
原爆後遺症を扱った劇団民芸(川崎市麻生区)の代表作「泰山木の木の下で」(作・小山祐士)が今月、16年ぶりによみがえる。劇団創設者の宇野重吉、北林谷栄によるロングラン上演を重ねた「劇団の宝」に、演出の丹野郁弓と主演の日色ともゑが新たな息吹をもたらす。被爆者の苦悩のみならず、人間が抱える「原罪」や希望を映し出す。
舞台は瀬戸内海の小さな島。夫と9人の子どもを戦争や原爆で失い、自身も被爆した神部ハナことハナ婆(ばあ)さんが、原爆の後遺症を恐れる妊婦を助けようと違法な堕胎を続けて罪に問われる。彼女を逮捕する男性刑事の木下もまた、人知れず被爆の苦悩を抱えていた。

宇野の演出、北林の主演で1963年に初演された本作は、40年の間、北林ただ一人が主役のハナを演じた。
「『泰山木-』と言えば北林谷栄のハナ婆さん。そのイメージは到底払拭(ふっしょく)できない」と丹野。それでも「ハナを背負える俳優さんがいるからこそ、もう一度この芝居を立ち上げられる」との思いで演出に臨んだ。
その俳優、入団歴約60年の日色は、初演以降繰り返し本作の舞台を見ては役者陣の演技を目に焼き付けてきた。だが、気負いはないと軽やかに言う。「北林さんの芝居に引っ張られないようにしようとか、自分なりのハナ婆さんを演じようとか、全く意識していないです」

「演出が変われば別の作品。新作を立ち上げる時の意気込みと変わらない」と、本作はあくまで別物との意識が二人にはある。
これまではやはり北林演じるハナの存在が強かったが、丹野版は木下刑事の視線に立った演出が色濃く出る。木下もまた、両親を原爆で亡くし、わが子が後遺症を負う役どころ。「これは木下が芯になった芝居でもある。原爆症や被爆の苦悩のほか、彼の魂の救済を通した希望が見える物語」と丹野は語る。
さらに鍵となるのが、「日色さんが持つ硬質で骨太な思想」だと続ける。家族が理不尽に命を落とし、一人だけ生き残ったハナが「殺されるために産んだようなもの」と9人の子を思いさいなまれる場面などは、日色自身が胸に刻む平和への揺るぎない思いが芝居に力強く表れる。
一方、日色は「ハナの言葉」としてせりふを打ち出すことを自身の課題と捉えている。夫と子に先立たれ苦しい生活を送り、地獄に落ちる覚悟で堕胎の手助けをした。「そんな彼女が、知識として得たものではなく、人生の中で獲得した言葉」をいかに自身の芝居で表現するか。そこがこの役の肝だと話す。

登場人物はそれぞれ、人間が抱える原罪を背負わされていると丹野は言う。今も上演する意義があるのは「その重みが時代を問わず、皆が共感できる意識だと思うから」。原爆のむごたらしさを伝える本作を「人間の基本的な在り方をも問うものにしたい」と話している。
6日から18日まで。会場は三越劇場(東京都中央区)。一般6600円、30歳以下3300円、高校生以下千円ほか。問い合わせは劇団民芸☎044(987)7711。
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