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コミックスマート社・GANMA!の契約について元作家として願うこと

※10/9追記・著作人格権を「放棄」ではなく、「行使しない」が正確な表現であったため、その点を訂正いたしました。

GANMA!で連載準備をされていた宇津江広祐先生のツイートを見て、元専属作家として心が傷む部分が多かったので、私が現在言える範囲のことをここにまとめておこうと思います。
この記事はコミックスマート社の告発記事としてポストするものではなく、今後GANMA!を続けていくのであれば、元専属作家としてぜひここを改善をしてほしいという要望と、コミックスマート社との契約前段階の作家さんに知っておいてほしいことをここに辿り着いてほしいという気持ちで記事をまとめます。

前提として、コミックスマート社の専属契約とは

GANMA!の連載作家となるには、「RouteM」という専属作家契約と、「連載作家契約」の2つがあります。

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https://routem.jp/faq/  より引用

RouteMについての詳細についてはコミックスマート社のRouteMのページがあるので、そちらで詳細を読むことができますが、今回のようなケースだと、このホームページ上だけでは認識できない部分で作家さんを大きく消耗させたのではないかと考えています。

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https://routem.jp/  のHP

RouteMはいわゆる他社出版社の専属作家契約と大きく異なる

これは私が体験し、GANMA!編集部経由でメディアからインタビューを受けた際にもお答えしていた公開情報ですが、
RouteMは原稿料ではなく、月額固定の金額を作家さんのステージに合わせてお支払いする契約で、月額固定の報酬を保証する代わり、著作人格権は行使しない条項などを求められます。その他、専属契約期間中に個人で受けるイラストオーダーや外部からの執筆依頼等も、GANMA!編集部と作家で決められた割合で分配する契約になっています。

この契約スタイルは、従来の出版社のような専属作家契約と言うより、芸能事務所やゲーム会社のグラフィッカーと似たような職務著作的な契約方式だと私は認識しています。たぶん、編集部側からここの事前説明が欠けているため、今までの漫画文化に親しんだ読者の方々や、知財知識に詳しくない漫画家さんが混乱し不満を抱えやすいネックとなっているのだと思います。

私は当時RouteM1期生として専属契約をしており、この条項に納得して契約しましたが、まあ当時を知る方はご存知だと思われますが色々と想像を超えるカオスな出来事があったため、結果的に現在連載作品を引き上げ、連載していた作品の著作権は私の帰属となっています。

ちなみに私が契約していたころのステージ1は、ネーム制作段階(連載前)でも月額5万円が支給、連載開始でM2に昇格し10万円、という値段設定なので、当時より待遇はよくなったのかな?とは感じています。

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https://routem.jp/support/ より引用

RouteM(専属作家契約)と連載作家契約の2つのメニュー

今回、宇津江広祐先生のケースだと、RouteM契約なのか連載作家契約のどちらを選択なさったのかわからないのですが、RouteM契約であると連載準備中も10万円が支給されるはずなので、連載作家契約で進められていたのかな?と思います。
仮にRouteM契約であるのに、連載準備期間の報酬が発生しなかったのであれば弁護士の方とそこを争点に交渉できる余地はあるのかなと思われます。
もしくは、RouteM契約を締結する前に連載ネームを描かせる運用になっていたとしたらこのシステムのメリットがほとんどなくなってしまうため、編集部側の運用に問題があったのかもしれない、と思います。

RouteM契約と連載作家契約の2つを選べる理由

元々GANMA!はRouteM契約のみの運用でしたが、既に他誌での掲載実績があったり、他の連載を持っている作家の方がGANMA!で連載される時のために、著作人格権の放棄をしなくてもよい「連載作家契約」ができたと当時記憶しています。

そして私が当時、漫画家協会理事の赤松健先生のお力をお借りして、著作人格権の放棄を漫画家に強制する運用を辞めるよう交渉をし、結果的に私の著作ミリオンドールの著作権は現在私のもとに帰属しています。

赤松先生の交渉の結果、「本当は今後の漫画業界のためにも、著作人格権の不行使を強制する契約をすべてやめさせ、原稿料契約としたかったけれど、現在RouteM契約中で著作人格権不行使と引き換えに安定した月額報酬を望む作家さんもいるため、「RouteM契約」と「実質著作権譲渡をしない連載作家契約」と2つのどちらかを作家さんが選べるように運用するように、という妥協点になりました」と報告をいただきました。

なので、作家さんが契約する前に、2つの契約メニューがあるという説明を編集部側がしていなかった、もしくはRouteM契約のみをさせる予定で連載準備を契約前に進めていたのであったら、当時赤松健先生が漫画家協会として交渉した内容が守られていないことになります。

連載作家契約について

連載作家契約についての詳細は私は存じないのですが、もし宇津江広祐先生が連載作家契約で進めていたとして、「契約を修了したとしても編集部が作品の独占的な利用を永久的に継続させる」という条項があるのは初めて知りました。
コミックスマート社は、Web広告やソーシャルゲームを展開するセプテーニホールディングスの直轄事業からスタートした広告代理店の色合いの強い会社です。
おそらくこういった条項は、ゲームなどのイラストレーターさんであれば盛り込まれることが多いのではないでしょうか。
ゲームのように共同制作であり、職務著作であり、使われる期間が長いコンテンツはそういった条項を求められることは確かに納得感がありますが、それをほぼ属人的な創作物に等しい日本のマンガにも適用してしまうところに、当時漫画家協会や赤松健先生が危惧していたポイントがあると感じています。

私と漫画家協会で行ったのは専属契約解除のための交渉だったため、連載作家契約の内容についてはほぼ把握していない状況でした。
漫画家として納得感のない条項だとは思います。当時私の戦いでは自分の作品を守るために、漫画家協会と利害を一致させ交渉することで精一杯だったため、後続の漫画家さん方の待遇が結果的に良くならなかったのであれば、1期生として戦いきれなくて申し訳ないという思いがあります。

今後コミックスマート社に求めること

前提からお話ししていた通り、私は当初は納得してRouteM契約をして、RouteMが掲げる「漫画家を子供たちがあこがれるような職業に」という理念に共感し、そのためにこういった契約システムになっているということに共感していましたし、スマホアプリで漫画連載することが当たり前ではなかった時代の先駆けを盛り上げることにとても将来性を感じていました。

何も前例のない1期生としてどうなるかわからないRouteM契約をして、当時の編集部が手探りで「IT系の会社が漫画編集部になるんだ!」という気持ちで毎日アプリ開発をすすめ、漫画業界を知るために奔走していたことを、毎日編集部に通って近くで見ていた者として、契約交渉時に作家さんにフェアな契約ができるよう尽力した者としては、今コミックスマート社に失望している作家さんや読者さんが多くいる状況がとても悲しいと思っています。

コミックスマート社や編集部はもう一度その理念を思い出して、本当に作家さんが漫画家としては特殊と言える契約を理解し、納得して契約ができているか、作家さんが満足できる支援を提供できているか、ぜひ見直していただきたいです。
漫画家側の交渉に対して、法務部の提示する契約書を調整交渉する姿勢すら見せない現状だと、不満を持つ作家さんも当然出てきますし、優越的地位の濫用にもつながりかねません。
ここが説明不足だったり、作家目線から見て納得できる対応ができていないため、失望されてしまっているのではないかと私は感じています。
なので、私は批判がしたいのではなく、GANMA!に良くなってほしいのです。

当時色々なことがありましたが、大手出版社で長く下積みを経験し、読み切り掲載以上の競争を勝ち抜くことが難しかった私が初めてGANMA!で連載作を持てて、アニメ化、単行本化、ドラマCD化までできたことは、今でも本当に感謝しているんです。
だからこそ、共感していた理念が10年たった今でも形骸化してしまっていることがとても悲しく思っています。
元GANMA!作家として、本当に良くなってほしいと願っています。

今後GANMA!で連載を検討中の作家さんへ

①専属契約(RouteM)で契約する場合は、作品は自分のものではなく編集部のものとなり、自由にSNSや同人誌に自作を発信すること、他の画業を受けることも一定の制約がありますが、急病による休載時も固定の月額報酬が保証されており、安定した生活を送ることができます。このリスクリターンを納得した上での契約をおすすめします。

②連載決定の通知を受けた後、連載準備に入る前に、必ず契約書のドラフトを要求してください。私の時代は事前にドラフトをいただけました。
また、提示されているのは連載作家契約なのか、RouteM契約なのか、契約の種類を確認してください。
契約の内容を自分だけでなくプロや他者に見せて、納得した上で契約してください。

最後に、これは私が当時契約していた時の現状をベースに書いており、現状は変わっている部分もあるかもしれません。その点はご了承いただければ幸いです。

私はこの件に関して自分をいち被害者とは思っておらず、最終的に対等に編集部と交渉した結果、現状の編集部に対しては他の作家さんとも対等に改善してほしいと願っている一人の作家として記事を書きました。
一方的な炎上や過激な批判を招くことは望んでいません。望むことは編集部の改善だけです。どうぞよろしくお願いいたします。

追記:
私も交渉の結果、コミックスマート社からアニメ収益金を受け取れるようになり、このたびの不手際を謝罪いただきましたのでご報告します。

※全文無料にしているため、ここから先は有料部分ですという表記がありますがこの先の有料部分はありません。

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