「障害者差別解消支援地域協議会」で「マスク事案」が議題になっているという現実(2)

前回記事では、東京都の「障害者差別解消支援地域協議会」(以下「地域協議会」)でマスク事案が議題になっていることを取り上げました。
今度は山口県宇部市の地域協議会(令和2年度第14回協議会、令和3年1月開催)で、2つのマスク事案が議題となっていますので、取り上げてみようと思います。

本ブログで取り上げた事例に関しては、山口県宇部市の令和2年度第14回協議会議事録を併せてご覧ください。

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※山口県宇部市「障害者差別解消支援地域協議会」Webサイトから引用
https://www.city.ube.yamaguchi.jp/kenkou/shougaifukushi/shougai_kyougikai/1005321.html

(1)製造業の事務所内の事例(聴覚障害があり、障害者雇用枠として勤務)
障害当事者の方は、聴覚障害ではあるが、少し声を発することができました。相手の口話、口の動きを読み取ることはでき、会話もしていました。
しかし、新型コロナウイルス感染症対策として、「業務中はマスク着用、大声を出さない、昼食時間に無駄な会話しない」というルールが設けられました。
その結果、口の動きも読み取れなくなり、マスクを外しての会話も難色を示され、筆談での会話も最低限の情報量となり、同僚とのコミュニケーションに著しい支障が出る状況になりました。
会議の際の手話通訳も要望しましたが、都合がつかずに手話通訳も付けることができませんでした。

聴覚障害者がマスク着用で困っていることに関して、宇部市の地域協議会の会長「障害者の雇用促進法により合理的配慮をして頂く義務がある」と発言しております。
そして、宇部市の地域協議会事務局の方が「ご本人が、会社に申し入れてほしいということであれば、事務局で改めて詳しくお聞きし、協議会から会社に申し入れをしたいと思っている。」と発言し、地域協議会の会長が「本人が手話通訳を付けてほしいと希望しているので、会社に申し入れをしていただきたい。それが難しいなら、別の提案等により対応していただきたい。」と回答しています。

この事例を見ますと、聴覚障害の方の従業員は、コロナ前は同僚とコミュニケーションできていましたが、新型コロナの「感染症対策」でマスク着用が求められた結果、従業員とコミュニケーションができない「新しい社会的障壁」ができてしまったと言えます。
このような場合は、宇部市障害者差別解消支援地域協議会の会長の方のご発言の通り、「障害者雇用促進法」第36条の3・第36条の4により、この事業主は「合理的配慮の提供」が義務付けられることになります。(障害者差別解消法第13条の規定により、雇用分野の合理的配慮の提供は、障害者雇用促進法の規定によります。)
聴覚障害の方とのコミュニケーションは、「マスクを外す」「マウスシールド・フェイスシールド着用する」「手話通訳を付ける」など代替手段を行う必要性があります。それができない場合は、過重な負担にあたる理由を事業主は具体的に説明する必要性があります。

(2)発達障害当事者の事例
発達障害当事者の方は、お店での買い物が楽しみであるが、マスクができないことにより他の人から不快な視線を向けられるようです。
更にソーシャルディスタンスにも適応できず、並んでいる人に接近したり、割り込んだりするなどして白い目で見られるようです。
最近は少しずつ慣れて、床に貼ってある「立ち位置シール」の上で、待つことができるようになったとのことです。
なお、発達障害当事者の両親の方は新型コロナに感染した場合、障害特性から病院の職員の指示を守れない点などから、入院等は難しいと不安になっています。

この事例を見ますと、マスクができないことが「新しい社会的障壁」となっていることが見受けられます。
発達障害当事者は、マスク着用が難しいことは、当ブログでも複数回取り上げております。
発達障害でマスクできない場合には、マスク非着用で入店を認めるなど、合理的配慮の提供(行政機関等は義務、民間は努力義務※)が必要となります。
※自治体によっては、障害者差別解消法では事業者の合理的配慮提供が努力義務のところ、それを条例により義務としている場合があります。
※令和3年5月28日に障害者差別解消法の改正案が成立し、今後3年以内に事業者の合理的配慮提供が法律においても義務化されます。

マスクができないのが障害など健康上の理由であれば、マスク着用に関してトラブルを起こしたときは、行政機関に躊躇なく相談するのは有効な手段と言えます。その相談事例は、「障害者差別解消支援地域協議会」において共有されることになります。
障害者差別解消支援地域協議会は、全ての都道府県・政令市で設置されている状況にあります。
マスク着用に関して、障害者差別解消支援地域協議会で議題になれば、少なくとも障害者にはマスク着用を求めないという合意形成がなされる可能性も出てきます。

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