ついに契約件数「大台突破」の楽天モバイル、それでも黒字化を阻む「ある数字」とは
黒字化を阻む「ある数字」とは
この一方で、モバイル事業の黒字化に欠かせない、もう1つの要素であるARPU(契約者あたり月平均収入)の問題が残っています。楽天モバイルにおける2024年4~6月期のARPUは2,021円で、2024年1~3月期の1,966円から55円の上昇にとどまっており、いまだ昨年9月時点でピークとなった2,046円に及んでいないのです。 ARPUが今1つ伸び悩んでいる理由の1つは、新規契約の積み増しに寄与している法人取引のARPUへの貢献度が低いということが考えられます。加えて「三木谷キャンペーン」の個人新規契約も市場飽和状態のものだけに、2回線目として契約するケースが多くARPU貢献度が低くなっていることもあるでしょう。 さらに契約者の内訳では、他キャリアに比べ可処分所得の少ない若年層が多いことが公表されており、その点も楽天モバイルのARPUが伸び悩む一因であると思われます。これら要因はどれも一朝一夕に解消できるものではなく、黒字化に向けては契約数積み増しに頼らざるを得ない苦しい状況が当面続くと見られます。 この点に関連して、8月の決算説明会でモバイル事業に関する2024年度中の単月黒字化という目標に触れなくなったことが印象的でした。 これまでの定例決算説明会では、単月黒字化は三木谷社長が繰り返し強調してきたことでもあります。しかし8月の決算説明会では、2024年度中の単月黒字化を取り下げてこそいないものの決算説明の中で特に触れられませんでした。このことは違和感を感じさせるとともに、ARPU引き上げの難しさとモバイル事業をゼロから黒字化させることの困難さが垣間見られる変化でした。
OpenAIと協業も「音沙汰なし」と言えるワケ
過去の決算説明会で強調されつつも、今回はあまり触れられなかったことはほかにもありました。それは、楽天モバイルの子会社である楽天シンフォニーについてです。 楽天シンフォニーは、楽天モバイルの共同CEOだったタレック・アミン氏が立ち上げた、独自開発の完全仮想化ネットワーク提供などを手掛ける企業です。同社の事業について以前は、会見のたびにアミン氏自らが時間をとって説明に立ち、どこの国で大きな契約が取れたなど具体的な報告をしつつ、三木谷社長もモバイル事業黒字化に向けた柱の1つとして掲げていた事業でした。しかし今回の決算発表では、「既存案件に注力し増収、早期黒字化に取り組む」の一言のみでした。 また、今年2月に発表されていた、楽天シンフォニーが有する技術を活用したOpenAI社との協業に関しても、AI開発への取り組みについての説明はあったものの、OpenAI社は名前すら一切登場することがありませんでした。 ちょうど1年前の決算説明会で三木谷社長が、OpenAI社と「最新AI技術によるサービス開発における協業で基本合意」したというニュースを報告していたことは、強く印象に残っています。 ただその後、昨年8月にアミン氏が突如楽天モバイルCEOと楽天シンフォニーCEOを退任していることは、少なからず影響があっても不思議ではありません。協業発表の当時、三木谷氏が協業成立の理由の1つとしてあげていた、楽天の「エッジコンピューティングパワー」に対するOpenAI社サム・アルトマンCEOの高い評価ですが、これはまさにタレック・アミン元共同CEOの功績でした。 そのアミン氏が突如退任したことにより、協業がとん挫したことは想像に難くないのです。楽天シンフォニー事業、OpenAI社との協業など、新規事業のキーマンであったアミン氏を失ったことによる損失の大きさを改めて感じさせられます。楽天モバイルとしては、早期黒字化に向けて新たな収益源づくりが急がれるところではないでしょうか。 そしてもう1つ、今回の説明会で強調されていたのが、通信設備などを活用したセールアンドリースバックにより1,500~3,000億円の調達を確保し、「2025年度までの要償還社債のリファイナンス」懸念を解消したという点です。これについても、やや誇張された表現と捉えられかねないように思います。 確かに、リファイナンス資金は確保できたとしても、リースバックにより月々のキャッシュフローの支出は増えるわけで、この点はマイナス材料としても考える必要があるのではないでしょうか。財務面では何より、6月末時点での有利子負債残高が2兆520億円にのぼり、2023年末と比べて25%も増えており、大きな懸念材料であると言えるのではないでしょうか。