投資商品「みんなで大家さん」で1580億円集めた開発に4年の遅れ

小寺陽一郎 小林誠一

 東京都の不動産会社「共生バンク」が成田空港近くで計画し、当初の工事完了予定から約4年8カ月遅れている開発計画「ゲートウェイ成田」。その開発資金は、同社子会社「みんなで大家さん販売」(販売社)と、グループ会社「都市綜研インベストファンド」(ファンド社)が、不動産特定共同事業法に基づく投資商品「みんなで大家さん」として2020年11月から調達していた。

 「不動産投資をもっと安心、簡単に」。勧誘資料では商品をこう説明。「シリーズ成田」として、1口100万円を出資すれば年間7%程度の利益分配金が得られる想定としていた。

 共生バンクによると、募集時期ごとに1~18号に分け、今年9月までに延べ約6万1千人から合計約1580億円を集めたという。

 ゲートウェイ成田は未完成だが、分配金はどのように調達しているのか。例えば16号については、この資金でファンド社が別の子会社から開発予定地の一部を購入し、この土地を子会社「成田ゲートウェイプロジェクト4号」に貸して賃料を得る仕組みという。

 同社は取材に「自己資金」だとし、「今後も賃料を支払い続けることは可能」としている。

 異変が起きたのは、今年6月17日。東京都が販売社に、大阪府がファンド社に対して、それぞれ不特法に基づき、新規契約など業務の一部停止(30日間)を求める行政処分を出した。

今年6月の行政処分 共生バンク側は「問題がないよう措置をした」

 行政側は理由として16号を挙げ、開発許可の対象ではない土地を契約書類に記載し、事業プランの変更に関する出資者への昨年5月の説明が不十分だったなどと指摘した。

 共生バンクや子会社に行政処分についての見解を問うと、共生バンクは大半について「共生グループとしてまとめて回答する」とした上で「対象不動産として問題がないよう措置をした」「適切な情報提供をしてきた」などと文書で回答した。

 販売社とファンド社は処分後の6月、都と府を相手取り、処分の取り消しを求めて訴訟を起こした。訴訟資料によると、処分が公表されてからの24時間で、出資者400人以上から28億円以上の解約申し入れがあったという。

 共生バンクによると出資者からは「不安だから解約したい」や「この程度で行政処分は厳しすぎる」などの声が寄せられたという。その後の解約申し入れの規模については「センシティブな内容」として取材への回答を拒否した。

 ファンド社は7月、サイト上で「事業には影響がない」としつつ、解約が一定割合に達した場合には「対象不動産の売却をもって事業を終了せざるを得ない可能性がございます」と説明していた。

 販売社はロンドン株式市場に、特別買収目的会社(SPAC)を使った方法で実質的に上場したと8月に公表した。昨年3月から「世界的事業拡大」を目的に検討していたと説明した。

千葉県や成田市が許可、成田国際空港会社も賃料 それぞれの見解は

 シリーズ成田をめぐる混乱や開発の遅れについて、開発を許可した行政側はどうみているのか。

 農地転用を許可した千葉県は「計画通り完成させるよう、共生バンク社を指導している」とした。都市計画法に基づき許可した成田市は「民間事業者に有利、または不利に働く恐れ」があるとしてその他の回答を避けた。許可当時、多数の個人から開発資金を集める方針について把握していなかったという。

 成田国際空港会社は、共生バンクからの申し出を受けて土地を貸したとした上で「今後の状況を注視する」とした。

 共生バンクは09年設立。グループ会社が千葉県のほか、三重県や鹿児島県など全国でも、不特法に基づき「みんなで大家さん」としてネット広告やテレビCMで投資商品への出資を募っていた。(小寺陽一郎、小林誠一)

 〈不動産特定共同事業〉 不動産特定共同事業法に基づき、出資を募って不動産を売買や賃貸し、その収益を分配する仕組み。不動産の運用を共同で営む任意組合型や、みんなで大家さんのように事業に出資する匿名組合型などがある。国や都道府県が許可した事業者数は今年9月末時点で257あり増加傾向。2023年度には同事業全体で約3100億円の新規出資があり、7割が匿名組合型だった。

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