837 クマさん、大猿と戦う その3
大猿は剣を離して、逃げるように下がる。
「もしかして、冷たいの嫌い?」
わたしは手に氷を纏わり付かせる。
それを見た大猿が後退りする。
前回、氷竜と戦った状況と反対になった。
氷竜のときは、わたしが氷に苦労した。
炎で氷竜に攻撃しても、あまりダメージを与えることはできなかった。
やっぱり、炎には氷が強い。
何より、科学が発展し、情報が多い異世界人のわたしのほうがイメージ力が高い。
猿がイメージする炎には限界がある。
「剣を離してよかったの?」
わたしから距離を取ろうとする大猿に尋ねる。
大猿の剣、元ゴブリンキングの剣を空いている左手で握る。
大きい。
ゲームでいろいろな武器を使ってきたけど、大剣は使ったことがない。
理由としてはキャラが魔法剣士だったこともあって、大剣は持てなかったからだ。
だから、武器は剣やナイフが主な武器だった。
片手で大剣を振り回して見る。
クマパペットだからできることだ。
「この武器、いらないの?」
言葉が通じないと分かっているけど、頭の良い猿だ。わたしの動作で伝わっているみたいだ。
大猿は睨むようにわたしを見るけど、近寄ってこない。
「いらないなら、もらうね」
そこらに放り投げることはしない。
わたしはゴブリンキングの剣をクマボックスに仕舞う。
あとで拾われて、使われても面倒だからね。
放り投げた剣や拳銃を拾われて、あとで後悔する物語のキャラじゃない。
ゴブリンキングの剣が消えると、大猿は怒りの表情を浮かべる。
自分の物を取られて怒っているみたいだ
あの剣は、ゴブリンキングの物でしょうと言いたい。
大猿は「キキキキィ」と大きな声をあげる。
すると滝の上にいた赤猿が降りてくる。
かなりの数を倒したから数は減っている。
そう思っていると、わたしの周囲の木々が揺れる。
赤猿が現れた。
いったい、何匹いるのよ。
確認するため、探知スキルを使う。
わたしの周囲にたくさんの赤猿の反応。
そして、少し離れた場所にくまゆる、くまきゅうと人の反応が3つ。
すぐに、その反応が誰なのか分かった。
マーネさんたちだ。
マーネさんたちを追っていった数匹の赤猿は無事に倒したみたいだ。
まあ、くまゆるとくまきゅうがいれば、あの程度の数は大丈夫だと思っていた。
でも、戻ってきたの?
逃げてと言ったのに。
『くまゆる、くまきゅう、後でお仕置きだよ』
頭の中でくまゆるとくまきゅうに伝える。
くまゆるとくまきゅうの悲しげな「「くぅ~ん」」と聞こえる気がした。
でも、わたしのことが心配で戻ってきてくれたんだと思う。
嬉しくもあるけど、危険なことはしてほしくない気持ちもある。
でも、ちゃんとマーネさんたちの反応を確認できると、安心する。
『連れて来たんなら、ちゃんとマーネさんたちを守るんだよ』
心の中で伝える。
連れて来たなら、守らないといけない。
まあ、どっちにしてもわたしが大猿を倒せば、全てが終わる。
大猿はゴブリンキングの剣はない。脅威にはならない。
「キキキキキキィ!」
大猿が奇声をあげると、周りにいた赤猿が襲いかかってくる。
わたしは赤猿の攻撃を躱し、攻撃をする間も大猿から視線を逸らさない。
大猿は赤猿に攻撃を仕掛けている隙を狙ってくるはず。
でも、わたしの考えと裏腹に大猿はゆっくりと歩き出し、ゴブリンキングの死体の前で止まる。
すると、ゴブリンキングを食べ始める。
見てて、気持ちいいものじゃない。
魔石といい、肉といい。食べてどうなるのよ。
そう思っていると、大猿の体内が光る。
魔力?
2つ光っているように見える。
もしかして、大猿の魔石とゴブリンキングの魔石?
ゴブリンキングを食べた大猿の腕周りが太くなり、体全体が一回り大きくなる。
超大猿。
強化した!?
ゴブリンキングの魔石が、ゴブリンキングの肉体を食べたことで、反応した?
理由は分からないけど、嫌な予感しかしない。
大猿がゴブリンキングの肉体を食べながら、わたしをニヤッと笑う。
わたしの直感がヤバいと言っている。
すぐに攻撃を仕掛けないとダメだ。
でも、それを邪魔するかのように赤猿が襲いかかってくる。
大猿は、ぴょんぴょんと準備運動するように跳びはねる。
来る! と思ったとき、大猿は地面に着地した瞬間、わたしに向かって跳ぶ。
ワンジャンプ。
たったそれだけで、一瞬で間合いが詰まる。
大猿の手が迫ってくる。
ギリギリで避ける。
もし、油断をしていたら、赤猿に一瞬でも気を取られていたら、避けられなかった。
赤猿を対処しながら後ろを振り向く。
大猿は着地と同時に体を捻って、わたしに再度向かって跳ぶ。
わたしは避ける。
大猿はその繰り返しを何度も繰り返す。
その隙間を狙って赤猿も襲ってくる。
赤猿が鬱陶しい。
次々と襲ってくる。
まずは確実に赤猿を倒して、数を減らす。
いくらなんでも無限湧きじゃないはずだ。
「鬱陶しい!」
氷の矢を放ち、横から襲ってくる赤猿に対処しようとしたとき、バランスを崩す。
やばい、と思った瞬間、すでに大猿がわたしに向けて跳んでいる。
避けられない。
そう思った瞬間に大猿に体を掴まれる。
逃げ出そうとする間もなく、掴まれた勢いで投げ飛ばされる。
わたしはボールが跳ねるように地面を何度も跳ねて、木にぶつかる。
クマ装備のおかげで痛くはないけど、頭がクラクラする。
わたしの電撃魔法と氷魔法を恐れたのか、すぐに投げ飛ばした。
わたしはふらつきながら立ち上がる。
大猿は立ち上がるわたしを見て、跳びながら拍手をする。
戦いを楽しんでいる。
ゴブリンキングの剣を取られたときは怒っていたのに、自分が優勢だと思うと小馬鹿にする。
ただ、ゴブリンキングの剣を持っていたときより、戦いにくい。
ゴブリンキングの剣を手放したことで、本来の大猿の戦い方をしている。
瞬発力を活かし、スピードを活かし、さらに腕力も持ち合わせている。
ゴブリンキングが可愛く思えてくる。
ゴブリンキングの剣をクマボックスの中に仕舞ったのは失敗だったかな。
ゴブリンキングの剣を出そうかと、バカなことを考えてしまう。
どっちにしても不利になれば剣を捨てる可能性だってある。
なら、現状の大猿を対処するしかない。
大猿は電撃魔法と氷魔法を嫌っているのか、わたしに触れさせない。
電撃と氷が有効なのは分かったけど、大猿の動きが速すぎて、飛ばしても当たらない。
……なら、接近戦で倒すしかないね。
わたしは両手にミスリルナイフを握る。
右手に柄が黒いくまゆるナイフ。左手に柄が白いくまきゅうナイフ。
わたしはゆっくりと大猿に向けて歩く。
大猿もゆっくりとわたしに向けて歩く。
お互いに徐々に歩く速度が速くなり、駆け出す。
大猿の長い腕がわたしを殴りかかってくる。
その拳には炎が纏っている。
わたしはミスリルナイフで応戦する。
大猿の拳はミスリルナイフさえも、耐える。
炎が拳を強化しているみたいだ。
右、左、右、左。
下からアッパーのような攻撃がくる。
女の子相手に、鬼畜な攻撃だ。
ゲーム時代に職業ボクサーとプレイヤーと戦ったことがある。
もちろん、ゲームにボクサーなんて職業はない。そのプレイヤーが勝手に名乗っているだけだ。
でも、手に特殊な武器を握って、ボクサーのように戦っていた。
会ったときは、剣や魔法に勝てるわけがないとバカにした。
遠距離攻撃なら、もちろん魔法が有利だ。
でも、接近戦は違った。
魔法なしの剣やナイフの戦いでは彼は強かった。
ボクサーという初めての動きに翻弄されて負けた。
あのときの戦った経験がなかったら避けられなかった。
わたしは避けたと同時にくまゆるナイフを横に振るう。
大猿の腕を掠る。
アッパーを避けるために、後ろに下がったことで、ナイフが届かなかった。
わたしはそのまま後ろに跳び、距離を取る。
大猿は腕から流れる小さい切り傷を舐める。
傷から流れていた血が止まる。
もう少しギリギリで躱していたら、腕の半分、三分の一は切ることができたのに。
大猿はニカっと笑うと、飛び込んでくる。
わたしと大猿の距離は一瞬で縮まる。
大猿の瞬発力は厄介だ。
でも、距離が縮まるってことは、わたしの攻撃範囲でもある。
大猿の大ぶりの腕を交わし、懐に入る。
これだけの至近距離なら大猿でも躱せない。
このまま大猿の体に向けてナイフを持つ右手を横に振ろうとした瞬間、わたしは横から衝撃を受ける。
殴られた?
わたしは地面を転がる。
何に攻撃をされたの?
わたしはすぐに立ち上がり、大猿に目を向ける。
尻尾?
大猿の尻尾が薙ぎ払うように大猿の体の前にあった。
油断した。
まさか、尻尾で攻撃してくるとは思わなかった。
猿は人間じゃない。
二足で移動し、剣を使い、大きな体を持った魔物と戦っていた気持ちになっていた。
ゴブリンキングの上位魔物。そのぐらいの認識だった。
猿は人やゴブリンキングと違って尻尾がある。
漫画でも尻尾で攻撃をしてくる猿はいた。
たくさんのゲームをやり、アニメや漫画を見てきたわたしが、そんなことを忘れていたなんて、情けない。
オタクを名乗れない。(名乗るつもりはないけど)
「いいわ。まず、その尻尾を切ってあげる」
わたしはミスリルナイフを大猿に向けて、宣言する。
その宣言すると、どこからとなく風が吹いてくる。
「…………了解」
大猿とわたしの攻防が始まる。
ときおり、赤猿が襲ってくる。
でも、赤猿の数は確実に減っている。
ゴブリンキングの魔石と肉体を食べた大猿は強くなっている。
力が強くなり、動きが速くなった。
でも、氷が苦手なのは変わりない。
大猿は冷気を纏ったミスリルナイフを嫌がり、距離を取りながら戦ってくる。
赤猿に攻撃させて、その隙を狙って襲ってくる。
ワンパターンだ。
何度も同じ攻撃をされれば、慣れてくる。
ゆらゆら揺れる大猿の尻尾が伸びてくる。
尻尾が攻撃をしてくると分かっていれば、恐くない。
伸びたミスリルナイフが大猿の尻尾を切る。
正確にはミスリルナイフの剣先を凍らせ、魔力で作った氷でナイフの長さを伸ばした。
研ぎすまれた氷の刃は大猿の尻尾を切った。
大猿が怒り、殴りかかってくる。
大猿の腕が伸びて、わたしのクマの服を掴もうとする。
何度も攻撃をされれば、腕の間合いも理解する。
ギリギリで躱し、冷気を纏ったくまゆるナイフを斬り上げる
大猿の右腕から血が出る。その血は凍る。
大猿は逆の腕で殴り掛かってくる。
斬り上げた右腕を、そのまま下げ、迫ってくる大猿の拳を斬る。
でも、大猿の拳は止まらない。
わたしはそれさえも躱す。
わたしの頭の横を大猿の拳が通る。
一歩踏み込み、左手に持つくまきゅうナイフで大猿の体を斬る。
大猿の動きは止まらない。
大きな体が前に迫ってくる。
今度は右手に持つくまゆるナイフを再度斬り上げる。
大猿の顔を斬る。
大猿は止まらない。
その瞬間、風が吹いたと思ったら、大猿の目に矢が刺さった。
大猿の動きが止まる。
ミスリルナイフに魔力を込める。
そして、大猿の首に横一閃に振る。
大猿の首から血が噴き出す。
大猿がもう片方の目でわたしを睨む。
でも、その目も矢が刺さる。
「もう、終わりだよ」
止めに心臓にミスリルナイフを突き刺す。
大猿の体は内部から凍っていく。
大猿は歯を食いしばり、腕を振り上げる。
その振り上げた腕は、振り下ろされることはなかった。
投稿が遅くなり、申し訳ありません。
コミカライズ関係の仕事や21巻のあとがきを書き忘れていたりしてました。
21巻の発売日はもう少しお待ちください。
コミカライズ外伝3巻12/20発売日予定です。
※ゴブリンキングの魔石はここで食べさせるべきでした。プロットでは、ゴブリンキングを魔石を食べてパワーアップしか決めていなかったので。書籍になるときに書き直したいですね。
※大猿のイメージがしにくいみたいで申し訳ありません。
作者的にはドラゴ◯ボールの大猿をイメージして書いていました。
大きさはそこまでではありませんが、ゴブリンキングより同等、一回り大きい感じです。
漫画やイラストがないので、もう少し分かりやすく書かないとダメですね。文章だけで作者がイメージする大猿を表現できないのは作者の実力不足ですね。
※投稿日は4日ごとにさせていただきます。
※休みをいただく場合はあとがきに、急遽、投稿ができない場合は活動報告やX(旧Twitter)で連絡させていただきます。
※PASH UPにて「くまクマ熊ベアー」コミカライズ127話(10/9)公開中(ニコニコ漫画122話公開中)
※PASH UPにて「くまクマ熊ベアー」外伝20話(9/25)公開中(ニコニコ漫画16話公開中)
お時間がありましたら、コミカライズもよろしくお願いします。
【くまクマ熊ベアー発売予定】
書籍20.5巻 2024年5月2日発売しました。(次巻、21巻予定、作業中)
コミカライズ12巻 2024年8月3日に発売しました。(次巻、13巻発売日未定)
コミカライズ外伝 2巻 2024年3月5日発売しました。(次巻、3巻12/20発売日予定)
文庫版11巻 2024年10月4日発売しました。(表紙のユナとシュリのBIGアクリルスタンドプレゼントキャンペーン応募締め切り2025年1月20日、抽選で20名様にプレゼント)(次巻、12巻発売日未定)
※誤字を報告をしてくださっている皆様、いつも、ありがとうございます。
一部の漢字の修正については、書籍に合わせさせていただいていますので、修正していないところがありますが、ご了承ください。