10年前のファタール
"それ"に会うには、まず目隠しをしなければならない。
高そうなスーツに身を包んだ職員からそう言われて、私は言われるがままに目隠し用のゴテゴテな機械を装着した
指示されるがままに動くしかない。私は、Dクラスという使い捨ての駒として独房から出てきたのだから
外の空気を吸えるなら何でも良かった
どうせ碌でもない欲の為に沢山の命を傷付けた人間だ。死のうとも悲しむ人間は誰も居ないだろう
私は"それ"の精神状態の確認と、博士の用意したいくつかの質問を投げかけるという役目がある。
ひょっとすればこのまま目隠しで光と色を見れないまま、今から対面するそれにぶち殺されるかも知れない。
だがまぁ、別にそれでも良かった
『良いですか、貴方が発する言葉は質問だけです。SCP-7058-BLとの会話は決して成立させてはなりません』
耳に付けられた通信機器から聴こえる若い女性の声に、私は舌打ち混じりに答える
「何回言うんです。耳にタコが出来た」
『これは貴方の安全の為の警告なんですよ。脳に刻んで下さい』
「ハイハイ分かりましたよ博士様」
ぶっきらぼうにそう言うと、博士はやや不安げなため息を溢した。
程なくして、私に指示を出し始める
『そのまま前進して下さい。扉はこちらが開きます』
従い、足を動かす
数秒後に、自動扉の開く機械音が私の横を通り過ぎていき、イヤホンから『止まりなさい』と指示が流れた
『貴方の姿はカメラで確認しています。少し遠くにSCP-7058-BLが立っていますが、分かりますか?』
「分かるわけないでしょう。目が見えない上に声だって聞こえないのに…あー、居ますか?SCP-7058-BL」
神経を集中させる
目の前は真っ暗。少し肌寒い室温と耳鳴りがしそうな程の無音。
さっきまで鬱陶しかったはずの博士の声が妙に懐かしくなり、私は次の指示が早く来ないかとイヤホンに手を当てる
すると、イヤホンから騒がしい複数の声が聞こえ、そして今私が立っている部屋の天井付近から『止まりなさい!SCP-7058-BL!』という音声が繰り返し流れた
目が見えない私は狼狽える
『聞こえますか、貴方にSCP-7058-BLが接近しています!すぐに退室──···」
「せんせい」
───────
──────────···ああ
「きみ」
「"はじめまして"、せんせい。久しぶりに誰かと会えてすげー嬉しいよ」
はじめまして。その言葉の意味を直ぐに理解して、私は言葉を止めた
『SCP-7058-BL、彼から離れなさい』
「あっと、ごめんごめん。だってずっと退屈だったんだ。こんなとこに一人でさぁ···なぁ、博士なら分かってくれるだろ?」
『········質問を開始します』
スピーカーから流れる声は、レオが甘えた声を出した途端にその刺々しさを消した。
私は無性に笑いたくなる
博士、だからアンタは"会話を成立させるな"と言ったのかい?
だから俺に目隠しをさせたのか
なぁ、無駄だよ全部
だって、だって彼は
"レオ"なのだから
「また会えたな、せんせい」