パリ五輪ボクシング女子の性別騒動 「男性並みテストステロン」根拠あいまいのまま決勝に

パリ五輪のボクシング女子でそれぞれの階級で決勝に進んだイマネ・ヘリフ(左)と林郁婷(いずれもAP)
パリ五輪のボクシング女子でそれぞれの階級で決勝に進んだイマネ・ヘリフ(左)と林郁婷(いずれもAP)

パリ五輪ボクシング女子で性別判断騒動の渦中にいるアルジェリアと台湾の選手が9、10日、それぞれ決勝に臨む。昨年の世界選手権で2人を不合格とした国際ボクシング協会(IBA)は5日にオンライン記者会見を開いたが、性別テストの内容は謎に包まれたままだ。アルジェリアはIBAに強く反発し、騒動は国連を舞台とする「場外戦」に発展した。

混沌の会見

IBAのクレムレフ会長は記者会見で、2人は男性ホルモンであるテストステロン値が高かったと説明する一方、基準値には触れなかった。7月31日のIBA声明は「テストステロン検査は行っていない」と明記していた。別のIBA幹部は、染色体検査の結果だと述べるなど整合性に乏しく、英BBC放送は「混沌の会見だった」と伝えた。

世界選手権でアルジェリアのイマネ・ヘリフ(25)、台湾の林郁婷(りん・いくてい、28)はともに準決勝に進んだ後、性別テストに不合格であることを告げられた。IBAは組織の腐敗を理由に、国際オリンピック委員会(IOC)から競技運営権を剝奪されている。

IOC「IBAに代わる組織を」

IOC報道担当は6日、IBAの会見を踏まえ、「ボクシングで別の国際連盟が必要であることが示された」と主張。次回の2028年ロサンゼルス五輪を視野に、ボクシング界に対応を促した。IOCが21年に示したガイドラインでは、選手の参加資格はIOCではなく、各競技の国際連盟が定めることになっている。

性別判断については現在、各競技連盟による検討が進む。トランスジェンダー選手が国際大会を目指すようになったことに加え、女性と自認していても性器や性腺発達が一般女性と異なる「性分化疾患(DSD)」選手への対応が問題になったからだ。XY染色体の有無に加え、テストステロン値に焦点が当たる。

世界陸連(WA)は女子枠出場で、テストステロン血中濃度の上限を1リットル当たり2・5ナノモルと定めた。上限を超えるDSD選手は服薬によって、数値を下げる必要がある。世界水泳連盟(FINA)もテストステロンでWAと同じ上限値を定めた上で、12歳までに男性器の性徴がないことを条件に明記した。

露とアルジェリアの「場外戦」も

パリ五輪でIOCは「ヘリフはパスポートに女性と記され、女性として競技してきた」と主張した。IBAの判断を覆す科学的根拠を示せず、それが騒動を広げる一因となった。IBAのクレムレフ会長がロシア人で、プーチン大統領に近いことが、問題解決を難しくしている。

性別判断を巡っては7日、米ニューヨークの国連安全保障理事会で応酬があった。ロイター通信によると、露外交官は「五輪で女性選手が暴力にさらされている」と発言。西側がLGBT(性的少数者)問題を押し付けていると主張した。アルジェリア側は、ヘリフを女性だと認めないのは「政治的意図を持つ勢力だけ」とロシアをなじった。

ヘリフは9日、66キロ級決勝で中国の楊柳(32)と対戦。林は10日の57キロ級決勝で、ポーランドのユリア・シュレメタ(20)と闘う。(三井美奈)

男性並みテストステロン値とIBAが強調