242.冒瀆王女は狼狽える。
「ッアネモネ王国⁈レオンが⁈」
ジルベール宰相達からの報告に、思わず私は声を上げた。
なんで⁈アネモネは武器や必要物資の供給だけだし、ちゃんと武器もフリージア王国で受け取ったのに‼︎
でも、現にいまレオンやアネモネ王国の騎士団がサーシス王国の港に来ているという報告がある。
『わかりません!ですが衛兵が確認したというのならば間違いないでしょう。プライド様はレオン第一王子殿下に何か聞いてはおりませんか⁈』
ジルベール宰相が、急ぎ衛兵に敵国ではないから攻撃しないようにと指示を広げさせながら私に言う。いやいや聞いてたら絶対止めてたし‼︎アネモネ王国は戦力としてはサーシス王国やハナズオ連合王国よりちょっと強いくらいの小国の筈なのに‼︎そんなラジヤ帝国を直接敵に回すようなことをしちゃうなんて‼︎
「〜〜っ‼︎‼︎ステイルッ‼︎」
耐え切れず、隣にいるステイルに向かって声を張る。ステイルもわかってくれたらしく、直ぐに返事をしてくれた。
「アーサー‼︎少しこの場離れるから他の騎士達と一緒にその間ここを守って下さい‼︎」
アラン隊長とカラム隊長は近衛騎士として連れて行かないといけない。残るはアーサー達だけだ。
アラン隊長とカラム隊長の手を掴み、他の騎士達へ「一時的にアーサーに全指揮を託します‼︎」と叫ぶ。アーサーが「俺が指揮…⁈」と声を上げたけれど「何かあったらステイルに合図をお願い!」とだけ言って今回はそのまま断行させてもらう。実際は指揮というよりも報告番だし、口笛さえ吹いてくれればすぐに戻れるから心配はない筈だ。
「レオンに直接確認をしてきます‼︎」
部屋の扉から飛び出し、その瞬間ステイルが私達を瞬間移動してくれた。
サーシス王国にいるレオンの元に。
……
「…どういうことだ…⁈」
騎士団長のロデリックは、目の前の敵をひたすら薙ぎ倒しながらも現状に疑問を抱かずにはいられなかった。
別段、先程よりも苦戦し始めている訳ではない。騎士達は順調に敵を薙ぎ倒し、自分以外にも馬を奪って敵軍へ反撃を始めている騎士もいる。プライドに報告するまでもなく、問題無く敵兵を抑えている。
敵兵は変わらずクレーターへと大量に投下されている。鎧に身を包んだ何百もの兵士達が、剣を手にその足で騎士達目掛けて襲いかかってきていた。
が、妙に手ごたえがない。
先程までの兵士のように激しい闘志や覇気は感じられず、あるのはこちらへの殺気だけだった。何か奥の手でもあるのかと警戒しながら斬り進むが、何のこともなくどの兵士も簡単に一閃で無力化されてしまった。
最初に精鋭を全て倒してしまったのか、それにしては実力に差があり過ぎる。
そんなことを考えながら、無数の敵をひたすら斬り進めるロデリックは、ふと更なる違和感に気づく。
…剣の握り方がなっていない。
最初の兵士こそ、フリージア騎士団ほどの実力はないにしろ訓練された兵士に違いなかった。それが、今の兵士はどれも剣の握り方すら不恰好な者ばかりだった。まるで、無理矢理その辺の民に剣を持たせたかのような。
「……まさかっ…‼︎」
そこまで推察した途端、ロデリックは思わず声を漏らした。変わらず敵兵を斬り伏しながらも、同時にこの後に来るであろう事態をいくつも想定する。
「ッ全騎士団に告ぐ‼︎‼︎盾を持ち今すぐ後退しろッ‼︎急げ‼︎」
クレーター中どころか、その上にいる敵兵や騎士団にも届くほどの叫声が響き渡り、騎士達の鼓膜を揺らした。
騎士達は理解よりも先に騎士団長の命令に従い、急ぎ後退し始めた。
「今この場にいる敵軍は兵士ではない‼︎」
ロデリック自身もまた、馬を走らせ急ぎ後退をしながら声を張り上げる。その間も、兵士ではないことを見破られた鎧の男達は殺意だけを原動力に騎士団をその足で追いかけた。この後、自分達がどうなるかも理解して。
「奴らはッ…捨て石用の奴隷だ‼︎‼︎」
ちょうどロデリックが叫び終わるのが先か否かのタイミングだった。
再び、何もない空から複数の爆弾がクレーターへと集中的に注ぎ込まれた。
…閃光と、更に威力を増した熱量がクレーター内全てを埋め尽くす。