2024.11.14
# 日本史
近衛文麿の「首相就任」、その裏にあった「陸軍の思惑」をご存知ですか…? 気鋭の政治家と軍部の複雑な関係
推進者は明らかに陸軍
2024年8月、歴史家の伊藤隆さんが亡くなりました。昭和戦前期の政治史の研究者として知られ、多数の著書を残しています。
なかでもよく知られているのが『大政翼賛会への道 近衛新体制』という著書です。
同書は、近衛文麿が首相となり「近衛新体制」がはじまった1940年の前後の日本政治のあり方を、さまざまな角度から照らすもの。
ウクライナやイスラエルで戦争がつづくいま、太平洋戦争に突入する前夜の日本の政治の状況を知ることには意味がありそうです。同書は、当時の日本について多くのことをおしえてくれます。
たとえば、近衛体制が、陸軍の推進によって成立したふしがあるという指摘は大いに興味を引きます(読みやすさのため、改行を編集しています)。
〈近衛は後年そのことについていろいろ弁明しているが、近衛の再登場の重要な推進者は明らかに陸軍であった。七月一七日の重臣会議で、木戸幸一内大臣は米内内閣の退陣について説明し、「陸軍は此変転極りなき世界情勢に対応して遺憾なき外交政策を行うには現内閣にては不充分なりとて、独伊との政治的接近等の意向をも示したる様子なり」とのべた。
すなわち、木戸は陸軍がドイツの電撃作戦による大勝利を得たのに即応して独伊との提携強化、つまり軍事同盟の締結による日本の枢軸陣営へのより一層のコミットを要請しただけではなく、「内政についても政府は国民と離反し諸施策満足なる成果を挙げ得ず、政治体制の強化を為すに非ざれば、此の時局に対応する能わずと云うにあり」として、陸軍が新体制に期待していることを説明した。〉