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239.義弟は空を見上げる。


「ッこれでサーシスへの援軍騎士は最後ですね⁈」


西の塔、螺旋階段。

サーシス王国への援軍に向かうことになった騎士達が次々と俺の元へ登って来ていた。ついさっき爆音が再び轟いたせいで、塔の中の騎士にも声が伝わりにくい。一人ずつ瞬間移動で消しながら、最後の一人が列の後尾についた瞬間に騎士達へ力の限り声を張り上げた。

最後の騎士から「最後です‼︎」と言葉が返ってきて、俺もそれに頷く。そして


腕を広げ、並ぶ騎士達に向かい一気に階段を駆け下りた。


すれ違い様に騎士と腕が当たり、そのまま最後尾まで通り過ぎる。最後の一人をサーシス王国へ瞬間移動させ終わり、再びプライドの元へと戻ろうと振り返った時だった。


「ッステイル‼︎」


聞き慣れた声が螺旋階段の下階層から上がり、覗き込めばアーサーだった。

各自判断の八番隊は一部を除き、敵が確認できてからは全員散開となっている。恐らく一度目の爆撃を受け始めてから急いで西の塔に駆け付けてくれたのだろう。


「遅いぞアーサー‼︎姉君はこの上だ‼︎」

急げ‼︎と声を掛け、俺から先に姉君の待つ最上階へと登る。流石騎士と言うべきか、俺が必死で駆け上がり、最上階の扉に手を掛けようと伸ばした時には下階層から既に俺に並んでいた。そのまま扉を勢いよく開け、アーサーと共に中に飛び込む。


「姉君お待たせしました‼︎」

「プライド様ご無事ですか⁈」


俺とアーサーが同時に声を上げる。部屋の中を確認するとちょうど誰もが窓の外を覗き込んでいた。

プライドが俺達に気づき、こちらを振り向くと「ステイル!アーサー‼︎」と満面の笑みを俺達に向けてくれた。


「いま、援軍は全員見送りました‼︎こちらの状況は⁈」

「北から気球の大軍が迫っています‼︎どれも爆弾の投下が可能な様子‼︎形状は目視のみでは確信できませんが、今その内の一つが我が西の塔の上空に!」

五、六番隊は指示を待っています‼︎とカラム隊長が的確に報告をしてくれる。俺とアーサーも共に窓の外を見上げれば空を埋め尽くすほどの気球が浮かび、確かにその一つがこちらに近づいていた。映像からランス国王が『急ぎ退避を‼︎』と声を上げている。


「あの爆弾が、どのような方法で爆発するかが問題ですね…。」

間近に近づく気球を睨みつけながら、全員に聞こえるように発せば誰もが頷いた。

もし、衝撃で簡単に爆破するようならば下手に撃ち落としても被害が広がるだけだ。残す方法は…


「ンじゃ、まずあの気球を降ろします。」


ガキッ、と窓に足を掛けるアーサーが気球を睨んだままはっきりと言い放った。

気球はこちらに近づいているとはいえ、遥か上空。俺の目視にも届かない位置では瞬間移動で気球に直接騎士を飛ばすのも難しい。どうするのか聞こうとすれば、それよりも先にアーサーが騎士達の方に振り返り「すみません!武器の補充ってどこにありますか⁈」と声を上げた。

騎士の一人が素早く「これを使え」と予備の剣と槍をアーサーへ放った。礼を言いながら受け取った二つのうちアーサーは剣を手に取ると、カラム隊長や何人かの騎士が「送るか?」とアーサーに声を掛けてきた。


「いえ、ギリギリこっからで充分です。」

危ないんでプライド様は下がっていて下さい、と声を掛けながら鞘から剣を抜き出したアーサーは





窓から上半身を丸ごと乗り出し、剣を勢いよく上空の気球へと放り投げた。





ブォオンッ‼︎と空気を貫く音が塔の中にいる俺達の耳にも響いた。まるで弓矢のように一線の残像を残した剣が一直線に気球へ走り、掠るかのようにして風船部分を裂いた。


「ぃよっしゃ‼︎流石アーサー‼︎」

アラン隊長が狙い通りに撃ちとったアーサーの背中を叩く。

…我が友ながら恐ろしい奴だ。


塔の上からとはいえ、あの上空にいた気球まで投げた剣が届くなど。更には狙い通り命中させた。しかも特殊能力無しにだ。コイツは周りには未だ〝植物を元気にする特殊能力〟と偽っているらしいが、戦闘関連の特殊能力と自称しても問題なく通じるだろう。


「あんま穴開け過ぎると一気に墜落しそうと思ったんすけど、…もっとやりますか?」

全く慢心する様子もないアーサーが、再び予備の剣を取りに行こうとする。が、今度はカラム隊長が「いや充分だ」と前に出た。空気が抜けていっているのだろう、気球がじわじわと上空から下へ下へと降下している。

そして気球が、俺の目でも捉えられる程の位置に降下してきたと思った瞬間


俺達のいる塔の壁面を、複数の騎士達が外から垂直に駆け上がっていった。


窓を通り過ぎる寸前「よくやったアーサー‼︎」と何人かの騎士がアーサーに激励を飛ばす。

恐らくは、塔の下に控えていた壁登りや無重力関連の特殊能力者だろう。彼らがその足で、まるで普通の坂道を登るようにして素早く塔を駆け上がっていく。

俺やプライドも窓から顔を出せば、ちょうど上空から俺達の塔の真上近くまで降下を続ける気球へ、騎士達が塔の先端から飛び移ったところだった。

「ッぎゃあ⁈」「なんだどうやって…⁉︎」と叫び声が聞こえ、剣で裂く音と共にそれも止んだ。騎士達が気球に乗っていた者達を一撃で制圧したのだろう。そのまま、気球が騎士達に操作されながら緩やかに地上へと降りてくる。


「伝令!攻撃はコペランディ王国の者でした‼︎」

「爆弾は一つの気球に六つほど!気球から繋げられた導火線に火をつけ、投下するものです!」

「操縦者か爆弾を吊るす紐や導火線をどうにかすれば問題はありません‼︎」


降ろした気球から爆弾や中を調べた騎士達が次々と報告を叫ぶ。

同時に、それを聞き届けた通信兵が映像の各本陣以外に控えている騎士隊や兵士達にも報告を流した。国王二人とセドリック王子は、気球が簡単に落とされたことにかなり驚いている様子だ。だが、まだ上空には数え切れないほどの気球が残っている。あの気球全ての爆弾を投下されれば余波で街にまで被害が及ぶだろう。


だから、その前に撃ち落とす。


「五番隊、六番隊、そしてフリージア騎士団に命じます!上空の気球を無力化して下さい‼︎全ての気球を無力化次第に東西の塔の我々も動きましょう‼︎手の空いた者はサーシス王国の応援と最前線の武器補給と重傷者の保護を‼︎」


プライドが映像に向かって声を張る。それぞれの映像から、すぐに各々返事が返ってきた。

最前線の映像からも張りのある声が聞こえる。やはり今の爆撃でも騎士団は無事だったらしい。アーサーが映像を見て「なんで最前線だけ真っ暗なんだ⁈」と慌てたように声を上げていた。…まだ最前線の状況まではコイツも知らなかったらしい。

アーサーは通信兵から説明を聞くと、顔を険しくさせて映像を睨んだ。

だが、今は最前線ばかりを気にしている場合ではない。


「ッ西の塔からもここから撃ち落とせる気球は撃ち落とせ‼︎絶対にサーシス王国に入れるな‼︎」

俺からも騎士達に命じる。騎士達からそれぞれ返事が返ってくると、すぐに騎士隊長、副隊長達が部下へ指示を飛ばし始めた。



見ていろ侵略者共め。

ここからは、俺達の番だ。


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