第45話 女勇者、試練と挫折の先に

アレンとイリスが新たな冒険に出てから、しばらくが経過していた。


二人は人々を助けるため、各地の王国を旅しては、さまざまなミッションをこなしていた。


アレンが女勇者イリスに抱く印象。それは、勇者パーティの頃から変わらず、とにかく美人で色気を感じさせる存在だった。


剣士としての筋肉は目立たず、むしろピチピチとした肌にビキニアーマーがしっかりとフィットしていて、彼女の色気を引き立てている。


ラベンダー色のウェーブがかった長い髪が戦場の風に揺れる中、編み込まれたサイドの髪が整った顔立ちをさらに際立たせていた。


ビキニアーマーという軽装にもかかわらず、イリスの姿には、色気と同時に揺るぎない気高さが宿っている。


イリスが槍を握る姿には、美しさだけでなく、確固たる意志と戦士としての誇りが滲み出ていた。


肌の露出が目を引くものの、戦場でのイリスの姿には、それ以上の存在感と魅力がある。


イリスの成長を促すために、アレンはイリスのレベルに合わせて比較的難易度の低いダンジョンを選んでいたが、今回、イリスは自らの希望で少し難易度の高いダンジョンに挑戦することを提案した。


「本当に大丈夫か?」


アレンが念を押すと、イリスは静かに頷いた。


「はい、アレン様。この旅で強くなりたいですし、あなたに頼るだけでは自分が情けなく感じます」


その真剣な眼差しにアレンは少し不安を覚えつつも、イリスの決意を尊重することにした。


そして、二人はイリスにとって手強いダンジョンへと足を踏み入れた。


ダンジョンの中に進むと、暗がりからゴブリンの一団が現れ、二人に気づくと一斉に襲いかかってきた。


アレンはイリスを守るように前に出て、剣を振りかざしてゴブリンたちを迎え撃つ。


しかし、ゴブリンたちは戦闘力の低いイリスに目をつけたようで、イリスをめがけて突進してくる。


「イリス、気をつけろ!」


アレンは必死にゴブリンたちを引きつけようとするが、うまくいかず、数体のゴブリンがイリスの方へと迫っていった。


イリスは剣を構え、やってくるゴブリンの一体と真正面から対峙することになった。


「イリス、無理するな、逃げろ!」


アレンが叫ぶが、イリスは振り返ることなく、真剣な表情で目の前の敵を見据えていた。


イリスは自分の剣でゴブリンの棍棒の攻撃を払い、必死に応戦しようとする。


攻撃を受ける度に疲弊していくが、イリスの眼には必死の覚悟が宿っていた。


しかし、次第にゴブリンの力が勝り、イリスは押し込まれていった。


そして


ーーーーーーーーーーーーーーーーッゴゴゴ!!!!!!!!


ゴブリンの重い一撃がイリスの頭部から背中にかけて直撃し、イリスはその場に倒れ込んでしまった。


「イリス!」


アレンはその光景に気づき、今戦っていたゴブリンたちを一気に片付けようとするが、今の彼にとってイリスの無事こそが最優先だった。


アレンは剣を構える手を緩め、倒れたイリスのもとへ駆け寄ると、イリスを抱きかかえ、すぐさまダンジョンの出口に向かって走り出した。


ダンジョンの外れまで駆け抜けたところで、アレンはイリスを木陰に横たえ、素早く回復アイテムを取り出して治療を施した。


やがてイリスがかすかに目を開け、薄暗い視界の中でアレンの顔を確認した。


「気が付いたか?良かった……」


アレンは安堵の表情を浮かべながら、イリスの手を握りしめた。


「イリス、今は無理をするな。回復アイテムで応急処置をしたが、脳震盪を起こしているかもしれない。しばらくここで休もう」


アレンの優しい声にイリスは頷きつつも、どこかうつむき、俯いたまま静かに息をついた。


自分の力不足でアレンに迷惑をかけてしまったという思いが、イリスの心を重くしていた。


ここ数日間、アレンと共に旅を続ける中で、イリスは少しずつ成長している実感を得ていたはずだった。


しかし、今回の戦闘であっさりと打ち負かされ、結局アレンに助けられたことが、イリスにとっては大きな挫折だった。


「……ごめんなさい、アレン様。私、またあなたに迷惑をかけてしまいました」


イリスの言葉は沈みきっており、イリスの表情も無表情を通り越してどこか空虚さすら漂っていた。


アレンはそんなイリスの顔を見て心が痛んだ。


「イリス、そんなこと気にするな。お前がどれだけ頑張っているか、俺が一番よく知っている。今回の戦いは少し厳しかったかもしれないが、成長するためにはこういう経験も必要なんだ」


アレンは優しくイリスの肩に手を置き、続けた。


「誰でも最初は失敗するさ。お前が俺と共に旅をする覚悟を持ってくれていることが、何よりも大事だ。それだけで十分にすごいと思う」


だが、イリスの表情は変わらず、何も答えなかった。


アレンの言葉に応えようとしたが、自分の中に湧き上がる不甲斐なさが、イリスの声を奪っていた。


「あの…私がもっと強ければ、きっと……」


「イリス、気にするなと言っただろう。お前はすでに十分に頑張っているんだ。それに、これからも成長していける。だから、こんなことで自分を責めるな」


アレンの言葉にイリスは再び頷きはしたが、心の奥底に湧き上がる悔しさと無力感を拭い去ることはできなかった。


アレンが自分を守るために戦ってくれていることが誇りである反面、イリスの心には


「自分も対等に戦える強さが欲しい」


という強い思いが渦巻いていた。


二人の間に静寂が訪れる中、アレンはそっとイリスに視線を向け、イリスが少しでも自信を取り戻せるよう、やさしく声をかけた。


「イリス、無理に気持ちを切り替える必要はない。だが、俺はお前が必ず強くなれると信じている。お前がその気持ちを失わない限り、俺も全力でサポートするから」


アレンのその言葉に、イリスは少しだけ表情を和らげ、アレンの方を見上げた。


アレンの眼差しに感じる温かな励ましと信頼に、イリスは微かに心を救われる思いがした。

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