サイエンス

2024.11.03 13:00

うつ病患者は、ある脳の神経回路が「2倍の大きさ」 最新研究

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これまで、うつ病患者の脳に関する心理学的研究は、個人差をあまり考慮せず、主にグループ平均に基づいて行われてきた。多くの場合、これらの研究では「スナップショット」的なアプローチが取られ、追跡調査や比較をせずに、ある時点での脳活動を捉えていた。

この定型的なアプローチによって、うつ病について多くのことが明らかになった一方で、その多様な性質を理解するには深さが不足していた。しかし、2024年9月に『ネイチャー』誌に発表された研究は、このギャップを埋めるもので、その結果は驚異的だった。

この記事では、研究者のチャールズ・リンチとコナー・リストンが、うつ病患者では脳の神経回路の1つである「セイリエンスネットワーク」が2倍の大きさになっていることをどのように発見したのか、そしてそれがどのような意味を持つのかを解説する。

うつ病患者の「セイリエンスネットワーク」は2倍の大きさ

「うつ病は『再発と寛解を繰り返す』状態で、症状は時間の経過とともに現れたり消えたりします」とリンチはPsyPostのインタビューで述べている。彼は続けて、「しかし、これまでの脳画像研究の多くは、一時点での脳スキャンを横断的に取得するアプローチに留まっていました」と説明する。

そこで、リンチとリストンはfMRIスキャンを用いて、神経学とうつ病の関連を研究する独自のアプローチを取った。具体的には、リアルタイムの脳活動パターンを示す血流の変化に着目した。また、グループ全体の平均ではなく、個人レベルでの変化に焦点を当て、各参加者の脳の指紋のようなユニークなマップを作成した。

大うつ病性障害(MDD)と診断された6人の参加者と、精神疾患の既往歴のない37人の健康な対照群をスキャンした結果、リンチとリストンは、徐々に変化する脳内の変化とパターンを捉えることに成功した。彼らは22回のセッションにわたり、各参加者を約621.5分(約10時間)スキャンし、それぞれの脳の詳細な画像を得た。

最も重要な発見は、うつ病患者6人のうち4人で、セイリエンスネットワークが健康な対照群と比べて2倍以上の大きさであったことだ。この拡大は、感情や認知の処理に関連する脳領域、特に感情の処理や報酬、意味のある経験の評価に重要な役割を果たすことで知られる領域で顕著だった。

このセイリエンスネットワークの拡大の程度は驚くべきものだった。うつ病の人では健康な人に比べて、大脳皮質に占めるセイリエンスネットワークは約73%大きかったのだ。通常、セイリエンスネットワークは健康な脳では大脳皮質の約3.17%を占めるが、うつ病の人々では平均で約5.49%を占めていた。

より大きなセイリエンスネットワークがうつ病患者に与える影響

リンチとリストンは、外部に焦点を当てる「セントラルエグゼクティブネットワーク(CEN)」と内部に焦点を当てる「デフォルトモードネットワーク(DMN)」という2つの主要なネットワーク間で脳を切り替える際に、セイリエンスネットワークが重要な役割を果たすと指摘している。これにより、うつ病患者においてセイリエンスネットワークのサイズが増加すると、自己反省や空想、心のさまよい、うつ病性反芻などの行動に関連するDMNの機能不全が起こりうる。

簡単に言えば、セイリエンスネットワークは脳がどの刺激に対して注意を向け、優先順位をつけるかを決定する上で重要な役割を果たす。うつ病患者でこのネットワークが大きい場合、脳が否定的な思考、記憶、感情といった内的な手がかりに強く同調し、外部への注意を向けたり、それらから意識を切り離すことが難しくなっている可能性がある。

研究者たちは、この発見が「うつ病患者が比較的健康な期間から重症の期間へと移行する際に関与する脳領域とネットワークを理解する助けとなり、さらにこれらの脳ネットワークがどのように空間的に組織されているか(例えば、その大きさ)といった特徴が、うつ病のリスクにどのように影響を与えるかを特定するために重要である」と述べている。
次ページ > 新しい発見がもたらす手がかり

翻訳=酒匂寛

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2024.10.25 11:02

【前編】持続的成長をデザインできる企業とは〜サステナグロースカンパニー2024受賞企業発表

「サステナグロースカンパニー大賞」に続く、審査委員会推薦部門4賞、ノミネート部門6賞にも強い理念と独自の強みを有するビジネスを展開する個性的な企業が選出された。
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サステナグロースカンパニー賞
IPO部門

GENDA(ジェンダ) 代表取締役社長 申 真衣

◾️コロナ禍で英断、IPOで成長爆進
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「GENDAは22年1月に社員4,000人を擁するセガ エンタテインメント(セガのゲームセンター事業を担う会社)の株式を取得しました。その後、海外も含めて積極的にM&Aを実施しています。日本のゲームセンター市場はコロナ禍で一時後退しましたが、アニメのキャラクターグッズなどを獲得するクレーンゲームは、業界市場過去最高の売り上げです。GENDAの強みはM&Aやファイナンス、テクノロジー、エンターテインメント経営のプロフェッショナル人材が揃っていることです。IPOで得た資金は主に『施設の新設』と『ゲーム機の購入』に充てて、さらなる事業シェア拡大に努めています」

サステナグロースカンパニー賞
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オイシーズ 代表取締役社長 工藤 智

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「私たちの事業コンセプトのひとつが『家業の事業化』です。業態をシンプルに研ぎ澄ませながら、海外も含めた多店舗化や中食など事業の多角化を実現しています。一手間の大切さを高めて、商品に尖とがりをもたせる。こうした考え方のもと、濃厚豚骨魚介つけ麺のパイオニア『つじ田』がロサンゼルスに出した担々麺専門店『KILLER NOODLE TSUJITA』は、ミシュランガイドにも掲載されるなど高評価を得ています。このブランドを日本に逆輸入したブランドシェアリングサービスのように、国内外の事業が交差する新規業態も生まれています」

サステナグロースカンパニー賞
公益セクター部門
奈良県立医科大学 理事長・学長 細井裕司


◾️新産業創生、認知症予防にも期待
音が耳に伝わるメカニズムは、「空気を振動させる気導」と「頭蓋骨を振動させる骨伝導」のふたつだった。2004年、その常識が変わった。奈良県立医科大学耳鼻咽喉科学教授の細井裕司が「耳の軟骨を振動させる軟骨伝導」の仕組みを新たに発見したのだ。
「軟骨伝導イヤホンには、清潔、音漏れなし、周りの音が聞こえる、音声明瞭、水中での聴取ができるなど優れた特徴があります。軟骨伝導に関する世界の特許の大部分の権利を有しているCCHサウンド社が軟骨伝導振動子を開発して、最終製品を製造するメーカーに提供し、音楽用、難聴用など新しい音響製品が現在、次々と誕生しています。窓口用軟骨伝導イヤホンは全国の250以上の団体の窓口に設置備品として導入され、難聴の克服とそれによる認知症の予防が期待されています」

DXインパクト賞
エリッツホールディングス 代表取締役社長 槇野常美

◾️店舗数も生産性もDXで異次元へ
1986年創業のエリッツホールディングスは、地元の京都を中心に滋賀、大阪、奈良で賃貸不動産仲介を主力事業に成長を遂げてきた。現在、京都・滋賀でナンバーワンの店舗数・取扱物件数を誇る。その成長の起爆剤が業界でも早期に着手してきたデジタル化の取り組みだと、創業者の槇野常美は語る。
「1999年からあらゆるシステムのデジタル移行に挑み、紙で存在していた物件台帳も2001年にはデジタル化しています。以降、店舗数の拡大が進行しました。パソコンひとつで迅速な店舗開設が可能になったからです。また、お客様からの問い合わせメールの内容をくみ取り、即座に自動返信するシステムを立ち上げたことは、店舗への来店予約や実際の来店率向上につながりました。来店前にデジタルで取得した情報をもとに来店時の接客内容と成果を向上させる独自の仕組みが強みです」


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ヘルスケア

2024.10.04 12:30

アルツハイマー病のリスク、母親の発症とより強く関連する傾向 研究結果

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アルツハイマー型認知症になるリスクが大きいのは、母親と父親のどちらが発症した人なのだろうか?

もちろん、親の罹患は必ずしも、子の発症を意味するものではない。だが、両親から受け継いだ遺伝子は、子がこの病気を発症するかどうかだけではなく、発症の時期にも影響を及ぼしている可能性があるとされている。

ハーバード大学医学大学院の研究チームは、認知機能に問題のない米国とカナダ、日本、オーストラリアの65~85歳の男女4000人以上を対象に調査を実施。親がアルツハイマー病、またはその他の認知症を発症したかどうか、それは父母のどちらか、親が発症したのは何歳のときだったのか、といったことについて質問した。

その結果、子がアルツハイマー病になるリスクは、母親が65歳になって以降にこの病気を発症した場合、より高くなるとみられることがわかった。ただ、父親と子の間にそうした関連性は見られず、アルツハイマー病の家族歴がない人と、父親が高齢になって発症した人自身が高齢になって発症するリスクは、同程度だったという。

リスクの大きさはなぜ異なる?

研究チームは新たに、親がアルツハイマー病を発症しているものの、認知症状がない子の脳について、調査を行った。

その結果、過去の研究結果と同じように、脳内のアミロイドβの蓄積は、母親が発症している人の方が多いことが確認された。父親が診断されている人のうち、有害なこのタンパク質の蓄積がみられたのは、その父親が早期に発症していた場合のみだったという。

発症リスクに関連したこれらの違いは、一体何によってもたらされているのだろうか。子は46本の染色体を、父親からと母親から23本ずつ受け継いでおり、そのうち性染色体の1対が「XX」であるか「XY」であるかによって、子の性別が決定づけられている。

研究においてより注目されるようになっているのは、子の性別がどちらであるかに関わらず、「X染色体は必ず、母親から受け継がれている」ということだ。
次ページ > 遺伝を巡る謎は、解明に一歩近づいた?

編集=木内涼子

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2024.09.23 14:00

着信はないのに震えた気がする、スマホが引き起こす幻覚症状「幻想振動症候群」

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スマートフォンの普及により私たちの生活は驚くほど便利になった。コミュニケーションは今までになく容易になり、情報はかつてないほど入手しやすくなっている。しかし、つながりやすさと生産性向上という恩恵と引き換えに、いつしかスマホは私たちの体の拡張パーツのような存在と化した。この事実は、さまざまな問題を引き起こしてもいる。

ネットで暗いニュースや悲観的な情報ばかりを延々と追ってしまう「ドゥームスクロール」や、スマホが手元にないと不安になる「ノモフォビア(スマホ依存症)」、大量の通知に圧倒される「過剰通知」に、スマホの使い過ぎによる「デジタル疲労」など、たしかに良いことばかりではない。「幻想振動症候群(ファントムバイブレーション症候群)」も、その一つだ。

「幻想振動症候群」とは何か?

ポケットの中に入れたスマホがブルッと震えたり、通知音が聞こえたりした気がして確認してみるけれど、着信もメッセージも、SNSの通知すらもない──そんな経験はないだろうか。きっと何らかの不具合だろうと考えてしまいがちだが、たいていの場合はそうではない。これこそが幻想振動症候群だ。

人とコンピューターの関係やサイバー心理学に関する査読付き学術誌Computers in Human Behaviorに2012年に発表された研究論文によると、幻想振動症候群とは、そもそも通知が届いていないのにスマホの振動を感じたり通知音を聞いたりしたように錯覚する現象をいう。俗に「textaphrenia(テキスタフレニア、テキストメッセージ依存症)」や「ringxiety(リングザエティ、着信不安)」とも呼ばれる。

この不可解な現象について、論文の著者らは「感覚刺激の誤認、または感覚刺激がない場合は触覚の幻覚」と表現している。驚くべきことに、この研究では参加者の約89%が少なくとも2週間に一度はこの現象を経験していることがわかった。

スマホのようなごく身近なアイテムが幻覚の原因になるというのは、かなり衝撃的に思えるかもしれない。けれども統計データからは、こうした経験をした人が少なくない事実が浮かび上がってくる。

オンライン掲示板Redditに立てられた幻想振動症候群に関する議論スレッドに、あるユーザーが「2週間に1回? 少なくとも毎日1回はあるけど」と投稿したところ、似たような体験に困惑したというコメントが殺到した。「ポケットにスマホを入れていなくてもバイブを感じると、本当に怖くなる」「ポケベルの時代にはビープレプシーと呼ばれていたよ」という書き込みもあった

「幻の振動」は明らかに、私たちが考える以上に一般的な現象で、決して目新しいものではないのだ。
次ページ > 何が「幻想振動症候群」を引き起こすのか

翻訳・編集=荻原藤緒

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