プロローグ
初めまして、乳酸菌です。
初めての投稿になります。
稚拙な文章ですが出来たら一目見て頂けると飛び上がって喜びます。
…剣と魔法の王道ファンタジーアクションゲーム『エインヘリアル』…
美麗な映像と自由度の高いキャラクターメイキングに惹かれて始めたオンラインVRゲームだったが、課金を然程しなくても楽しめるメインストーリーや豊富なやり込み要素のせいで想像以上にハマってしまった。
エインヘリアルと他のオンラインゲームとの大きな違いをあげるとするならば『単独大規模ギルド』だろう。このシステムのせいで俺は毎月余計な出費を計上してしまっていた。
問題の単独大規模ギルドとは、プレイヤー1人で作れるギルドのことである。1人なのに大規模。意味がわからないだろうが、これが一番のやり込み要素となる。
まず、1人のプレイヤーがギルドマスターになる。そして課金か、一部ボスモンスターから落ちるレアメダルを使用して施設や部下を造る。
この施設と部下が曲者である。施設は外観だけでも西洋風の城から和風な仏閣、はたまたやたら巨大な竪穴式住居すら選べる上に配色も変更出来る。勿論、キッチン、露天風呂、高見櫓、鳥居、迷路型の庭園などなど、施設内外も驚くほどの自由度だ。
部下に至ってはプレイヤーと同じキャラクターメイキングシステムを使う為、趣味全開の部下を無数に用意出来る。装備や職業なども同じくプレイヤー並みに自由度が高い。
3人ずつではあるが、部下を育てることも出来る。部下はプレイヤーよりも育てやすいので意外に作業的にならず楽しめるだろう。
ただ、問題が1つある。ボスモンスターが落とすレアメダルが1%でしか出ないことだ。
ここまでの説明で分かるように、単独大規模ギルドを楽しむにはメダルが死ぬほどいる。なにせ、施設によってはメダルが100枚いるからだ。ちなみに部下は5枚である。
もはや廃人プレイヤーと言っても文句も言えない俺ならばボスモンスターもあっさり倒せる。
だが、1日に30から40体が限度だろう。
つまり、一月に2人部下を造ることができる計算になる。
もちろん、そんなに待てない俺は毎月課金してしまうのであった。
だが待ってくれ。少しだけ言い訳をしたい。
急に現実に戻ってしまいアレなのだが、仕事の関係でボスモンスターを倒す暇がなくなったのが大きな理由の一つなのだ。
今迄は、営業成績が平均以上の俺は外回りと言いつつ大半を自宅にてゲームの世界で過ごした。
だが、その平和な日々は悪魔の発明、GPSの誕生で崩壊した。
外回りの営業がサボらないように記録が残るようになったのだ。
結果、日々の日課だったボスモンスター狩りの時間は減り、皮肉にも営業成績に比例して給料も増えた。
こんな状況で重課金に走ってしまった俺に、一体誰が文句を言えるだろうか。
そして、そんな不健康な毎日を過ごして一年が経った頃、俺は次の日が休みということもあり、徹夜でのボスモンスター狩りに勤しんでいた。
高級ヘッドマウントディスプレイ越しのエインヘリアルの世界。
この世界の中では、俺の姿は目までかかるほどの黒髪と細身、高身長の美青年だ。服装は個人的に好きな龍の鱗と皮を使った軽鎧である。
名前も現実世界の柳瀬蓮人ではなく、レンレンというユーザー名を使っている。
俺の頭の向く方向、遥か遠くには灰色の壁と赤い屋根の王城と白を基調とした街があり、手前には深い森がある。
今、俺が立っているのは1500メートルほどの山の山頂だ。
「どうかされましたか?」
眼下に広がる景色を眺めていると、背後から少し低い女の声が聞こえた。
振り返ると、そこには白いドレスを着た美しい少女が立っている。背中まである長い金髪を揺らした少女は背筋を伸ばした綺麗な姿勢でこちらを見つめていた。
誰もが思わず見惚れてしまうような美少女だが、右手に持つ波打つような刀身の西洋剣と、その足の下に倒れた黒い龍の頭のせいで異様な雰囲気を醸し出している。
少女に足蹴にされているのは、この大陸最強のボスモンスターである30メートル級のブラックドラゴンである。
俺は龍の死体と少女をぼんやり眺めると、無言で少女の方へ足を向けた。
こちらを見上げてくる少女の前に立ち、俺は口を開く。
「転移」
俺がそう一言呟いた瞬間、白い山肌と青い空だった景色は一変、白く光沢のある壁と見上げるほど高い天井のある広間に変わっていた。
俺のギルドの拠点である「ジーアイ城」である。
目の前には変わらず無表情のままの少女が棒立ちしているが、俺は気にせず辺りを見回す。
広間の大きさは幅で50メートルほど、入り口である両開きの扉から奥まで100メートルほどだろうか。
等間隔に並んだ直径1メートルほどの丸い柱の間からは、壁にはめ込まれた大きなステンドグラスから様々な淡い色の光が差し込んでいる。
なんとなく敷いたやたらと豪華な赤と金色の刺繍をした絨毯と、柱の一つ一つに取り付けられた金色と銀色の旗だけが広間の装飾品である。
広間の中央を手前から奥まで一直線に敷かれた絨毯の左右には一列に多種多様な人種の男女が立ち並び、一様にこちらを見ていた。
改めて眺めると異様な光景である。
この部屋に並ぶのは人間、エルフ、ドワーフ、獣人、魔人、妖精族の六種族50人。
俺が育てた部下の中でもトップクラスの実力を持つ50人だ。もちろん、装備品も一人一人しっかり考えられている。
俺は部下達から視線を外すと、再度少女に視線を向けた。
こちらを見上げて身動ぎ一つしないこの少女が、俺が最初に作って最大限まで鍛え上げた第一の部下、ヒト族のエレノアである。
「エレノア、待機」
「はい、分かりました」
俺が指示を出すとエレノアは返事をして広間の奥側へと歩いていった。
俺はエレノアに付いていくように広間の奥へと向かい、部下の列に入るエレノアを尻目に、奥にある5段しかない階段を登ってから一応作ってみただけの豪華な玉座を通り過ぎる。
玉座の裏には重厚な白銀の両開き扉があり、見た目に反して自動で開くその扉をくぐり抜けると、そこには12畳の和室が広がっていた。奥には扉が一つある。
畳に直置きの丸くて背の低いテーブルとシンプルな造りの桐ダンス。この部屋の家具はこれだけである。
面白半分に作ってみたこの部屋だが、案外居心地が良くて気に入っている。ちなみに奥には一般家庭サイズの風呂とトイレがある。ゲーム内なので使ったことはないが。
俺はテーブルの前に胡座をかいて座って一息ついた。
「転職したいなぁ…」
ため息混じりにそう呟くと、俺は天井を仰ぐ。天井にはただの飾りである裸電球がぶら下がっている。
「でも、就職活動が面倒なんだよなぁ…」
適当に就職活動して決めた医療、介護用品の営業だったが、怒られながらも一年もするとそれなりに一人で廻るようになり、気がつけば後輩が出来て更に楽になり、もう5年経過していた。ゲームも捗る毎日。
だが、憎きGPSのせいでサボれなくなってからの1年は悲惨だった。
課金のおかげで部下の人数こそ200人を超えたが、まともに育てられているのは半分程度だ。残りは比較的簡単に育つレベル50付近。装備も余り物という始末。
まあ、どうせ全員連れて歩けるわけでは無いから自己満足の遊びでしかないわけだが、それでも5年以上続けているこの作業は止め難い。
ギルドの本拠地であるジーアイ城とその庭園に関しては単純に買い揃えるだけで良いので問題無いが。
「あ〜、宝クジ当たらないかなぁ…」
俺はそんなやる気の無い言葉を発してテーブルに突っ伏した。
徹夜でボスモンスター狩りをしていた為か、座っているだけで眠気に襲われる。
俺はなんとなく目を瞑り、浅く溜め息を吐いた。
プロローグということで書いたのに、まさかの何もはじまらないという罠…
読んでくださった方は何県に住まれていらっしゃるのか書いて下さればそちらに向かってお祈りを捧げます。