ニンジャヘッズ・ウィズ・タイマニン   作:Schuld

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R子=サンが人気すぎてびっくりしたので更新です。


ニンジャヘッズ・ウィズ・タイマニン・ブランクピリオド22

 このポンコツは信じやすくもあるのかと、事の次第を説明した藤木戸は少し呆れた。

 

 いくら井河の本流であり、アサギに何かあった時は舵取りをすることになる立場のさくらもいるとはいえ、もうちょっと疑うことを覚えた方が良いと思うのだ。

 

 まぁ、いわゆる頭の良いバカという部類の存在なのであろう。成績優秀、学業に秀でた人間が現場でも活躍できるのかといえば、必ずしも是ではないのと同じだ。

 

 そして、なまじっか冷静沈着にして堂々とした態度と相まって、非情に〝頭がよく見える〟というのが、時に破滅的な事態を引き起こすことになるのだから、矯正がどこかで必要になってくるであろう。

 

 「そんなことがあったなんて……それに、長老衆がこんな汚いことを……」

 

 義憤に駆られて拳を握るのは結構だが、この凜子とやら、かなり脊髄反射的に動いておるまいなと藤木戸は勘ぐった。

 

 このままだと娼館に重要ターゲットがいるからといって、奴隷娼婦として潜入任務とかをしかねない。そうなると体に何かしらの細工をされた上、激しく前後されてしまうことは必定。

 

 如何に残念とはいえ、サスガに五車の後輩でもある彼女を、このまま半端な脳筋として帰すのは拙いかと思い、彼は幾つかインストラクションを付けて返すことにした。

 

 「さて、リンコ=サン」

 

 「はい」

 

 物の考え方や思考方式は簡単に修正できぬ。であるならばだ。

 

 「まず、オヌシは要らぬ知恵を捨てよ」

 

 「は?」

 

 脳筋であるのならば、レッドゴリラ=サン式に、徹底的に脳筋にしてしまった方がずっといい。

 

 どこかの剣豪は、かのサツマ・ハヤト・シャウトのチェストを知恵捨てと解釈したようだが、凜子は正に、そのチェストが最適解といえる性能をしていた。

 

 難しいことを考えるより、自分の性能でゴリ押しした方が早いのならば、そうした方が良い。藤木戸がデオチめいたエントリーをせず、正々堂々討って出ることがあるように、真正面から叩き潰した方が素早く、かつ簡単に終わる案件というのは世の中に幾らでもあるものだ。

 

 結局のところ、搦め手も卑怯も暴に対抗できないから用意されるのであって、それ以上の暴を叩き付ければ全てが無意味になるのだ。

 

 であるならば、優れた暴力の持ち主は、ひたすらに暴力を先鋭化させたほうが、下手なゼネラリストよりも光り輝く。

 

 「では手始めに、実戦想定のインストラクションといこう。俺は護衛、サクラ=サンがとても重要な情報を握っているパッケージだとしよう」

 

 「はい」

 

 「掛かって来い。安心しろ、本身であろうが斬られはせん」

 

 掌を上に向けて、ちょいちょいと挑発するように振った藤木戸に、凜子はサスガに甘く見られていることにプライドが傷付けられたのだろう。

 

 彼女固有の領域にまで高まったクウトン・ジツを用い、目の前に一瞬で瞬間移動。さくらが持ってきてくれていた、自らの愛剣、〝石切兼光〟をイアイで抜こうとしたが……。

 

 「イヤーッ!!」

 

 「なっ!?」

 

 出現位置をニンジャソウル、もとい対魔粒子の流れから読んだ藤木戸は、後の先を完全に取っていた! タツジンと呼んで良いイアイドの持ち主であろうと、抜かせなければ意味がない。彼は抜き放たれる刹那、カタナの柄頭に掌底を叩き込んで強引に納刀させたのである!! ゴウランガ!!

 

 「イヤーッ!!」

 

 「くっ!!」

 

 そのまま藤木戸は左手の手刀を振るって首を狙う! 凜子は首を傾けて辛うじて回避に成功するが、体幹が崩れる瞬間を藤木戸が見逃すはずもなし! そのまま足払いをかけて凜子を地面に転がした!!

 

 そして、首を軽々へし折れるストンプが振り下ろされる刹那……凜子の姿がかき消え、タタミ十枚分先に現れたではないか。

 

 薄紙一枚、加減して足を踏み降ろした藤木戸は、やはりカラテのセンスはあると感心した。

 

 あの一瞬で離脱せねば殺されると判断し、クウトン・ジツでその場を離れることを選んだのだから。

 

 しかし、まだ甘い。

 

 「ぐぅ!?」

 

 瞬間移動の直後、彼女の額を凄まじい衝撃が襲った。

 

 多分、この辺に逃げるだろうなと先読みして飛ばした訓練用の硬質スポンジスリケンが、位置を読んで置くように投擲されており、出現と同時に美事に喰らったのである! これが本物のスリケンであったなら、彼女の頭部はスイカめいて爆発四散していたであろう。

 

 「サクラ=サン、今のに何点付ける?」

 

 「あー……まぁ、四十点?」

 

 「くぅ……」

 

 軽い脳震盪に襲われている凜子に中々屈辱的な点数が突きつけられた。

 

 「いい凜子ちゃん」

 

 さくらは指を一本立てながら、仰向けに倒れている彼女の隣にしゃがみ込んで淡々と告げる。

 

 「減点理由一、けんにぃの安易な挑発に簡単に乗った」

 

 「で、ですが中隊長……」

 

 「減点理由二、そもそもの目的って何?」

 

 「……あ」

 

 言われて、凜子はようやっと藤木戸が提示した課題の真意を思い出した。

 

 今回の仮想戦闘はパッケージの奪取重点。重要な情報を握っているさくらを捕まえるのが第一目標であって、護衛である藤木戸を撃破できるかどうかは然したる問題ではない。

 

 追撃される可能性を考えれば掃除しておくことに越したことはないが、そもそも護衛というのは邪魔な壁というだけで、本質的に殺しておく必要はない。藤木戸がオークや傭兵を殺すのは、邪悪な雇い主に小銭で傭われる連中を捨て置けば、また別の悪徳に関与するであろうから〝もののついで〟にスレイしているだけであって、第一目標ではないのだ。

 

 「まぁ、まず狙うなら私じゃないとダメだよね。第一目標は、私の確保なんだし。特に凜子ちゃんはクウトン・ジツが使えるんだからさ」

 

 「で、ですが、それは卑怯ではありませんか?」

 

 「オヌシは何を言っている。正々堂々戦ってイヌジニするのと、狡かろうと目的を達し、仲間全体に寄与する。どちらが大きいかは明白であろう」

 

 「うう……」

 

 言われてみればそうだと凜子は納得した。ジッサイ、確かに藤木戸は明言していた。今回のインストラクション・バトルでは、さくらは重要情報を握った人物であると。

 

 つまり、勝利条件はパッケージを確保して、生かしたまま逃げおおせることなのだ。そこに護衛の排除は必要ない。

 

 藤木戸のようにカラテで邪魔な障害を排除して標的を確保するしかないニンジャと違って、凜子には幾らでもやりようがあったのだから。

 

 それこそ、藤木戸を翻弄してさくらの護りを甘くさせた後、彼女をクウトン・ジツで拉致してしまえばゲームセット。一瞬で1kmほど瞬間移動できるのならば、追跡にも時間がかかるし、それだけで彼女の戦略目標は達成される。

 

 「減点理由三、退避の仕方が甘い。完全に敵の射程から出ないと仕切り直しにならないよ。けんにぃの戦法は事前情報渡したでしょ? それこそ、私の後ろに飛ぶとかさ」

 

 「はい……」

 

 「と、いうことでそれぞれ二十点ずつさっ引いて四十点。赤点補習でーす」

 

 「うう……」

 

 「だが、カラテは美事だった」

 

 欠点、優等生にして学業優秀、満点であるのが当たり前の凜子にはかなり精神的に来る評価であったが、そこで藤木戸がすかさずフォローに入る。

 

 「正直、オヌシのジツは凄まじいという言葉では足りん。俺も事前に知っていなければ、対応できたかどうか微妙なところだ」

 

 「え? けんにぃ、マジで?」

 

 「初撃は読み切れなかっただろう。ブリッジ回避して護衛対象から離れる必要性があったやもしれん。完全な初見殺しだ」

 

 事実、藤木戸がイアイドを読み切って後の先をとれたのは、クウトン・ジツが如何なる術理であるか知っていたからに他ならない。然もなくば、ああも完璧に初動を潰して反撃することは適わなかったであろう。

 

 それこそ、知らない人間であればイアイドを構えてクウトン・ジツを使って背後に出現するだけで、対手は何が起こったか理解できぬまま死ぬ。それ程に理不尽に強力なジツなのだ。

 

 そこに正しく磨き上げたカラテが乗っているのだから、戦闘力だけで見れば非の打ち所がない。

 

 「故にリンコ=サン、オヌシは知恵を捨てよ。余計なことを考えず、目的を見据えた上でカラテすればよい。ノーカラテ・ノーニンジャだ」

 

 「空手……? いや、私のは逸刀流……」

 

 「カラテだ。ひたすらにカラテで攻め、相手の目がカラテに依りきった刹那にクウトン・ジツを使うのだ。余計な知恵は要らぬ。自らの強みをただただ強引に押しつけよ。そして、目的を果たすのだ」

 

 困惑する凜子に、大分ニューロンをカラテに侵されているさくらでも、一応藤木戸がいうカラテとは白兵戦闘全般のことであると補足するだけの理性は残っていた。

 

 「いいかリンコ=サン、オヌシは難しいことを考える必要はないのだ」

 

 「難しくことを考える……」

 

 「インストラクションを授けよう。シンプルなことはシンプルなままの方が良い。そして何事も暴力で解決するのが一番だ。最終的に全員殺せば良いのだからな。オヌシにはそれができる力がある。ただそれを磨けばよい」

 

 「何事も暴力で……殺すのは最終的に……」

 

 レッドゴリラ=サンもニンジャスレイヤー=サンもよいインストラクションを授けてくれる。基本的に対魔忍なんぞ斬った張ったしてナンボの商売なのであるから、最後に物を言うのは個人が持っている暴の力だ。

 

 そして、後先は別にして殺せるヤツから殺していって最終的に全員殺せば帳尻も合う。

 

 これ以上凜子の性格と性能に見合ったインストラクションは早々あるまい。

 

 「あ、ああああ……脳筋が、更に酷い脳筋に……」

 

 そして、さくらは頭を抱えた。

 

 姉から「ちょっと何とかしてこい」と頼まれてヨミハラに派遣したのに、より重症になって帰ってきたとあったら、どれだけ小言を言われるか分からない。

 

 これほど諜報にも戦闘にも向いている人員が、よもや正面からカチコミするキリングマシーンにされてしまうとは思ってもいなかったのだ。

 

 しかし、凜子は学業に秀でる、つまるところ〝言われたことを言われた通りにやる〟能力には秀でているのだから、ジッサイ、テッポダマをやるのが一番であると藤木戸は見抜いていたのである。

 

 そして、そういった頭の固い人間に作戦を立案させては、碌なことにならない。諜報任務という言葉を文字通り受け取って、暗黒退廃施設に後輩諸共奴隷娼婦として潜入されてからでは遅いのだ。

 

 ならばいっそ、カチコミ専用要員にしてしまった方がいいのだ。

 

 「よいかリンコ=サン、知恵捨てだ。チェストと叫んで斬れば、世の中の大体の問題はするりと片付き申す」

 

 「……はい、分かりました!!」

 

 「ああああああ、お姉ちゃんに怒られる! これ絶対怒られる!!」

 

 「では今回のイクサでの最適解はなんだ」

 

 「はい! まず空遁の術で中隊長を拉致した後、藤木戸さんが追ってきたら殺す! ですね!」

 

 「そういうことだ!! 補習は完了とする!!」

 

 斯くして、四十点の下手な考えから、百点満点の暴力の塊が生まれることとなり、どうしてこうなったと井河姉妹が揃って頭を抱えることになるのは、また別のお話…………。

 

 




コンバンワ!!
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