吾輩はアトラル・カである。アトラル・ネセトになる予定はまだ無い 作:美味しいラムネ
初投稿です。
...隙を見て、カムラの里まで逃げさせてもらったニャ。助けてもらった恩はあるけどニャ、それ以上に全身凶器すぎて怖かったニャ。
釣った魚も(釣れてない)ほっぽり出して逃げてきた事で肩を落としながら、トボトボと歩いていると急に後ろから話しかけられる。
「大丈夫でしたか?観測隊の報告によると、あの辺りで『嵐龍』の目撃情報があったそうですが」
...普通に里の危機じゃないかニャ!?
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夕暮れ時。曇り空の下。
少し肌寒さを感じる今日この頃。暖かい料理が美味しく感じるのである。
肉の焼ける音がする。美味しそうな脂の香りが夜の空に溶けて行く。
甲殻と皮を剥ぎ、切り分けられたラギアクルスの肉が、鉄板の上で焼かれていた。
「ピギャアアアア(始めは揚げ物にしようと思っていたのであるが...焼肉の気分になったのであるよ)」
ラギアクルス一頭分の油は勿体なさすぎるのである。
ラギアクルスまるまる一頭を豪華に使った焼肉。なんて贅沢なんであろうか。実はハツが1番美味しいというのは内緒であるよ。
火山椒の実に、ペタリンゴやらニンニクやらその他多数を混ぜた特製のタレをかけて召し上がれ。実に満足感のある晩ごはんである。
さっき助けたアイルーにもご馳走してあげようとか思っていたのであるが...どこかに行ってしまったのであるからなぁ。
まぁ余った分は干し肉にでもすればいいのである。食糧の貯蔵は生存に不可欠であるよ。
焼肉をぱくつきながら、別の糸を使って甲殻や皮を使いやすく加工する。ちゃんと肉や脂を綺麗に取るのが長持ちの秘訣である。そしてこの甲殻の内側を糸や瓦礫などで繋ぎ合わせて、ラギアクルス人形の完成である。新大陸で随分とストックが減ったのであるからなぁ。少しの素材も無駄にしちゃいけないのである。
乱獲して補充?そんなことしたら死まっしぐらである。黒龍と英雄が肩組んでタップダンスしながら殺しにくるのであるよ。それに環境のバランスが崩れたら吾輩も生活しにくくなるし...
焼けてきた、腿の方の肉を器用に糸で掴み、タレにつけて口に運ぶ。肉厚である。多少火が通ってなくても胃が強いので吾輩なら余裕である。
「ピギャアアアア(それにしても、静かであるなぁ)」
イズチ1匹すらいない。いつもなら残飯を集りにイズチやらジャギィやらがくる頃合いであるが。
肉に巻こうとして取り出した、食用の葉っぱ(名称不明)が風に飛ばされる。勿体ない。
随分と風が強いのであるなぁ。明日は嵐かな?どこか雨宿りできる場所を探さなければならないのであるな...
風が強いから巣に篭ってるのであるかな?...いや、違うのである。
どんどん風が強くなっていっているのである。小型モンスターなら吹き飛ぶレベル...あぁ、ガーグァが空を飛んでいる!?
見えないところまで吹き飛ばされていったのである。これもまた大自然。
多分これかなり不味い状況だと思うのである。小型モンスター1匹いない夜。まぁ無いわけではないのであるが。
その...だんだん風が強くなってきている気がするのである。しかも、何か恐ろしいものが近づいてきている気がするのである。
風が強い。小石がパラパラと顔に当たる。雨の音が近づいてくる。
天候が変わるにしては、妙に速すぎる。
え、嫌だ。すっごい嫌だ。流石にもうわかるのである。多分古龍とかそれに類する何かが近づいてきてるのであるよ。それも察知する暇すらないほどの速度で。
脳裏によぎる、かつての強敵たち。2度と戦いたくないのである。
さっさと逃げた方が良さそうであるな。よし、じゃあ逃げ...
逃げ、
あぁ
これ...うん
もう手遅れであるな!!!!!
風は、飛び立つ余裕がないほどの暴風へと変わりつつある。
吾輩の晩ごはんが風に吹かれて、天へと消えて行く。吾輩の晩ごはんが!!!
いや、それどころじゃない...上...いや横ッ!
粘菌の爆発を利用して、自身の体を勢いよく横へ弾き飛ばす。
次の瞬間、吾輩の立っていた場所が無くなっていた。
横へ落ちる竜巻。風が、大地を消し飛ばした。
ぽつり、ポツリと雨が降り出す。
「ピギャアアアア(...吾輩、何か悪いことした?)」
一生に一度出会えれば運がいいほどに希少な存在。それが古龍。それが、どうしてこれほどの頻度で?それも少しづつ頻度上がってきている気がするのである。半年に一回とかのレベルで出会ってるのである。勘弁してくれ。どうして楽しく生きたいだけなのに吾輩はこういう目に遭わなきゃいけないのであるか?
古龍とは、意思を持った、形を持った自然そのもの。
通り道にいたから。理由はそれだけ。
ふわりと宙に浮く、それは嵐だった。嵐
空を泳ぐ龍は、圧縮された水をレーザーの様に解き放ち、大地を薙ぎ払う。
鉄が、切れた。三重装甲が抵抗すら見せずに分解され、瓦礫を貫き、メインの外装に迫った。
バルファルクの装甲と拮抗したそれを、吾輩の骨を軋ませながらもなんとか貫通せずに弾き切る。
知っているのであるよ、お前の名は。
『嵐龍 アマツマガツチ』。
龍気を放出しながら、大いなる災いと向かい合う。
隙を見つけて逃げ出す。幸い、向こうも吾輩を全力で殺そうとはしていないのである。だったら、下に見られている間に逃げ延びる。
それでいい、勘違いするな、勝とうと思うな。吾輩が今まで生き残ってきた理由は、運が良かっただけだ。バルファルクとの戦いは、あいつらがいなければ死んでいた。ジーヴァとの戦いだってそうだ。ネルギガンテが来なければ負けていた。
食事時のリラックスから、一気に思考のギアが戦闘用のものに切り替わる。緩急で風邪をひきそうであるよ。
「ピギャアアアア(どっかへ...行けっ!)」
嵐を飛び越え、宙に展開した幾百もの剣を撃ち放ち、嵐ごと、アマツマガツチの背中をぶん殴る。
そこから放射状に展開されたのは、狂竜エネルギーの極光。さらに二度、三度と翼脚を槍の様にして撃ち放つ。
人形数体を犠牲に、吾輩の体を飲み込んであまりある太さの暴風の槍を避け、お返しに放つのは大砲から放たれる無数の榴弾。
立っているだけで気力が奪われるほどの暴風。
これで、まだ全力ですらない。様子見未満の状態。
嵐に吹かれた撃龍槍が、ギチギチと軋む。
突然理不尽に殺されてたまるか!
吾輩は絶対に生き残ってやる!
舞うは嵐。
地面を蹴り、回転しながら相手の全身を切り付ける。鬼人空舞の如き連撃と同時に、大剣についていた臨界した粘菌が爆発し、隈なく全身を揺らす。
反撃の突進を大楯でいなすが、それだけで糸がちぎれ飛び、殺しきれなかった衝撃が体を揺らす。節がイカれたんじゃないかと思う。
奏でるは災禍の調べ。
風が装甲の隙間を流れ、笛の音のような音が鳴る。
ティガレックス型の竜機装を顔面に突き出し、その大音量で脳を揺らす。
少し怯んだだけで、女王は攻勢に転じるよりも速く凄まじい速度で尾が振るわれる。
本当にさぁ!
撃龍槍を投げつけ、そのまま距離を詰めてアッパーを顎にぶち当てる。
「ピギャアアアア(さぁ、一曲踊ってもらうのであるよ、アマツマガツチ!)」
なお、その心の中は「頼むから蟲に構ってないでどこかに行ってくれ」という感情でいっぱいである。
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クシャルダオラ型の砲身から放たれた逆回転の竜巻と、アマツマガツチの竜巻がぶつかり合う。一瞬だけ相殺しあったその隙に、バチバチ爆弾独楽を投げつける。
後を追いかけるように、ラギアクルス人形が突進し、独楽ごと散らされる。
ダメかもしれない。
アマツマガツチ、だんだん本気になってきているのであるよ。ちょっと黒みがかってきたというか...雷使い始めたというかぁっ!危なっ!
熱い、避けたはずなのに体が熱い。先ほどまで立っていた場所が破裂した。...いつかの誰かの雷を思い出す様だ。
少し、血が垂れた。
飛び退きつつ、狩人人形を展開する。
大丈夫、あいつらと比べたら対応できる。...命賭けてない奴が、魂賭けたあいつらより怖いわけがない。だったら問題ない。
人形一体一体が上位ハンターに匹敵するほどに磨き上げられた糸操作の技術。
無論、それだけで天災には届かない。どれだけの数を積み上げても、究極の一には届かない。
回転しながら迫り来る雷の刃を、ジンオウガの盾を数枚犠牲にして受け切る。一瞬にして許容量を超えた雷のエネルギーが暴発し、残骸が周囲に弾け飛ぶ。
暴発しなかった数枚の盾と、取り出した砲身を接続し、急速充電。解き放つは超音速の弾丸。
雷速の一撃とぶつかり合い、その衝撃で周囲の木々が吹き飛ぶ。
嫌になるな、本当に。
壁はどこまでも高いのである。どれほど技術を磨いても、武を築いても。龍はそう簡単に追い付かせてはくれない。
でも、だ。初めと比べたら、背中は随分と近くなった。そうは思わないのであるか?その、えぇと...数ミリぐらい。
龍気が周囲を紅く染め上げる。雨が強まり、それはやがて嵐と化す。
近くの小川が氾濫し、濁流が女王の足元を濡らす。
濁った水面に竜と龍の激突が映し出され、地面から宙へ雷が逆流する。
「ピギャアアアア(隙もへったくれもありはしないのであるよ、コイツ!)」
シャガルマガラ人形の口から吐き出された狂竜ブレスが、濁流を切り裂き、アマツマガツチの放ったレーザーが森を薪に変える。
戦う内に戦場は切り替わり、その衝撃波で川の中に女王の体が吹き飛ばされる。
水中、思いの外水深の深かった川の中。視界の効かない濁流の中で、川底にめり込みながら、後を追って飛び込んできた龍に糸を絡ませる。
水中での大放電。それを避けるべく両脚を起爆、一気に空中へと躍り出た瞬間に川が光に包まれた。
海藻を振り払いながら、未だ水中に顔を突っ込んでいるアマツマガツチの背中目掛けてありったけの砲弾をお見舞いする。
水中、地上、空中と目まぐるしく変わる戦場の中。
雷が徐々に龍の力を纏い始める。
「ピギャアアアア(...ちょっとこれは不味いのであるなぁ!)」
狩人人形を追加投入し、モンスターの人形とのコンビネーションで攻撃を繰り返す。吾輩にかかれば全員ライダーであるよ!絆技はないけど。
どれだけの数を積み上げても、究極の一には届かない。本当にそう思うのであるか?
狩人人形が破壊される中、とっておきの人形を取り出す。狩人人形を、さらにモンスターの素材や瓦礫で補強した、3mほどの大きさを誇る人型の人形。言うなれば、強化狩人人形。それらが持つ武器は、過去に女王が使っていた規格外の武器──ラオシャンロンの頭骨を利用した大型ハンマーや、パイルバンカーなど──のコピー品。
最大火力一発で足りないのであれば、それを同時に複数叩き込んでしまえばいいという脳筋的発想から生まれた、コスト度外視の大型人形。
爆薬を利用した加速による機動力と、超大型の兵器による圧倒的火力。糸で直接操るのではなく、人形を一枚噛ませる事によって安定感を実現した人型兵器。
「ピギャアアアア(しかも、耐久性は普通の人形とは比べ物にならないのであるよ!)」
一瞬で破壊される狩人人形と比べ、2、3発なら耐えられる耐久性。
厄介だろう、アマツマガツチ、吾輩の軍隊はッ!
突撃した人形が撃龍槍を押し当て、頭蓋に何度も超がつくほどに巨大なハンマーをぶつける。その度にアマツマガツチの反撃で地面が剥がれる。嵐が勢いを増す。殴れば殴るほど、嵐はより強さを増してゆく。
逃げる隙なんて...本当にあるのであるか...?
「ピギャアアアア(いつまでもいい気になるなよアマツマガツチ...)」
狩人人形に稼がせた時間で準備は整った。黒翼超弩でしか放てない今の吾輩に出せる最大火力のうちの一つ。かつて凍結された、気化爆弾計画を流用した、圧縮した龍結晶のエネルギーを用いた最高の一撃を、お前に食らわせてやるのであるよ。チャージの時間は十分に稼いだ。
糸を繰り、人形たちにアマツマガツチの体を押さえつけさせる。糸がその体を縛り付け、鎖が、ネットが押さえつける。瞬時に拘束から脱し始めるその姿に恐ろしいものを感じるが、それでもコンマ1秒の時間は稼げた。ならばそれでいい。
上空に飛び立てないまでも、数メートルのホバリングは可能。その位置から、アマツマガツチの胴体を捕捉する。引き絞った弦から、一発の弾丸が放たれる。1番問題だったのは、この工程。如何にして圧縮したエネルギーを、炸裂前まで保持するのか。
言うなれば、この一撃は『女王の雫』。
撃ち込まれた弾丸から、何かが溢れた。そうして、次に空間が消えた。
暴風が弱まる。やって...ない、ダメだ!力がほとんど表面で弾けてしまっているのである!逃げ切れるほどの隙は生まれない...だったら、全力でどつくだけである!吾輩自身がバルファルクになる事である!
嵐を置き去りにして、飛ぶ。
急上昇した赫い彗星が、アマツマガツチ目掛けて落下する。暴風を断つ様にして、星が堕ちた。
「ピギャアアアア(ちょっとは...堪えてくれているといいのであるが...)」
重症ではある──互いに。しかし、アマツマガツチの方はあくまでもまだまだ余裕そうであり、興味を失う様子さえない。
しかし、妙な事に。前方に目を向けたかと思うと、女王を置き去りにして何処かへと急に去っていった。
おかしい。吾輩が逃される理由がわからないのである。
助かった...のであるか?
わからない、わからないのであるが。喜んでいいのであるか...?
仮に嵐が止んだとしても、風はまだ強さを増してゆく。
感想、評価、誤字報告などありがとうございます!大変励みになっております。
最初期と比べて随分と人類の敵レベルが上がってしまって...安息の日は訪れるのだろうか。
アマツマガツチは初見でエグいほど乙ったので自分の中で滅茶苦茶強いイメージがあります。
ワイルズのオープンベータ始まりましたね、製品版が実に楽しみです
次の番外編で使うかもしれない(エイプリルフールでつかうかも)
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掲示板if②
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擬人化if
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vsアルバトリオン