三井住友信託、元社員にインサイダー取引疑い 会社発表
三井住友信託銀行は1日、自社の元社員が企業の公開前情報に基づいて株式を売買するインサイダー取引を複数回した疑いが判明したと発表した。社内に第三者を含めた調査委員会を設置し、事実関係の確認や原因分析を進める。再発防止策も策定する。
大山一也社長は同日夕の記者会見で陳謝したうえで「高い倫理性と自己規律を要求される信託銀行の社員が信頼を損なうような法令違反を犯したことは、当社の社会的存在意義が問われかねない事態だ」と話した。
三井住友信託では2012年に会社の運用にインサイダー情報を用いる不正があった。
今回の疑惑は、元社員が10月30日に会社に申し出たことで発覚した。会社側が取引履歴などを確認し、同月31日にインサイダー取引の可能性が高いと判断した。業務上知り得た情報をもとに自身の利益のために他社の株式を売買した。
元社員は管理職で、1日付で懲戒解雇になった。元社員の説明によると、他の社員の取引への関与はなく、組織的な行為はなかったという。社員の所属部署や取引の内容に関する具体的な言及は避けた。
関係者によると、会社側がすでに証券取引等監視委員会に報告したという。監視委は今後、調査を進め経緯を把握するとみられる。大山氏は「捜査、調査に全面的に協力する」と強調した。
三井住友信託はインサイダー取引に関する研修を年2回オンラインで実施する。インサイダー取引をしないとの誓約書も年2回提出させている。
本来、法令順守について高い意識を持つべき組織に属する個人によるインサイダー取引の疑いが後を絶たない。
直近では、東京証券取引所の20代社員が監視委からの強制調査を受けていることが判明した。所属していたのは企業が開示する重要情報を巡り事前に相談を受ける立場にある上場部開示業務室。企業のTOB(株式公開買い付け)に関する情報を親族に伝えたとみられる。
金融庁でも出向中の30代の男性裁判官が監視委からの強制調査の対象になっている。企画市場局企業開示課でTOBに関する書類の審査などを担当していた。
金融分野に詳しい帝京大学の宿輪純一教授は「組織内で上意下達を忌避する動きが強まっており、社内教育が行き届かない懸念が大きくなっている。増加傾向にあるM&A(合併・買収)などに対して職員のよこしまな気持ちが働きやすくなる面がある」と指摘する。
政府や東証は上場企業の資本効率や株価の向上を促す施策を相次ぎ打ち出している。こうした政策が呼び水となり活発化するM&Aや事業売却を担保する上でも、公正な取引を確保する重要性は高まる。
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