兵庫県知事選挙について(その2) 放送と通信の問題
行政の長の立場として、特定の候補者を推す態度を、公の場で示すことはいかがなものかというご意見もいただきました。
実際、私自身、これまでの選挙では、応援演説を依頼された場合、一般的な街頭演説は、どんな政党であっても基本的にお断りをし、支持者を中心に集まった室内の個人演説会の場において、それぞれの候補者の魅力などを、私なりに説明するという形で対応をしてきています。
また、とりわけ、SNSは拡散性が高いので、特定の候補者を推すことを明らかにしない運用としています。
(首長の中でも、例えば、政党公認の首長は、選挙の際には、前面に立って支援をする場合もありますので、そのスタンスは、首長によって様々で、それぞれの政治判断になります。)
その意味では、今回の私の対応は、これまでの私自身の政治・選挙のスタンスと異なることは間違いありません。
もちろん、私は、いなむら和美さんから後継指名を受けて市長になっています。これまでも市長・教育長という関係で一緒に仕事をしてきました。
いなむら和美さんが、兵庫県知事選挙に立候補するまでにも相談を受け、また、選挙体制立ち上げにあたっても、様々な支援をしてきました。
しかし、だからといって、私自身が、SNSにおいて、特定の候補者を推す態度を表明することは、基本的に避けてきました。
その意味で、今回のメディア・SNSにおけるいなむら和美さん支援の表明は、異例であることは間違いありません。
それは、明確に一つの危機感があったためです。
声明を出した理由
前知事が失職となり、再出馬の表明をしたあたりから、SNSを中心として、前知事の露出が徐々に増えていきました。
既に、複数の立候補を表明した予定者がいるにも関わらず、兵庫県知事選挙のニュースになると、ネットニュースのサムネイル画像は、多くが前知事の画像となりました。
あるメディアに、「なぜ、サムネイル画像が、こんなに偏るのか」とたずねると、「PV(ページビュー)が稼げるから」という答えが返ってきました。
また、選挙前、クラウド型の求人広告に「政治系チャンネルでのライターさん募集」がかかったことが話題となりました。
その後、瞬く間に、前知事に対する「頑張れ」という情報がネット上を席巻し、選挙が始まると、「当選は考えていない」という候補者が現れ、告発者や百条委員会などについて、様々な情報を投稿したことにより、いわゆる「バズる」現象が生じたのです。
あわせて、いなむら和美さんの事実でない情報なども拡散され、何が真実で何が嘘かわからないような状況となり、今に至ります。
事実上、「ネットハック」の状況が生まれたのです。
いなむら和美さんは、基本的に、選挙前は、県内各地を自分の足で回り、様々な地域の課題を伺いながら、選挙期間に入ったら、各地で街頭演説をこなしながら、行動予定や演説の様子を公式SNSで発信することに専念をしてきました。
しかし、次から次へと、いなむら和美さんの事実でない情報が流されるなどが続いたことから、危機感をいだいた陣営として、SNS対策を強化すべく、Xで「いなむら和美応援アカウント」を立ち上げようという試みをしましたが、2回も凍結されるに至ったのです。
凍結される理由は様々あるようですが、フォロワー数が少ないなどの状況の中で、短期間に「通報」が集中すると、「スパム」と認定されて凍結されるようです。
「いなむら和美応援アカウント」は、特に、攻撃的な内容も書いていませんでしたが、この応援アカウントが「凍結」されたということは、何かしらの通報の集中によって「凍結」させられたと受け止めています。
これもまた、通常では起こることではないと思っています。
このことにより、いなむら和美陣営は、情報を発信する手段に制約が生じてしまったのです。
ちなみに、Xでの発信の構造は以下のようになっています。
【第一層】 本人公式アカウント(本人の予定や写真を投稿)
【第二層】 公式「応援」アカウント(本人公式アカウントのほかに、応援してくれている多くの投稿をリツイートなどして拡散)
【第三層】 不特定多数の応援アカウント・書き込み
これまでの、地方の首長選挙は、SNS戦略は、第一層のみを活用し、本人及び陣営の責任で、つつましく情報を発信している程度でした。つまり、ホームページやメールと変わりない程度の使い方を、候補者も含め行ってきました。
しかし、今回の選挙において、前知事の陣営は、第二層そして第三層までを戦略として位置付けており、【第三層】において、SNSなどのライターやボランティアを中心として、ヤフーコメントやSNSなどのあらゆる情報媒体を通じ応援情報を拡散し、その結果、ネットの世界が「ハック」状態になっていったものと受け止めています。
そして、この状況は今でも続いています。
SNSの世界では、情報の「拡散性」や「バズり」が評価の基軸となるため、そのためには、強烈な「コンテンツ」が必要となります。
3月末から混乱が続いた結果、前知事の知名度は全国的なものとなっており、その意味で、強烈な「コンテンツ」になったのだと思います。
いなむら和美陣営でも、こういった状況は把握しており、先に書いた「応援アカウント」の立ち上げなどの試みをし、また、映像を増やすなどの対策もしてきましたが、一方で、陣営内部で真剣に議論したことは、こういったネット戦略を駆使したとして、
・「いなむら和美さん本人のアイデンティティとして、このネット戦略に乗ることが本当に望ましいことなのか」、
・「仮にいなむら和美さんが知事になれたとして、様々な極端な情報を含めて発信し続けることは、県民を分断させ、不信や疑心が高まるだけでないのか」、
・「対立を煽るのではなく、政策への思いを淡々と訴えていく中で、いなむら和美さんの魅力を知ってもらった方がよいのではないか」
といった様々な意見を、むしろ若者たちが主張してくれたことにより、青臭いかも知れませんが、いなむら陣営としては、当初通り、彼女の演説情報等を流し続けるという方針を続けることにいたしました。もちろん、体制が弱いこともありますが。
一方で、このままにしておくと、ネットの世界は、「ハック」されたままの状態が続くと、
これはこれで、事実上の「プロパガンダ状態」が続いてしまい、また、いなむら和美さん本人の事実でない情報も拡散し続けてしまうという危機感もあったことから、私としては、自分なりの見解をはっきりと示すことにより、せめて、ネットの世界に声を届ける必要があるという思いを持って、自分の考えを表明させていただきました。
「放送」と「通信」の問題
ネットの世界では、文書問題や県庁建て替え問題など、いわゆる「バズる」情報が席巻しています。
しかし、県政は、本質的には、もっと生活に根差したものであります。
港湾計画をどうしていくのか、防災体制をどうしていうのか、医療提供体制をどうしていくのか、高校無償化の大阪との格差をどうしていくのかなど、もっとしっかりと政策について議論ができる環境を作っていかねばなりません。
そして、こういった政策の議論について、県民が参加可能なものでなければなりません。
今回のような、ネットが大きな影響を与えた選挙においては、残念ながら、こういった点の議論が深まることは困難な状況であったと感じています。
「放送」(既存メディア)の世界は、かつての戦争におけるプロパガンダの反省から、放送法などによって政治的中立性が求められ、そうしたことから、選挙になると、報道の仕方については気を付けて報道することが求められています。このため、選挙期間中は、情報量が、相対的に減る傾向にあります。
一方で「通信」(ネット)の世界は、こういった規制がないため、選挙期間中においても、無法地帯となってしまっています。
「放送」と「通信」が融合している世界の中で、今後、選挙における「通信利用」の在り方も議論が深められるべきです。
この状況を放置していて最も恐れるべきは、権力者が「通信」を意図的に利用し始めたときです。
再び、世界は「プロパガンダ」で席巻され、戦争さえ引き起こす可能性があると危惧しています。
私たちも、この問題については、民主主義を担う立場として、これからも真剣に向き合い、その在り方について考えていかなければならないと思っています。
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コメント
2世論操作どうこうではなく、それだけ鬱屈した想いを抱えている社会であるということ。声をあげたとしても陰謀論に惑わされた民衆扱い。気に入らない意見であったとしても、民意は民意。プロパガンダに惑わされる愚民の声では決してない。
この知事選で世相が一気に空恐ろしい事態になった感があります。米国大統領選でもSNSで簡単に取り込まれる人々がいると報道されていました。
使いたくない言葉ですが日本でも分断が始まったのかも知れません。必要なのは安定した行政、政治だけです。