表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/243

初めての外出、の準備

滅多に座らない玉座に座り、俺は抱えたくなる頭を無理矢理持ち上げて広間を見渡した。


目の前にはエレノア、ミラ、カルタス、ローザを含めた古参の部下10名が横並びに整列している。そして、その10人の背後にはそれぞれ19人の部下達が並んでいた。


俺の作ったギルドの全メンバーである。


全員を並べたことが無かったが、全員から真っ直ぐに視線を向けられると流石に緊張する。


俺は一度深く息を吐くと、渋々ながら口を開いた。俺が口火を切らないと誰も喋らないから仕方ない。


「もう聞いている者もいるだろうが、我々はギルドの拠点であるジーアイ城ごと、どこか別の地へと移動したらしい」


俺がそう口にすると、僅かに動揺する気配が広がるのを感じた。


「まずすべきは城の内外の安全の確保。次に周辺の調査をしようと思う」


俺がそう口にすると、最前列の左端の男が手を挙げた。


茶色の長めの髪を後ろで縛った垂れ目の青年だ。重い見た目の銀色のフルプレートメイルを装着したその男の名はローレル。犬の獣人で、髪に隠れるように小さな垂れ耳が頭にある。


ローレルは俺の視線を受けると、咳払い一つして口を開いた。


「えっと、旦那。周辺には各色のドラゴンが飛び回ってたりするんですかい?」


ローレルはそんな冗談みたいなことを冗談みたいな軽いノリで口にした。だが、その顔つきは至って真面目だ。


「いや、今のところはモンスターは見ていない。どうしてそんなことを思った?」


ローレルの疑問に俺は首を少し傾げて聞き返した。俺はいまだに自分の作ったキャラクター達が自由に喋る様に違和感を覚えるが、普通に会話をするよう意識している。


「そうなんですかい? いや、いつもは無口で二、三人くらいしか連れていかない旦那が、全員を集めて状況やら方針やらを教えてくれるなんて想像も出来なかったもんで…いや、申し訳ございやせん」


ローレルは俺が答えると思っていなかったのか、少し戸惑いがちに理由を口にする。


全く失礼な。俺がそう思って周りを見ると、奥で頷いている奴が何人かいた。


「………あー、これからは、ギルド全体で協力して様々な事柄にあたる。独断だが、全体的に実力も付いてきたと判断してだ。だから、悪いが皆をかなり扱き使うことになるだろう。無理はさせないようにしたいが、そうもいかない場合はある。力を貸してほしい」


俺がそう告げると広間はシンと静まり返った。


まずい、変なことを言っただろうか。


俺がそんなことを思った次の瞬間。広間には怒号のような歓声が響き渡った。


声の圧力で足元が振動するのを感じ、俺は自らが作り出したキャラクター達を見る。


俺を輝くような笑顔で見上げる者、無言で頷く者、我慢出来ないとでも言うように吠える者、中には俯いて涙を流す者までいた。


「ご主人様」


呆然とその様子を眺めていると、そんな声が聞こえて俺は声のした方向、エレノアの方に顔を向けた。


エレノアは慈愛に満ちた微笑みを浮かべながら、俺を見上げる。


「勿論です。我らはご主人様の為に存在する忠実なる僕です。ですが、ご主人様は無力な我らを自ら鍛えてくださり、過分な武具までご用意して戴きました。やっと、ご主人様のお役に立てると思った時には、また新たな僕をお鍛えになられます。我らは待っていたのです。ご主人様のお役に立てるこの時を」


エレノアがそう言うと、涙を浮かべてローザが頷く。


「任せてくださいよ! アタシはお役に立ちますよ! 自分で言うのもなんだけどね、器用だし戦闘技能以外も色々いけますから!」


ローザはそう言ってカラカラと快活に笑った。


ミラやカルタス、ローレルに他のメンバーも口々にそんなことを口にした。


それを眺めて、俺は知らず知らずの内に強張っていた体の力が抜けたことに気がつき、玉座の背もたれに背中を預けてホッと一息吐いた。


そして、思わず笑みがこぼれるのを何とか自制し、大仰に頷いてみせた。


「皆、ありがとう。では早速、指示をさせてもらう。外に探索に出れるのはNo.1から50のメンバーだけだ。普段だったらあり得ないが、今回は確認の為にも10人で一つの隊を作ってもらう。城内の調査、安全確保は5人で1部隊を作るぞ」


俺はそう告げると各隊のリーダーのみを選出し、後は技能ごとでバランスが良くなるように振り分けた。


「俺はエレノアの隊と行動を共にする。他の隊は城を中心に周囲1キロの探索、モンスターを見つけても複数なら極力手を出すな。一体ならばまずは遠距離からの攻撃で対象の強さを推し量るように」


俺が城外の探索の隊に向けてそう口にすると、前列の50人が頷いて返事をした。


「城内の調査は各隊で担当の場所を決める。二つの隊は見張り台の監視を交代でやるように。後は見落としの無いように話し合って決めてくれ」


俺がそう言うと、前から6列目以降の者が返事をする。


「あの、一つお聞きして宜しいでしょうか」


ふと、皆の返事の後に列の中程に立つ長い黒髪の美女が挙手をして声をあげた。美女の頭には大きな三角の耳がついている。


柔らかそうな素材に見える青い下地に白の柄があしらわれた服装に、お尻のところから長い毛の生えた尾を生やしている。狐獣人のソアラだ。衣服の上から分かるほど身体の一部を強調した蠱惑的なボディーが特徴である。まあ、正直やり過ぎたと言えるエロさだ。


「なんだ?」


俺は視線を下げ過ぎないように意識してソアラを見つめ、聞き返した。ソアラは僅かに口の端をあげると、手のひらで顔の下半分を隠すような仕草をとる。


「我が君の、そちらのお部屋は…どう致しましょう?」


ソアラは思わせぶりな態度でそう言うと、俺の背後を指差した。玉座の背後にある和室だ。


「…そうだな。ソアラ、お前の隊が担当で良い。この広間も隅々まで調べろ」


俺がそう命じると、途端に広間がざわめいた。


何処からかソアラへの怨嗟の声すら聞こえる中、ソアラは愉悦を噛み殺すように口元を歪めて頭を下げた。


「お任せくださいませ」


何故か頬を上気させ潤んだ瞳を向けてくるソアラから逃げるように視線を外し、俺は玉座から立ち上がる。


「決まりだ! さあ、行動を開始するぞ。エレノア、隊をまとめろ」


「はい!」


俺が号令を発すると、エレノアはすぐに俺が選んだメンバーを呼び出し、俺の周囲に集めた。


周りを見れば、俺が指示した各隊も集まってリーダーが声をかけていた。


「よし、集まったな。今から向かうのは城を出た正面、森の奥にある平野だ。上手くいけば人里を発見出来るかもしれないからな」


まあ、これで未開拓の島かなにかだったらどうしようもないが。


皆の返事を聞きながら俺はそんなネガティヴなことを考えて、かぶりを振り意識を切り替えた。


どちらにせよ、動くしかないのだ。


俺はエレノア達の顔を確認し、拠点内での転移を実行する。


「グループ転移、正門」


俺がそれだけ呟くと瞬く間に景色が変化した。


目の前には、高さ15メートルはあろうかという巨大な金属製らしき門がある。荘厳という言葉が相応しい白と銀の門の左右には汚れひとつ無い真っ白の城壁が続いている。


俺が門に近づくと、門は振動が伝わるような重低音とともに勝手に拠点の外へ向けて開いていく。


開いた門の向こうに見える深い森林と霞んで見える尖った山々を眺めてから、俺はエレノア達を振り返った。


「じゃあ、探索は別の隊に任せて、俺たちは飛んでいくとしよう」


何処か間の抜けた指示をした俺に、エレノア達は至極真面目な表情で返事をした。


ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
いいねで応援
受付停止中
ポイントを入れて作者を応援しましょう!
評価をするにはログインしてください。
感想は受け付けておりません。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
作品の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。

↑ページトップへ