NHKのラジオ国際放送で8月、中国人スタッフが尖閣諸島(沖縄県石垣市)を「中国の領土」と主張し、「南京大虐殺を忘れるな」と発言するなど前代未聞の放送事故が起きた。NHKは9月に関係者を処分したが、公共放送で「電波ジャック」ともいえる事態をやすやすと許した責任は大きい。問題の根底には何があったのか。元NHKチーフプロデューサーの長井暁氏に話を聞いた。(聞き手 大森貴弘)
◇
国際放送の問題は、NHK上層部の隠蔽(いんぺい)体質が如実に表れたと思う。調査報告書を読むだけでも、問題を小さく見せようとする悪い癖が垣間見える。会長への報告は発生から3時間もたってから。実際には当日午後9時のニュースで伝えたが、最初は総合テレビの最終ニュースで放送する方針だった。視聴者の少ない時間にひっそり流そうとしたと受け取られても仕方ない。
放送がジャックされたことが問題なのであって、発言の中身は本来、NHKの責任ではないはずだ。にもかかわらず、最初の記者説明では一部しか発表しなかった。最終的に全文を公表することになるのだから、小出しにする意味がない。対応が悪くドツボにはまっていく典型的なケースだ。最終的に担当理事が引責辞任をしたが、他の責任者は処分が甘いのではないか。
ラジオの外国語放送に、満足な人材がいないことが露呈したともいえる。