サイエンス

2024.11.03 13:00

うつ病患者は、ある脳の神経回路が「2倍の大きさ」 最新研究

新しい発見がもたらす手がかり

これらの発見は、さまざまなうつ病の症状、特に反芻(ネガティブな考えを繰り返す)やアンヘドニア(快感消失)のメカニズムを理解する手がかりを提供する可能性がある。

アンヘドニア、すなわち通常楽しめる活動への興味や喜びの喪失は、物事に意味や魅力を見出す能力の障害に起因することが多い。セイリエンスネットワークが過活動状態にある場合、現在の出来事よりも内的な対話に注意が向かいやすくなる。つまり、以前楽しんでいた活動をしていても、その活動に集中するのではなく、絶えず思考や記憶を分析してしまうのだ。

セイリエンスネットワークが大きいことは、特定の内的状態(特に否定的または自己批判的なもの)に注意を「固定」することにつながり、アンヘドニアを強化し、報酬に対する脳の反応を妨げる可能性がある。

反芻のサイクルについても同様で、脳が同じ否定的なテーマに「ズームイン」し続ける状態を生む。過敏なセイリエンスネットワークは否定的な思考を特に強く感じさせ、不幸な自己強化のループを生み出し、抜け出すのが極めて困難になる。この過活動なネットワークは、否定的な思考に注意を引きつけ、時間とともにエネルギーや喜びを失わせるサイクルに閉じ込めることになる。

リンチとリストンの発見は、うつ病を新たな視点から捉える手段を提供し、日々その重荷を背負う人々に明確さや安心感をもたらす可能性がある。持続的な否定的思考やかつて楽しめた活動への喜びの欠如は、孤立感や混乱を引き起こし、周囲や自分自身から切り離された感覚を生む。しかし、これらの症状に神経学的な原因、すなわちこれらの精神的経験の背後に物理的な理由があると知ることで、それを理解し、管理するための新たな方法が見つかるかもしれない。

もしあなたがうつ病と闘っているなら、次に困難や不安な思考に「とらわれている」と感じたときには、それが注意を内側に向ける脳による反応であるかもしれないことを思い出してほしい。このメカニズムを理解することで、自分を慈しみ、少しでも周囲の世界に目を向ける勇気を持つことができるかもしれない。こうした小さな焦点のシフトが、時間をかけて他の経験のための、そして何より癒しのための空間を作り出す助けとなるだろう。

Forbes.com 原文

翻訳=酒匂寛

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2024.10.31 11:00

「中高年こそ、不調に耳をすませ」。あなどれない40代・50代の疲労感と細胞の「サビ」

疲労感に悩み、パフォーマンスを発揮できない40代・50代のビジネスパーソンは少なくないだろう。「疲れと眠りのクリニック淀屋橋」院長の中富康仁とサントリーウエルネス生命科学研究所研究主幹の竹本大輔が、その原因や対策について語り合った。

疲労感は医学的に未知の領域

竹本大輔(以下、竹本):中富先生は学会でお見かけしたことがあり、お会いできることを楽しみにしていました。

中富康仁(以下、中富):私はもともと大阪市立大学で臨床や研究をしていたので、学会で発表する機会がよくあります。疲労感はありふれた症状ですが、実は医学的にはまだわからないことが多いんです。

病院で検査して異常がなかったら、「ストレスです」とか「疲れていませんか」と聞かれることがありますが、それらは「もうそれ以上はわかりません」と言っているのに等しい。

そのわからなさに興味があり、研究していたのですが、大学の病院に来られる患者さんには「もっと早く診ていたら早くよくなっていたのに」と思う方がたくさんいらっしゃいました。町医者のほうがスピーディーに診察できるのではないかと思い、疲労に特化したクリニックを2014年に開業したのです。

竹本:私は、サントリーウエルネスに入社してからポリフェノールや成分セサミン、アスタキサンチンなど植物由来の機能性成分を研究してきました。その一環で、疲労感に注力してきました。疲労感のメカニズムは複雑ですが、ひとつの観点として、細胞の酸化が関わっているのではないかという仮説に着目して、研究を続けてきました。

竹本大輔 サントリーウエルネス生命科学研究所研究主幹

竹本大輔 サントリーウエルネス生命科学研究所研究主幹

「40代・50代の8割強が疲労感を覚えている」。独自調査で発覚

中富:特に疲労感を覚えやすくなるのは40代以降と言われています。自然と老化が進み、それが日々の生活に影響を及ぼします。加えて40代・50代はビジネスにおいてもさまざまな責任を負わなければならない世代ですよね。人によっては子育てや介護など家庭の事情も関係して、日々の不安も出てきます。

そうすると、健康診断の結果から運動するよう医者に言われても、それをする余裕も生まれにくい。疲労感で頭が働かないとか、仕事が進まないという人もいますし、休日に寝っぱなしになってしまう人もいます。

竹本:当社が40代から50代の男女1,000名を対象に行った疲労感に関する調査*1では、「6カ月以上疲労感が続いている」と回答した人が86%に達しました。ここまで多いとは思っていなかったので驚きです。疲労感を感じるシチュエーションとしては「朝の目覚めがよくないとき」が38.5%の1位でした。

中富:ダメージを軽減するうえで重要なのが睡眠ですが、十分にはとれていないのでしょう。

竹本:寝付けない人も32.1%と高い数字でした。

中富:日が落ちて暗くなってくると、いわゆるメラトニンという睡眠のホルモンが増えていくのですが、夜になって、また寝る直前までパソコンやスマホで作業しているとメラトニンが現れず、寝付きにくくなります。さらに、日中に最大限パフォーマンスを発揮しようと思ったら、個人差はあるものの、7〜8時間の睡眠が必要だと言われています。

竹本:睡眠の質を高めるにはどうすればいいのでしょうか。

中富:まずは睡眠時間を確保することが重要です。眠りを深くするには、日中にある程度運動したり活動したりする。いわゆる「スリーププレッシャー」です。ただし、忙しかった後に運動するとかえって眠れなくなることもあるので、余裕のあるなかで行うべきです。

デスクワークをしているなら、時々立ち上がって歩くのも一手ですよね。血の巡りがよくなるし、クリエイティビティも刺激されると思います。毎日、同じ時間に起きることが大事なので、逆に、週末の寝だめはよくないとされています。かえって疲労感を溜めてしまいます。
中富康仁 疲れと眠りのクリニック淀屋橋院長

中富康仁 疲れと眠りのクリニック淀屋橋院長

疲労感と細胞の「サビ」

中富:厚生労働省が公表している『令和5年版過労死等防止対策白書』でも指摘されていますが、長時間労働による疲労感は、放っておくと中高年の体に大きな影響を与えます。生活が乱れ気持ちが落ち込む原因にもなります。深刻な事態へと発展してしまえば、当然、企業側も責任を問われます。

竹本:早めの対策が必要になりますね。疲労感を放っておくと、体にはどのような問題が起こってきやすいのですか。

中富:不調のサインはさまざまに現れ、健康被害が進んでいくことが医学的に知られていますが、例えば疲労感が蓄積し、睡眠も不足すると、レプチンなど食欲を抑制するホルモンも減るので、太りやすくなるし、免疫力も下がると言われています。

竹本:呼吸に必要な酸素から発生する活性酸素は、増え過ぎてしまうと細胞に傷をつけます。私たちはその傷を金属が酸化することにちなんで「サビ」と表現しています。細胞が「サビる」と酵素の働きが低下するので、細胞のエネルギー源であるアデノシン三リン酸(ATP)をつくる速度が落ちていく。そうするとエネルギー不足で細胞の働きが停滞し、脳や筋肉といった体の組織の働きも低下します。以前よりも走れなくなったりすぐに息が上がったりと、パフォーマンスを十分に発揮しにくくなるのです。

中富:日々生きている以上、古くなった細胞は入れ替えないといけないので、壊すという作用も含めて活性酸素は必要なものですが、それはシーソーのようなものです。活性酸素の割合が増えてしまうと、「サビ」が広がってしまう。シーソーがどちらかに傾かないようにバランスを保ちながら自分の体のリソースを保つことが大事です。

疲労感は自律神経とも関連するので、疲労感が溜まってくると自律神経にも不調を来すことがありますね。日々の仕事や家事などで余裕がなくなると、交感神経優位になり、休んでいても脈拍が早いなどの不調が現れやすくなる。「もう少しできるけどこの辺にしておこう」など、日々のタスクを先延ばしできるような、ゆとりがあることも大切なことですね。

疲労感に耳を傾けよ

竹本:健康的な生活のために必要な要素として、例えば厚生省のe-ヘルスネットなどを見ると、食事、運動、睡眠が挙げられています。私たちは食事に注目し、食品の中にある成分の抗酸化作用を研究してきました。抗酸化作用には次のような働きを見出すことができました*2。1つ目は活性酸素を打ち消す働きで、2つ目は活性酸素をつくる酵素を抑制する働き、3つ目は抗酸化物質を増やす働きです。

中富:睡眠中に出るメラトニンも抗酸化作用があるとされる物質ですね。

竹本:体の抗酸化力は加齢とともに落ちていきますが、減少を食い止めるために、運動や生活習慣をきちんと取り入れることが重要ですよね。やりたいことをやる余裕もでてきますから。40、50代からでも遅くないので、自分に合う対策を見つけて、ケアをしっかりしていただきたいです。

中富:体の疲労感は、不調を知らせる大事なセンサーです。忙しいという理由で、健康診断で発覚した問題を放置するビジネスパーソンもおられますが、40代・50代は特に気をつけなければなりません。疲労感を残さずにパフォーマンスを向上させれば、クリエイティビティも発揮しやすくなるし、心に余裕があればひとに優しくなれる。まずは、疲労感にちゃんと耳を傾けることが大事です。

*1 40代・50代の疲労感の感じ方などを調べるため、サントリーウエルネスが24年8月30日〜同9月5日、インターネットリサーチにより、40代・50代の男女計1,000人に実施したアンケート調査。日々どのくらいの疲労感を感じているかなど約10問を尋ねた。

*2 野澤義則・鈴木紀子「活性酸素と酸化ストレス応答」『東海学院大学紀要』10号,2016年, 1-12頁、二木鋭雄「活性酸素・フリーラジカルに対する防御システム 作用メカニズムとダイナミクス」『化学と生物』No.8 Vol. 35,1999年, 554-561頁

サントリーウエルネス

中富康仁◎疲れと眠りのクリニック淀屋橋院長。大阪市立大学医学部代謝内分泌病態内科学・疲労クリニカルセンターで疲労外来を担当しながら、疲労の臨床・研究を行い、2014年にナカトミファティーグケアクリニック(現・疲れと眠りのクリニック淀屋橋)を開設。日本疲労学会評議員、日本医師会認定産業医、日本精神神経学会精神科専門医。日本疲労学会研究奨励賞受賞。

竹本大輔◎サントリーウエルネス生命科学研究所研究主幹。医学博士。NR・サプリメントアドバイザー。

Promoted by サントリーウエルネス /text by Fumihiko Ohashi photographs by Shuji Goto edited by Akio Takashiro

ヘルスケア

2024.10.04 12:30

アルツハイマー病のリスク、母親の発症とより強く関連する傾向 研究結果

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アルツハイマー型認知症になるリスクが大きいのは、母親と父親のどちらが発症した人なのだろうか?

もちろん、親の罹患は必ずしも、子の発症を意味するものではない。だが、両親から受け継いだ遺伝子は、子がこの病気を発症するかどうかだけではなく、発症の時期にも影響を及ぼしている可能性があるとされている。

ハーバード大学医学大学院の研究チームは、認知機能に問題のない米国とカナダ、日本、オーストラリアの65~85歳の男女4000人以上を対象に調査を実施。親がアルツハイマー病、またはその他の認知症を発症したかどうか、それは父母のどちらか、親が発症したのは何歳のときだったのか、といったことについて質問した。

その結果、子がアルツハイマー病になるリスクは、母親が65歳になって以降にこの病気を発症した場合、より高くなるとみられることがわかった。ただ、父親と子の間にそうした関連性は見られず、アルツハイマー病の家族歴がない人と、父親が高齢になって発症した人自身が高齢になって発症するリスクは、同程度だったという。

リスクの大きさはなぜ異なる?

研究チームは新たに、親がアルツハイマー病を発症しているものの、認知症状がない子の脳について、調査を行った。

その結果、過去の研究結果と同じように、脳内のアミロイドβの蓄積は、母親が発症している人の方が多いことが確認された。父親が診断されている人のうち、有害なこのタンパク質の蓄積がみられたのは、その父親が早期に発症していた場合のみだったという。

発症リスクに関連したこれらの違いは、一体何によってもたらされているのだろうか。子は46本の染色体を、父親からと母親から23本ずつ受け継いでおり、そのうち性染色体の1対が「XX」であるか「XY」であるかによって、子の性別が決定づけられている。

研究においてより注目されるようになっているのは、子の性別がどちらであるかに関わらず、「X染色体は必ず、母親から受け継がれている」ということだ。
次ページ > 遺伝を巡る謎は、解明に一歩近づいた?

編集=木内涼子

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2024.09.23 14:00

着信はないのに震えた気がする、スマホが引き起こす幻覚症状「幻想振動症候群」

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スマートフォンの普及により私たちの生活は驚くほど便利になった。コミュニケーションは今までになく容易になり、情報はかつてないほど入手しやすくなっている。しかし、つながりやすさと生産性向上という恩恵と引き換えに、いつしかスマホは私たちの体の拡張パーツのような存在と化した。この事実は、さまざまな問題を引き起こしてもいる。

ネットで暗いニュースや悲観的な情報ばかりを延々と追ってしまう「ドゥームスクロール」や、スマホが手元にないと不安になる「ノモフォビア(スマホ依存症)」、大量の通知に圧倒される「過剰通知」に、スマホの使い過ぎによる「デジタル疲労」など、たしかに良いことばかりではない。「幻想振動症候群(ファントムバイブレーション症候群)」も、その一つだ。

「幻想振動症候群」とは何か?

ポケットの中に入れたスマホがブルッと震えたり、通知音が聞こえたりした気がして確認してみるけれど、着信もメッセージも、SNSの通知すらもない──そんな経験はないだろうか。きっと何らかの不具合だろうと考えてしまいがちだが、たいていの場合はそうではない。これこそが幻想振動症候群だ。

人とコンピューターの関係やサイバー心理学に関する査読付き学術誌Computers in Human Behaviorに2012年に発表された研究論文によると、幻想振動症候群とは、そもそも通知が届いていないのにスマホの振動を感じたり通知音を聞いたりしたように錯覚する現象をいう。俗に「textaphrenia(テキスタフレニア、テキストメッセージ依存症)」や「ringxiety(リングザエティ、着信不安)」とも呼ばれる。

この不可解な現象について、論文の著者らは「感覚刺激の誤認、または感覚刺激がない場合は触覚の幻覚」と表現している。驚くべきことに、この研究では参加者の約89%が少なくとも2週間に一度はこの現象を経験していることがわかった。

スマホのようなごく身近なアイテムが幻覚の原因になるというのは、かなり衝撃的に思えるかもしれない。けれども統計データからは、こうした経験をした人が少なくない事実が浮かび上がってくる。

オンライン掲示板Redditに立てられた幻想振動症候群に関する議論スレッドに、あるユーザーが「2週間に1回? 少なくとも毎日1回はあるけど」と投稿したところ、似たような体験に困惑したというコメントが殺到した。「ポケットにスマホを入れていなくてもバイブを感じると、本当に怖くなる」「ポケベルの時代にはビープレプシーと呼ばれていたよ」という書き込みもあった

「幻の振動」は明らかに、私たちが考える以上に一般的な現象で、決して目新しいものではないのだ。
次ページ > 何が「幻想振動症候群」を引き起こすのか

翻訳・編集=荻原藤緒

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