閉じる
134/297
第三章
134 四人での夕食

「ふぃー、遊んだ遊んだー」


 数時間も遊べば高校生と言えど流石に少しばかり疲れてきて、四人でベンチに座って休む事になった。


 借りてきたボールでバレーをしたり千歳に押されて真昼が小さめのウォータースライダーを体験したりと真昼には刺激的な体験になっただろう。

 隣に座る真昼はすっきりとした顔ながらもやや疲弊しているのか、周に軽くもたれている。


「楽しかったですね。こんなに遊んだのは久し振りです」

「ん、俺もこんな体使うのは久し振り」

「周は体育祭も必要以上に出場しなかったからなあ。いい運動になったろ」


 運動音痴という訳ではないが得意でもない周はこうして全身を使うのはあまりない。体育の授業も真面目に受けてはいるが、ここまで気持ちよく体を動かせはしない。


「途中から周真面目に泳いだりしてたよね」

「いやプールは泳ぐところだし……たまにはいいかな、と」

「その間まひるんが周の事見てたよ」

「え、ご、ごめんな真昼」


 千歳と仲良く遊んでいたので周も軽く泳いで楽しんでいたのだが、真昼を待たせてしまっていたのかもしれない。

 ただ、真昼はふるふると首を振る。


「そ、そういう訳ではないのですけど……いいなって」


 何がいいな、なのかは少し考えれば分かった。

 真昼は泳げないので、普通に泳げる周が羨ましかったのだろう。


 ただ、千歳や樹の居る前で泳げないという事について言及する訳にもいかないので、そっと苦笑だけして頭を撫でておく。

 また機会があれば、今度は泳ぐ練習をするのもいいかもしれない。


「またプール一緒に行こうな」

「は、はい」

「え、なにー? まひるんの黒ビキニ見たいって?」

「あほか。それは流石に他人に見せたくない」

「二人きりなら鑑賞する癖に」

「それは……彼氏権限だろ」


 他人に真昼の黒ビキニを見せるなんて考えたくもない。今ですら周のラッシュガードで隠しているし、なんなら水着用のショートパンツもはかせたいくらいなのだ。


「だってまひるん。見せてあげないの?」

「ですから応相談ですっ」


 そっぽを向いた真昼に小さく笑って、もう一度ぽんと頭を軽く撫でた。




 レジャー施設を揃って出た周達は、少し早いがファミリーレストランにやってきていた。

 十八時前なので夕食にはやや早いかもしれないが、泳いだり遊んだりして体力を使ったしお腹も減っていたので丁度よかったのかもしれない。


 真昼はファミリーレストランにくる機会がなく、ちょっとそわそわしていた。その様子が可愛くてつい笑ったら千歳達に見えない角度からぺしぺしとはたかれたので、笑みは収めるのだが。


「そういえば、まひるんって夏休み周の実家に行くんだよね」


 注文したハンバーグを切りながら、千歳が問う。

 千歳と遊ぶ日程を組むために真昼も周と一緒に周の実家に行く事を伝えたのだろうが、やはりにやにやした顔を向けられた。


「あれだね、顔合わせに行くみたいな感じだね」

「残念ながら既に真昼はうちの両親と会ってるから」

「そうなんだー。……なんか最早旦那の帰省についていく奥さんみたいだね」

「好きに言ってろ」


 まだ結婚はおろか婚約もしていないのに何を言っているんだ、とは思ったものの、普通高校生同士の恋人で両親に会いに行く行動は起こさないので、否定しきれない。


 あっさりと流して頼んだ和風定食のだし巻きを口にした周に、千歳はからかえなくて残念そうな表情を浮かべている。

 それは無視しつつ口にしただし巻き卵を咀嚼するものの、なんというか物足りない。真昼のと違って大味な味付けなので、美味しいと言い切るのには足りない味だ。


 やっぱり真昼の料理が一番だ、と一人で納得した周がちらりと真昼を見れば、ほんのり恥ずかしそうにしている。

 どうやら妻のくだりに照れたらしい。


「椎名さんが周の実家にか……それはさぞ志保子さん喜びそうだな」

「赤澤さんは志保子さんと面識が?」

「いいや、聞いた感じだけど……こう、周のたとえでよく分かった」

「うちの母さんは濃いからな……他人とは思えない感じだろ」


 話だけですぐ樹も志保子が千歳に似ていると判断したらしい。千歳が志保子と会えばさぞ親近感が湧くだろう。


「え、なになにー?」

「んー、ちぃは可愛いなあって話」


 さりげなく誤魔化しつつ褒めた樹に、千歳は「いっくんってばー」とご満悦の様子だった。


「あ、そうだ周。帰省する日が決まったら早めに言ってね。行く前にまひるんと遊びたいし」

「はいはい。多分帰省は八月に入ってだからそれまでに行っとけよ。……あと、課題もやっとけ」

「なんでお母さんみたいな事言うかなー」

「お前去年『課題が終わらないー!』って騒いでただろうが……」


 千歳は課題は後で一気にやるタイプらしく、夏休みが終わりかけているくらいの時に慌ててやり出していた。

 周は先に済ませてあとは日々の自習で振り返るタイプ、樹はなんだかんだコツコツとこなしていくタイプなので、二人で千歳の課題を手伝う羽目になったのだ。


 今年も周は既に終わらせているし、真昼も同様に課題を片付けてあとは一緒に自習したりしている。


「だって、やりたくないし……はっ、今年は大天使に教えてもらうという手段が」

「教えるのはいいですけど、次に大天使って呼んだら断りますからね」

「やん厳しい。でも素っ気ないまひるんもすきっ」


 何だかんだ千歳とも軽いやり取りが出来るようになった真昼に微笑ましさを覚えつつ、冷めない内にご飯を口に運ぶ。

 どうしても外食で物足りなくなってしまうのは、真昼の料理が馴染みきったせいだろう。


「真昼、明日だし巻き食べたい」


 隣の真昼に小さな声で告げると、真昼の視線が周の前に置かれたトレイに移る。


「今食べてませんか」

「これじゃ駄目だ。なんか、パッとしないっつーか。真昼のが一番だから」

「ふふ、仕方ない人ですね。じゃあ朝ご飯に作るついでに起こしてあげますからね」

「ん」


 夏休みという事であまり早い時間には起きなくなったので、真昼が起こしてくれるならありがたい。

 寝起きに真昼の顔を見るのは心臓に悪そうなのだが、抜群の目覚ましなのは間違いないだろう。


 明日の朝ご飯が楽しみだ、と一人上機嫌になった周に、樹が呆れたような眼差しを向ける。


「最早同棲カップル……」

「うるせえ」


 まだ半同棲だ、とは言わず、少し冷めた味噌汁を静かに飲んだ。

レビューいただきました、ありがとうございます(*´꒳`*)

これでプールはおしまいです。そのうち帰省します。むしろ帰省してからがいちゃらぶの本番。

ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
いいねで応援
受付停止中
ポイントを入れて作者を応援しましょう!
評価をするにはログインしてください。
※感想を書く場合はログインしてください
▲ページの上部へ
『お隣の天使様にいつの間にか駄目人間にされていた件5』 7月15日頃発売です!
表紙絵
X(旧Twitter)・LINEで送る
Twitter LINEで送る
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はパソコン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
作品の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。

作者マイページ
誤字報告
▲ページの上部へ