11月8日(金)の深夜、「アムステルダムでサッカーファンが暴徒化してイスラエル人が襲われた」的な話が流れてきた。まるでアムステルダムでユダヤ人標的のテロ計画でもあったかのような書きぶりの記事もあったが、何があったのか、具体的に中身を見てみたら、そういう話ではなかった。
もはや「フェイクニュース」などということばを誰も使わなくなった今、こういうことが白日のもとで起きている。しかも「欧米」が主導している。日本で盛り上がる「背後にロシアの影」云々のたわごとすらも出る状況にない。
唖然とするよりない。
以下、とても長い。あと、今回は英文法解説もある。
■目次■
- イスラエルの軍事攻撃で標的とされているガザ地区のスポーツ
- UEFAもFIFAもIOCも、ガザ地区でアスリートが殺害されていることはスルーしている
- アムステルダムでのフーリガン暴動
- 主流メディアのていたらく
- 以下、投げ銭欄(いつもありがとうございます)
イスラエルの軍事攻撃で標的とされているガザ地区のスポーツ
日々、私が見ているTwitter/Xの画面(思いついたときにスクリーン・レコーディングを取って、YouTubeに上げてある)には、ガザ地区からの報告が、大量に、直接流れてきている。それらの中には、フットボーラー(サッカー選手)がイスラエルの攻撃によって殺されたという報告も少なくない。
それは最近になって見られるようになった傾向ではなく、もう1年も前から(今般のガザ・ジェノサイドが始まってすぐに)報告されていることだ。中には、イスラエルからの電話で自分が殺害されることを知り、爆撃の音が迫るなか、自宅で辞世のメッセージを録画してネットにアップしたあとに爆殺されたフットボーラーもいる。通算得点114点で「ハンユニスのレジェンド」と称されたモハンメド・バラカトさんだ。欧州で活躍するサッカー専門のジャーナリスト、レイラ・ハメドさんのツイートより。
最近の報告には次のようなものがある。発言主のアブバクル・アベドさんは見事な英語を使う若きスポーツジャーナリストで、今もガザ地区から日々報告を上げている。今般のジェノサイドで、戦場に行かなくても自分のいる場所が攻撃にさらされるという状況下で思いがけず「戦場記者」みたいなことをやるようになっているが、スポーツが専門のジャーナリストである。
突然だが、たまには当ブログらしく英文法の解説も入れておこう。上記ツイートは時制に注目だ。《現在完了》と《過去》と《現在》の使い方のお手本のような文章である。
Israel has killed at least 2 footballers from every club in Gaza. Some teams lost more than 5.
Ittihad Khan Younis is a top team in Gaza's Premier League- occasionally placed second or first.
Last July, Israel killed their renowned GK in Al-Mwasi Massacre, Shadi Abu-Al-Arraj.
最初の現在完了は「これまでに~してきた/した」の意味で、「イスラエルは、ガザ地区のクラブひとつごとに、少なくとも2人のフットボーラーを、これまでに殺している」という文意。次の過去形は、文脈的には最初の文と同じ現在完了でもよいのだろうが(「これまでに~している」の意味で)、過去形で《確定している過去の事実(出来事)》を表している。「5人以上を喪ったチームもある」。
次の現在形は《現在の事実》、というか《普遍的事実》。現在存在するクラブについての説明で「イティハド・ハンユニスはガザのプレミアリーグでトップクラスのチームである」。これを過去形で書いてしまうと、このクラブはもう存在しなくなっている(「フリューゲルスはとても強いチームだった」など。))か、トップレベルから落ちてしまっているか*1のどちらかということになる。そのあとにハイフン(ダッシュの代用)をはさんで説明があるように、リーグ1位か2位が定位置というクラブだそうだ。
その強豪クラブのゴールキーパーが、7月の「アル=マワシの殺戮」(ハンユニスの街を追われた人々が西部の砂地、アル=マワシ地区に設営していたテント村がイスラエルの空爆の標的とされた)で殺された、というのが、最後の文の過去形である。《過去の事実》なので過去形だ。
アブバクル・アベドさんの報告からもうひとつ。
「イティハド・ハンユニスのミッドフィールダーで、2003年生まれのイマド・アブー・ティマ選手が、家族のうち9人ともども、今朝、イスラエルによってハンユニス東部で行われた空爆により、命を奪われた。同選手は2021年にパレスチナのU20代表入りしている。これまで、ガザ地区で殺害されたフットボーラーは320人になる」
「イスラエルが、ラシード・アル=ネメス選手を殺害した。カダムト・ラファの生え抜きプレイヤーである。同選手が家族と暮らすハンユニスの自宅が標的とされ、一家全員が殲滅された。同選手は31歳。ガザ地区のプレミアリーグのタイトルを2度獲得し、2019年にはパレスチナ・カップでも優勝している」
このツイートには英文法の間違い・タイポがあって、アベドさん自身が律儀にそれを訂正している。
「現在完了のhas wonではなく、過去形のwonと書くべきだった」、「blood dayとあるのはbloody dayの間違い」という2点の訂正だ。
「ガザ・ヒラル・クラブのバレーボール選手、モハンメド・アブー・アシ選手が、今日、ガザ(市)へのイスラエルの空爆で命を奪われた。これにより、ガザ地区で殺されたアスリートの数は少なくとも498人となった。うち330人以上がフットボーラーである」
「シャバブ・ジャバリヤのMF, ワヒーブ・オウダ選手が、今日、ジャバリヤ難民キャンプへの攻撃で殺された。これにより、現時点で、イスラエルは500人のアスリートを殺したことにある。うち331人がフットボーラーである。わずか2日前には、オウダ選手と同じチームに属するモスタファ・シャヒン選手が殺されている。この10月は、ガザ地区のスポーツにとって最も死者の多い月となっている」
……こんな報告がずっと続いているアベドさんのログを振り返って読んでいると、それだけで終わってしまうので、先に行こう。
UEFAもFIFAもIOCも、ガザ地区でアスリートが殺害されていることはスルーしている
ウクライナを侵略したロシアは即座に制裁対象とした国際スポーツ団体も、ガザ地区でこれほどの殺戮が行われていることはスルーしている。今年、2024年に行われたサッカーの欧州選手権(EURO)でもオリンピック&パラリンピックでも、ガザでの殺戮などまるで起きていないかのようだった。
一応、「欧米」とひとくくりにされるところでも、このいわゆる「二重基準」への疑問は呈されている。下記は米国のThe Nationという媒体の2024年1月10日付記事。パレスチナのサッカー・オリンピック代表チームのコーチだった*2ハニ・アル=マスダルさんが空爆で殺されたあとの論説で、IOCに疑問をつきつけている。
このような文脈があるところに、2024年11月8日に流れてきたのが、アムステルダムでの騒乱のニュースである。
アムステルダムでのフーリガン暴動
マッカビ・テルアビブFC
イスラエルに、マッカビ・テルアビブFCというクラブがある*3。20世紀初めに設立されたクラブで、現代では国内で強豪だ。「マッカビ」は聖書に由来があるという名詞で、ざっくりいえばヘブライ語で「建国の戦士たち」といった意味だそうだ。こういった「もののふ」的な名詞がスポーツチームの名称に採用されることはありふれているが、現在のイスラエルの場合、自分らが先祖代々住んでいた土地に建国したわけではなく、19世紀以降他人の暮らしてきた土地に(「先祖が住んでいた」と言って)入植して無理やり建国したわけで、「戦士」っていうか「たけだけしい盗人」なのではとすら思うが、それはさておき。
イスラエルのクラブでは、ベイタル・エルサレムFCというクラブがフーリガニズムで知られているが(ここは設立の経緯からしてそっち系である)、マッカビ・テルアビブFCもお行儀のよさで知られているようなクラブではない。
そのマッカビ・テルアビブFCが、UEFAの各国リーグ所属のチームが競う国際大会、欧州リーグ(欧州チャンピオンリーグの1つ下で、国内リーグのトップ集団の次につけるクラブが集まる大会)に出場し、オランダのアヤックスとの試合でアムステルダムに行ったときに*4、騒ぎは起きた。
っていうかAmsterdamというキーワード周りで何かざわざわしてんなとは思ってたんだけど、別な作業をしていたのでしばらくは中身は見ず、最初に見たのが英Sky Newsのフィードだった。
なお、私が知ったのは8日の深夜だったが、ことが起きたのは現地で7日のこと。日本時間だと8日の午前中だ。それから12時間くらいして私の見る画面にまで届いたニュースなので、私が目にしたときにはもう誤情報やら何やらでめちゃくちゃになったあとだっただろう。
襲い掛かっているのはテルアビブから来たフーリガンたち
Sky Newsのフィードの文面を直訳しておくと、「イスラエルのサッカーファンが標的とされた『暴力的な事案』のさなか、アムステルダムにおいて、罵り言葉を叫んだり、反アラブのスローガンを唱和したりしている群衆の映像が、出現した」。
映像では、街角の建物に掲げられている旗を、だれかが建物のひさしによじ登って除去しており、大騒ぎする群衆が取り囲んでいる。
「イスラエルのサッカーファンが標的とされた」のなら、建物の中にいるのが「イスラエルのサッカーファン」と考えるのが自然だが、実際にはそうではなく、建物の中にいるのはアムステルダムの住民で、よじ登って旗を奪い取っているのが「イスラエルのサッカーファン」である。
というか正確には、このSky Newsのフィードは、下記のツイートで知った。
Dozens of Maccabi supporters also ganged up on and beat down a Dutch man, which is completely absent from reporting on last night’s events.pic.twitter.com/Oi85PmDp0g https://t.co/VwAqj7z1Nw
— Naks Bilal (@NaksBilal) 2024年11月8日
ナクス・ビラルさん(国際人道法の研究者)が投稿している映像は、「何十人というマッカビのサポが、ひとりのオランダ人男性を囲んで殴り倒している」様子で、それは「昨晩の出来事の(欧州での)報道では触れられてもいない」という。
「暴動になっちゃったんだから、どっちもどっち的な局面でしょ」と思われるかもしれない。でもそういう「冷静さ」みたいなの、というか「冷笑」は、私も持ってるんだけど(「よくあるフーリガン暴動でしょ」的な)、かつて「フェイクニュース」と呼ばれていたものが普通のニュースになってしまったこの現代世界では、役に立たないどころか害をなしうる。
っていうか、ビラルさんが投稿しているこの映像について、イスラエルからデマが流されたんっすね。
イスラエル側の公式バッジつきアカウントが「ユダヤ人が追いかけられている映像」と述べたものについて、「撮影主ですが、あなたの言ってるのはデマです。マッカビのサポの集団が喧嘩を始めて、オランダ人を殴っている映像です」とリプライ。
これでもイスラエル側の言い分の方が「真実」として通ってしまうのが、現在の世界ですよ。おそろしいおそろしい。
そもそもなぜこんな騒動が起きているのか
上記の映像を見ただけで個人的にはうんざりしてしまったのだが(よくあるフーリガン暴動をイスラエルのクラブのフーリガンが起こしているのに、なぜかイスラエルのクラブのフーリガンが被害者ということにされている)、その前に日本語圏でフィードを見た日本語の報道がおかしかったので、私が何もしないでいても勝手に流れてきてくれる関連のフィードをリツイートして翻訳もしておいた*5。
日本語で見たフィード:
オランダでアラブ系の若者が暴徒化、イスラエル人のサッカーファン襲撃…試合終わるのを待ち伏せか : 読売新聞
オランダでサッカー試合後、イスラエル人狙った暴動 62人逮捕 | 毎日新聞
「暴徒化」「待ち伏せ」「イスラエル人狙った」と、ろくに根拠もないことを断言して見せているコタツ記事である。ちなみにどちらもオランダからの発信ではない。イスラエル側の発表を事実と信じ込んでみせているだけでお仕事になるのなら、楽でいいですねとしか思えないが、そういう記事なのだろう。しかも、エルサレム・ポストという大手メディアが報じていること(後述)を把握もせずに記事を書いてるようで、どちらの新聞も「アラブの春」のときはこんなじゃなかったですよね。
様子を見ていたJohn Pさんが映像などをまとめているスレッドの日本語訳
以下、サッカー界隈で回覧されていたのだが、Twitter/Xで様子をフォローしていたJohn Pさんが、流れてきたフィードをまとめてくれているスレッドである(Threadreaderで読むと読みやすいかも)。私もTwitter/Xでスレッドごと翻訳リツイートしたが、その内容をこちらにコピペしておく。
「アムステルダムでイスラエル人たちに何が起きたか……
イのメディアはユダヤ人にとって新たなカタストロフィーが起きたと考えている。
しかし、広く周知されるべき出来事があったのだ。
下記、取り急ぎスレッドにしておこう」
「1. アムステルダムでは、欧州リーグの試合でイスラエルのマッカビ・テルアビブとオランダのアヤックスが対戦した。試合ではスペインのバレンシア地方での洪水の犠牲者のため1分間の黙祷が行われたが、マッカビのファンの一部と選手の1人がこれを拒否」
※スペインはパレスチナ国家を承認したことで、イスラエルから敵視されるようになっている。当該の災害(洪水)に際しては、イスラエル国内から、「天罰だ」という声が上がっていたと、Twitter/Xで、英語を使うイスラエル人によってヘブライ語から英語への翻訳で伝えられているのを私は何度か見ている。
「2. アムステルダムで、マッカビ・テルアビブのファンの集団が、警察に警護された状態で、反アラブのスローガンを唱和し、パレスチナ旗に襲い掛かった」
3
— John P (@Johnpatrick500) 2024年11月8日
🔴 Local residents responded, and some Israelis were attacked, resulting in injuries to 10 people. There are also missing Jewish individuals, with Israeli media reporting them as possibly abducted. pic.twitter.com/xDAcbAWExg
「3. それに地元の住民たちが反応し、イスラエル人の一部が襲われて、結果、10人が負傷した。連絡がつかなくなったユダヤ人も何人かいて、これをイスラエルのメディアが拉致された可能性があると報じた」
※下記、映像が「センシティブ」判定になっててツイートが埋め込めなくなっているので画像で。別に変な映像じゃないよ。ロングショットで、1人に襲い掛かる暴徒集団をとらえた映像。襲われているのはオランダ人で、襲っているのはマッカビのサポ集団だというさっき見た映像です。
4 🔴 The Israeli government announced plans to evacuate those affected and called on the Dutch government to protect Israelis.
「4. イスラエル政府は、事態に影響を受けた人々(イスラエル人)を退避させる計画をアナウンスし、オランダ政府に対しイスラエル人を保護するよう要請した」
「5. アムステルダムにいたイスラエル人の一人の身元が明らかにされた。イスラエル軍の現役兵士である」
6
— John P (@Johnpatrick500) 2024年11月8日
🔴 The local residents reacted angrily toward the provocative Israelis. pic.twitter.com/QwxBWjGa0X
「6. 地元住民らが、挑発的言動をとるイスラエル人らに対し、怒りをもって反応した」
※次もスクショで。
7🔴 Maccabi Tel Aviv supporters were pursued, and the Dutch police failed to contain the situation.
「7. マッカビ・テルアビブのファンは追いかけられ、オランダ警察は事態を収拾できなかった」
「8. 英紙デイリー・メイル(訳注: 通常、イスラエルというかシオニズムに親和的なタブロイド版型の新聞である)が、アムステルダムの特派員らを通じて、イスラエル人のファンを挑発行為について批判し、事態はイスラエル人のせいだと明言した」
※メイルは時々正気になる。
「9. ついでながら、試合の方もマッカビ・テルアビブのボロ負けという結果に終わった。アヤックスが5-0で勝利した」
「10. 事後、イスラエル軍は軍所属の全員に対し、改めて告知があるまでオランダへの渡航を禁止。現在オランダにいるイスラエル軍人は、即座にイスラエルに帰国するよう指示した」
「11. オランダは、イスラエル軍用機がアムステルダムに着陸する許可を出すことを拒絶。オランダの安全保障当局者たちは、イスラエル空軍機の着陸を現状では許可しておらず、つまり、引き上げ便の第1機はまだ離陸していない」
「12. イスラエル当局によると、現在、救出を待つマッカビ・テルアビブのファンは2,751人」
「13. テルアビブ(イスラエル政府当局)の発表によると、連絡がつかないのは7人、負傷し病院にいるのが5人で、他に負傷者が10から20人いる。負傷者の救出と、2,751人のマッカビ・テルアビブのファンのアムステルダムからの安全な引き上げのため、当局は動いている。(マッカビのサポがいる)ホテルには、警備が提供されている」
ムハンマド・シェハダさんのスレッドの日本語訳
上記のJohn Pさんは、スレッドの最後で、European Council on Foreign Relations (ECFR) などで仕事をしているムハンマド・シェハダさんのスレッドにリンクをはっている。
「アムステルダムの衝突の別な面について、主流メディアは、故意に、私たちに見せずにいる。イスラエル人フーリガンが地元住民に襲い掛かり、ジェノサイドのスローガンを唱和し、パレスチナ旗を損壊している。
消去すること(伝えないこと、省略すること)によるプロパガンダと誤情報に続けて、選択的に(一方だけに)非難を加えるという、古典的なやり口である」
「いつものことながら、主流メディアにとって、話の起点はイスラエル人が襲われたときであり、イスラエル人が襲ったときでは絶対にありえない。イスラエル人は常に絶対的な被害者であり、唯一の被害者である。信仰ゆえ、あるいは民族性ゆえに、他の理由なく迫害される罪なき人々というのが古典的なナラティヴである」
※文中最後のofはorのタイポと解釈(じゃないと意味が通らない)。
「一般市民に対する暴力は、誰によるものか、誰に対するものかにかかわりなく、絶対に正当化されない。
しかし、主流メディアと西洋の政治家たちにとっては、イスラエル人が暴力的になったときに非難の指を向けることはないという、崩壊したモラル・コンパスがある。それが逆になったとき(イスラエル人に対する暴力がおこなわれたとき)だけ、はっと目を覚ますのだ」
※ここでマッカビのフーリガンが「一般市民」かどうかっていう問題も焦点化されるんですが、それは少しあとで。ていうか上のJohn Pさんのスレッドに既に出てはいる。
「BBCは当初、アムステルダムの衝突を『衝突』と述べていたが、その後、記事全体から『衝突』という語を消し去って、挑発もないのに一方的に攻撃されたというナラティブに落ち着いた」
とてもとても、BBCらしい顛末である。モンティ・パイソンの時代だったら「お詫び」が出ていただろう。事前に。
マッカビ・テルアビブFCのサポ集団の中には軍人もいたしモサドもいた
上に引用したが、John Pさんのスレッドの中に下記のツイートがある。
「5. アムステルダムにいたイスラエル人の一人の身元が明らかにされた。イスラエル軍の現役兵士である」
これに加えて、モサドも同行していたことが、イスラエルの有力紙のひとつ、エルサレム・ポストによって報じられているという。
ここで投稿主(米退役軍人のショーン・ゴールドバーグさん)が貼っている画像は、Twitter/X上では広く出回っているが、おそらく英語圏のメインストリーム・メディアでは無視されているだろうし、それを受けて書かれる日本語の報道記事でも無視されている(どころか、下手すると記者が把握してもいない)だろうが、下記の記事(⇒アーカイヴ)のスクショである(真正なもの。コラではない)。「念のためにモサドが同行」とかいう内容だが、何がどう「念のために」なのか、さっぱりわからないところが、イスラエル・クオリティである(普通、現地の警察に任せるか、自分らがそういう身分であることはメディアで公にせずに渡航するだろう)。
この記事を探すためにエルサレム・ポスト(前のアカウントではなぜか相互フォローになっていたことがある。なぜ私なんかをフォローしてたんだろうね、この新聞)を見てみたら、アムスでの事態を「ポグロム」という言葉で語っていた。(「ポグロムって、5-0とかいうスコアで負けたことですかね」という投稿もあったが。)
このとき「Mossad」はTwitter/XのTrendsのトップに出ていた。
普段このキーワードがTwitterXでTrendsするときはロシアン・ボット系の陰謀論大量投稿だろうなっていう感じだけど、今回は違う。一番上に表示されているのはまっとうなジャーナリストの投稿だ。
「イスラエルの報道機関が、モサドがアムステルダムのイスラエル人フーリガンに加わると伝えていた。
目的は公然たるものだった。タクシー運転手のような地元の人々と一般市民、特にパレスチナの人間たちを支援する人々を挑発し、攻撃すること、そして事後、被害者のふりをすること」
事前の挑発にはどのようなものがあったか
このように、欧州リーグの試合でオランダに乗り込んだイスラエルのマッカビ・テルアビブFCのフーリガンの中には軍人も情報機関職員も入っていたということが明らかにされているのだが、その集団がアムステルダムの街でどのような挑発行為を行っていたかは、断片的にしか伝えられていない。断片で十分ですよという質のものだが、例えば下記のような。
「アラブ人を殺せ」というチャント。
「アラブ人をぶっ飛ばせ、イスラエル軍に勝利を」というチャントに、「ガザにはもう学校はない、子供なんかひとりも残っちゃいないからな」というチャント。
人でなし、としか言いようがない。
「イスラエルのサッカーファンが、ガザの子供たちの『不在』をネタにチャントするとき、事態はもはやフーリガンとかそういうことではなくなってしまっている。その挑発は怒りを引き起こすが、実際に怒りを向けられると被害者ヅラをする」
……ここまで18,000字ほど、集中して文脈を作って書いてきて、疲れた。たいへんに疲れた。
主流メディアのていたらく
「アムステルダムの人々が、イスラエル人のサッカーフーリガンから自分の身を守れば怒りがうずまく。同じメディアや政治家たちが、ガザでのジェノサイドについて示している偽の怒りなど見えなくなってしまうほどに」
「私たちが目にしているのは、ジャーナリズムの完全な崩壊である。認知的不協和とあからさまな虚偽が最高位で事態を決めている。西洋およびシオニストのメディアから、何か違うものが出てくると思っていた人などいようか」
ていうか日本のメディアの人で欧州や中東を担当する人は、サッカーについて、スポーツではなく社会的な観点から基本的なことを押さえておいてほしいです。一種の「文化」だから。同じ場所にありながら、なぜパレスチナ代表はアジアで戦い、イスラエル代表とイスラエルのクラブは欧州なのか、といったことも。
以下、投げ銭欄(いつもありがとうございます)
以下は投げ銭欄、中身はこの文脈でTwitter/Xに投稿したもの(ここまでに盛り込んでいないもの)のコピーです。
*1:「Jリーグ発足時、ヴェルディはトップクラスだった」みたいな感じ。
*2:かなり上級目の英文法の話。さっき時制の話をしたからついでに書いておくが、こういうとき、英語では "He was a coach of the team." と過去形であらわされていれば故人のことと判断できる場合が多い。ただし「過去形なら必ず故人」とは限らず、「代表チームのコーチを退任して、今は協会の仕事をしている」といった場合も "He was a coach" となる。ここでは、アル=マスダルさんは現役のコーチとして爆殺されているので、 "He was a coach" は「コーチ在任中に故人となった」ことを含意する。わかりにくい例だったが、もっとわかりやすい例でThe Beatlesでいうと、Ringo Starr is a drummer. (存命のドラマー⇒現在形)であり、Ringo Starr was the drummer for the Beatles. (もう存在しないバンドのドラマーだった過去がある⇒過去形)であり、George Harrison was a guitarist. (物故したギタリスト⇒過去形)であり、George Harrison was a guitarist for the Beatles. (もう存在しないバンドのギタリストだった⇒過去形)である、ということになる。ついでに言うとビートルズはギターが2人なので冠詞についても書くことがあるんだが、ここでは完全に余談なので割愛。
*3:「マッカビ・テルアビブ」はいろんなスポーツをやってて、その中のサッカーが「FC」である。
*4:個人的に、さすがにそこまでは関心がないからアムステルダムでそんな試合が行われるとは把握していなかったのだが。
*5:本稿冒頭に引用したハメドさんやアベドさんのアカウントをフォローして、頻繁にリポストなりいいねなりしていると、自動でこういうのが流れてきてくれるようになると思います。