「口に関するアンケート」考察
「口に関するアンケート」は、2024年9月4日に発行された、
背筋さんによる超短編ホラー小説です。
あらすじは割愛させていただき、本編の考察を記載します。
原作ご一読後に本記事をお読み下さい。
考察
本作は、最後のページの「口に関するアンケート」の最終項(問7)にて
本編の仕組みがわかる仕掛けとなっている。
それは、下記のような文章だ。
問7 前掲の文章を音読後に、大学生5人が霊園の大木の下でロープを首にかけた状態で、あの日のことを語り合い、自分が話し終えて許されると、ひとりずつ台を蹴って自ら命を絶った光景をイメージしましたか?
今回は上記の「問7」をもとに、本編の内容の整理、考察する。
まず、問7における不明点を一つ。
「自分が話し終えて許される」とは、誰に許されるのか
杏である。
なぜ杏によって許しを経て死ぬことになっているのか、出来事と登場人物をもとに考察をする。
登場人物の簡単な整理
杏
肝試しに参加して、呪いの木を見て精神がおかしくなる。後に自殺。
村井翔太
肝試しの言い出しっぺ。杏の元カレ。
未だに杏を諦めきれず、杏の現在の彼氏である竜也に死んでほしいと思っている。その祈りを呪いの木に捧げる。
伊藤竜也
杏の今カレ。肝試しに参加したが、呪いの木は見ていない。
原美玲
杏の友達。肝試しに参加して、呪いの木によって杏が精神崩壊する現場を見ている。
堀田颯斗
オカ研所属。健と一緒に肝試しに行き、首が長くて口から蝉の声がする女を見る。
川瀬健
オカ研所属。颯斗と一緒に肝試しに行き、首が長くて口から蝉の声がする女を見る。
杏、翔太、竜也、美玲の4人、颯斗、健の2人はそれぞれ「別の日時」で
「同じ場所」へ肝試しに行っている。
時系列は4人が先、2人が後である。
まず、本作の全ての元凶は、肝試し先発組の「村井翔太」である。
翔太は肝試しにおいて1番目に呪いの木に向かい、下記のお願いをする。
「もうすぐあなたの前を通るやつがいるので、そいつを殺してください。
羽化しようとして木の幹にとまったものの、そのまま死んでしまっている蝉のように殺してください。」
これは、予定通りであれば、呪いの木の下を次に通るのは
竜也だったからだ。
しかし、実際には竜也は呪いの木の下を通らず、
不運にも竜也の代わりに呪いを受けたのは杏だった。
杏は翔太がかけた呪いにかかり、異常な行動をする。
「上に、上に」と言いながら呪いの木に何度も登ろうとする。
何度も登れずに落ちて、爪がはがれて血が流れているのに、この行動を繰り返す。
この行動は人間としては異常そのものだが、土から出てきた蝉と考えてみるといいかもしれない。
翔太の呪いの「羽化しようとして木の幹にとまる」という部分を
体現している。
その後、杏はこの呪いの木で首を吊ってしまう。
颯斗と健が目撃した不気味な女
2人は、髪が長く、木の根元に穴を掘る不気味な女を見かける。
その女は首の長さが常人の2倍程度あり、大きくあいた口からはセミの鳴き声がする。
この不気味どころではない女は、「首吊り後の杏」である。
女が一生懸命穴を掘り、「地獄は下にありますから。」「高くしないと。」と話す理由
羽化までの10年前後、蝉は地中で過ごす。
翔太の呪いは「何年も土の中にいた後、やっとの思いで地面から出てきて」という部分がある。
"やっとの思い"は、長い時間や多くの苦労を積み重ねてようやく、という意味である。
このことを鑑みて、「長い期間、地中で過ごすこと」は翔太にとって地獄という解釈なのかもしれない。
それは呪いを受けた杏にとっても同様に共有されるだろう。
このことから、杏が穴を掘り、「地獄は下にありますから。」「高くしないと。」という理由は下記の2つが考えられる。
①地獄(地中)から一刻も早く抜け出すために穴を掘っている。
地上で羽化するために、地上を目指して穴を掘っている。
自身はすでに地上にいるのだが、呪いに影響されて自身が蝉だと思い込んでいるのだろうか。
②掘り出した土を盛ることで高さを得たい
穴を掘ること自体が目的ではなく、掘り出した土を盛って
物理的に地獄と距離をとりたいのかもしれない。
女の首が長い理由
首吊りによってだろう。
呪いの木の影響を受けたのか、死してなおゾンビのように動いている。
大きくあいた口から蝉の声がする理由
口の中から声がすること自体には、大きな意味はなく、
ホラーにおける一種のクリシェみたいなものだと思う。
ここで、颯斗と健の周りで蝉が大音量で鳴き始めたのは、
杏が自身を除く5人に呪いをかけたからだろう。
本作においては、蝉が鳴きまくるというのが呪い開始のサインだ。
5人が霊園の大木の下でロープを首にかけた状態で、ひとりずつ台を蹴って自ら命を絶った理由
これが杏がかけた願い、いや呪いだったのだろう。
杏の呪いは「5人全員で私が死んだ原因と、死んだ後のことを話せ。私が許したやつから自死しろ。」だ。
杏は自身が呪われたことを理解していたのかもしれない。
杏に呪いをかけた翔太、杏を助けられなかった竜也や美玲の3人だけでなく、颯斗と健にも呪いをかけた。颯斗と健の役割は、死んで見るも無惨な姿になった杏自身の様子を3人に伝えるためだったのかもしれない。
5人全員を呪いの木に集めて一人ずつ話をさせ、杏がその話に満足すれば話し手は自死する。杏の呪いは無事に成就した。
所感
背筋さんらしい、ちりばめられた点が最後につながる気持ちのいいホラーだった。だが、伏線がわかりづらいため、問7を見てもその突飛さに「?」となる気持ちが少々あった。本作はストーリー的にも物理サイズ的にも大変コンパクトで、本に対する抵抗を生まない。普段ホラー小説を読まない方の足掛かりになるように思う。
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