一般人、金持ち学校に通う。   作:c@w@d

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※本作品に登場する団体、人物は全てフィクションです。





冒頭の文章が存在しない事実として運営報告を受けました。(一時非公開処分)
したがって、冒頭箇所の修正及び前書きに登場する団体がフィクションであることを追記致しました。
ご心配とご迷惑をおかけいたしました。


1話

唐突だが、フィクションに登場する数々の富裕層向けの学校ないし学園(金持ち学校)にはモデルが存在すると言われている。まぁ、あくまでネット上の噂に過ぎないが、そのモデルと言われているのが私立金白良山(かねしろりょうざん)学園、通称金山学園(かねやまがくえん)である。

 

フィクションで登場するような学園は、笑ってしまうほどの金持ちっぷりをフィクションらしく過剰に表現しているが、金白良山学園の実態を知ればあながち、それらの学園が事実に基づいた設定によって練り上げられたものであると納得するものも少なくは無い。

創立は明治末期、華族や商家、政治家、軍人など、日本の政財界を大きく動かすほどの権力者の子息が通うために作られた公立学園で、当時の日本国内の教育機関としては最前線と言っても過言ではないほど、現代と引けを取らない教育がされていたという。

 

所在は東京都港区高輪、都内の一等地に何百坪という広大な敷地を有し、重要文化財に指定されている辰野金吾氏設計の校舎は、当時の名残を感じさせる赤レンガの重厚かつブルジョワな作りである。

 

戦後GHQにより、日本の政財界の社交場であり右派を作り出すための洗脳教育機関ではなかろうかと問題視された結果、公立から私立へ転換し、昭和中頃には学長に、GHQの息がかかったアメリカ人が就任したことがあったものの、現在は学園を卒業したOG、OBによって法人が運営されており、当然ながら卒業していった金持ちたちによって湯水のように運営資金が注ぎ込まれている。

 

名実共に金持ち学校とはまさにこの事である。

 

ちなみにだが、年間の学費は日本国内でぶっちぎりのトップ。私立の医科大よりも高いと言われているが故に、中流階級の家庭からこの学園に進学したものは存在しない。

 

 

否、存在しなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

学校の校門前に続く真っ直ぐな桜並木、と長い車列。車のほとんどが高級車で、ランボルギーニやフェラーリなどのスポーツカータイプから、センチュリーやロールスロイスなど、運転手が着いているショーファータイプに至るまで、その様はさながら高級車の見本市、ここ一帯だけで数十億にもくだらないほどの光景が形成されている訳だが、その高級車の真横を通り過ぎるのは、金額にして3万円ほどのママチャリ。

 

そのママチャリを運転しているのは何を隠そう、俺である。

あまりにも場違いすぎる光景に、車に乗る、恐らく子息令嬢と思われる金持ちの同年代は、さながら珍獣を見るような目でこちらを見てきているが、俺はそんな痛いやつを見るような視線をものともせず、渋滞気味の車列の真横をスイスイと進んでいく。

 

車通学は一見、楽なようにも見えるが、渋滞という状況下においては、チャリンコほど強い乗り物は無い。

金だけかかる鉄の塊に乗るよりも、こうしてコスパのいいスリムな二輪車に乗る方が余程、合理的と言えよう。

 

校門前に差し掛かると、通用口の真横にある小さな建物から、いかにも警備員という見た目のおじさんが出てきた。ベージュ色のオシャンティーな警備服に身を包んだおじさんは、怪しげな表情をしながら言った。

 

 

「すみませんが、こちらの学園に通われてる方ですか」

 

 

そりゃ疑われても仕方ないだろう。日本有数の金持ち学校にママチャリで通学するような人間は恐らく、これまでも今後も俺以外居ないのだろうから。

 

したがって、この警備員さんは悪くない、中学校時代から使っているシルバーのノーマルなママチャリに白いヘルメットという平凡な見た目をした男が、有名ブランドがデザインしたと言われている一着数百万円の制服に袖を通して、さも学生ですという顔でやってきたのだから、そりゃ怪訝な顔一つでもしなければ、警備員としての品格が問われるだろう。

 

俺は静かに頷きながら、ママチャリのカゴに放り込まれた学校指定の牛革のバッグ(30万)の中から学生証を取り出す。制服のブレザー、藍色と金色の刺繍が施された重厚感のあるそれと同じ色をした、シックな見た目のチタン製学生証、年会費の高そうなクレジットカードみたいな見た目をしたその学生証をまじまじと見つつ、驚愕を押し殺したような表情をしながら、警備員もとい守衛さんは、どうぞお通り下さいと丁寧に深々と頭を垂れながら、白い手袋をはめた指先を校門の先へと向けた。

 

学生証を受け取った俺は、チャリンコから降りて、ついに私立金白良山学園に足を踏み入れたのだった。

柔らかな春の風が木々を揺らしながら、緑豊かな自然に囲まれた赤レンガの校舎を見つめる。昇降口前のロータリーには高級車から降りてくる子息令嬢たち。その誰もが、金持ち特有の品とオーラを感じさせた。

 

学園の隅っこにかろうじて存在する駐輪場にチャリを停めると、もはや盗む者も居ないというのにロックをかけて、昇降口まで向かう。キョロキョロと周りの景色に圧倒されながら、舗装されたなだらかなコンクリート製の地面を安物のスニーカーでふみしめる。

 

石造りの階段を数段登り、昇降口にたどり着くと、自分のクラスのロッカーを探した。1年C組、それが俺のクラスだ。

クラスのロッカーには、それぞれ生徒の名前が刻印された金属製のプレートがはめ込まれており、中を開けると校舎内で履くための中履きが入っていた。

 

この中履きも普通のものではなく、老舗テーラーが監修したローファーで履き心地が非常に良い。多分これ履いて四六時中生活出来ると思う。

 

限られた者しか着ることが許されないこの制服とローファーを身にまとい、存外自分も大金持ちになった気分だが、周りを見やれば高級ブランドに、しまむら感覚で入れるような金持ちばかりが歩いていて、場違い感が否めない。

 

多分、全員海外旅行に行ったことあると思うし、飛行機の席は決まってファーストクラスだろう。自宅にはプールがついていて、好きな食いもんは決まって高級食材、私服はブランド物で固められて、自家用車は数千万以上の高級車、バイトもしたことがなければ、お小遣いに贈与税が発生しているに違いない。

 

 

 

だからこそ楽しみなのだ。生まれてこの方、自分とは全く違う世界で育ってきた人間と3年間を共にするのが、この上なく楽しみで仕方がない。

 

そう思うと、教室に向かう足取りが幾分か軽くなった気がした。

 

 

 

 

 

 

 

1話

 

 

 

 

 

 

学校の教室には既に何人かの生徒がいた。みんなこの学園の幼稚舎や、中等部で顔なじみになっているせいか、肩身が狭い。中学2年まで、親の仕事の関係でイギリスに住んでいたせいか、今でも日本の景色を見ると、生まれた故郷であるにも関わらず異国情緒を感じざるを得ない。

 

このまま卒業に至るまで友達を誰一人も作れなかったらどうしようという不安に駆られながら、私はクラスメイトに話しかける勇気さえ持てず、ただ一人本の文章に思考を潜らせた。

 

そんな中、唐突に教室の扉がガチャガチャと騒がしい音を立てながら揺れた。

何事かと視線を見やる、当然私以外、というよりクラスにいる全員がその扉の方向を見ていた。

 

そしてやがて入ってきたのは一人の男子生徒だった。

 

 

「開くタイプかよ…普通引き戸だろ…」

 

 

顔を若干赤面させながら、何事も無かったかのように教室を闊歩する男子生徒は、やがて私の席の隣に座ると、カバンから取りだした水筒を取りだして、飲み干しそうな勢いでそれを口元に傾けた。

 

 

「(すごい飲んでるなぁ…)」

 

 

どれほど喉が乾いているのだろうか。

十数秒ほど水筒の中身を飲んだ後、今度はポケットからスマホを取りだして、メッセージアプリで誰かとやり取りを始めた。

 

しばしメッセージを交わした後、彼はポケットにスマホを再びしまうと、思い出したかのように、こちらに向き直った。

 

「初めまして、佐々木 ケンジといいます」

 

唐突の挨拶に、戸惑いを隠せず若干挙動不審になりながら、私も挨拶を返した。

 

「あ、藤宮…エブリンです」

 

「エブリン…あ、ハーフですか」

 

「…いえ、クォーターです」

 

 

名前を聞かれた時に高確率で聞かれるのが『ハーフですか?』という質問だ。私のようなクォーターは、海外の血は入っているものの顔立ちがアジア人に近いため、名前と見た目でかなりのギャップが存在する。故に、ハーフですか質問率はハーフよりも高い。

 

特段、嫌という訳ではないが会話の始まりのテンプレートと化しているため、そろそろ会話の発展に繋げられるような上手い返しを考えたいところだ。

 

 

それに

 

「クォーター…へぇ」

 

 

クォーターという言葉は何故か空気を微妙にさせる。ハーフという言葉ほどポピュラーでないせいか、相手の反応は90‎%の確率で悪い。そのせいで、初っ端の会話が断ち切られ、コミュニケーション能力の無い私は、クォーターとしての話題を提供する間も無く壁を作ってしまう。

 

せっかく話しかけてくれた大チャンスなのに、そのチャンスを今回も逃したせいで、ついに私は高校生活友達ゼロ人の現実味を感じていた。

 

 

だけど、佐々木くんは違った。

 

 

「クォーターか、いいよねクォーターって」

 

「そ、そう?」

 

「うん、名前がいい。ピザ頼む時もついつい字面だけでクォーターにしちゃうし、クォーターって付くだけで特別感というか美味しそうに感じるんだよねぇ、マックのクォーターパウンダーとか…」

 

クォーターという単語でここまで話題を広げられる人を今まで私は見たことが無い。ハーフなら『英語喋れるの?』とか『どこの国とのハーフ?』とか色々聞かれるけれど、まさかクォーターつまり『1/4』という単語の意味の方に話題を広げるとは思いもしなかった。

 

「しっかしいいねぇ、俺なんて純日本人だからさ」

 

「い、いいじゃないですか…日本人」

 

「そう?でも、平凡じゃん、海外行きゃ話題にはなるだろうけどさ。いいよなぁ…おばあちゃんがアメリカに住んでるんだ…とか言ってみてぇよ」

 

「…はは」

 

 

なんでこの人はこんなに会話をリードしてくれてるのだろうか。教室の端っこで寂しく本を読んでいた私を気遣ってくれたのだろうか。だとすれば非常に申し訳無い気分になる。そんな私の自責の念も露知らず、佐々木くんは軽快な会話を澱み無く続けていた。

 

 

「藤宮…エブリンかぁ、エブリンって呼んでいい?」

 

「あ、いいですよ」

 

「じゃあ、エブリンはさぁ好きなピザとかある」

 

「…ピザですか」

 

「そう、ピザ…ちなみに俺はミートソースピザ、肉とチーズと油まみれのトマトソースがカロリーになって襲ってくる、爆弾よ」

 

「…私はマルゲリータです」

 

「マルゲリータ!?通だねぇ」

 

「そ、そうですか」

 

「うん、マルゲリータは通だよ…てかイタリア派なんだね、俺アメリカ派」

 

「え、え?」

 

 

ピザにそんな派閥があるとは知らなかった。

 

 

「あ、ごめんそのふたつは俺の造語なんだけどさ」

 

「造語なんですね…」

 

「ほら、ピザって2種類あるでしょ…レストランでプロシュートやらワインを飲みながら食べる高級志向のイタリアタイプのやつと、デリバリーで頼んでコーラと一緒に食うタイプの、言わばジャンキーなアメリカタイプ」

 

「…私は、その…イタリアタイプしか知らないです」

 

「マジで?うっそだろ…んじゃあ、バジルと黒トリュフの上にパルミジャーノ・レッジャーノを積もるほど削りかけるあれしか食ったことないの?」

 

「…あ、トリュフの美味しいですよね」

 

「おいおい、お嬢様すぎんだろ。ならドミノもハットもピザーラも知らないの?」

 

「…はい」

 

先程から、聞きなれない単語が次々と出てきて困惑せざるを得ない。

 

「…マジかよ、いやぁ…食わせてぇなジャンキーなタイプのピザ。あれ食ってるとチーズじゃなくて寿命削ってんなぁ…って気分になるから。これでもかってくらいチーズと肉と、トマトソースと…あとは申し訳程度の野菜と…最近じゃ耳のところにチーズが入ってるやつとかあって…うわぁ腹減ってきたなぁ」

 

不覚にも、美味しそうと思えてしまった。

私はいつの間にゴクリと喉を鳴らしていることに気がついた。その音を、佐々木くんは見逃さなかった。

 

「お、食いたくなってきた?もしかして」

 

「ま、まぁ…」

 

「そしたら食うか、昼休みに…ここの学食にそういうピザは無さそうだから、デリバリーだなデリバリー」

 

そう言いながら、佐々木くんはスマホの画面を操作すると、こちらに手渡してきた。スマホには、何やら凄まじい具材が乗っているピザと思われる写真がこれでもかと掲載されていた。

 

 

「好きなの選んでくれ、俺のおすすめはミートソースピザに炙りチキンとマッシュルームをトッピングしたやつ」

 

「じゃ、じゃあそれで…」

 

「うっし、なら昼休みの時間帯に届くように予約しといて………よし、完了。うわぁ、昼飯ピザかぁ…楽しみだな」

 

 

今日は学食でブルスケッタとサルティンボッカを食べようと思っていたけれど、私の舌と胃は完全にそのジャンキーなピザを欲していた。

 

 

やがてチャイムが鳴り、クラスの全員が着席すると、眼鏡をかけた硬派な教師が教室の戸を開けて入ってきた。教師は出身大学など軽い自己紹介を済ませた後、次は生徒全員に各々自己紹介するよう指示を出した。

 

50音順に並んだ席なので、前列の端に座っていた生徒が挨拶を始める。

 

「相沢 ここなです。お父さんは横浜で開業医をしていてお母さんは美容外科の院長をしてます」

 

我孫子(あびこ) 泰司(たいじ)って言います。父は三ツ沢証券の副社長で母はピアニストです」

 

名前の後に、両親の職業や素性を言う…傍から見れば異常かもしれないけれどこれがこの学校の伝統だ。生徒同士の交流が、今後の日本の政財界を大きく動かす可能性があると言うだけに、誰の子供かという点は名前以上に重要なステータスなのである。

 

自己紹介がある程度終わり、やがて私の隣、佐々木くんの番になった。佐々木くんは颯爽と席を立ち上がると開口一番に衝撃的なことを言った。

 

「佐々木 ケンジ 父はサラリーマン、母は専業主婦。この学園に来れた理由は宝くじが当たったから。好きな食べ物はポテトチップス、嫌いな食べ物はこの前興味本位で買ってみたキャビア。以上、よろしくおねがいしやーす」

 

クラス中を静寂が支配した。

今までの流れとは大きく異なる自己紹介のせいで、その場にいる全員がフリーズする。

 

ノリが軽すぎて、もはや挨拶したのかさえ分からないほどだった。クラスが静かになったことに気がついたのか、佐々木くんはケロッとした表情で言った。

 

「人を珍獣を見るような目で見るなよ金持ち共、俺ぁ、れっきとした中流階級出身だからな。逆に言えば庶民の暮らしを知ってんだ、知らないだろうお前ら、卵かけご飯に味の素かけると死ぬほど美味いっていうの、試してみろよ、まじでぶっ飛ぶぞ」

 

 

 

 

何一つ、言っていることが分からなかった。

 

 




佐々木ケンジ
都内に住む高校生。父はサラリーマン、母は専業主婦という中流階級に生まれた。父が年末に購入した宝くじで3億当てた結果、家のローンが完済され、国産の新車を購入された。余った金は貯金とケンジの学費に使われている。元々頭自体はよく、多額の学費と驚異的な学力を伴って金山学園の入試を受けたところ、見事合格した。最近、両親が興味本位で買ってきたお高めのキャビアを、生臭い塩分の塊と酷評した。尚、両親も同意見だった。



藤宮エブリン

1年C組随一の金持ち。他の生徒とは格が違う。ちなみに読んでいた本はゴリゴリの英書で、英語もペラペラ。
次期生徒会長候補。とんでもねぇ美人。


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