松尾芭蕉の質素な生活

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(神奈川県横須賀市長沢)

 

 

まづ頼む椎の木もあり夏木立    松尾芭蕉

 

(まずたのむ しいのきもあり なつこだち)

 

 

また、こめかみがズキズキする。

パソコンやテレビを長く見てしまったからかもしれない。

やりたいパソコン作業はまだたくさんあるのだが、もう今日はやめておこう。

 

今日は知人から「ここひえ」というのをいただいた。

 

 

毎年、事務所のロフトが暑くて寝られない…という話を知り、プレゼントしてくれたのだ。

なんでも、水を入れて冷たい空気を出すらしい。

今日は日中、涼しかったので、今夜は出番はないかな…と思っていたが、夜になってなんとなく蒸してきた。

早速今夜使ってみよう。

 

以前、私の芭蕉好きを知っている、句会の方から、

 

これ、面白いですよ。

 

と本をいただいたことがある。

諸田玲子さんの「ともえ」という小説で、最晩年の松尾芭蕉と、近江大津の未亡人・智月院とのプラトニックな恋愛模様を描いたものである。

もちろん、これはフィクション。

しかし、芭蕉の資料を基に創作したもので、芭蕉の当時の生活の様子などが伺えるものである。

そういうものを読んだりして思ったのだが、芭蕉は金銭というものにとても潔癖で、執着を持っていなかった気がする。

執着を持っていなかったかどうかはわからないが、少なくともそうありたいと願い、己を律していた、と思う。

 

「おくのほそ道」山形尾花沢の章でこういう一文がある。

 

原 文】

尾花沢に清風(せいふう)という者を尋(たず)ぬ。

かれは富める者なれども、志(こころざし)卑(いや)しからず。

【意 訳】

尾花沢の清風という人を訪ねる。

彼は金持ちではあるが、志の賤しいものではない。

 

つまり、芭蕉は「金持ちは心が賤しい」という偏見(?)があったのである。

これをもっと簡単に言えば、

 

金に執着する人は心が賤しい。

 

ということであろう。

 

芭蕉は江戸日本橋で俳諧修業し、見事、宗匠となった。

が、数年後には江東深川へと居を移している。

「日本橋」は今でもそうだが、当時も日本の経済の中心地である。

お金持ちもたくさんいたし、いいパトロンを見つけやすい。

お金が欲しければ、当然、日本橋を離れる手はない。

それでも、そこを離れ、深川へと移っていた。

この深川転居についてはいろいろな説が上がっているが、少なくとも、芭蕉が「お金」に執着していなかった、という大きな前提がある。

 

「ともえ」には、近江大津(今の滋賀県大津市)の庵で質素に暮らし、お金や食料に困りながらも、パトロンや弟子になかなか無心を切り出せない芭蕉の姿が描かれている。

また、私も「おくのほそ道」同行者の河合曽良が残した随行日記を読んだが、芭蕉の旅先での生活はとても質素だ。

どんちゃん騒ぎなどはまったくしていない。

たまに、その地の弟子より「お重箱」などが届いたりする記述もあるが、ほとんどが「うどん」だの「お粥」だの「そうめん」だの、そういうものばかり食べていて、まことに慎ましい。

 

考えてみれば、蕪村も一茶も、とてもお金持ちとは言えない。

俳人がお金持ちになり出したのは高浜虚子以降ということになろうか…。

もちろん江戸時代にも夏目成美だの、鈴木道彦だの大宗匠のお金持ちはたくさんいる。

しかし、後世に残ったこの三人はとてもお金に淡白だった。

一茶は違うでしょ…という人もいるかもしれない。

が、一茶は生涯、お金に苦労し、お金を欲しがったが、泥棒扱いされた成美と一時期、絶縁状態になったり、私が見る限り、「お金」に対する「誇り」は持っていた人だった、と考える。

故郷での遺産相続の泥沼も、流浪の身のまま老いてゆくわが身を儚み、せめて食い扶持ぐらいは・・・と考えた、必死の争いであったに違いなく、生きてゆくための争いだった、と私は考える。

「お金」以上に俳諧が大切だ、とこの三人は思っていた。

 

掲句は近江石山・幻住庵(げんじゅうあん)に移り住んだ時の一句。

この句は、西行法師の、

 

並び居て友を離れぬこがらめのねぐらに頼む椎の下枝  
 (ならびいて ともをはなれぬ こがらめの ねぐらにたのむ しいのしたえだ)
 
や、源頼政の、
 
のぼるべきたよりなき身は木のもとにしゐをひろひて世をわたるかな
 (のぼるべき たよりなきみは きのもとに しいをひろいて よをわかるかな)
 
などを踏まえての一句である。

和歌の伝統として、

 
椎の木ははかなき命を守る木

 

という意味がある。

 

お金も食料も満足にない、憐れな庵の生活だが、椎の木よ、どうかよろしく頼むよ

 

と椎の木に呼び掛けているのである。

いざとなったら、椎の実を食べればいいじゃないか、と・・・。

椎の木も、

 

おう! そう、しなよ!

 

と明るく答えているように感じる。

 

 

 

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