社会関係資本

- -
「ヒルビリー・エレジー」J・D・ヴァンス
(関根光宏、山田文訳)
社会関係資本とは、友人が知り合いを紹介してくれることや、誰かが昔の上司に履歴書を手渡してくれることだけをさすのではない。むしろ、周囲の友人や、同僚や、メンター(指導者)などから、どれほど多くのことを学べる環境に自分がいるかを測る指標だといえる。私は、選択肢に優先順位をつける方法を知らず、ほかによい選択肢があるかどうかもわからなかった。自分のネットワーク、とくに思いやりのある教授を通じて、それを学んだのである。
(中略)
ここまでの話は、成功者たちの世界が実際にどう働いているかを示す、ひとつの例である。 社会関係資本はつねに身の回りにある。うまく使えれば成功につながる。うまく使えなければ、人生というレースを大きなハンデを抱えたまま走ることになるだろう。 私のような境遇で育った子どもたちにとって、これは大きな問題だ。

わたしは子供の頃、世の中のことはすべて本に書いてあると思っていたが、実際はそうではない。ひとびとが微々たる印税のためにノウハウを開陳することはない。もしくは、普通に生きていれば本を出版する機会もないであろうし、インターネットには書けるが、プライバシーや守秘義務の障りがある。ノウハウは門外不出なので、内緒話で直接教えてもらうしかない。エリート集団は、エリート集団内部での口コミがあり、「試験でここが出る」とか「こういう回答をすると得点が高い」という情報を自然と交換している。こういう情報の埒外にいると、点数が低くなる。エリートとそれ以外では、そういうノウハウの格差もある。社会の下層でも下層なりの口コミはあるだろうし、「麻薬はあそこで売っている」とか「立ちんぼをするならここが儲かる」とか「あの店は万引きがしやすい」など、そういう情報は豊穣にあるだろう。アメリカでは万引きがブームであるそうだが、法律の改正で少額の万引きが大丈夫になったそうで、下層ではそういう情報が行き渡っていると思われる。では、エリートが万引きのノウハウを教わったとして、簡単にできるとは限らないし、下層ならではの野性本能というか、普段から他人の隙を窺って獲物を狙う習慣が土台でもあるだろう。他人の注意力や目線や死角に鋭敏で、アスペルガーとは真逆である。アスペルガー=知性的というイメージなのは、野生動物として周辺を観察する習慣の欠落の問題であり、知能との相関関係はない。万引きの達人になるには、口先のノウハウでは不十分であり、野性的な抜け目のなさや嗅覚を鍛え上げる家庭環境も必要である。
ページトップ