262.宰相は聞かされる。
「キャァアアッッ‼︎」
ドッガァアッ‼︎ドォォオッ‼︎ドッガァッッ‼︎
突然響き、城を揺らした連続する爆撃にティアラ様が悲鳴とともに耳を塞がれた。騎士達がティアラ様の頭上を庇い、私もまた騎士達に守られながら窓の外へと視線を投げる。
『そんなっ…!まさかサーシス王国にも爆撃が⁈』
「ええ!ですが、先程までの爆撃とは段違いに小規模な破壊力です‼︎今までとは違う爆弾と考えて良いでしょう‼︎」
爆音に負けないように声を張り上げながら、映像のヨアン国王の言葉に返事をする。恐らくは大規模爆弾の底でも尽き、代わりに今の爆弾が投爆されたのだろう。
不幸中の幸いとでも言うべきか、今までの爆弾の規模であれば最上階の我々はひとたまりもなかっただろう。…いや、むしろ小規模の爆弾しかなかったからこそ敢えて一番簡単に攻め落とせそうなサーシス王国の城を狙ったのだろう。教会が併設されたチャイネンシス王国の城よりも規模的に堕としやすいと考えられたのならば納得もいく。
…だが、一体どうやって。
目を凝らして窓の外を睨むが何の影もない。外の見張りからもどのように落とされたのかは未確認のままだ。遠方から投げ込まれたのか、気球が雲や太陽の中にでも隠れているというのか、それとも新たな飛行物か。推測ばかりでどれも確信には至らない。
いくつもの爆撃音の後、静まり返った部屋を見回す。パラパラと天井から破片が落ちて来たが、それ以外は今のところ問題はなさそうだ。
これくらいならば、我が騎士達に怪我はないだろう。あとはサーシス王国の兵士も無事ならば更に良いが。我が騎士が傍にさえいれば駆けつけてくれているだろう。…むしろ、城に侵攻しようとしていた敵兵が一番被害を被ったのではないかと思われる。
ティアラ様へ再び目を向ければ騎士達に囲まれながら頭を両手で抱え、俯いておられた。やはり爆弾の直撃は流石に怖かったのだろう。幸い、お怪我がなかったことに安堵しつつ、同時にこの場にステイル様が居られなくて良かったと思う。爆撃があったのは、ステイル様が別件でこの場から瞬間移動をされた後だった。被害がなかったとはいえ、出来る限りあの方々には危険な目に遭って欲しくはない。
「…プライド様は。」
不意に、先程この城から飛び降りたプライド様の安否が気にかかる。近衛騎士をお連れとはいえ、城の南方に向かっておられたあの御方に先程の投爆でもしお怪我でもあれば。
…そこまで考えた瞬間、肩が強張り、寒気と共に身体が凍りつくような感覚を覚えた。振り払うように一人首を振り、身体に纏った不安を打ち消す。
あの御方がこの程度のことで何かある訳がない。そう思い直し、城内の状況を衛兵に確認を取りながら考える。以前にもこうして、あの御方の安否に不安を掻き立てられたことがあった。確か、二年前の殲滅戦。あの時も確かこの程度の爆撃がいくつも降ってきた。結局その根源も判明しないままだったが、あまりにも今の投爆の威力と酷似している気がする。まさかあの時の一件とも何か関係がと私が考えを巡らせ始めた時だった。
「…っ、…嘘…‼︎…なんでっ…!」
震える声で、ティアラ様の悲鳴が響いた。
何かと思い、振り返れば周囲の騎士達がティアラ様に声を掛け、一体どうされたのかと伺っている。私も急ぎ駆け寄り、俯かれたその顔を覗き込んだ。身体を震わせ、頭を抱えるティアラ様のその顔面は蒼白だった。
「ティアラ様、どうかお気を確かに。私の声が聞こえますか?」
まさか恐怖のあまり体調を崩されたのかと、その肩にそっと触れる。すると返事の代わりにティアラ様が強い力で私の手を握り返してこられた。
思わず動きを止め、ティアラ様の様子を窺う。するとゆっくり、恐る恐るティアラ様が涙を浮かべた瞳で私へ顔を上げてこられた。「ジルベール宰相っ…」と小さく呟き、唇を震わせるティアラ様に嫌な予感がし、心臓が動悸し、身体中の血がざわついた。戸惑う私に、次の瞬間ティアラ様は声を上げた。
「今すぐ城の南棟の人達を避難させて下さいっ‼︎もうすぐそこはっ…崩落します…‼︎」
ティアラ様の悲鳴にも似た叫びに誰もが言葉を失った。
先程の爆撃、更には南方は敵兵の突破の為の爆撃の余波も受けていた。南棟からそう遠くない本陣すら天井からパキパキという歪な音が鳴っている現状から考えれば、その危険性は明らかだった。そして、目の前の御方は今。
何を。