次なる旅へ
魔物の査定も終わり、冒険者ギルドから報酬を受けた取った翌日。
俺とエレノアは、次なる目的地であるジュラール帝国へと向かう為に冒険者ギルド本部エグゼを旅立とうとしていた。
元々ここに訪れたのはオリハルコン級冒険者になるためであり、狩場が無いこの街に留まる理由は無い。
用事が終われば、またレベル上げの旅に出るのは必然である。
「剣聖ともここでお別れか。世話になったな」
「ほっほっほ。儂の方こそ世話になったわい。便利な移動手段が無くなったのは痛いが、儂はのんびり帰るとするかのぉ」
「酒は程々にしておけよ?もう若くないんだからな」
「ほっほっほ!!酒で死ねるなら本望よ。お主らこそ、レベル上げに熱中しすぎて死なんようにな」
冒険者ギルド本部エグゼの北側の門の前に集まる俺達は、最後の別れの挨拶をする。
また逢う日が来るかもしれないが、今は一先ずお別れの時。
何度味わっても慣れない旅の別れを惜しみながらも、その先に俺達は行くのだ。
「ジークちゃんもエレノアちゃんも元気でねん。寂しくなったらまたここに戻ってくるといいわ。何時でもアタシとグランドマスターはいるからねん」
「二度と戻ってこなくていいぞ。と言うか、仕事以外の時に戻ってくるな。俺の仕事が増えるからな」
「あらん?そこは嘘でも“また来い”と言うべきじゃないのん?」
「馬鹿言え、お前の相手をするだけでこちとら手一杯なんだよ。少しは俺達ギルド職員の負担になっていることを自覚しろこのカマ野郎」
「失礼しちゃうわん。ジークちゃんはこんな男になったらダメよん?」
「いい反面教師にするさ。マリーも元気でな。ついでにグランドマスターも」
「世話になったわマリー。色々とありがとね。グランドマスターは........まぁ、頑張って」
「俺にだけ適当すぎやしないか?」
そう言って少し顔を顰めるグランドマスター。しかし、そこに嫌な感情は乗っていない。
なんやかんや言っても、グランドマスターはグランドマスターで楽しんでいたのだろう。新たなオリハルコン級冒険者の誕生を1番喜んでいたのは彼だ。
それはそれとして、別れのときですら憎まれ口を叩くような奴に、優しい言葉なんてかけないが。
優しくして欲しかったら、まず俺達に優しくしやがれ。
「一ヶ月の旅、楽しかったです。また縁があればお仕事しましょう」
「またあの鳥さんの背中に乗せてくれよ。最近の自慢話だからな」
「最初は酔って吐いてた癖によく言うよ。気が向いたらな」
「二人もお元気で。また機会があったらよろしくするわ」
丁寧に頭を下げるレイナさんと、ブラッド。
この2人は一緒に飲んだり騒いだりした仲なので、個人的にはグランドマスター以上に思い入れがある。
試験中は恐れられたりもしたが、今はこうして普通に話せるしな。
ちなみに、この2人はかなりエリートのギルド職員らしく、地方のギルドマスターレベルの力を持っているそうだ。
見た感じまだ20代だと言うのに凄いな。
困った時は頼ってくれと言っていたので、何か問題を起こした時は遠慮なく頼ろうと思う。
別れも済んだし次の街へと行こうと歩き始めたその時、グランドマスターが思い出したかのように二枚の手紙を渡してきた。
「あぁ、それとはいコレ」
「なにこれ?」
「2人ともオリハルコン級冒険者として名前が広がり始めたが、パッと見少年少女だろ?それに、二つ名しか広まっていない。国を通る時とか、街に入る時に間違いなく面倒事になるだろうから、俺の直筆の証明書を作っておいた。これで多少は面倒事を減らせると思うぞ」
「へぇ、そんな事をしてくれるとは気が利くなグランドマスター。有難く貰っておくよ」
「いいってことよ。お前達を怒らせて面倒事になるよりかは遥かにマシだからな。イラッとしたからと言って、相手を殴るんじゃないぞ」
「殴らねぇよ........俺をなんだと思ってるんだ?」
「私も殴りはしないわ。魔術で燃やすだけよ」
「........うん。心配しかねぇわ」
エレノアの返答に苦笑いを浮かべるグランドマスター。
どこぞのオリハルコン級冒険者達の様に、エレノアを怒らせたりしなき限りは大丈夫だろう。
問題は意外とエレノアの沸点が低い事だが、俺が頑張れば問題ないはずである。
最悪アレだ、冒険者ギルドを盾に権力を振りかざすとしよう。グランドマスターの負担になるが、そのためのグランドマスターだ。
「んじゃ、行くか。改めて、世話になった」
「またどこかで会いましょう。世話になったわ」
「ほっほっほ。またいづれ」
「再会を楽しみにしてるわん。頑張るのよん」
「お世話になりました」
「またなー」
「二人とも頼むから問題を起こさないでくれよ。俺の仕事を増やしてくれるな」
俺達はそこのオリハルコン級冒険者みたいに問題児じゃないんだよ。
俺はそう思いながらも、暖かく見送ってくれる彼らに手を振りながら門を出る。
「次はダンジョンか。レルベンのダンジョンとは違うのかな?」
「どうかしらね?規模が違うらしいから、かなり違うんじゃない?」
「楽しみだな」
「そうね。楽しみだわ」
そよ風が俺たちの旅路を祝福する中、微かに揺れる深紅と深紫のペンダントが朝日を反射して光り輝くのだった。
【レイナとブラッド】
冒険者ギルド本部に籍を置くエリートギルド職員。オリハルコン級冒険者の相手をさせられることが多く、変人には慣れている。が、変人の系統が違うジークとエレノアには振り回されて大変だった。二人曰く、まだ武神や剣聖の方がマシらしい。
(時間軸はジークとエレノアがオリハルコン級冒険者となってから三ヶ月後ぐらいの話)
ジークの故郷シャールス王国の小さな田舎街エドナスでは、ジークの両親であるシャルルとデッセンが今日も店を営んでいた。
ジークが様々な人と交流を持っていたという事もあり、今では冒険者だけでなく街の人も集まるこの店で、常連のゼパードパーティーは今日も夕食を食べている。
「そう言えば、今日冒険者ギルドから新たにオリハルコン級冒険者が誕生したって報告があったぜ?」
「へぇ?六人目が出てきたのか」
「いや、どうやら二人オリハルコン級冒険者になったらしい。二つ名は“炎魔”と“天魔”だとよ」
「随分と似た二つ名ね。二人同時ということは、パーティーかしら?」
「かもしれんな。まぁ、こんな田舎街の冒険者ギルドには何の関係もない話さ。手の届かない御伽噺に近いからな」
冒険者ギルド本部から送られてきた報告である“新たなオリハルコン級冒険者の登場”。
二つ名以外は何も分からないが、少なくとも自分たちにはなんの関係の無い話だとデッセン達は笑い飛ばす。
本当は自分の息子と娘のように可愛がっていた二人の話なのだが、まさかこんな短期間でオリハルコン級冒険者になっているとは思いもしない。
寧ろ、ここで“うちの子かも”と自惚れる程、デッセン達は親バカではなかった。
「そう言えば、ジーク達はどうなんだ?」
「レルベンを離れる時に送られてきた手紙が最後だな。獣人の国フォールンに行くとか言ったっきり手紙が来ない」
「まぁ、冒険者ギルドが手紙輸送をやってくれるのは国内限定だから仕方がないか。お前の子の事だし、元気にやってるだろうさ」
少し心配そうにするデッセンとシャルルを見て、ゼパードは当たり障りのないことを言っておく。
あの少し変わった子供がどのように成長しているから知らないが、少なくとも何処かで野垂れ死んでいることは無いだろう。
「もしかしたら、この二つ名はアイツらのものだったりしてな」
「あはは!!もしそうなら帰ってきた時に“お帰りなさいませオリハルコン級冒険者様”って出迎えてあげないとね!!」
「フローラの言う通りだ。俺達よりも強くなっちまったジーク達に頭を下げないとな」
「ふふっ、教会を上げて祝福しなければなりませんね」
冗談交じりに笑うゼパードパーティー。そして、それに釣られて笑うデッセンとシャルル。
まさか、本当にオリハルコン級冒険者となったとは、この時誰も思いもしなかった。
そして、死者の師が居ることも。
これにてこの章はお終いです。多くの感想ありがとうございます‼︎今回も沢山感想を貰えて嬉しいです。五大魔境君逃げてとか言われてたけど、五大魔境君動けないから......
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