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第438回 シーズン44 エピソード8
どうしてベクトルを使うの?(後編) ただいま無料

登場人物紹介

:数学が好きな高校生。

テトラちゃんの後輩。 好奇心旺盛で根気強い《元気少女》。言葉が大好き。

図書室にて

ここは高校の図書室。いまは放課後。

は後輩のテトラちゃんといっしょに図形の問題をベクトルを使って考えていた(第436回参照)。

問題を解いた後「どうしてベクトルを使うのか」についての《数学トーク》を楽しんでいるところ(第437回参照)。

テトラ「……先輩、他にもベクトルの問題は何かご存知ですか? もっと別の問題も解いてみたいです!  あ、あまり難しくないものでお願いします」

「そうだなあ……じゃあ、こんな問題はどう?」

問題2

四面体 ABCD がある。

  • AC,AD 上にそれぞれ点 A1,A2 をとる。
  • BC,BD 上にそれぞれ点 B1,B2 をとる。
このとき、 線分 A1B1 が線分 A2B2 と平行ならば、 線分 A1B1 は辺 AB と平行であることを示せ。

なお、 四点 A,B,C,D は一般の位置にある。 すなわち、この四点 A,B,C,D は一つの平面上にはなく、 どの三点を選んでも一直線上にはない。

参考:藤田宏他『新課程 大学への数学IIB』(研文書院、1975年)

テトラ「まず問題を読ませてください。四面体 ABCD があって……」

「……」

テトラ「……ああ、ダメです、ダメです! 図を描くのを忘れていました。 図を描きながら読まないと、 わけがわからなくなりますね」

「うん、図形問題は、 まず《図をかけ》というポリアの指示にしたがった方がいいよね。 うまく描けなかったら描き直せばいいんだし」

テトラ「では、図を描きながら問題を読むことにします。 四面体 ABCD がある……ということは、 こうなります」

図を描きながら問題を読む(1):四面体 ABCD がある。

テトラ「それから、辺 AC,AD 上にそれぞれ点 A1,A2 をとります。つまり、 辺 AC の上に点 A1 をとって、 辺 AD 上に点 A2 をとることになりますから……図はこうなります。

図を描きながら問題を読む(2):辺 AC,AD 上にそれぞれ点 A1,A2 をとる。

テトラ「同じように、辺 BC,BD 上にそれぞれ点 B1,B2 をとります。 今度は辺 BC 上に点 B1 をとって、 辺 BD 上に点 B2 をとることになります……こうですね。 はい。だいたい様子がわかってきました」

図を描きながら問題を読む(3):辺 BC,BD 上にそれぞれ点 B1,B2 をとる。

テトラ「次に、線分を二つ引くんですね。 線分 A1B1 が線分 A2B2 と平行ならば……」

図を描きながら問題を読む(4):線分 A1B1 が線分 A2B2 と平行ならば……

テトラ「……線分 A1B1 は辺 AB と平行であることを示せ」

図を描きながら問題を読む(5):……線分 A1B1 は辺 AB と平行であることを示せ。

「……」

テトラ「先輩?」

「あ、ごめん。 テトラちゃんが一歩一歩ていねいに図を描きながら問題を読んでいくのに引き込まれてしまった。 図を描くのは、問題を解くテクニックとしての意味だけじゃなくて、 もっと大事な意味がありそうだなあ——って思ってたんだよ。 図形を実際に操作するみたいな意味」

テトラ「先輩のおっしゃりたいこと、何となくわかります。 図を描きながら読み進めると、 問題の言ってる内容があたしの心の中にすうっと入ってくるような感じがしますから。 それから図形に触れているような感じもします」

「うんうん」

テトラ「たとえば『辺 AD の上に点 A2 をとる』というときには、 まず辺 AD をすうっと指でなぞって、それからその途中に点 A2 を置く……みたいに」

「なるほどね」

テトラ「文章だけを読んでいると、 最初はいいんですけど、文字が増えていくにつれて、だんだんモヤモヤしてきます。 『えっと、点 A2 はどこにあるんでしたっけ?』となって、 文章を読み返したりすることになるからです。 でも図を描くと実際に指でなぞってから置いた手触りが残っているので 『点 A2 はここにある』とわかりやすくなるのかもしれませんね」

「確かに、確かに」

テトラちゃんは、自分の感覚を言葉に乗せるのがうまいなあ。

が何となく感じたことを、すっと言語化してくれる。

スパッと切る?

テトラ「はい、ここまで図を描きながら問題を読んできました」

「ところで、補足説明に入っている 『この四点 A,B,C,D は一つの平面上にはなく、 どの三点を選んでも一直線上にはない』の意味は伝わってる?」

問題2(再掲、図が描けた。補足説明を強調)

四面体 ABCD がある。

  • AC,AD 上にそれぞれ点 A1,A2 をとる。
  • BC,BD 上にそれぞれ点 B1,B2 をとる。
このとき、 線分 A1B1 が線分 A2B2 と平行ならば、 線分 A1B1 は辺 AB と平行であることを示せ。

なお、 四点 A,B,C,D は一般の位置にある。 すなわち、この四点 A,B,C,D は一つの平面上にはなく、 どの三点を選んでも一直線上にはない。

テトラ「え? あ、はい。 わかっています。 A,B,C,D の四点は、 こう……バラバラの位置にあるということですよね」

「そうだね。だからこの問題2は空間で考える問題ということになる」

テトラ「はい、わかります。 ところで、この図を見ていると、 スパッと切りたくなりますよね」

「切る?」

テトラ「はい。 A1B1A2B2 が平行ということは、 ええと、ねじれていないので、 四点 A1,B1,A2,B2 を通る平面でスパッと切れそうだな、と思ったんです」

四点 A1,B1,A2,B2 を通る平面

「ああ、そういうこと……」

テトラ「そして、その平面が AB と平行になるのかしらん……と思ったんですが、 でもそれを証明せよと言われても、どう考えていいのかわかりません」

テトラちゃんは図を指さしたり、 両手と腕をくねくねと回したりして、 自分のイメージを説明する。 まるでダンスかマジックを披露しているみたいだ。

「平面で切るというのはおもしろいけど、 必ずしも A1B1A2B2 が平行でなくても、 その平面は生まれそう」

テトラ「?」

「確かに、 A1B1A2B2 が平行だったらねじれの位置にないので、一つの平面を決める。 でも、 A1B1A2B2 が平行でなくても、たとえば『ハの字』みたいになっていても平面は決まるから、 僕たちが《求めたいもの》に、すぐにはつながらないように思うんだ。いや、よくわからないけど」

テトラ「《求めたいもの》というのは《A1B1AB と平行である》のことですよね」

「そう」

テトラ「……」

テトラちゃんは無言になって考え始めた。

もちろん、は無言で待つ。 はこの問題2を以前解いたことがあるから、 証明の流れも大事なポイントもわかっている。

でも、彼女が自分で考えているときにあれこれヒントを出すわけにはいかない。

が先回りしてヒントを出してしまったら、 テトラちゃんが考える喜びを台無しにしてしまう。

自分で考えを巡らせることは——たとえ解決まで至らないとしても——非常に重要なのだ。

ベクトルを使う

「……」

テトラ「……やはり、ベクトルを使ってみようかと思います。 うまく補助線のようなものを見つければ図形的に証明できるのかもしれませんけれど」

「もちろん、証明するときにはどんな方法でもいいんだよ」

テトラ「はい。でもいま考えてみたんですが、 ベクトルを使えば、最初のとっかかりができそうだなと思いました。 たとえば『A1B1A2B2 が平行である』という条件は、 A1B1=kA2B2 のように表せますよね。 k という新たな文字が出てきちゃいますけど」

「うん。あ、ただし k0 になるかな。 《A1B1A2B2 が平行である》は《ある実数 k0 に対して A1B1=kA2B2 が成り立つ》がいえる」

テトラk=0 だと A1B1=0 になって A1B1 が同じ点になってしまうから」

「そういうこと」

テトラ「では、問題2に与えられた条件をベクトルを使った式に落とし込んでいくことにします。 これは、またまた、たくさんの文字が出てくるはずですが《腕力》でがんばりますっ!」

問題2(再掲)

四面体 ABCD がある。

  • AC,AD 上にそれぞれ点 A1,A2 をとる。
  • BC,BD 上にそれぞれ点 B1,B2 をとる。
このとき、 線分 A1B1 が線分 A2B2 と平行ならば、 線分 A1B1 は辺 AB と平行であることを示せ。

なお、 四点 A,B,C,D は一般の位置にある。 すなわち、この四点 A,B,C,D は一つの平面上にはなく、 どの三点を選んでも一直線上にはない。

テトラちゃんはせっせと式に落とし込んでいく。

ベクトルを使った式で表す

「できた?」

テトラ「はいっ、こんなふうにまとめてみました」

テトラちゃんのまとめた式

{A1=sA+(1s)CA2=tA+(1t)DB1=pB+(1p)CB2=qB+(1q)DA1B1=kA2B2

「なるほど……なるほど。 A1 のようにベクトルは終点だけを書いたんだね」

テトラ「はい。 A1B1A2B2 は始点と終点を書きましたが、 点 A,B,C,D,A1,A2,B1,B2 については、どこかにある点 O を基準とした《位置ベクトル》 として表しました。 それで問題ありませんよね」

どこかにある点 O を基準とした《位置ベクトル》

「そうだね。むしろその方がシンプルになる。もちろん O はどこにあっても構わないよ」

テトラ「はい。始点を固定して考えるから、わざわざいわなくていい。終点だけを考えればいい。 あたしも、先輩がおっしゃった《点の計算》をしてみたくなったんです(第438回参照)」

「うん」

テトラ「あたしは、問題2に出てきた条件をすべてベクトルに移したことになります。 たとえば、 A1=sA+(1s)C は、点 A1AC の上にあることを表しています」

「そうだね。その式を満たす実数 s が存在するという主張になる。 厳密にいうなら、 0<s<1 という範囲だけど」

テトラ「ああ、なるほど。……それから、他の A2=,B1=,B2= の式もそれぞれ 各点がどの線分上にあるかを表しています。 これで s,t,p,q という新たな数が出てきちゃいましたけど、きっとうまく解決すると願いつつ進みます」

「そして肝心の A1B1=kA2B2 だね」

テトラ「はい。これは先ほども言った通り A1B1A2B2 が平行であるという条件をベクトルで表したものです。 そして!あたしは!その A1B1=kA2B2 という式を、 《A,B,C,D で表す》という方針を立てました」

「おお」

テトラ「さっきの《まとめた式》を見ていてそう思ったんです。まさにベクトルを利用して《点の計算》をするんですね。 具体的には、まず、 A1B1=kA2B2B1A1=A1B1=k(B2A2=A2B2) と置き換えて、あとはひたすら代入につぐ代入です。《腕力》ですっ!」

「力が入ってるね!」

テトラちゃんの鼻息が荒い。 彼女は、根気のいる計算が得意なのだ。

テトラちゃんのまとめた式(条件付き)

{A1=sA+(1s)CA2=tA+(1t)DB1=pB+(1p)CB2=qB+(1q)DA1B1=kA2B2

0<s<1,0<t<1,0<p<1,0<q<1

k0

テトラちゃんの計算

まず、 B1A1=k(B2A2) の各点に代入していきます。 (pB+(1p)C)=B1(sA+(1s)C)=A1=k((qB+(1q)D)=B2(tA+(1t)D)=A2) 符号に注意しながらカッコを外します。展開ですね。 pB+(1p)CsA(1s)C=kqB+k(1q)DktAk(1t)D 方程式を解くときと同じように、すべての点を左辺に集めます。 右辺は零ベクトル 0 になります。 pB+(1p)CsA(1s)CkqBk(1q)D+ktA+k(1t)D=0 次に A,B,C,D で整理します。 (kts)A+(pkq)B+(sp)C+k(qt)D=0 はい、これで A,B,C,D の関係式ができました。

「さくさく進んだね」

テトラ「はい、そして右辺が 0 になりましたから、 A,B,C,D に掛けられている実数がすべて 0 になって、 連立方程式ができました。これで完全にベクトルの計算から数の計算に移りましたっ!」

テトラちゃんの得た連立方程式(?) {kts=0pkq=0sp=0k(qt)=0

「おーっとっと! テトラちゃん、それは変だよ!」

テトラ「あら、あらら?」

テトラちゃんのミス

「どうしてベクトルの係数が 0 に等しいといえるの?」

テトラ「だって、これまで何度も計算していますよね。 xb+yc=0 いう式があったら、 {x=0y=0 という連立方程式に持ち込む——今回も同じじゃないんですか? ベクトルは四つになってますけど、 A+B+C+D=0 という形から、 {=0=0=0=0 という連立方程式を作る。あたし、そうするものだとばかり思ってたんですが……」

「惜しい、惜しいよ、テトラちゃん。そこには一つ大きな条件が必要になる。 ベクトルが一次独立であるという条件が必要なんだ」

ベクトルの一次独立

ベクトル bc一次独立とは、 xb+yc=0x=0かつy=0 が成り立つことである。

テトラ「あ……ということは、 あたしは A,B,C,D のベクトルが一次独立であることを述べる必要があったんですか」

「そうじゃないよ。というのは A,B,C,D という四個のベクトルが、 三次元空間内で一次独立になることはないから。 三次元空間内では、最多でも三個のベクトルしか一次独立になれない」

テトラ「それでは、あたしの計算はぜんぶ無駄になってしまいました……」

「いやいや、大丈夫。テトラちゃん。 この式、 (kts)A+(pkq)B+(sp)C+k(qt)D=0 からちゃんと前に進めるよ。 なぜかというと、位置ベクトルの基準はどこにとってもいいから、 たとえば点 D を基準にとればいい」

テトラ「!」

D を基準にとった《位置ベクトル》

「そうすれば——」

テトラD=0 になる?」

「そういうこと。 最初から四面体の頂点の一つを基準にとった位置ベクトルにすれば良かったかもしれないけど、 問題を考え始めたときに、そこまではなかなか見通せない。 でも、大丈夫。ここからちゃんと進める。 D=0 として、 この式が成り立っているといってかまわない」

(kts)A+(pkq)B+(sp)C=0

テトラ「あ、でもやはりダメです。 A,B,C が一次独立であることの証明が要りませんか?」

「そこは問題からいえる。 なぜなら、四点 A,B,C,D は一般の位置にあるから。 四点が一つの平面上にはなく、 どの三点を選んでも一直線上にはないというのは、 A,B,C が一次独立であることを意味している」

テトラ「ああ、なるほど!」

「矢印ベクトルを考えると、 《AB,AC が一次独立であること》は《三点 A,B,C が三角形を構成すること》と同値だし、 《DA,DB,DC が一次独立であること》は《四点 A,B,C,D が四面体を構成すること》と同値」

テトラ「それなら、 四点 A,B,C,D が四面体を作ることから、 点 D を基準とした位置ベクトル A,B,C は一次独立になる」

「そうそう」

テトラ「そうすると、 (kts)A+(pkq)B+(sp)C=0 から、得られるのはこの連立方程式になります」

テトラちゃんの得た連立方程式 {kts=0pkq=0sp=0

「あとは——」

テトラ「あとはできます。 {kt=skq=ps=p ですから、 kt=kq になります。両辺を k で割ると……はい、ゼロ割にはなりません。 k0 でしたよね!  両辺を k で割って、 t=q がいえました。 ええと、あとは……」

「あとは最後の段階」

テトラ「ああ、わかりました。 示すべきことは、《A1B1AB が平行》ですから、 A1B1AB の実数倍になっていればいいので、 A1B1 を計算します。 A1B1=B1A1=(pB+(1p)C)=B1(sA+(1s)C)=A1=pB+(1p)CsA(1s)C=sA+pB+(sp)C=pA+pB+0s=pから=p(BA)=pAB となります。 確かに、 A1B1=pAB となって、 A1B1AB が平行であるといえました!」

0<p<1 だから、確かに p0 になっている」

振り返り

テトラ「問題1もおもしろかった(第437回参照)ですが、 この問題2もおもしろかったです」

「それはよかった」

テトラ「《発見》ができなくても、ベクトルを使って考えるとっかかりをつかめることがあります。 それから、あたしは反省すべき点がたくさんありました。

  • 図を描くこと
  • 変数の条件に注意すること
  • 一次独立なベクトルに注意すること
他にもありそうですけれど……」

「僕がこの問題2をおもしろいと思ったのは、 この問題2は四点が一つの平面にあったら成り立たないからかな」

テトラ「えっ?」

「問題1は二次元でも三次元も成り立つ話だった(第437回参照)。 次元によらずベクトルが活躍する。 でも問題2は違う。 四点が四面体の頂点になっているという条件が決定的に効いているんだ。 一次独立なベクトルに注意するのも大事だし、その個数も重要だね」

テトラ「一次独立なベクトルの個数……」

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(第438回終わり)

(2024年11月2日)

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結城浩(ゆうき・ひろし) @hyuki


『数学ガール』作者。 結城メルマガWeb連載を毎週書いてます。 文章書きとプログラミングが好きなクリスチャン。2014年日本数学会出版賞受賞。

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