吾輩はアトラル・カである。アトラル・ネセトになる予定はまだ無い   作:美味しいラムネ

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 女王、現大陸に現着後299秒でギルドに発見される。もう終わりである。

 「ピギャアアアア(へくちっ!)」

 急にくしゃみが出たのである。誰かが吾輩のこと噂しているのであるか?

 「新大陸で変な風邪でももらってきたんじゃ無いの?」

 「ピギャアアアア(狂竜ウイルスすら平気な吾輩が風邪をひくことってあるのであるか...?)」

 色々注目されている女王様は、鬱蒼と茂った森の中で密会と洒落込んでいた。その外装の輝きは100万ゼニー。密猟者すら近寄り難いオーラを放っている。

 「何ちゃらは風邪を引かないって言うしね。本当、どうして自分から魔境に突っ込むんだか...びっくりよ」

 「ピギャアアアア(いや、吾輩からすると、新大陸から帰って間も無いのに師匠に捕捉されている事が驚きなのであるが)」

 「...その、貴女ギルドに捕捉されているから、割と動きが筒抜けというか...その、頑張ってね?」

 「ピギャアアアア(は?)」

 衝撃。もう吾輩にはプライバシーが無いのかもしれない。え、黒龍バレしてないよね?歩く禁忌バレてないのであるよな!?
 アルバトリオン関連もバレていたら終わりであるよ!?

 「あと、私も私でギルドナイトと追いかけっこ中だから、迷惑かけないうちにお暇させて貰うわね」

 でしょうね。師匠、もうさっさとギルド抜けて吾輩の護衛やらない?昔の友人に迷惑がかかる?そっかぁ...人生、ままならないものであるなぁ。吾輩蟲だけど。
 





 

 ギリギリ前回投稿から1週間超えてないので初投稿です
 


現大陸編②
吾輩はアトラル・カである。キュリアに進んで寄生されるハンター、怖いのであるよ


 

 この世界における最強は、疑いようもなく、『煌黒龍』で()()()

 

 ──何が全ての龍の祖だ、忌々しい。

 

 煌黒龍は疑い様もなく人類の敵だ。

 全ての生物の敵だ。しかし、侵略者では無い。理解し難い存在ではあるが、この星で生まれた、究極の存在であることは否応なしに理解できる。

 

 ──この星は全て、我が縄張りである。

 

 故に、自身に迫る存在には、裁きを齎す。狭い領域から出ない荒厄竜と争うことはないが、それ以外の存在は悉くを喰らい尽くしてきた。

 しかし、むしろそういった存在は好ましいとさえ思っている。我を討伐した狩人達、角を折った蟲の女王と古龍の天敵。思ってしまうのだ。嘗ての運命の戦争──世界の趨勢を決めたあの争いに、彼ら彼女らがいれば全てが変わったのかもしれない、と。

 

 長いこの星の歴史の中で一度だけ、煌黒龍が人の側に立った瞬間が──現存する人類とは種族が異なるが──ある。無論、望んでそうなったわけではなく、敵が一致しただけのことだ。人という種族にどうこうという感情は全く無い。

 

 ──しかし、アレらには未だ敵わず。あぁ、忌々しい。

 

 時空間を超えた先にいる存在。何を成すために動いているのかも、何を求めているのかも。全てが理解不能。ただ『世界全てを敵に回してなお有り余る強さ』だけが事実としてそこにある。

 

 外なる領域から来る龍。あぁ、忌々しい。

 いずれその喉元に牙を突き立てる日がくる。それまで、精々踏ん反り返っているがいい、黒龍よ。

 

 龍は神域で微睡む。あぁ、なんて哀れなんだろう。彼女は彼の龍に目をつけられている。

 

 ──彼女を中心に、世界が大きく動いているのか、それとも人類を中心に動く大流を、彼女が加速させたのか

 

 何にせよ──運命の日は近そうだ。

 

 

 

 

 

 

 ある狩人は思った。

 「何だこの持って帰った武器。めちゃくちゃ強いぞ」と。我らの団のハンターが見たらどこでそれ拾ったと目の色を変える逸品だ。

 そして、こうも思った。

 

 次に出会った時、彼女に勝つことは出来るだろうか、と。

 気づかないうちに、額に汗が伝った。

 

 負けることはない。だが、勝つことは...出来るのだろうか?巨龍を倒す方法も、神話の怪物を倒す方法も知っている。だが...人類史を燃やし尽くす方法なんて知らない。

 

 (見逃した側がいうことじゃ無いけどさ...現大陸は何やってるのさ)

 

 彼女が飛び去った方角を見つめる。

 

 

 

 

 

 

 ♦︎♦︎♦︎

 

 

 

 

 

 

 

 吾輩はアトラル・カである。吾輩の命は風前の灯火かもしれない。

 師匠、別れたばっかりであるけど救援要請である。ここ、想像以上に魔境だった。何処かの誰かに「どうしてカムラの里を候補から外したのか」「何故カムラの里じゃ無いと思ったのか」と言われている気がするのである。

 

 「ピギャアアアア(ブンブジナが居る時点で気がつくべきだったのであるよ...)」

 

 でも、人間は勝手に最悪の事態から目を逸らすものなのである。吾輩、未だに信じたく無いのであるよ。

 神が去りし、廃忘の社。百竜夜行によって捨て去られた、嘗ての栄華の上には、何も無し。唯自然に飲み込まれ、栄華は見る影もなく。

 和風建造物の遺構が残るこの場所を吾輩は知っている。

 

 大社跡。ライズで何度もお世話になる場所である。つまり、魑魅魍魎が跋扈するカムラの里が山を何個か抜けた先にあるという事である。

 

 ──安息の地は何処

 

   安息の地は何処

 

   吾輩はただの蟲── って感じであるよ!イヴェルカーナと怨嗟マガドが克服バルクと肩組みながらタップダンスしている土地に吾輩を放り込むな!!

 というか、時系列的に今どこか、というのが重要である。奈落の悪魔は倒されたのか、破滅の龍神は倒されたのか。あいつ、前世でも苦手であったから会いたくないのである*1

 下手したらRISE直後の可能性もあるのである。というかそうであって欲しい。育つ前の主人公なら多分逃げ切れ...ないな機動力は歴代屈指であるもんな、猛き炎。ガルクに翔蟲。でも、糸の使い方は負けないのであるよ、吾輩。

 

 「ピギャアアアア(お空綺麗...はっ!吾輩今意識が飛んでいたのである!)」

 

 これも全部ガイアデルムってやつのせいなんだ、間違いない。

 はぁ、心労が。直近にやった作品の舞台ってこともあって緊張感が凄いのである。それに、流石にこれだけ長い間この世界で生き続けていればわかることがある。

 この世界は現実だ、ゲームほど甘くはない、と。志半ばで死んだ狩人を見た。大自然の脅威とは何度も向かい合ってきた。

 

 それだけに、カムラの里が恐ろしい。全員が戦えるとか何だよそれ悪夢であるか?絶対に近寄らないのであるよ。モンスター目線、製鉄技術と狩りの技術がどちらも発達した里とか悪夢であるよ。その技術は欲しいのであるが。

 

 「ピギャアアアア(あぁ、どんな時もアイルーは心を癒してくれるのであるよ)」

 

 どれだけ危険な環境に置かれていても、お腹は減るのである。

 今日のおやつは...折角だしお団子にするのであるよ。うさ団子、うさ団子は全てを解決するのであるよ。狩人のみんな!オネガ芋練りは途中で食べても意味ないのであるからな!

 

 熱々のお餅をこねこね。あくまで見た目だけで効能は発動している気はしないのであるが、美味しければ気にしないのである。

 周囲のアイルーも興味津々で吾輩を見ているのである。こら、そこ。つまみ食いはダメであるよ。あとで配るから。

 

 剥いた栗を細かく砕いて練り込んだ、ほのかに甘いめちゃふせ栗だんご。茶葉っぽい植物を練り込んだ、抹茶味の緑が映えるトリモ茶だんごに、ふっか月見だんご。優しい味のヨモギのように高速で正確に串を飛ばしたり、エルガドのアイルーのように餅を一瞬で切り刻むことはできないから、糸を使ってゆっくり込めて串に刺して出来上がりである。

 

 「ピギャアアアア(ほかほかもちもちのお団子であるよー...妙に多いなアイルー!?)」

 

 どこから集まってきたのか、と言うぐらいの数のアイルーが集まってきているのである。ほら、ちゃんと並びなさい!数があるから!

 

 癒しであるなぁ、アイルー。吾輩が舐められているというのは置いておいて。まぁ、アトラル・カって生物的には格が低いのであるからなぁ。人間と同じで環境と装備で戦う生物である。

 そういえば、改造されたアイツ以外に同族を見た覚えがないのであるよ。まぁ出会っても気まずいだけなのであるが。

 

 にゃーにゃー鳴いているアイルーを眺めながら思う。このまま平和に生活できるのが一番だと思うのである。

 

 と、思っていたのであるがなぁ...

 

 

 

 「ピギャアアアア(絶対に許さないのである!ガイアデルム!!!)」

 

 

 紅色の蛭の様な生物が、グロテスクな体に似合わない蝶の翼で空を舞う。人を狂い死なせ、竜を獣に落とす奈落の残穢。

 

 それに取り憑かれた獣が踊る。

 竜の女王は、それを見て目を細め、悲しそうに剣を振るった。

 

 

 

 ♦︎

 

 

 

 元の優しかったお前に戻ってくれ、アオアシラっ!いや優しいかは微妙であるが。

 体が赤黒く染まったアオアシラの攻撃が地面に激突すると、地面が揺れた。通常のアオアシラからは考えられないほどの剛力。

 

 おやつを食べ終わって、ゆっくりしていたら突然辺りが静かになった。それも古龍が現れた時とも違う、気持ち悪い静けさだった。

 妙に体に絡みつく空気を振り払いながら、周辺を探索していると、そこには1匹の傀儡がいた。

 

 「ピギャアアアア(一旦落ち着くのであるよ!おい!)」

 

 あぁ、狂竜化した生物と同じだ。感情が伝わってこない。痛みだけがそこにあるのであるよ。

 

 川底が捲れ上がり、水滴が雨のように降り注ぐ。

 べ、紅兜を彷彿とさせる強さであるな、こいつ。

 

 「ピギャアアアア(ほら、お前はちみつ好きだっただろう...あぁ、はちみつだけ分取られて殴られた!)」

 

 『傀異化』による暴走状態。宿主を失ったキュリアが、生き延びようとあがいた結果、適応できるはずもないモンスターに無理やり寄生した結果発生する、極限の状態。要は狂竜化と同じ、命を燃やした寿命の前借りだ。

 

 悍ましい赤い粒子が空に浮かんでは消えてゆく。

 

 亡者か、悪鬼か。恐ろしいのであるよ...古龍やそれに準ずる竜が強いのは理解できる。しかし、本来なら持ち得ない実力を無理やり引き出されている姿は痛々しいことこの上ない。

 

 大楯で爪を防ぐ。みしり、盾が軋む音がする。拳が割れた音がする。

 宿主を殺して、次は誰に乗り換えるつもりだ、お前は。

 

 大砲の砲撃で肉が弾け、炎に全身が焼かれ爛れてもなお暴れ回るアオアシラ。

 

 「ピギャアアアア(消え失せるのであるよ)」

 

 クシャルダオラの頭部を模した大砲から、周囲のものを吸引する冷気の竜巻が放たれる。

 キュリア達を引き剥がそうと放ったそれは、更に体から命を吸い上げることで耐え凌がれる。

 

 「ピギャアアアア(生きるのに必死か。吾輩もだよ)」

 

 

 最近、森が妙だとアイルーが言っていた。

 妙な紅い悪魔に取り憑かれると、死んでしまうと言っていた。

 キュリア...お前は結局、邪魔者でしかないのであるよ。

 

 「ピギャアアアア(還るべき場所を無くしたのなら...もう、止めるのであるよ)」

 

 まともに戦ったら苦戦は確実だったであろう偽りの生命力と、狂った剛力。しかし、吾輩はまともな相手ではないのであるよ。

 究極の一は手元になくても、最上の万を以て敵を圧殺する。故に吾輩は負けない。

 

 突進に剣尾を割り込ませ、ハンマーで叩きつける。狩人の傀儡が全身を埋め尽くすように集り、一切の反撃をとどかせない。

 

 これ以上苦しむことがないように、一撃で優しく葬り去る。

 かしゃかしゃという音と共に、取り出された黒い物体が変形する。それはアオアシラの体よりも大きな弩砲へと変わる。

 艶やかに煌めく黒い砲身に、冷気が充填される。『黒翼超弩』が、その照準を頭部に定める。

 アオアシラは、絶叫を上げながら青い光を放つ砲身へと駆けた。

 

 「ピギャアアアア(おやすみなさい)」

 

 冷たい風が、アオアシラを抱きしめる。

 瞬きする間もなく、氷像が出来上がる。痛みすらなく、ただその命を天に召し上げる、煌黒龍の裁きの風。

 そこには銀世界が広がっていた。

 

 氷漬けにされたキュリアが地面に堕ちる。全ての生物は、最後には還るべき場所(大地)へ。

 

 残ってしまった数匹が、吾輩に寄生しようと近寄ってくる。

 

 「ピギャアアアア(近寄るな、キュリア!!!)」

 

 吾輩の咆哮が、キュリア達を叩き落とす。吾輩、おさわりは禁止であるよ。そういうサービスは当方実施しておりませんので...

 

 粒子の消えた空を眺める。おそらきれい。

 はぁ...キュリア...傀異化モンスターが出現しているのであるか。はぁ...本編クリア後じゃねえか時系列!?まずい、猛き炎が最終形態になってる可能性が高いのであるよ、勘弁してくれ!

 

 

 「ピギャアアアア(吾輩は悪い蟲じゃないのであるよ!!!)」

 

 

 吾輩みたいな人畜無害なただの蟲相手に世界が厳しいのであるよ!偶々訪れた地域が絶賛バイオハザード中とかびっくりであるよ!

 

 

 

 

 

 

 

 ♦︎

 

 

 「頭...が...」

 

 『共鳴』という現象がある。それは血を分けた姉妹であったり、強大な古龍であったり。不意に、誰かの思念に共感してしまう現象だ。

 イブシマキヒコも、ナルハタタヒメも去り、この現象は終息したと誰もが思っていた。

 

 それは、アトラル・カがカムラの里の近辺に見られた直後のこと。

 突如として、ヒノエが苦しみ出した。それはかつて、イブシマキヒコと共鳴してしまった時のように。

 

 安息の地は何処、という思いが口から漏れた。

 かと思えば突然目を見開き、叫んだ。

 

 「近寄るな、下郎!」と。

 高貴なもの特有の覇気と共に伝わってきた情景は、キュリアを叩き落とす女王の姿だったと後にヒノエは述べている。

 

 龍の伯爵は己が領地を守るためにキュリアを討伐した。それと同じことを女王は為したのだ。

 

 シャガルマガラが人知れず現れた時も、そこにアトラル・カは現れた。世界を脅かすジーヴァが現れた時も、突然アトラル・カはそこに現れた。

 そして、キュリアが暴走する場所へ、アトラル・カは現れた。これが偶然なわけがない、この情報を得たギルドの研究員たちは研究を重ねることとなる。

 世界のどこにでも突然現れるアトラル・カ。その脅威は膨れ上がり、その影は理解しようとすればするほど深まっていっていた。

 

 なお研究したところでわかるわけないのである。世界全てが縄張りである古文書に記された竜の女王である、とか完全な勘違いである。

 

 尚、ヒノエはこのあと「うさ団子おいしい」という思念が伝わってきたとも述べた。怪電波を受信したのか、それともうさ団子大好きヒノエ側が逆に思念を送ってしまったのかは目下研究中である。

 

 

*1
初見35乙




 感想、評価、誤字報告などありがとうございます!大変感謝しています。

 定期的に怪電波を送りつけられる事になるヒノエさん。

 研究すればするほど恐怖が増してゆくギルド側。掘りすぎて鍋の底貫通した結果底無しになっているのである。

 このペースでネタを消化していくと間違いなくワイルズ発売までに一回失踪してしまいそうですが私は元気です

次の番外編で使うかもしれない(エイプリルフールでつかうかも)

  • 掲示板if②
  • 擬人化if
  • vsアルバトリオン
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