「秘書雇うより安い」町田、全職員にChatGPT。デジタル戦略で、住民向け生成AI・アバターも

町田市

東京都町田市では、職員や住民向けに生成AIの活用が進んでいる。

撮影:松本和大

東京都町田市で、生成AIを活用した一風変わった取り組みが始まっている。

同市のバーチャル市役所ポータル「まちドア」を訪れると、「引越し」や「住民票」などの手続きのカテゴリーが書かれたアイコンがずらり。中央にはポップなキャラクターのイラストと共に「AIナビゲーター」の文字が目を引く。

町田市のバーチャル市役所ポータル「まちドア」

町田市のバーチャル市役所ポータル「まちドア」。行政手続きについて、オンライン申請・デジタルサービスの案内用のポータルサイトだ。

撮影:三ツ村崇志

「住民票の取得方法を教えて」「子育て支援の内容知りたい」などと入力すると、3Dアバターが身ぶり手ぶりを交えて手続きを案内してくれた。

「どこの自治体もDX(デジタルトラスフォーメーション)の文脈で色々と取り組んでいますが、LINEやマイナポータルなど入口がバラバラで分かりにくいことが多く、役所のアプリも言葉が難しい上、なんだかダサい。

『民間レベルのイケてる感じのアプリを作りたいよね』という課題感や、役所として生成AIを最初に利用していきたいといった思いから、アバターを使ったAIナビゲータというユニークな取り組みを始めました」

こう語るのは、町田市役所でデジタル戦略室の和田進吾さんだ。行政の「お堅い」イメージからは想像できない、町田市のDX、生成AI活用の取り組みの背景を聞いた。

住民の「こんな手続きがしたい」に、回答する生成AI

AIナビゲーターでは、手続き名が分からなくても、気軽に質問をすることができる。

AIナビゲーターでは、手続き名が分からなくても、気軽に質問をすることができる。

まちドアを使用したときの画面の一部よりキャプチャ

「まちドア」は、「バーチャル市役所」として2024年4月に誕生した町田市のデジタルサービスが集約されたポータルサイトだ。「AIナビゲーター」は7月に追加機能として導入された、生成AIを活用した住民向けのサポート機能だ。

例えば、まちドアで

「体育館でバドミントンをしたいのですが、どうすればいいですか。」

と質問をすると、関連しそうな手続きがいくつか表示された。その中から「施設案内予約システム(集会・学習施設用)のご案内」を、これをクリックすると

「文化・スポーツについてだね。施設案内予約システム(集会・学習施設用)のご案内について説明するよ。

オンラインで、集会や学習施設の予約ができるんだよ。

以下のリンクをクリックしてね。」

と申請ページにつながるリンクが表示された。

行政でもオンライン申請が当たり前のように普及しつつある昨今、一方で申請フォームがどこにあるのか、そもそもどんな手続きをすればよいのか分からない課題も残っていた。生成AIの登場によって、住民の「こんな手続きをしたい」に答えるサービスを提供できる可能性が見えてきたわけだ。

和田さんによると、9月末までに約6000回、一日あたり約100回の利用があったという。

使われ方としては、保育園への入園手続きなどの事務案内に加えて「町田市の駅前で美味しいラーメン屋さんを教えてください」というような雑談も寄せられている状況だ。

行政から「オープンソース」の利用提案で低コストに

バーチャル市役所ポータル「まちドア」のコンセプト

バーチャル市役所ポータル「まちドア」のコンセプト

町田市のホームページよりキャプチャ

なぜ町田市では、生成AIによるチャットボットにとどまらず、そこに「アバター」をかけ合わせる一風変わった取り組みを進めることになったのか。起点になったのは2021年だ。

当時、町田市では職員やアカデミアの人材など、さまざまなステークホルダーが集まって2050年の町田の未来を考えるワークショップ(Future Machida 2050)を開催していた。議論の中で見えてきたのが、AIやデジタルツールといった先端技術の活用だった。

行政システムはいまは地理的に分けられているものの、将来的にはデジタル空間(メタバース)を起点に、世界的に展開していく未来もあるのでは——。

そんな大きなコンセプトを描きながら、2021年9月にデジタル戦略化総合戦略2021を策定。以後毎年改定している。2022年10月に改定した際に、オンライン行政手続きポータルの導入や、AIやアバターなどの活用を進めていく方針を定めた

戦略

画像:町田市デジタル化総合戦略2021

戦略

2021年に策定された町田市のデジタル戦略と、2022年に改定されたデジタル戦略、それぞれの表紙。2022年の表紙は当時話題になった画像生成AI「Stable Diffusion」を使って描かれた。表紙からもAIの導入に舵を切ったことが伝わる。

画像:町田市デジタル化総合戦略2022

実際、行政のDXの流れの中で、アバターやメタバースを活用して職員採用試験用のPR動画を安価に作るなど、草の根的に取り組んでいた下地もあった。

OpenAIからChatGPTが発表されたのは、デジタル戦略を改定した直後の2022年12月。偶然ではあるが、タイミングが重なった。

まちドアの開発は、2023年5月に町田市とAI連協協定を締結したNTTデータが担当した。基盤となる生成AIには、マイクロソフトの「Azure OpenAI Service」を活用。生成AIによるチャットボットだけではなく、アバターによるコミュニケーション機能まで一から開発するとなると、コストもかなりかかりそうだが、AIナビゲーターまで含めたまちドアの運用費用は年間で約1200万円と、そこまで法外な値段ではない。

和田さんは、かつてエンジニアとして民間企業で働いていた経験を生かし、アバター作成に使えるオープンソースのソフトウェアなどを調査。NTTデータに発注する段階で、ある程度活用できそうなものを見繕うことでコストを抑えたという。

NTTデータ

NTTデータに発注する段階で、オープンソフトウェアなどの活用を持ちかけたことが、低コストでの運用を可能にする要因の一つとなった。

撮影:三ツ村崇志

生成AIを住民向けサービスとして活用する上では、セキュリティー面にも気を遣う。

AIを実際の手続きにまで活用しようとすると、どうしても住民の個人情報にアクセスする必要があり、運用が難しくなる。そこでAIナビゲーターでは、既存のオンライン申請フォームなどの手続きページを案内する機能に限定。手続きそのものはあくまでも住民(ユーザー)主導とした。

手続き候補を複数提示する形を取ることで、AIが誤情報や関係のない回答をする「ハルシネーション」を防ぐことにもつながっているという。

AIの学習データも、もともとオンライン上に公開されている情報だけに限定した。住民がAIナビゲーター上で入力したデータも再学習させない。ほかにも不適切な質問をされた際に生成AIが回答しないようにするフィルタリングの仕組みなども導入している。

町田市が実施した満足度調査では、利用した8〜9割の住民から「満足した」と回答があるなど、概ね好評だ。

手続き名が分かっていないと辿り着けなかったような手続きも、AIを通して辿り着けるようになりました。一方で、登録されてない手続きについては窓口に来てもらうように案内をしないといけないのですが、そこはまだできていません。そこは課題です。(AIで案内できる)手続きの数をどんどん増やして利便性を向上させていきたい」(和田さん)

抽象度の高い質問への回答精度も課題の一つだ。ただ、それは生成AIの進歩によって解決できる可能性も高い。町田市としてはモデルを差し替えられる仕様にすることで、極力新しいバージョンを活用していきたい考えだ。

全職員に生成AI導入。年間1000万円は高い?安い?

町田市では、職員向けにも生成AIを導入している。

町田市では、職員向けにも生成AIを導入している。

撮影:松本和大

町田市では、住民向けサービスだけではなく、職員の業務効率化のためにも生成AIの導入を進めている。

2023年12月から、マイクロソフトの「Azure OpenAI Service」を活用して職員用AIエージェント(ChatGPT)を全職員向けに導入しており、Teams上で利用できるようになっている。

外部公開されている町田市関連の情報を学習しており、従来のネット検索に代わる情報リサーチのツールとしての活用や、文章の要約、メールや報告書などの下書きなどに活用されている。

職員の中には、エクセルの関数やマクロ作成に活用しているという猛者もいる。

職員向け生成AIの効果的な活用分野。

職員向け生成AIの効果的な活用分野。

町田市・生成AI利活用ガイドラインよりキャプチャ

これらの取り組みもNTTデータとの連携協定の下で進めており、町田市の全職員約4000人(会計年度任用職員含む)に導入して、運用コストは年間1000万円程度。通常のChatGPTは月間20ドル(約3500円)であることを考えると

「仮にこれをうちの規模(約4000人)で使おうとすると、月に1000万円ほどかかってしまいます。感覚的にはその10分の1ぐらいのコストで使えているので、非常にコストパフォーマンスが良い」(和田氏)

という。

年間1000万円で全職員に秘書(AIエージェント)が付くと考えると、確かに破格だ。

職員からの反応もポジティブなものが多い。

「生成AIを利用している職員にアンケートを取ったところ、継続して使いたいという熱いメッセージが来ています。利用回数も右肩上がりで増加している傾向にあります」(和田さん)

ただもちろん、人によって活用頻度はまちまちだ。職員向けの生成AIの利用回数は、1日200回程度。月単位でのアクティブユーザ数はまだ600人程度と少数だ。

「今後は、誰もが生成AIであることを意識せずに使えるよう、ビジネスプロセスの中にどう組み込んでいくか考えていかないといけない」(和田さん)

デジタル戦略室長の高橋晃さんは、

「役所の窓口業務の職員が、日常的にChatGPTを使うことはそれほど多くないと思います。

ただ、そういう業務にあたる人たちが普段業務に使うようなシステム、例えば財務会計や勤怠管理のシステム、あるいは住民票や税金のシステムなどのマニュアルや法律に紐づけ、普段使いしていくことが重要なのだと思います。

あとは、業務上のちょっとした作法。例えば、議会対応やメディア対応のノウハウなど、口伝で伝わってきたものを新人に教えるのは大変です。最初の手間はかかりますが、そういった暗黙知を見える化して(ChatGPTに)聞けるようになるといいのではないでしょうか」

と語った。

編集部より:初出時、和田さん、高橋さんの所属を「デジタル総合戦略室」「デジタル化戦略室」としておりましたが、正しくは「デジタル戦略室」です。お詫びして訂正致します。 2024年10月31日 10:32

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