【障害者差別解消法の概要】
この法律は、平成28年4月に施行された比較的新しい法律で、障害者権利条約を日本が批准するための国内法整備の一環として制定されました。
障害者基本法も同条約批准のため、改正がなされております。
正式には「障害を理由とした差別の解消の推進に関する法律」といいます。
行政機関等及び事業者による障害者への差別がこの法律により、日本国内では明確に禁止されることになりました。
この法律では、障害があることを理由として差別することを禁じたうえ、障害があることを原因となって発生する「社会的障壁」を除去するために「合理的配慮」を提供することが規定されています。
国(行政機関)や地方自治体は7条の規定により「合理的配慮の提供」は「義務」、事業者(公共交通機関、店舗、飲食店、病院、福祉施設等)は8条の規定により、「合理的配慮の提供」は「努力義務(※)」となっています。
(※令和3年5月28日の参議院本会議で、障害者差別解消法の改正案が成立し、事業者も3年以内に合理的配慮の提供が全国で義務化されます。既に、東京都・宮城県・富山県・沖縄県などのように、いわゆる「上乗せ条例」により、事業者も合理的配慮の提供が義務化されている自治体があります。)
(※雇用分野においては、障害者雇用促進法が適用となります。行政機関・事業者共に同法規定により、合理的配慮の提供は義務となります。)
なお、「合理的配慮」とは障害者が困っていること(=社会的障壁)に関して、障害者から意思表示があったときに、個別に調整を行って解決(=社会的障壁の除去)を図るものであります。
合理的配慮の提供内容は、障害者個々によって違うものであり、視覚障害者であれば、盲導犬同伴を認める対応が合理的配慮にあたります。
そして、「合理的配慮の提供」は、当事者間での建設的な対話で決まることであり、一律ではないものです。
平成二十五年法律第六十五号
障害を理由とする差別の解消の推進に関する法律(抄)
第三章 行政機関等及び事業者における障害を理由とする差別を解消するための措置
(行政機関等における障害を理由とする差別の禁止)
第七条 行政機関等は、その事務又は事業を行うに当たり、障害を理由として障害者でない者と不当な差別的取扱いをすることにより、障害者の権利利益を侵害してはならない。
2 行政機関等は、その事務又は事業を行うに当たり、障害者から現に社会的障壁の除去を必要としている旨の意思の表明があった場合において、その実施に伴う負担が過重でないときは、障害者の権利利益を侵害することとならないよう、当該障害者の性別、年齢及び障害の状態に応じて、社会的障壁の除去の実施について必要かつ合理的な配慮をしなければならない。
(事業者における障害を理由とする差別の禁止)
第八条 事業者は、その事業を行うに当たり、障害を理由として障害者でない者と不当な差別的取扱いをすることにより、障害者の権利利益を侵害してはならない。
2 事業者は、その事業を行うに当たり、障害者から現に社会的障壁の除去を必要としている旨の意思の表明があった場合において、その実施に伴う負担が過重でないときは、障害者の権利利益を侵害することとならないよう、当該障害者の性別、年齢及び障害の状態に応じて、社会的障壁の除去の実施について必要かつ合理的な配慮をするように努めなければならない。
【「新しい生活様式」が「新しい社会的障壁」になっている現実】
新型コロナウイルス感染症の影響により、「新しい生活様式」として、「マスクの着用」「ソーシャルディスタンス確保」など様々なことが求められるようになっています。
一方で、障害者の当事者が非常に困っている状況になっています。
特に、「マスク着用」においては、発達障害・知的障害・皮膚炎などの当事者に、著しく大きな負担がかかっている現実があります。
「新しい生活様式」が、障害者にとっては、「新しい社会的障壁」になっていると言えるでしょう。
そのような場合においても、感染症対策ばかりが優先されて、障害者へのマスク着用に関する合理的配慮が十分なされない点には大きな疑問点があります。
「障害者差別解消法」を正しく活用していくことも、全ての国民に課された大きな宿題と考えております。
【障害・健康上の理由でマスクができない方への提案】
マスク着用による、不便を解消する手段として、提案したいことがあります。
発達障害など障害をお持ちでマスクが難しい場合、または、皮膚炎・喘息などでマスクが難しい場合は、差別解消法7条・8条の規定により、マスクを着用しなくても利用・入店等を認めることを、「合理的配慮の提供」として求めることができます。
「合理的配慮の提供は、法の規定により、意思表示」が必要となります。例えば、「発達障害でマスクできないと説明する」「意思表示カードを提示する」「障害者手帳を提示する」という方法が考えられます。
マスク着用が幅広く求められている中で、非常に勇気がいることは現実ですが、マスクができないと意思表示することは、障害・健康上マスクできない場合においては、「法律的に正しい行動」であります。
【入店拒否などをされた場合はどのような対応ができるのか?】
障害や健康上の理由により、マスク着用できないと意思表示したにもかかわらず、店舗から入店を拒否された(もしくは不利益な取り扱いを受けた)場合は、ためらわずに、自治体の障害福祉課、主務官庁(差別解消法12条)など行政機関に相談しましょう。その行政機関は差別解消法12・14条と差別解消法施行令3・4条に基づいて、店舗に対して指導する法的根拠が伴います。
マスク着用に関するトラブルに対し、行政機関が間に入ってくれますので、問題が解決できる可能性もあります。
(報告の徴収並びに助言、指導及び勧告)
第十二条 主務大臣は、第八条の規定の施行に関し、特に必要があると認めるときは、対応指針に定める事項について、当該事業者に対し、報告を求め、又は助言、指導若しくは勧告をすることができる。
第四章 障害を理由とする差別を解消するための支援措置
(相談及び紛争の防止等のための体制の整備)
第十四条 国及び地方公共団体は、障害者及びその家族その他の関係者からの障害を理由とする差別に関する相談に的確に応ずるとともに、障害を理由とする差別に関する紛争の防止又は解決を図ることができるよう必要な体制の整備を図るものとする。
平成二十八年政令第三十二号
障害を理由とする差別の解消の推進に関する法律施行令(抄)
(地方公共団体の長等が処理する事務)
第三条 法第十二条に規定する主務大臣の権限に属する事務は、事業者が行う事業であって当該主務大臣が所管するものについての報告の徴収、検査、勧告その他の監督に係る権限に属する事務の全部又は一部が他の法令の規定により地方公共団体の長その他の執行機関(以下この条において「地方公共団体の長等」という。)が行うこととされているときは、当該地方公共団体の長等が行うこととする。ただし、障害を理由とする差別の解消に適正かつ効率的に対処するため特に必要があると認めるときは、主務大臣が自らその事務を行うことを妨げない。
(権限の委任)
第四条 主務大臣は、内閣府設置法(平成十一年法律第八十九号)第四十九条第一項の庁の長、国家行政組織法(昭和二十三年法律第百二十号)第三条第二項の庁の長又は警察庁長官に、法第十一条及び第十二条に規定する権限のうちその所掌に係るものを委任することができる。
2 主務大臣(前項の規定によりその権限が内閣府設置法第四十九条第一項の庁の長又は国家行政組織法第三条第二項の庁の長に委任された場合にあっては、その庁の長)は、内閣府設置法第十七条若しくは第五十三条の官房、局若しくは部の長、同法第十七条第一項若しくは第六十二条第一項若しくは第二項の職若しくは同法第四十三条若しくは第五十七条の地方支分部局の長又は国家行政組織法第七条の官房、局若しくは部の長、同法第九条の地方支分部局の長若しくは同法第二十条第一項若しくは第二項の職に、法第十二条に規定する権限のうちその所掌に係るものを委任することができる。
3 警察庁長官は、警察法(昭和二十九年法律第百六十二号)第十九条第一項の長官官房若しくは局、同条第二項の部又は同法第三十条第一項の地方機関の長に、第一項の規定により委任された法第十二条に規定する権限を委任することができる。
4 金融庁長官は、事業者の事務所又は事業所の所在地を管轄する財務局長(当該所在地が福岡財務支局の管轄区域内にある場合にあっては、福岡財務支局長)に、第一項の規定により委任された法第十二条に規定する権限を委任することができる。
5 主務大臣、内閣府設置法第四十九条第一項の庁の長、国家行政組織法第三条第二項の庁の長又は警察庁長官は、前各項の規定により権限を委任しようとするときは、委任を受ける職員の官職、委任する権限及び委任の効力の発生する日を公示しなければならない。
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