休みは年に3回だけ、血尿なんて当たり前。でも、強くなれるならそれでよかった~「キックの鉄人」はこうして生まれた
【最強さん、いらっしゃい!】後編それでも逃げ出したかった瞬間
──では、試合が決まって恐怖を感じた試合はなかったんでしょうか?
藤原 一試合だけあるよ。相手は日本人。実は西城正三とやった試合がそう。
──あの西城戦ですか! 元ボクシング世界フェザー級王者。通称「シンデレラボーイ」ですよ。
藤原 そもそもあの試合は正式に決まる前からマスコミが煽るだけ煽ってたんだ。「ボクシングが勝つか、キックが勝つか」って。
──西城正三さんはボクシング界の大スターでしたからね。アイドル的な人気もあったし。
藤原 男前だしな(笑)。それでボクシングの元世界王者でいいパンチを持っていることは知っているわけでしょう。
──スーパー階級のない時代に、世界フェザー級で5度も防衛していますから、強い王者であることは間違いないです。
藤原 そんな選手と試合してだよ、そりゃ、俺が負けるなんてもちろん思わないよ。思わないけど「もし、俺が負けることがあったら、キックボクシングそのものが終わるよな」ってことは想像するわけだよ。
──なんとなくわかります。
藤原 キックの看板を背負って出るんだから。いかに重いかって痛感したよ。今まで自分のために試合はするけど、看板を背負ってなんて考えたことなかったもの。で、試合が近づくたびに、異常な盛り上がりになってくるしね。マスコミは煽るし、切符は売り切れるし、関係者はいろいろメッセージ送ってくれるし。毎日眠れなかった。本当の話。
──凄いプレッシャーだったんですね。
藤原 正直やりたくなかった。逃げ出したかったのはあの試合だけ。今だから言えるけど。
──ちなみに、作戦はあったんですか?
藤原 あった。先生が珍しく指示を出したんだ。「4Rまでいじめて、いじめて、いじめろ。それで5Rに一発で倒せ」と。
──はあ、それもプレッシャーですね。
藤原 そうだよ。それもでかいプレッシャーなんだよなあ。