成果焦り、後絶たぬ研究不正 実績求めハゲタカ誌投稿
科技立国 動かぬ歯車(1)
研究力低下への危機感は国や研究現場に広がるが、再興への歯車は動き出さない。国はイノベーションを重視し、トップダウンの大型予算や拠点づくりを進めたが目立った成果は出ず、空回りが続く。国際的な潮流の研究者のダイバーシティー(多様性)の面では後れを取る。研究不正は後を絶たず、足元は揺らいでいる。
- 【次回記事】追い込まれる女性研究者 両立難しくキャリア断つ
1人の医師による研究不正が、がんの「先進医療」となった臨床研究に影を落としている。8月に大阪大学と国立循環器病研究センターが発表した論文の捏造(ねつぞう)や改ざんだ。
臨床研究は肺がん患者にホルモンを投与し、再発を減らす効果などを調べる内容で、厚生労働省から保険診療との併用が可能な先進医療に認められている。その参考文献に、不正があった論文の一つがなっていた。
治療の有効性の根拠となる結果を記す論文にも疑惑があり、
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(更新)- 池上彰ジャーナリスト・東京科学大学特命教授ひとこと解説
大学の基礎研究への資金が減少し、大学で職を得ようとしても任期付きという不安定な条件の人たちが増えています。任期が切れる前に実績を上げようと焦っている研究者が多数いることも事実です。実績を上げようとするあまり、「学術誌」と名乗っていれば、つい投稿したくもなります。 不正はいけないに決まっていますが、「不正をしないように」と呼びかけるだけでなく、研究者が安定した立場で研究に専念できる環境づくりが、不正防止につながっていくために必要だと考えます。
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(更新) - 中室牧子【エキスパート歴】2020年12月~2024年10月別の視点
研究不正が問題なのは言うまでもない。しかし、現在の国の研究資金や研究委託事業における支出は、不合理な制約が多すぎ、明らかに研究者の生産性を押し下げている。大学のが定める様々なルールの数々も然り。不正防止のモニタリングコストが、不正が実際に生じたときに発生するコストを上回ってしまっている。国と大学が定める、不合理、硬直的、大量のルールの間で、研究者だけが柔軟性と成果を求められる。不正を起こさせないための仕組みが、却って不正を引き起こす誘因を作っていないか。研究不正に歯止めがかからないというのであれば、研究者個人のモラルのみならず、現行の制度の何が問題かをきちんと分析し、改めることが重要だ。
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(更新) - 山崎俊彦東京大学 大学院情報理工学系研究科 教授分析・考察
理学・工学系で不正が少ないのは基本的に再現実験がしやすいからだと考えます。さらに、ソフトウェアを扱う分野では、ソースコードやデータセットのオープン化や論文投稿時のそれらの開示なども進んできています。それでもたまに「著者のソースコードをダウンロードして実行してみたけど論文に書いてある数字が再現できない」というのは少なからずあるのも事実です。一方で、ビジネスに深く絡む技術だとデータやソースコードはオープン化できないわけですが、それを否定的に捉える研究者も一定数いて、そのせいで論文が不採録になる事例も少なくありません。
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