現代の防人~日本を守る国産AI奮戦記(15)

漫画家鳥山明氏の命を奪った「急性硬膜下血腫」AIで防げなかったか?

AI(人工知能)が急速に身近になってきた。現在話題を集めているのは、ChatGPTをはじめとする海外のAIツールだが、国産のAIエンジンが活躍していることはあまり知られていない。なかでも、東京・品川のAI企業「FRONTEO(フロンテオ)」が手がける「KIBIT(キビット)」は海上自衛官出身の創業者が、社会課題を解決し、日本を守るために生みだした国産AIエンジンだ。日本語の機微(キビ)を理解する、国産AIならではの高い言語解析能力を武器に、経済安全保障や創薬、リーガルテックなどさまざまな分野で「現代の防人」として日々戦っている。

山下部長
山下部長

3月上旬、希代の漫画家、鳥山明氏の早すぎる死に、世界中が悲しみに包まれた。享年68歳。まだまだ執筆活動にも意欲的で、新作の『SAND LAND』を『Dr.スランプ』『ドラゴンボール』に続く代表作とすべく、『SAND LAND Project』を進めようとしていた矢先だった。

死因は急性硬膜下血腫。交通事故や転倒で頭部に強い衝撃が加わって、脳を覆っている硬膜と脳表との間に起こる急性出血のことだ。急性硬膜下血腫で亡くなる人は多く、発症した場合、死亡率は60%を超えるとも言われている。

著名人では、ザ・ドリフターズの仲本工事氏(2022年死去、享年81歳)、『間違いだらけの車選び』で一世を風靡(ふうび)した自動車評論家の徳大寺有恒氏(2014年死去、享年74歳)、俳優の細川俊之氏(2011年死去、享年70歳)も急性硬膜下血腫で亡くなっている。仲本氏は交通事故だが、徳大寺氏と細川氏は自宅で転倒した際に頭部を強打して、死に至った。鳥山氏も2月末に転倒したとの報道もある。急性硬膜下血腫は、身近なところだと「転ばないこと」が一番の対策だ。

急性硬膜下血腫に限らず、年配者は「転ぶと危険」だ。頭部を打たないまでも骨折や打撲で寝たきりになり、そのまま衰弱してしまうケースもよく聞く。とくに危険なのは医療現場だ。高齢の入院患者が何らかの拍子に転倒・転落して、さらに衰弱してしまうパターンが多い。医療現場では、患者の転倒リスクを低減するため、さまざまな対策を行っているが、看護業務が繁忙化する中、その対応にも限界がある。

「入院患者の転倒転落は、患者の高齢化により、多くの病院で日常的に起こりうるリスクとなっています。医療機関での転倒転落事故は年々増えていて、全医療事故の2割以上を占めるに至っています。一方で、看護業務の多様化、繁忙化による医療スタッフの負担増も医療現場における大きな課題です。そこでFRONTEOでは、AIを使ってこの社会課題を解決できないか考えました」

FRONTEOの広報マーケティングチーム、山下嘉之部長=写真=はこう語る。厚生労働省でも18年の「医療の質の評価・公表等推進事業報告書」において、転倒転落は起こりうることとして「その要因を取り除くことが基本的な課題であり、リスクアセスメントを行うことが重要」と明確に報告している。 高齢入院患者の転倒転落事故は、政府も頭を悩ませる社会課題となっているのだ。

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