第603話 戦況を進める作戦準備を開始します



 魔物の使者の主の身分、そして立場から魔物側の構図が少し見えてきた。

 けど、マイロウマイカさんの手紙で判明した最大の収穫の1つは、やはり対峙しているアースティア皇国に関する部分だろう。



「魔物は捨て駒……ですか。それはまた厄介な話ですな」

 最前線と後衛陣の間をつなぐ各巡回部隊の監督役を担ってる、ハルドロブ少佐。

 物言いはちょっと上位に対しては気安い感じだけど、気取った会話が必要ない分、話が早くて助かる。


「正確には " 選定 " とでもいうべきでしょうね。あちらの事実上のトップである “ あの方 ” とやらは、手勢の魔物の中でも自分の中で不合格としたモノを僕たちに当てて処分している、ということのようですから」

「さしずめわたしらはゴミ処分係ってワケですか。ならせめて、もっと軽い・・ゴミを送り付けてもらいたいもんですね」

「まったくです……が、おかげで魔物と僕たち人間の戦力差をあらためて知る機会になりました。加えて、あちら側がそのつもりであるとしたら、決して本気で僕たちの戦線を抜き切る気がない、という意図も、これまでの相手の戦い方から考えてもハッキリしました」

 そう、こちらが得られたモノも多い。まったくもってして迷惑極まりないけれども。


「下っ端の切り捨て確定な雑魚魔物は本気でわたしらをぶち抜く気でいたというのに、そのおかみはなっから程度の低いモンを処分たあ、魔物とはいえ救われませんな」

「……おそらくですが、処分ついでに僕たち人間側との戦闘を観察、あるいは研究している可能性もあるかもしれませんね。どうせ捨てるなら徹底して利用し尽くす、といったところでしょうか」

 僕がそう述べると、ハルドロブ少佐は、おーやだやだと両肩をすくめながら魔物に生まれなくて良かったですよ、と軽口で返す。

 そのやり取りにヤキモキしているのは僕の護衛である近衛兵の皆さんだ。彼の言動は無礼の域に入るとみているんだろう。

 僕が特に注意もなにもしないで対してるから抑えてるだけで、今すぐにでもこの無礼者をしょっ引きましょうか? とソワソワしている人すらいる。


 ……だけど、次の作戦には彼のようなタイプの人間が必要不可欠なんだ。



「それで殿下。そういったお話をわざわざわたしみたいな巡回部隊の手綱引き程度にお話するってぇことは、何かお役目があるんでしょう?」

「はい、その通りです。敵の意図からアースティア皇国側は、たとえ眼前の敵をすべて打ち破ってしまっても新手が送られてくることが明らかになりました。その理由も、この戦争の目的もほぼ明らかです。今のところ何とか渡り合うことができてはいますが、このまま永遠に戦いを続けることは、僕たち人間にとってはなんとも辛い話です」


 一手。ただしただの一手ではなくって、戦略的な一手を打つ必要がある。それも目の前の魔物の軍勢相手ではなく―――


「! まさか殿下……?」

 何かを察したハルドロブ少佐に、僕は頷き返した。


「手足がいくらでも再生するのでしたら、この戦争を終わらせるには狙わなくてはいけません。心臓か、頭を……です」



  ・

  ・

  ・


 正直 “ あの方 ” とやらについて分かっている事が少なすぎる。だけどこのまま戦い続けるには僕たちが消耗していく一方だ。


「それで私が必要になったんですね!?」

「はい、わざわざ呼び立てて申し訳ありません、アイリーン」

 僕の頼もしいお嫁さんアイリーンは、セレナと二人でそれぞれ別動隊を用いて、物資輸送や援軍部隊の護衛エスコートで忙しく王都と各戦線を行き来してた。


 けど今度の作戦は、アイリーンの力が100%必要になる。


「と、言いましても今すぐではないですよ。はやらないでくださいね?」

「え、……あ、はいっ。も、もちろんですッ」

 うん、すぐに出撃する気満々だったね? 相変わらずで、僕は嬉しいよ。


「まだ準備が完全とは言い難いですからね。今回は先立って、おおよその情報ならびに状況を共有しつつ、あちら側に怪しく思われないためのブラフうそも兼ねますから、まだ慎重にお願いしますね」

「うー、わかりましたぁ……旦那さまがそうおっしゃるのでしたら……」

 言いながらもすごく残念そうだ。心なしか着用してるビキニアーマーが磨かれてる感じで輝いてる気もする。準備を入念にしてきてくれたのは嬉しいですよっと。


「ところで、東部戦線の方はいかがでしたか?」

「メイレーさんのとこですか? 今のところは大きな動きはなかったです。お届け物がてら、軽くならし・・・たりもしましたけど、まずまず、って感じでした」

「(軽く……ね。多分メイレー侯爵からしたら、戦力としてアイリーンにずっといて欲しいくらいだろうなぁ。ま、それはそれで問題ありなんだけど)」

 今度の戦争で、どうしてアイリーンやセレナがいずれかの戦線に常駐しないのか。それは僕の提案によるものだ。


 1つ、王国内でも魔物の群れが発生する過去例がある以上、強い戦力を国境に張り付けすぎる事はできない。

 2つ、王都と各戦線の間を行きかう補給部隊に、強さと信頼ある者が付く事で、安定させる事ができる。

 3つ、そうする事で、万が一王都と各戦線の間で魔物の発生事例が起こったとしても、その強さと信頼ある者が即応しやすくなる。

 4つ、最前線で強い者が暴れ過ぎる・・・と、敵側もそれに対抗しようと戦力増強を行ってくる可能性があり、長期視野として現場負担が増す結果につながらないようにする必要がある。


 これらの理由からアイリーンとセレナだけじゃなく、王国でもトップクラスの軍人は、なるべく上手く散らして、最前線に配置されても張り付きっぱなしはならないよう、考慮した人材運用をしてきたんだ、これまでは。


「ですが、少なくともこの南東戦線におきましては敵、アースティア皇国の戦略意図が見えてきましたからね。一度しっかりとした打撃を与え、戦線の収束と鎮静化をこの機にはかります」

 とは言うものの、まだまだ懸念点も情報不足な部分もあるから、上手くそこまで持っていけるかは分からない。



 ただ、マイロウマイカさんの手紙で判明した最大の収穫、2つ目―――とある事実から “ あの方 ” をどうにか出来れば、アースティア皇国の件はどうにかできる可能性が高いことも見えてきている。


 その事実とはすなわち、アースティア皇国の表向きのトップであるレイン姫について、だ。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る