吾輩はアトラル・カである。アトラル・ネセトになる予定はまだ無い 作:美味しいラムネ
1週間だけ休むつもりが気づいたら2ヶ月経っていたので初投稿です。本当に申し訳ないです。
天高く、ガーグァ肥ゆる秋。
はるばるエルガドから三千里。雄大なカムラの大自然が育んだ美しい大河のほとりで1人のアイルーが釣り糸を垂らしていた。
「釣れないんだニャ」
呑気なガーグァの群れが後ろを通り過ぎる中、アイルーが空を見上げる。快晴だ。...遠くに雲が見えるのが気になるけど。
エルガド一番の釣り人アイルー(自称)、船乗りのルアンである。本業は設備の管理、保守点検。猛き炎曰く、「こいつがサボっていないところを見たことがない」とのことだが、それはタイミングが悪いだけである。
このサボり魔、ついに脱走したかと観察拠点の面々からは思われていそうだが、ちゃんと有給を使って釣りに来ているのである。
「ぐ、ダメニャダメニャ。せめてドスサシミウオの一匹や二匹釣って帰らなきゃ釣り人の名折れニャ!」
こう見えても大型モンスターを釣り上げたことだってあるんだニャ!と呟く。尚、彼が釣り上げたことのあるモンスターはエピオスであり、そしてエピオスは分類上小型モンスターだ。つまり彼が呟く言葉は大嘘である。
♦︎
同時刻、同じ空の下。
1匹の人類の天敵が呑気に釣り糸を垂らしていた。今日は和食の気分だったのだ。
「ピギャアアアア(釣れないのであるなぁ)」
至極当然のことではあるが、アトラル・カは曲がりなりにも大型モンスター。気配が大きい。魚が寄ってこないのも当然だ。
傀異化したアオアシラを討伐して数日。大半の甲虫種研究者から「人類の天敵」として恐れられているアトラル・カは、茂みから、死角から、天空から強襲してくる可能性がある
いやぁ、怯えすぎて一週間が2ヶ月に感じるぐらい時間の進みが遅く感じたのであるよ。師匠曰く吾輩はついにギルドに完全に捕捉されたらしいのであるし。
空に向かって手を振ったら飛行船が信号を送ったりしてくれないのであろうか。それはハンター専用のサービス?今時モンスター差別なんて流行らないのであるよ。
それにしても釣れないのである。いつもならもう少し揺れるのであるが...釣れた魚の数よりも、叩き落としたキュリアの数の方が多いのであるよ。
あぁもう、またであるよ。夏の夜の蚊よりも鬱陶しいのである。
「
対キュリア用に開発したウロコトル型人形。その体の中に仕込まれた火炎放射器の中から、生肉を一瞬で焦げ肉にする威力の火炎が放たれ、ふよふよと向かってきていたキュリアが悉く焼き尽くされる。
同時刻、何処かの竜人族と共鳴したらしいが、こいつには知る由もない。
全く、キュリアは本当に迷惑である。まず、食べても美味しくないのである。というか、食べちゃダメな部類の劇物である。殆ど猛毒と同じなのである。
その癖数は多いし、空を飛んでるから狙いにくいし、キュリアの近くには傀異化した厄介なモンスターが必ずいるし、勘弁して欲しいのである。
じゃあ、キュリアの猛毒を狩りに活かせないか、と言われたらそれも無理な話なのである。この毒を受けたモンスターは、凶暴化する可能性が高いと思うのである。キュリアを一口食べた時、少し体がムズムズしたし、多分そんな感じだと思うのである。擬似極限化の時と似た感覚がしたのである。*1ゲーム内でそんな話があった気がするし多分予想はあってるのである。敵を自分から厄介にしてどうするんだ。
記憶が正しければ、人間にこの毒を使えば必殺に近かった記憶があるのであるが...まぁ、その人間のカテゴリにハンターは含まれていないのであるが。あいつらキュリアを利用して狩りを始めるし。一般人しか殺せない毒があってどうするんだ。いやハンターを殺せても困るのであるが。別に吾輩は人類を滅ぼそうとか思ってないのであるよ!?
「ピギャアアアア(...もう10瓶分ぐらいは濃縮キュリア汁が集まってしまったのである)」
キュリアの毒を狩りに活かせないかと思っていた頃に作った、キュリア毒ケムリ玉に、キュリア毒弾。こいつらどうしてくれよう。封印であるな。
キュリア汁よりお魚が欲しいのである。今日の夕飯は、アッサリアサリのお味噌汁に、釣った魚を焼いたものにする予定なのであるよ。
...随分と大自然にも慣れたなぁ、なんて思うのである。日々を生きるために狩りをして、ご飯にありつき。その素材を余すことなく使って装備にして、より強い相手からも生き延びれるようにする。
ご飯を何にしようかなぁ、なんて考える余裕も生まれて。
まぁ、大自然の中に、
穏やかな風が心地いい。少し、ピリピリするような感覚があるが、気のせいだろうと空を眺める。パチパチと、自分の中の雷が弾けた気がした。
ふと、あの番のことを思い出す。少し昔の話。
命を賭してまで、吾輩を狩ろうとした番の幻獣。なんとなくではあるが...超えてはいけない一線を越えかけていた、そんな感覚があったことを思い出す。
もしも、肉体的により優れた存在がいて。一線を越える強烈な起爆剤があれば。
少し、雲が出てきた。白い雲が、太陽を翳らせようとして、風に流される。差し込む太陽が暖かい。
...何故だろう、こんなにも晴れているのに。近々嵐になりそうだなぁ、と思ってしまったのである。
「ピギャアアアア(...やっぱり、釣れないのである)」
そろそろ、釣竿を引き上げて、罠でも仕掛けて待ちながら鍛治作業でもしようか、そう思い始めた頃。
竿を引く感触。ヒットである。これで今日の夕飯が確保できるのである!今日は鮭の気分である、鮭が食べたいのであるよ!...まぁ1匹じゃ足りないから付け合わせに保存していたジュラトドスの竜田揚げやら、オオモロコシのバターコーンやらを追加するのであるが。
まずい、このままだと和食が洋食になるのである。
水飛沫を上げながら、水中から吊り上げたのはドスチャッカウオ!金色の糸で受け止めた瞬間に絶命し、勢いよく燃え上がる!
「ピギャアアアア(わ、吾輩のメインディッシュが!!!)」
水中に勢いよく落として火を消した瞬間、水飛沫と共に遠くから水柱が上がった。
「ピギャアアアア(...え、吾輩のチャッカウオが何かしたのであるか!?)」
偶々偶然である。ドスチャッカウオにそんな力はない。
この程度で茫然自失となってしまっていては大自然では生き残れない。千里眼の薬を飲み干し、水柱が上がった方向へ向かいながら望遠鏡を取り出す。
数回の発光。放電...雷属性であるな。この辺りだと...ジンオウガであるかな?
現場に向かいつつ、しれっとドスチャッカウオをしまうのも忘れない。今晩のメインディッシュにするのであるよ!
木々の隙間を縫って越えた先。望遠鏡が捉えたのは、ラギアクルスに襲われるアイルーの姿だった。
「ピギャアアアア(あ...あっぶない!)」
野生のアイルーというよりは、装備的にはオトモをやっていてもおかしくない雰囲気を感じる。どこかで見たことがある気がするが気のせいだろう。
臨界粘菌で地面を蹴って加速。アイルー目掛けて放たれた雷球を、雷を吸収するジンオウガの外殻を使った大楯で防ぐ。
目の前に映るのは、吾輩の知るラギアクルスの何倍もの大きさがある──言ってしまえばヌシクラスの──ラギアクルス。
全身に、嵐に巻き込まれたかのような傷跡を持つその姿は、歴戦の戦士そのもの。
「ピギャアアアア(お前...カムラから出禁にされたんじゃなかったのであるか!?)」
なんて、どうでもいいことを考えながら武器を構える。
なぁに...古龍の雷撃と比べたらマシであるよ!今晩はラギアクルスの竜田揚げに変更である!!!
♦︎♦︎♦︎
その出会いは、突然だったニャ。
釣れないニャぁ、そう思って数時間。突如として竿に何かがかかる。
「こ、これは...大物だニャ!!」
今までにない感触。釣り人人生で初めての重さ。
竿が持っていかれそうなほどに重い...というか既に体ごと水中に引きずり込まれそうになっているニャ!!
い、命には代えられない...悲しいけど竿を手放すしか....っ!?
今度は急に竿が軽くなる。何かが勢いよく水中から飛び出してくる。ものすごい気配が。根源的な、生存を脅かす恐怖を纏った何かが。
それは、大海の王者「ラギアクルス」。
この辺りに出没するようなモンスターではないはず。この周辺の凸凹した地形が腹を削ってしまうため、生息できないという話を学者連中から聞いたばっかりだ。
「に゛、に゛ぎゃああああ゛!?」
ラギアクルスは、目の前の矮小な猫を視界に捉えた瞬間、今日の晩御飯にしてやろうと顎門を大きく開いて飛びかかる。
これでも観測拠点のアイルー、無抵抗でやられるほど弱くはない。腰に佩いたアロイネコソードを抜き放ち、切りつけつつ突進を紙一重で回避する。
硬い、そして強い!特殊個体、そう言っても差し支えがないほどに大きく、歴戦の貫禄を感じさせる。ただでさえ強大なラギアクルス、その特殊個体ともなれば、生存は絶望的か。
彼には、オサイズチどころかリオレイアぐらいなら余裕で撒けるだけの実力がある。しかし、相手が悪すぎた。
雷球が顔の横を通り過ぎて、ネコ毛が逆立つ。
穴を掘って逃げる隙さえ見つからない。
投げたナイフが弾かれる。
(こ、こんなことになるなら旅行になんて来るんじゃなかったニャ...)
ごめん、スー。そう呟いた瞬間、自分よりも大きな何かが彼の前に立ち塞がった。
安心感があった。
大楯を駆使し、雷を受け切るその姿は、まるでヒーローの様だった。
誰だろうか、と思って見上げて気づく。
黄金の体、その特徴的な鎌と、金属製の義手に取り替えられた片腕。
自然界に存在しないはずの、高度な「技術」。間違いない、噂に聞く、「人類種の天敵」──特異個体、アトラル・カ、だ。
船の整備を手伝う中で、学者連中の話を耳に挟むことも多かったからたまたま知っていた。でも...まさか、本当にいたとは。
激しい放電と、砲弾の爆炎が辺りを照らす。モンスター同士の激しい縄張り争い。互いの力をぶつけ合う戦い...その筈なのに、そこには技の理合があった。
単純なモンスターの格としてはラギアクルスが格上。しかも、その中でも格別に強い個体となれば尚更だ。
その這いずるような突進は、川を巻き上げ、水流を伴って地面を抉る。普通のモンスター相手なら、これで終わっていた筈だ。
飛び込むようにして避けられ、すれ違いざまに巨剣に背を切り付けられる。テールアタックは盾で流されて、暴れる様にして放たれた雷球は全て吸収される。
ぶつかる、弾かれる。飛び込む、避けられる。
そこには狩魂があった。
狩人の技を、モンスターが使うとはどんな悪夢だろうか。
余裕そうに舞う、貴女如きが私に触れられるとでも?とでも言いたげな視線が大海の王者を射抜く。
「ピギャアアアア(ちょ、雷は、雷は相変わらず苦手なのであるよ!龍気、龍気ーー!!)」
紅いドレスを纏い、王者と女王が踊る。リードできるものならしてみろと、挑戦的なステップで王者を翻弄する彼女は、戦場を支配していた。
「ピギャアアアア(あ、盾一枚破られた...え、火力高くない?)」
強い、心も力も。全く慌てていない。王者を前に、怯えすら感じない。
アトラル・カが持っていた長い棒──あとから思えば砲身の様だったと思うニャ──が、突如として極光を纏う。
次の瞬間、激しい放電と共に弾丸の様なものが放たれる。
空を揺らしながら放たれたのは、ボウガンの弾丸を少し大きくした様な金属の弾。しかし、その威力はボウガンの比にならない。
なんとか直撃を回避しようと身を捩らせたラギアクルスの身体を貫き、そのまま背後の大岩を破壊、木々を数本薙ぎ倒して漸く止まる。
恐ろしいはずの光景、しかし安心感があった。
この金色の女王は、自分の身を守ってくれている。だからきっと大丈夫だ、そんな根拠のない安心感が。
戦女神とか、その手の存在なんじゃないだろうか、そんな錯覚をしてしまうほどに、その戦いは美しかった。
「貴女は一体、何者なんだニャ....?」
思わず、そう呟いてしまう。...あれ、よくよく見ると背中からドスチャッカウオが見えてないだろうか。まさかアトラル・カも釣り人なのか!?
僕の疑問に答える様にして、アトラル・カが鳴く。
ラギアクルスの大放電の光が、甲殻の表面で反射する。
「ピギャアアアア(いや、何者も何も吾輩は唯の蟲であるよ)」
嵐が近づいてきた、そんな気がした。
感想、評価、誤字報告などありがとうございます!大変感謝しています。
お久しぶりです、いや、本当にお久しぶりです。本当に申し訳ないです。ちょっと宇宙的恐怖と戯れたりシノビになって光の速さで移動したりアンデッドの少女になったりしていたら2ヶ月が結果していました。本当に申し訳ないです。
Q.キュリア瓶を持っていることがバレたらどうなる?
A.人間や小型モンスターしか殺せない様な毒をわざわざ...何故...?こいつ人類滅ぼすつもりか...?みたいになる
次の番外編で使うかもしれない(エイプリルフールでつかうかも)
-
掲示板if②
-
擬人化if
-
vsアルバトリオン