岩手県在住の女性Ｔ様から「盛岡冷麺をご馳走したい」とご連絡をいただき、盛岡駅で合流した。私の正しい使い方である。韓国冷麺みたいなものだろうと思っていたら、全然違って、想像の五億倍美味しかった。食わず嫌いはよくない。何事も経験である。岡本太郎も、父の一平から「世界中の美味いものを食え。金を惜しんではならない」と教えを受けた。金を惜しみたくなる気持ちをグッとこらえて、一歩前に出る。そこには、未知の楽園が広がっている。無論、地獄の時もあるが。

Ｔ様は言った。私には好きな人がいる。前は愛されたいとか思っていたが、今は「この人を好きな気持ちがあれば生きていける」的な境地にいる。かつての私は愛を試していた。私は誕生日にケーキを食べたい派の女である。サプライズだとなお嬉しい。だが、サプライズでケーキを出して欲しいとオーダーしたら、それはサプライズではなくなる。ある日、好きな男の人が誕生日にケーキを出してくれなかったのを見た時に「愛しているならケーキを出してくれるはずだ」と思って、喧嘩になり、別れた。当時の私は、自分を無条件に愛して欲しいと、条件をつけていた。私が思う無条件の愛という条件をつけて、愛して欲しがった。

Ｔ様は言った。自分を出したら嫌われてしまうという思いがあって、自分を小出しにしてしまう。喧嘩別れをした後に、ああ、もったいないことをしたなと思った。もっと自分を出しておけばよかったと思った。二人で一緒に築き上げてきたものが、壊れてしまうのが怖かったのだ、と。私は、築き上げると言う表現に「？」と思った。愛や、友情は、築き上げるものなのだろうか。築き上げるという言葉に、期待にも似た、強迫を感じた。築き上げてきたものを担保に、こんなに愛しているのにとか、こんなに手間暇をかけてきたのにとか言うのは、おかしい。愛とか、友情は、築き上げるものではないと思う。どちらかと言えば、愛や、友情は、焼け野が原になっても残るものだ。

がっかりされるのが怖いとか、拒絶されるのが怖いとか、嫌われるのが怖いとか、よく聞く。がっかりには二種類ある。いい子だと思っていたけれど、いい子じゃなくてがっかりされる場合。もうひとつは「お前はそんなもんじゃないだろ」と、出し惜しみしたことにがっかりされる場合。これを出したら嫌われるかな、の、逆。出せば出すほど嫌われる世界と、出せば出すほど愛される世界の、二種類がある。大事なことは、出せば出すほど愛される世界を、見つけることだと思う。ことあるごとに「自分がいけないんだ」と自分を責めないで済む世界。お前はお前で最高だと、お互いに本音で言い合える世界。そんな世界は天国だ。

第一印象がいい子の人は、ちょっと変なことをしただけで評価がガタ落ちする。第一印象が怖い人は、ちょっと優しくしただけで評価が爆上がりする。自分のことをいい子だと思ってしまう人は、いい子に磨きをかけるより、悪い子になる勇気を持つことだと思う。嫌われないように生きていると、悲しいことに、嫌われる。嫌われてもいいと思って自分を全出しすると、嬉しいことに、愛される。愛されるとか、愛されないとか、そんなことは、本当はどうでもいい。大事なことは、自分が愛しているかどうかである。好きは意外と繊細で、簡単に嫌いに負けてしまう。好きな人と出会ったら、それは奇跡みたいなことだから、異様なものを築き上げようとするよりも「一緒に焼け野が原に行こうぜ」と、愛の爆弾をぶちまける。長い人生、そんな時期があってもいいじゃないか。誰一人愛さないで終わるより、愛して傷つく方がずっといい。たとえ相手から嫌われたとしても、好きなままでもいい。愛したままでもいいのだ。