ローリングストーン誌が選ぶ「2018年ベスト・ムービー」トップ20

左から時計周りに:『ROMA/ローマ』、『女王陛下のお気に入り』、『グリーン・ブック』、『アリー/スター誕生』ローリングストーン誌が選ぶ2018年ベストムービー20選

ローリングストーン誌の映画評論家のピーター・トラヴァーズが今年一年の映画をランク付け。モノクロ回想ムービーから『ブラック・パンサー』、レディ・ガガの主演映画に「レディオ・ガガ」を歌ったフレディ・マーキュリーの伝記映画まで、今年の洋画ベスト20本を一挙公開。

2018年のベストムービーは、それぞれが新たな歴史を刻んだ。動画ストリーミングの大手Netflixは『ROMA/ローマ』でオスカーレースの主役となり、これからの映画鑑賞は配給方式に左右されないことを証明した。マーベルは『ブラック・パンサー』で多様性とブラックパワーを称え、世間にかつてない衝撃をもたらし、コミック系ムービーの可能性を広げた。あの作品をきっかけに――『アリー/スター誕生』『グリーン・ブック』『妻たちの落とし前』も含め――映画スタジオは不毛な時期を乗り越え、ようやくカムバックを果たすことができた。

また、新たな世界への扉も開かれた。『ファースト・マン』はニール・アームストロングとともに月へ飛び立ち、『Eighth Grade(原題)』はデジタルの世界に迷い込んだ13歳の少女の頭の中をのぞかせた。スパイク・リー監督は『BlackKklansman(原題)』で人種問題を取り上げ、アダム・マッケイ監督は『バイス』でアメリカ元副大統領ディック・チェイニーをこき下ろし、ともに過酷な現実を辛辣なジョークを織り交ぜながら描いた。『スパイダーマン:スパイダーバース』は、極彩色のアニメーションと社会的共生を盛り込んだストーリーで新たな革命を起こし、ドキュメンタリー『Won’t You Be My Neighbor?(原題)』では、15年前に他界した子供番組の司会者ミスター・ロジャーズが分断するアメリカに良識を教えてくれた。ここに挙げる20作品はどれも世に一石を投じ、波紋を呼び、かつ観客を楽しませてくれた今年の最高傑作だ。

20位『Wont’ You Be My Neighbor』

議論が飛び交う年に、この映画は「まぁまぁ落ち着きなさい」と呼びかける。いまは亡きフレッド・ロジャース――TV番組『ミスター・ロジャーズ・ネイバーフッド』で子供たちに厳しい現実の処世術を授け、お茶の間の人気者となった彼のドキュメンタリー映画は、セラピストが口にする励ましの言葉でしかないかもしれない。モーガン・ネヴィル監督が手掛けた、時代を超えてやってきたタイムリーな作品が、興行的にも成績を収めたことは(興行収入2000万ドル以上、伝記映画では歴代最高記録)当然といえば当然だ。チャンネルを変えるたびに常軌を逸した世界を報じるニュースに打ちのめされる今、映画の良心ともいえる作品に出合った我々は、カーディガン姿の男性に敬礼し、こうつぶやかずにはいられい。「今こそ、あなたのような存在が必要なんです」。※日本公開は未定

19位『ボヘミアン・ラプソディ

マーキュリーが再び天に昇った。フレディ・マーキュリーの生涯を描いたこの作品の荒探しを書き連ねてもいいのだが、奇抜で、ド派手で、しかもずば抜けた才能の持ち主だったクイーンのリードボーカルを体当たりで演じたラミ・マレックの演技はお見事。クイーンのフロントマンがステージの上で会場を盛り上げる姿を目にしたときの、スタジアムを埋め尽くす熱狂的なエネルギーがよみがえる。外見、ステップ、観客に向かって「レディオ・ガガ」「ウィー・アー・ザ・チャンピオン」や映画のタイトルにもなったオペラ的「ボヘミアン・ラプソディ」を熱唱するあの気迫。そのすべてが、マレクの印象的な演技で再現されている。だがもっと重要なのは、決して自分らしくいられなかった男の魂も、そこに描かれているという点だ。※日本では、現在公開中

Translated by Akiko Kato

世界を制した映画『ブラックパンサー』監督と主演のエモーショナルな物語

映画『ブラックパンサー』主演のチャドウィック・ボーズマン(Norman Jean Roy for Rolling Stone)

史上最も「ラディカル」なスーパーヒーロー・ムービーと言わしめ、全米大ヒットとなった映画『ブラックパンサー』。ライアン・クーグラー監督と主演のチャドウィック・ボーズマンが、ローリングストーン誌に明かした「ブラックムービー革命」の知られざる背景とは?

ハリウッドで大きく変わろうとしている、アフリカン・アメリカンを巡る状況

2年前にチャドウィック・ボーズマンが出演した『キング・オブ・エジプト』は、お世辞にも優れた作品とは言えなかった。それだけでなく、同作はアフリカの神々役にスコットランド人の白人俳優、デンマーク人の白人俳優、そして少なくとも7人のオーストラリア人の白人俳優を起用したことで、ホワイトウォッシュの典型例として批判を浴びた。数学の発明者とされる、知恵を司るエジプトの神トトを演じたボーズマンは、主要キャストにおける唯一の黒人俳優だった。公開前に行われたインタビューで、ボーズマンは自分がその問題点を認識した上で出演に同意したこと、そして黒人の俳優が1人だけでも登場するべきだという思いからだったことを告白している。「でも現実を見ないといけなかった」。彼はあっさりとした様子でこう付け加えている。「キャストが黒人だけの映画で、1400万ドルの予算を回収するのは難しいからさ」


米ローリングストーン誌の表紙を飾ったチャドウィック・ボーズマン(Photograph by Norman Jean Roy for Rolling Stone)

あれから2年、状況は大きく変化した。主要キャストを黒人俳優で固めた『ブラックパンサー』に2億ドルという巨額の予算が投入されたことは、その事実を物語っている。時代がようやく追いついたということなのだろう。1966年にスタン・リーとジャック・カービーが生み出した史上初のブラック・スーパーヒーローは、ボーズマンがそのキャラクターを演じた2016年作『シビル・ウォー/キャプテン・アメリカ』で、初めて本格的な銀幕デビューを飾った。不当にも白人のキャラクターばかりを送り出してきたマーベル・シネマティック・ユニバースの発足から10年、史上初のブラック・スーパーヒーロー・ムービーが公開された。

「大きな波が押し寄せているのを感じるよ」。ボーズマンはそう話す。「『マルコムX』が公開されたときの興奮は今も覚えてる。でも多様で包括的なこの映画には、より大きな期待が寄せられているのを感じるんだ。マーベルの映画が好きじゃない人なんていないしね」

彼は決して誇張しているわけではない。本作はスーパーヒーロー・ムービーにおける前売り券の売り上げ記録を更新しており、初週の週末興収は現時点で1億6500万ドルと予想されている。この数字はマーベルの単発作品としては『アベンジャーズ』に次ぐ記録であり、初週の週末興収歴代トップ10に入る可能性もある。

Translated by Masaaki Yoshida

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