発さずじっとしていた。
人通りのない店の前でしばらくそうしていて、そっと離れる。グレイスの顔を見ると、先程と何も変わらない静かな表情をしていた。
「……」
グレイスは何も話さない。ただじっと柩を見ている。
この場を動こうとしない。こちらから何か言葉を発することを期待しているかのように。
「店……泊まってく?」
冗談半分、そんなことを口にした。
「はい」
返された言葉は、真面目な巡騎士のものとは思えない。予想外で、柩は少し動揺する。
心臓をなくしてしばらく経つ。ゲームの中でもそれは同じなのに、落ち着かなさを感じていた。
――スキル「六道」が開放されました 現在2/6――
爆発でも起きたかという衝撃とともに、イルは何か大きくて硬いものに抱え上げられていた。
「砕け、ラスター!」
壁の向こうから聞こえたあの女の声が、今は頭上から聞こえる。
ラスターと呼ばれた鋼の塊が外壁を破壊し、イルとその女を救出して
頭上を見ると、女の姿が一瞬見えた。
大雑把に切られたウルフカットの銀髪の少女だった。大柄ではないが小柄でもない背格好。灰色の瞳。巨人のような鉄塊の背中側から中へと搭乗し、操縦している。
イルを抱えるその巨人は、日本のアニメに登場するロボットのようだ。二本の腕を持ち、しかし下半身は馬のような四脚型をしている。
光岩に魔力を込め、牢獄の床にあった隙間から相手に渡した。そして灰色の少女は機械の相棒を通信で呼び寄せた。脱出はできたものの、こんなに派手になるなんて思わない。
『しっかりつかまって』
拡声器を通じた声がうるさく響く。イルは鋼鉄の装甲にしがみついた。
「ひいいいいいい!?」
魔法によるものか、四脚の下半身から激しい炎が噴出して加速している。兵士たちは驚いて逃げていく。
『さて、どっちが出口かわかる? わからないわよね』
声の女は信じられないことを口にした。行き当たりばったりで逃げるつもりだったのか。
それでもいいのかもしれない。巨人の威力は凄まじい。室内の兵士ではこれに対抗できず、姿を見るなり慌てて逃げていくだけだ。
何人かは言葉を叫んでいたようだが、壁を破壊しながら進む音で何も判別できない。
『おっと……』
しかし、無敵の兵器は突然停止してしまった。
何があったのか見ると、通路の先が奇妙なことになっていた。一部が黒焦げになり外が丸見えになっている。
爆発の痕跡だ。しかもついさっきの。
「あれは……?」
城下町にある巨大な砲台がこちらを向いていた。露出した部分からこちらを狙っており、巨人はすぐに身を隠す。
その瞬間、今度は背後でも爆発があった。
『……イカれたことするわね』
操縦する少女が言う。イルも同感だった。
一体何があったのか。答えは簡単だ。敵は、こちらを追い込むために自らの城を爆破したのだ。
逃げる場所をなくすために。イルも似たような手を使ったことがあるのですぐわかった。こんな方法を実行したのは誰なのか。
「無鉄砲でしたわね。この監獄から逃げられると?」
通路の奥から声がする。破壊された外壁から月光が差し込み、その人物の姿が照らされた。
イルは呼吸が止まりそうになった。
「イル。あなたはどこへいこうと逃げられないのよ。私の手からはね」
高慢な話し方。長くウェーブした桃色がかった金髪。
どことなく肉食の獣を思わせる鋭い眼差し。真っ赤な瞳。
「リュディアお姉様……?」
それは、イルの肉親の姿であった。
「そうよイルクツカヤ。私はあなたの姉で、あなたは私の所有物。それが運命なの」
NPCであろうことも忘れ、イルは目の前の血縁に釘付けになっていた。
もう数千年も前に会わなくなって、すっかり忘れていた。親族の中で唯一、死んだという報告がなかった人物。荊棘に焼かれたイルの母星で、なぜ彼女は生き延びたのだろうか。
リュディア。あの田舎の貴族屋敷でイルをいじめていた兄弟姉妹の一人。その中でも特別に陰湿で横暴だった彼女が、なぜここに。
考えるイルの前で、虚像の血縁はいかにも本人が言いそうなことを口にする。
「あきらめなさいな、のろまのイル。処刑などしないから。一生、私のもとで生きるといいのだわ」
今回の成果:実績「グレイス星巡騎士にハグをする」を達成
王都防衛クエストに参加できるようになりました
(「同志」の話 に続く)
ブロッサム:クラッシュバース 枯木紗世 @vader
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