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俳優・滝川英治「999年分泣いた」脊髄損傷の大けがで“死を覚悟した絶望の日”から復帰

©テレビ朝日

「リポビタンD」のCMでケイン・コスギさんのパートナーを5年間務め、ミュージカル『テニスの王子様』の初代・手塚国光役をはじめ、多くのドラマ、映画、舞台に出演している俳優・滝川英治さん。3歳上の姉はフリーアナウンサーの目黒陽子さん、滝川クリステルさんとモデルの滝川ロランさんが従姉(いとこ)という華やかな顔ぶれ。

188cmの長身に端正なルックスで『最強の男は誰だ!壮絶筋肉バトル!!スポーツマンNo.1決定戦 芸能人サバイバルバトル』(TBS系)にも出演するなど身体能力の高いスポーツ万能のイケメン俳優として順風満帆な日々を送っていたが、2017年9月15日、ドラマ『弱虫ペダル Season2』(BSスカパー!)の撮影中、自転車に乗っていて転倒し、脊髄損傷と診断される。

その後の治療、リハビリで入院生活は1年にも及んだ。“死を覚悟した絶望の日”から2年、事故の後遺症と向き合いながらも世の中へメッセージを発信し続けている滝川英治さんにインタビュー。

37歳(愛犬パールと)
カメラマン:宮坂浩見

◆バイト感覚でスタートした俳優業だったが…

広島県で生まれ大阪で育った滝川さん。3歳上の姉・目黒陽子さんが大好きで、いつもくっついて歩き、一緒に遊んでいたという。

「姉が結構優秀で勉強もできたし、学校でもモテるような女の子だったらしくて、先生たちも、その弟だからというのですごく注目していたみたいなんです。

でも、僕はあまり勉強もできなくて結構落ちこぼれだったから、『全然お姉ちゃんと違うじゃん』みたいなことをよく先生に言われていました(笑)」

-小さいときから体(からだ)は大きかったのですか-

「いいえ、僕は小学校ぐらいまではクラスの真ん中ぐらいでした。中1からバスケを始めたんですけど、中学の3年間で一気に伸びて、中学を卒業する頃にはクラスで1番大きかったです」

-その頃は将来何になりたいと思っていたのですか-

「モノ作りが好きだったので、建築関係には漠(ばく)然と興味はありました。特に俳優とか、こういう世界に入るとは思っていなかったです。

将来どうするんだろうっていうのがなくて、そんな遠い将来のことなんてあまり考えてなかったですね。今、そのときを遊んで暮らしているという感じだったかな、そのときは」

-熱中していたことはなかったのですか-

「小さいときから人を笑わせるのがすごく好きで、学校でもよく人にちょっかい出したりしていました。

昼食のときは毎日定番だったんですけど、牛乳を友達の口に含ませて、面白いギャグとか面白いことを言って吹き出させるというのが自分のなかで快感になっていて(笑)。

毎回友だち同士でそういうゲームみたいなことをやっていましたけど、周りからしたらいい迷惑ですよね。馬鹿なことばかりやって先生からよく怒られていました(笑)。今思うと面倒くさいガキんちょですよね(笑)」

-結構吹き出す人は多かったですか-

「仲の良い友だちなんかは吹き出していたんですけど、なかなか吹き出さない友人もいたんですよ。それで『その子を明日どうやって笑わせようかな』って真剣に考えて、ネタを仕込んできたりモノマネをしたり、母親の口紅を借りて女装メイクをしたり、あの手この手(笑)。卒業アルバムではなぜか家から洗面器を持ち出し、かぶっていました(笑)。

とにかく2枚目…ではなかったです。本当に子どもの頃からそんな感じで。なんか変わり者というか、目立ちたがり屋ではあったかもしれないです(笑)」

-188cmの長身で端正なルックスですから芸能界にスカウトされることも多かったのでは?-

「背が大きいので目立っていたとは思います。この世界に入ったきっかけはスカウトだったんですけど、18歳のとき、大阪の街で。

そのときも将来何をやるのかをまだ決めていない時期だったので、何もやることがないし、やってみようかなぐらいのバイト感覚でしたね、最初は。恵まれた環境で事務所に入って半年ぐらいでドラマが決まったりして。

でも、最初はめちゃくちゃ現場で怒られたりとか、他の役者さんに迷惑をかけたりとか…。自分は本当に小さな役でセリフも少なかったのに、僕のせいで撮影が止まっちゃったりということがあったりして…。初めて挫折を感じました」

-それまで演技のレッスンなどはされていたのですか?-

「お芝居のレッスンもしていたんですけれども、いざ本番となると緊張もするし勝手も分からないし…。でも、周りは勝手がわからない新人なんて、そんなところに目をかけてくれる時間もないですしね。

そのときに所属していた事務所の先輩が赤井英和さんだったんですけれども、赤井さんにはすごいお世話になって。演技指導をしてくれたりとか、その場で色々と教えていただきました。

そんなことはなかなかないじゃないですか。ドラマの撮影現場で演技の心配を先輩にさせてしまうって。赤井さんには本当にプライベートでも可愛がっていただいて、よく飲みにも連れて行ってもらいました。

地方でのドラマの撮影だったのですが、赤井さんは毎晩のようにキャスト、スタッフさんを連れて夜中まで飲み、朝5時頃には現場に入り、ほとんど寝てないんじゃないかっていう感じでした。とにかく豪快でしたが、誰よりも元気で、現場を楽しく盛り上げてくださいました」

※滝川英治プロフィル
1979年3月24日生まれ。大阪府出身。2002年から5年間「リポビタンD」のCMに出演。ドラマ『仮面ライダーキバ』(テレビ朝日系)、『弱虫ペダル』(BSスカパー!)、映画『劇場版 超・仮面ライダー電王&ディケイド NEOジェネレーションズ 鬼ヶ島の戦艦』(2009年)、ミュージカル『テニスの王子様』、ミュージカル『しゃばけ』弐~空のビードロ・畳紙~、舞台『龍が如く』主演など多くのテレビ、映画、舞台、バラエティーに出演。

2017年、撮影中に自転車で転倒し脊髄損傷と診断される。入院中からブログで多くのメッセージを発信し続け、12月20日(金)には自身初となるエッセイ本『歩-僕の足はありますか?』が出版される。

©テレビ朝日

◆半年間で肉体改造、芝公園で「ファイト一発!」?

2002年に大学卒業後、滝川さんは大阪から上京する。そして2002年から5年間、大正製薬の「リポビタンD」のCMにケイン・コスギさんと出演することに。生まれて初めて受けたオーディションだったという。

「オーディションの半年ぐらい前に、ある制作会社の方から『受けてみる?』って。そのときはまだジムとかも通ったことがなかったし、からだの線もすごい細かったんです。

『リポビタンD』のCMと言ったら、そのときはケイン・コスギさんと宍戸開さんで、その前は西村和彦さん。知名度のある方ばかりで僕みたいな新人が受けられるのかなと思ったんですけど、『何とか半年間頑張って鍛えてみたいです』っていうところから始まって。

そのときにはまだ大阪に住んでいたんですけれどもジムに通い始めてプロテインを飲んだり、栄養管理とかもして、半年間で体重を10Kgぐらい増やしたのかな、筋肉を。

それで半年後にまたその制作会社の方に会って、その場で服を脱いで体を見せたら『すごいね、頑張ったね』ってちょっと反応があったのでオーディションを受けたんですけど、芝公園でやったんですよ。走ったり懸垂をしたり、『ファイト一発!』って大声で叫んだりするというようなオーディションで(笑)」

-芝公園に来ていた人は驚いたでしょうね-

「大声で叫んでいましたからね。びっくりしたと思います。それも何百人も受けに来ていましたから。そして、最後の二人まで残り、最終審査は物凄く覚えています。

即興でお芝居が見たいと言われ、当時タイムリーだったマラソン女子の高橋尚子選手のコーチの小出義雄さんを演じてくださいと。

でも、そのときはもう目の前のことに必死で『絶対に受かるんだ!』としか考えてなかったので、汗と涙も流しながら小出さんを演じきりました」

-半年間鍛えて肉体改造もして、努力されましたものね-

「初めて大きな目標ができ、目の色が変わりました。初めてジムに通いましたし、もともと結構色白なので、初めて日焼けサロンに行って黒くして(笑)。決まった時は信じられなかったです。奇跡だと思いました。

平凡に学生生活を送って将来何をするか決まってなかったのに、1年後ぐらいにはCMに出してもらって。CMがオンエアされる前に帝国ホテルで製作発表記者会見があったんですけど、何が何だか自分で把握できてないような、フワフワした状態で始まりましたね」

-ご両親も喜ばれたでしょうね。お父様が高校にポスターを持って行かれたそうですね-

「当時、『勝手なことをするなよ』って僕が父をすごい剣幕で怒ってしまったんです。まだ20代前半だったから恥ずかしいというか照れもあったし。

しかも校長室ですからね。校長先生なんて僕もそんなに知らないのに、父が校長室にポスターを持って行って、貼っておいてくれなんて、何を勝手なことをやっているんだって。

今は父の思いもすごくわかりますけど、当時はまだ親の子を思う気持ちみたいなものをなかなか理解できなくて。父は去年亡くなったんですが、子を思う気持ちと強さと優しさは、当時と全然変わってなかったですね」

©テレビ朝日

◆ミュージカル『テニスの王子様』初代メンバーに

「リポビタンD」のCM放映がスタートした翌年、ミュージカル『テニスの王子様』(通称テニミュ)の初代メンバーに選ばれ、手塚国光役を演じることに。今では若手俳優の登竜門と言われているテニミュ。当時はまだ「2.5次元ミュージカル」(“2次元”と称される漫画やアニメと“3次元”と呼ばれる現実の中間)という言葉もなく、試行錯誤の連続だったという。

-「2.5次元ミュージカル」の先駆けでしたね。初めての舞台だったと思いますが、いかがでした?-

「15年ぐらい前なんですけど、当時はとにかくがむしゃらでした。基本同年代だし、結構皆さんまだお芝居を始めて間もないような人たちだったので、みんなと一緒になってもっと上を目指していったっていう感じでしたね」

-最初は客席の半分ぐらいしか埋まらなかったのが、千秋楽のときには満席で立ち見、さらに外に人があふれるぐらいになったそうですね-

「そうなんですよ。最初は空席が目立っていましたね。当時は今みたいにネットも今ほど普及してなかったので、口コミで広がったのか宣伝なのかちょっとわからないですけど、日に日にお客さんが増えていって本当にうれしかったです。

カーテンコールで本当にたくさんのお客様の笑顔と拍手をいただいたときに、もともと自分の根底には、人を笑顔にさせたいとか、幸せにしたいという思いがあったので。

そのカーテンコールの景色を見たときに、自分が努力をした結晶が、こんなに人の心を揺さぶることができるんだと感じて、『こんな世界があるんだ!』と、そのときにはもうバイト感覚ではなくて、完全に『俳優』というものの虜(とりこ)になっていました。

お芝居は中ホールでやっていたんですけど、入りきらないので大ホールを開けてスクリーンに映し出して、そのライブビューイングにお客さんが2000人ぐらい来てくれて、たくさんの笑顔であふれたんです」

-すごい熱気だったでしょうね-

「すごかったです。今はもっと厳しくなっているかもしれないけど、当時は入り待ち出待ちもすごかったですからね。お客さんはほとんど女性で、あまり男性の方はいらっしゃらなかったです。

僕の友だちが見に来てくれたことがあったんですけど、お芝居や歌はもちろん、ペンライトを回してあれ程までの女性の黄色い声援を聞いたことがないって(笑)。その世界観にびっくりして圧倒されたって言ってました。

プライベートを知っている先輩だから『しかもお前だろう?お前に女の子がキャーキャー言っているのが笑えるんだけど』って(笑)。プライベートでの僕は、お酒を飲んで人を笑わせているただのバカですから(笑)。

確かにプライベートの僕は、俳優・滝川英治から解放されたかったのか、俳優の共演者とプライベートで会うことはほとんどなく、もっぱら芸人さんやアイドル、タレント、アーティストさんなど異業種の方とよく遊んでいました」

◆撮影中に転倒、一瞬ですべてが変わった…

ミュージカル『テニスの王子様』以降、多くのテレビ、映画、舞台で活躍していた滝川さん。2017年9月15日、ドラマ『弱虫ペダル Season2』(BSスカパー!)の撮影中、自転車に乗っていて転倒。全身を強く打ち、脊髄損傷という大ケガを負ってしまう。

「気づいたときにはアスファルトに転倒していて、倒れ込んで、2秒くらいは記憶が飛んでいますけれども、自分が仰向けに倒れている状態で、スタッフさんとか共演者が駆けつけて来て、『英治さん!!』って言う声も聞こえていたし、鮮明に覚えています。

『転倒したんだな。起きないと』って思ったけど、もちろん首の骨が折れているから痛みも感じないし感覚もない。起き上がれなくて、そこで初めて自分の体の異変を感じました。

そのときに感覚がないから、首も動かせないし、目しか動かせない。自分の体を確認することができないから、僕はからだがちぎれてしまい、下半身がないんじゃないかと思ったんですよ。

それで駆けつけてくれたスタッフさんに、初めて発した言葉が『僕の足はありますか?』でした。

そのときの自分の感情と自分の口をついて出た言葉が衝撃的で、それぐらい自分のなかで取り乱していたんだろうなって思ったし、どんどん不安になってどんどん呼吸も苦しくなっていくなかで、もうすでに『死を覚悟しました』。

でもそのときはまだ、脊髄損傷っていう言葉も知らなかったですし、聞いたこともありませんでした。

でも死を覚悟した後は意外と冷静で、ドクターヘリが来るまで20分位だったかな。1人のスタッフさんがずっと僕のそばに寄り添って声をかけてくれていたんですけど、その人にいろいろ遺言というか、最後の言葉を託していました。

まず、やっぱり親に感謝というか、『本当に今までありがとう』ということと、『申し訳ない』ということを伝えて欲しいって。あと僕は一人暮らしだったんですけど、パールという犬を飼っていたんです。

その日も朝の5時ぐらいに家を出て、夜には帰るつもりだったので、一食分のご飯とお水しか用意していなかったんですね。僕が帰らないとなると飢え死にしちゃうから、マネジャーか誰かに家に行ってもらいパールを頼むということ、その二つは強く言いました。

もちろん涙も普通に出てきていましたし、死を感じ絶望視しましたが、その前にやっぱりやらなくちゃいけないこと、言わなくちゃいけないことは伝えないといけないと思ったので」

-そしてドクターヘリが到着して-

「ヘリで運ばれているときも記憶があって、お医者さんもヘリに乗って付いてきていたんですけど、その先生にもとりあえず、『パールのことを何とかお願いします』と必死に言っていました。病院に着いてからも麻酔を打たれて眠らされるまでは、意外とちゃんと覚えています。

手術をするには結構段取りがあって、いろんな人の承諾とかも必要だし、時間がかかるものなんですけど、僕の場合は意外と早かったらしくて、怪我をして7時間後に手術だったのかな。本当だったらもっと手術までに時間がかかるって言われました」

-脊髄損傷だと知らされたのは?-

「ちょっと気持ちが落ち着くまで言われなかったかな。それで数日経ってからこういう状況でって先生から話を聞きました。最初は全く現実を受け入れられなくて999年分泣きました。自分の遺影の幻影を見たり、闇に連れて行かれそうな体験もしたし…。

でも、“あること”をきっかけに、『俺は今、生きている』、『生きてやる。絶対に死にたくない』って生きる勇気が湧いてきました。自分だからこそ、できることがあるんじゃないかって。

それで自分の今の状態を知ってもらうべきだと思い、つらく苦しい状況、きれいごとじゃなく、脊髄損傷した人間の現実を知ってもらいたいと思い、ブログで発信することにしたんです」

事故から約5カ月後、ありのままの現状を書き記した滝川さんのブログは反響を呼び、アクセス数も普段の1000倍以上に。同じように病気と闘っている方々からも多くのコメントが寄せられ、滝川さんの大きな支えになっているという。

次回後編では、滝川家の絆、仕事復帰への第一歩となった『PARA SPORTS NEWS アスリートプライド』(BSスカパー!)、12月20日(金)発売のエッセイ本『歩-僕の足はありますか?』を紹介。(津島令子)

※『歩-僕の足はありますか?』
12月20日発売 著者:滝川英治
出版:主婦と生活社
これまでの俳優人生と事故のこと 大切な家族や仲間とのこと 厳しい現実と向き合いながらも、新しい夢に向かって歩み始めている自身の姿をつづっているノンフィクションエッセイ。

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