24年のコメ、需要上回る生産 来夏の不足なお懸念
農林水産省は30日に開いた食糧部会で、コメの需給見通しを発表した。2024年の生産量は前年より22万トン多い683万トンと、24年7月〜25年6月の需要見通しの674万トンを上回ると予測した。需給の逼迫は当面回避される。需要が想定より膨らめば来夏に再びコメ不足のリスクがある。
昨年秋の主食用米は661万トンの生産に対し705万トンの需要があった。今年春から夏にかけ需給が逼迫し、首都圏や関西などで店頭からコメがなくなった。価格も大幅に上がった。
影響は今でも残る。首都圏のスーパーでは、5キログラム入りが軒並み3000円以上で売られている。総務省の小売物価統計調査によると、10月のうるち米(5キログラム)の価格は3792円で前年に比べ7割高い。
24年産についてコメの生育状況の目安となる作況指数は全国で102と「やや良」だった。作付面積が増えた影響もあり、生産量は前年を上回った。農水省は今後、深刻なコメ不足は起きないと予測する。
農水省は予測の前提となる主食用米の需要について、24〜25年は前年実績に比べて31万トン減を見込む。近年は人口減を背景に10万トン程度のペースで減少してきており、大幅減の予測だ。
今夏のコメ品薄は南海トラフ地震臨時情報(巨大地震注意)を受けた買い込みが主因だと分析した。
様々な食料品価格も上昇する中で、コメには相対的な値頃感がある。新型コロナウイルス禍からのインバウンド(訪日外国人客)需要の急回復などもあり、23〜24年には22〜23年と比べて14万トン増えた。再び観光客が増加すれば、予測通り需要が大きく減るかどうかは不透明だ。
同日の会合では委員の中から、需要見通しについて「減少率は過去と比べても大きい。少しでも減少幅が小さくなると、また品薄になりかねない」と懸念する声があった。「ギリギリの需給で生産している中、少しでも予定と違うと今夏のような事態になる。政策も含めて中長期的な視点が必要ではないか」との指摘も出た。
農水省は新米が出回る前の端境期にあたる来夏の民間在庫量は162万トンになると推計した。過去最低だった今夏の153万トンからは回復するものの、コメ市場の関係者は180万〜200万トンを下回れば需給は引き締まりがちになるとみる。見通し通りなら来年の在庫水準はなお低いままだ。
大手卸からは「今年のようなイレギュラーなことがあれば再び品薄になるリスクがある」との意見が聞かれる。
生産を抑制しコメの価格を維持するため、農水省は「減反」廃止の18年以降も、飼料用米など他の作物を作った農家のために手厚い交付金を用意してきた。この政策が変わらない限り、コメの需給は不安が残る。
他方、強い生産抑制のスタンスを見直す兆しも出てきた。農水省は同日の会合で25年産の生産量の見通しも公表し、比較的豊作だった24年と同じ水準の683万トンとした。
JAグループの幹部は「平年通りの作況で計算すれば、面積ベースでは増産することになる」との見方を示す。もっとも、現状では米価が下がるリスクを覚悟で、コメの需要開拓に向け積極的な生産増にかじを切る動きとまでは言いにくい。
衆院選で自民党は公約で「水田活用のための予算は責任を持って恒久的に確保する」とうたった。国民民主党も公約で「米の需給調整は国の責任で行う」とし、「食料安全保障基礎支払いの創設」を盛り込んだ。コメ政策を抜本的に見直す機運が生まれるかは現時点では見通しにくい。
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(更新)- 大泉一貫宮城大学 名誉教授ひとこと解説
コメの需給見通しがでたが、生産量が多くなり、需給が逼迫することはないとの数字を事務的に並べた感がある。この夏のコメ騒動の教訓は、需給を常にタイトにして米価を維持しようとする現在の需給管理が、案外不測の事態に弱いこと、備蓄米が需給管理のバッファーを果たすが、機動的運営ができないことの二つだろう。これへの対応策は示されていない。農家のことは考えるが、消費サイドのことは考えてないという疑念もある。もっと言うなら、このまま稲作を縮小、消滅に向かう政策を続けて良いのかもある。 おそらく、担当した農水官僚は、そうしたことを考えるのは自分たちの仕事ではないというのだろう。では一体誰が考えるのだろうか?
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