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AI悪用行為「i2iパクリ」はなぜ横行し、そして廃れたのか

September 11th, 2023 22:29・All users
こんにちは、スタジオ真榊の賢木イオ(@studiomasakaki)です。

全体公開記事なので自己紹介しますと、2022年10月のNovelAI登場当時から100本くらい画像生成AIの記事の連載を続けている変な人です(自己紹介おわり)。今回はコラムとして、悪名高い「image2imageパクリ」(i2iパクリ、img2imgパクリ)とは何か、どうしてAIユーザーによる悪質行為として強烈に印象づけられたか、そして、なぜ現在は廃れたのかについて書いていきます。

こう書くと、「廃れただって?毎日のようにi2iパクリが起きているじゃないか」「AI絵師はすぐウソをつく」と言われそうですが、この記事ではNovelAIという画像生成有料サービスが隆盛した昨年10月~今年1月ごろと現在でいかに状況が変わり、他人のイラストをわざわざi2iする必要がなくなったか、そして、それなのになぜi2i被害の訴えはなくならないのかについて、AIイラストの技術解説記事を書いてきた立場から、できるだけフラットに書いていこうと思います。記事の目的は「無益有害なi2iパクリを根絶すること」です。

こうした「AI歴史総括モノ」は画像生成AIに好意的な立場からも懐疑的な立場からもさまざまなものが出てきましたが、対立相手の印象を貶める目的に終始した記事が多い印象があります。そのため、書いた人のポジションが強烈に影響するし、読み手側のバイアスも作用するため、どちらの立場の読者にも「フラット」と思ってもらえる記事にするのはなかなか難しい。出来るかぎり頑張りますが、以下の文章は「i2iパクリは絶対に許されない行為であり、自分たちの立場を貶めると考えているAIユーザーが、半年前と違ってi2iパクリをもはや行う意味がなくなったことを一般の方に説明する内容」と思って読んで頂けると、比較的スムーズに読めるかと思います。


NovelAIの隆盛

さて、AIイラストが国内で流行するきっかけになったのは、2022年10月のNovelAI(NAI)の登場でした。NAIは当時登場していたさまざまな画像生成AIの中でもクオリティが高く、日本のアニメタッチの美少女イラストも手軽に出せたことから、サブスクに加入して「NAI絵」を生成する人がどんどん増えていきました。ぶっちゃけますと、「nsfw(18禁)」イラストが容易に生成できたことも、ユーザーを広げる大きな一因だったのではないかと思います。かく言う私も、2022年10月からNovelAIを始めたユーザーの一人でした。

          ▲当時NovelAIで生成したイラスト

実は本当の「革命」が起きていたのはそれより少し前、StableDiffusionがオープンソース化された8月23日だと思うのですが、「AIにさほど感心のない一般層に先にリーチしたのはNovelAIだった」というのが個人的な感覚としてあります。

ちなみに同時期、国内では自分の画風を真似てくれるAI「mimic」が8/29にβ版リリースされましたが、「他人に画風を盗まれる」と危惧した人々から抗議が殺到し、1日で機能停止に追い込まれる事例も起きています。

現在のAIユーザーの感覚から振り返ると、当時のNovelAIで思い通りの被写体・構図・色合い・クォリティのイラストをテキスト生成(texti2mage)するには、とにかくプロンプトを練って試行錯誤するしか方法がありませんでした。LoRAという名前でよく知られている「追加学習」という概念もないため、初音ミクやエヴァのアスカ級に有名でなければ、既存キャラクターを再現することもさほどできません。それでも、「絵が書けなくてもイラスト作りのような体験ができる!」というのは大変に衝撃的だったわけです。

「呪文」を編み始めた人々

そんなわけで、当時のモデルでも手描きイラストに近いクォリティの画像をなんとか出せないかと、当時のユーザーはこぞって「プロンプト研究」を始めました。代表的なものが、中国で「元素法典」なる長大なプロンプト集が編さんされたこと。これはとにかくプロンプトを盛り盛りにすることで、当時のモデルでも高品質で描き込みの多いイラストを作ろうという試みでして、国内でも日本語訳が流通し、「プロンプト=長大で難解な呪文」という印象が広まりました。

逆に言えば当時、初心者が画像生成AIを触っても、いきなりツイッターなどで見掛けるような精緻で魅力的なイラストが出せるわけではありませんでした。当時、良いイラストは「良い呪文」とイコールであり、きちんとしたイラストを出すためには、どんなプロンプトを入れるとどんな効果があるかの研究を積み重ねて、また大量生成と分別を行う必要があったのです。意外な英単語でハイクォリティな絵が出ることがだんだんと明らかになり、SNS上で「呪文の共有」も行われるようになりました。(逆に、苦労して編み出した独自のプロンプトはまねされたくない、隠したいという気持ちになった人もいたでしょう)

   ▲「detailed wedding dress」とすると衣装の装飾が細かくなる例

そんなわけで、当時クォリティの高いイラストを投稿している人は、「プロンプトをよく研究している人」とほぼ同じ意味だったわけです。ところが、プロンプトをよく知らない初心者でも高品質なイラストが出す方法が一つだけありました。それがNovelAIにも搭載されていた「image2image」という機能です。

既存イラストを「image2image」すれば・・・

呪文からイラストを作ってもらう通常の画像生成(text2image)が完全なノイズ画像から完成図を想像してもらうのに対し、image2imageは入力した画像からスタートして画像生成してもらうものです。このやり方で生成すると、できたものは「元画像のAI加工品」のようなものになります。ただ、img2imgには「強度」のような概念があり、どれくらいの強度でimg2imgするかによって、生成結果は大きく変化します。

【image2imageの例】
試しに、昔NovelAIで生成したこちらのイラストをimg2imgしてみましょう。

まず、強度10~50%。

次に、強度60~100%。

このように、強度が1.0(100%)に近づくほど違うイラストになり、0に近いほど元画像のままになることが分かりますね。

10枚の画像をGIF動画にしてみました。

ちなみに、元画像をimg2imgせずに全く同じ設定で生成すると(つまり完全なノイズから生成すると)、このような画像が出ます。強度1.0の結果と似ていますね。

このように、わざと強度低めにimg2imgすれば「AIでちょこっと変えただけの同じようなイラスト」が出せてしまうわけです。一方、強度が0.5を超えていくと、入力した画像の印象はかなり薄まり、完全なノイズからAIだけの力で生成した結果に近くなっていきます。

この仕組みを悪用して、他人のイラストを勝手に改変しただけなのに、あたかも自分でプロンプトを工夫して出力したイラストかのように公開する「i2iパクリ」を行う人物が現れるようになりました。プロンプトだけで絵柄や構図をコントロールするのは難しくても、低強度でi2iパクリすれば、難しいポーズや出しにくいキャラクターなども思い通り。ただ、低強度では元画像とほとんど変わらないわけですから、バレるケースもいくつも出てきたわけですね。

当時は「他人のイラストをi2iするのは絶対にやってはいけないことだ」と戒める解説サイトもまだ少なかったと思われ、リテラシーのない人がさほどためらいもなくこうした行為を行ったり、「AIにお手本を見せて参考に描いてもらっているだけだから全く問題のない行為」と勘違いしたり、といったことが多発したと想像できます。

◆プロクリエイターが謝罪したことも
少し脱線しますが、最近もi2iパクリと思われる行為をプロのクリエイターが堂々と行い、謝罪したケースがありました(下記リンク先記事参照)。この人物が投稿していたのは「おおきく振りかぶって」などの公式イラストをそのままi2iしたとおぼしきもので、投稿時の様子などから、問題行為であるという意識がなくこうした行為を行っていたように見えます。

「手描きでやってはダメなことはAIでやってもダメ」というのは当たり前のことですが、なぜかAIという存在がはさむと突然「セーフ」になると誤認する人が多い、ということは今でも言えると思います。

ちなみに著作権法上、他人の絵をi2iしたら全て著作権侵害になるわけではありません。著作権侵害の成立には類似性と依拠性の両方が揃う必要があるため、i2iの強度によっては、もはや類似性がなくなることがままあるからです。
さきほどの例で言えば、右のイラストは左のイラストを高強度で「i2iパクリ」したものと言えます。ただ、類似性認定のハードルは非常に高く、左のイラストが他人の著作物だったとして、裁判所で類似性が認められる可能性は相当低いでしょう。文化庁もこの点について、他人の著作物に似てしまったものは「しっかり加工を加えてから使う」よう呼び掛けており、加工によって類似性が抜け落ちた場合、著作権侵害には問えないことは明らかです。

ただ、「どこまでi2i強度を強めれば類似性が抜け落ちるか」のチキンレースになることは望ましいことではない、と私は考えています。著作権侵害になる・ならないとは別問題として、「AIだろうが手描きだろうが、他人の著作物を勝手に加工しないのがトラブル防止の鉄則」だと強く考えていますし、初心者向けの入門記事を書くときも繰り返し強調しています。

なぜi2iパクリは「絶対バレる」のか

そもそも、i2iパクリはどんなに巧妙にやっても絶対にバレます。自分のPC内にとどめている限りは問題ないかもしれませんが、世の中に公表したら必ず気づく人が出てきますし、必ず原著作者の耳にも届きます。なぜなら、人間の脳には「ノイズ除去機能」が備わっているからです。

この文章をネットで読んだことがある人も多いのではないでしょうか。

『この ぶんょしう は イリギス の ケブンッリジ だがいく の けゅきんう の けっか 、
にんんげ は もじ を にしんき する とき その さしいょ と さいご の もさじえ あいてっれば  じばんゅん は めくちちゃゃ でも ちんゃと よめる という けゅきんう に もづいとて  わざと もじの じんばゅん を いかれえて あまりす。 』

人間の脳は視覚的に誤謬や入れ替えがあっても、そうしたノイズを自動的に取り除いて正しく読み込むことができます。風で動いたシーツが幽霊に見えたり、自分が書いた文章の誤宇脱宇になかなか気づけないのもこの機能があるためで、実際私がいま「誤字脱字」を「宇宙の宇」にすり替えたことも気づいていない人が多そうですね。

ただ、日本人でなければこのノイズ除去はできません。つまり、脳が学習済みのものにしかこの機能は働かないのです。
             ▲「i2iパクリ」被害の例

i2iした画像は、元画像を知っていたら強烈に既視感を覚えるものです。人間の脳は幼少期に見た景色にすら既視感を覚えられるので、見たことのあるイラストならかなり強度強めでi2iされても、脳は既視感を覚えてしまいます。そもそもi2iパクリまでして何をしたいのかと言えば、「得られた高品質な絵でバズりたい」のでしょうが、拡散すればするほど「既視感」を覚える人は当然増えます。バズりたくてi2iパクリをしても、バズれば絶対バレて大ダメージを負うわけですから、もともと八方ふさがりの愚かな行為だと断言できます。

爆発的に増えた「AI絵師」

さて、話を元に戻しましょう。novel AI登場前後から一気に増えた画像生成AIユーザーは、生成した画像をツイッターやPixivに盛んに投稿するようになっていきます。それとともに、「これは〇〇のi2iパクリではないか」という疑惑の事例も増えていきました。個人的に特に印象に残っているのは、2023年1月に起きた事案。AIイラストの書籍化企画を行っていた人物がイラストレーターの作品をi2iしていたのではないかという疑惑が浮上したもので、この前後にも何件かi2i指摘に伴う投稿の取り下げや謝罪があったと記憶しています。

罪悪感なくやっていたケース、バレないと高をくくっていたケース、いやがらせなど別の目的で露悪的に行っていたケースなど背景はさまざまかと思いますが、いずれにせよ2023年初頭から、AIユーザーの迷惑行為の代表的なものとして「i2iパクリ」が強く印象付けられることになりました。i2iはAI技術を使った「加工術」にすぎないのですが、当時はまだそうした知識があまり知られておらず、i2iパクリ被害について「 AIに自分の絵を勝手に学習された」と誤って報道されるケースもありました。

ちなみに、私を含む新米画像生成ユーザーたちは当初、「AI絵師」と自称したり呼ばれたりしていましたが、SNS上でi2iパクリの発覚事例が相次ぐようになると、次第に「AI絵師」という言葉は蔑称化していき、「手で描いてないのに絵師を名乗るな」と叩かれるようになりました。どうしても名乗りたい自称というわけでもないので、当時は元素法典のイメージも強かったことから、呪文を編む「AI術師」という自称を使う人が増えた経緯があります。

「ローカル移住」が進む

また、NovelAIのクォリティでは満足できなくなってきたユーザーが「ローカル」に移行するケースも2023年初頭から増えてきました。「ローカル」とは、サブスクサービスであるNovelAIにお金を払って使わせてもらうのではなく、StableDiffusion用のwebUIを自分のPC内にインストールして、ローカル環境で完結して画像生成できるようにすること。これまた私もその一人で、当時5万円以上したRTX3060というグラフィックボードを購入して「ローカル勢」として活動するようになりました。

これは、ローカルで生成できるようになったばかりの初心者だった私が驚いてブログに書いた「NovelAIとローカルの違い」です。
当時はまだNovelAI派も多かったため、StableDiffusionwebUIを使う人を「ローカル勢」と呼びましたが、その後SDwebUIを使う人の方が一般的になると、あまり「ローカル」という言葉は使われなくなっていきました。

Controlnetの登場

次に、AIによる画像生成において大きな転機になったのが23年2月です。「controlnet」と呼ばれる技術が登場し、AIに「言葉」(プロンプト)ではなく、ポーズや線画、深度情報といった「概念」を入力して画像生成することができるようになりました。

このツイートに全てが込められていますが、まさにControlnetはAIイラスト=プロンプト研究だった状況を「ゲームエンド」させる存在でした。このころから、プロンプトを工夫しなくても高品質なイラストが生成できるのが当たり前になっていきます。

こちらはもう古くなってしまいましたが、Controlnet登場直後に私が書いていた記事です。controlnetに初めて触れたAIユーザーの衝撃がよくわかるのではないかと思います。

まず最初にできるようになったのが、ある画像の輪郭やポーズを引き写して、新しい画像を作れるようになったこと。ポーズマニアックスさんのように「うちの素材はcontrolnetに使ってOKですよ」というサイトも現れ、プロンプトを工夫しなくてもさまざまなポーズが出せるようになりました。この技術を応用することで、たとえば落書きをもとにイラストを作ってもらったり、線画をAIに着色してもらったりすることもだんだんとできるようになっていきました。


LoRAの爆発的流行

Controlnetと時同じくして、爆発的に流行したのが「LoRA」でした。これはモデルが学習していない概念を数十枚程度の画像を用意して「追加学習」させられる技術。わざわざ自分で作らなくても、キャラクター再現LoRAやポーズ再現LoRA、H系LoRA、表情LoRA、衣装LoRAなどがウェブ上で盛んに共有され、ダウンロードして使えるようになりました。技術の登場自体はControlnetより早い2022年12月でしたが、追加学習に関する知識のない一般層でも気軽に使えるようになったのは、Controlnetの登場とさほど変わらない23年初頭の時期だったように思います。

その後、自分で学習させる方法もじわじわと広がり、これによってプロンプトで出せないものもかなり自由に、安定して出せるようになっていきました。ちゃんと機能するLoRAを作るのは今でもなかなか難しいですが、他人の作ったLoRAを使用するだけなら非常に簡単なので、初心者でも最初からLoRAを使ってみるというケースが多くなったのではないかと思います。

AIイラストの陳腐化と「オリジナリティ」の探究

LoRAとcontrolnetの充実により、プロンプトに縛られていたユーザーは解放されることになりました。プロンプトを練らなくても思い通りのキャラクターを思い通りのポーズでイラスト化することができるようになると、ユーザーの関心はそれまで悩んできた「どうやってまともに見えるイラストを作るか」というテーマから、「どうやって自分らしいオリジナリティを出すか」というテーマに移行していきました。この背景には、AIイラストの大量流布に伴う「陳腐化現象」が起きていたことがあります。

            ▲めちゃくちゃ高精細だけど…

すでにAIユーザーはかなりの数に増え、一般層もAIイラストを見慣れすぎて、ちょっと素敵なAIイラストを投稿していればバズれる時代は過ぎ去ってしまいました。そこでAIユーザーたちは、イラストがTLに流れてきた時に、すぐ「あの人の投稿だ」とわかってもらえるようなオリジナリティを求めて工夫するようになりました。看板娘的な「うちの子」キャラクターを作ってみたり、モチーフを絞ってみたり、オリジナルな絵柄を出せるモデルを自分でマージ(複数のモデルを混合させること)してみたり・・・といった活動が広がっていきました。

このころ、既にpixivやFANBOX、ファンティアなどには多くのAIイラストが溢れ、「nsfw(18禁)」な画像もかなりの割合を占めていました。投稿者していたのは、これまでPixivなどにイラストを投稿したことのない、いわば「鑑賞側」の人が多かったと思われます。そのため、いわゆるイラスト制作者の界隈ルールといったものが通用せず、手描きでは無理な早さで投稿するためランキングやタグを荒らしてしまったり、大量の版権エロ絵でマネタイズするユーザーも増えていきました。こうした結果、5月にPixivFANBOXやFantiaなどが相次いで「AI生成作品」の取り扱い停止を発表することになります。

これにより、特にnsfw系のAIイラストを大量投稿して安易に稼ぐことはかなり難しくなりました。Kindleなどでは、いまも大量のAI画像を電子書籍としてアップしたりする動きがあると聞きますが、AIイラストで安易に稼げた時代はもう過去のものと言ってよいのではないかと思います。

モデルの進化とNiji journeyの登場

こうした流れをよそに、モデルの進化は続いていました。当初、「ローカル勢」の間では「AbyssOrangeMix」や「Counterfeit」などの有名モデルがメジャーだったのですが、他にも多くの高機能モデルが登場。一方、サブスク系画像生成AIサービスで白眉だったのは、23年4月に登場したniji journeyのバージョン5(v5)でした。日本語で簡単に指示するだけで、スマホでもハイクオリティなアニメ絵が簡単に出せると話題になり、「NovelAI」→「ローカル勢」の流れから、さらにniji journeyに移行する人も増えました。

これは先日、沖縄の美ら海博物館を訪れたときに、スマホからNiji journey v5に指示して数分程度で生成したイラストです。プロンプトは日本語で「水族館、青、巨大なジンベエザメ、多くの美しい魚、観客」と入れただけ。昨年10~12月ごろのNovelAI時代からは考えられないほど、クォリティも利便性も向上したことが分かると思います。(※ちなみに、Niji journeyではある画像を参考にして似たイラストを生成することができますが、image2image機能はありません)

廃れたimage2imageパクリ

こうした経緯を経て、他人のイラストをわざわざi2iするメリットは、もはやなくなってしまったということができます。そもそも、生成したいイラストがあれば日本語で指示するだけで数分も掛からずハイクォリティなものが出てしまうし、特定のポーズやキャラクターを生成したければLoRAやControlnetを使えばよいわけで、わざわざ他人のイラストを探してきて低強度のi2iを掛けてパクる必要は全くないのです。

変なことを言えば、Controlnetでポーズを模倣した場合、既視感でバレるi2iと違ってほぼ見抜くことは不可能なのですから、「わざわざなぜ極大リスクのある悪質行為を行うのか意味がわからない」というのが共通認識かと思います。例えば、このようなフリー素材写真からポーズを抽出し、

このようにAIイラストを生成することが簡単にできるのに、上の写真をわざわざ低強度でi2iパクリする人がいたら非常に不自然に感じるのがわかるでしょう。


ちなみに、こちらのツイートのように、顔部分だけを任意にずらしてイラストの顔の向きを変化させることもできるようになっており、ある意味でポーズを「丸パクリ」するメリットさえもう消失していると言えます。

しかも、わざわざi2iパクリで高画質(?)なパクリイラストを手に入れたところで、ハイクォリティなAI画像は既に陳腐化してしまっているので、それをもって突如バズったり、経済的利益を得たりすることはできなくなっています(そもそも売る場所がほぼない)。また、AIイラスト黎明期と違って、i2iパクリに対する忌避感は界隈の中でもしっかり根付いており、「メリットがないのに他人を不快にさせ、自分たちAIユーザーの評判も貶める最低の行為」と認知されています。i2iパクリをした不心得者が出るたびに「同類」として私たちにも中傷が飛んでくるので、当然の反応かなと思います。

i2iパクリは、niji journey v5もcontrolnetもLoRAもない時代に、プロンプトを工夫することが嫌だった人たちが安易に行った迷惑行為でした。動機はさまざまだったと思いますが、おおむね「楽をして見た目の良いAIイラストを生成したい」か「嫌がらせをしたい」のどちらかに分類できると思います。その後、技術が進歩してさほど知識がなくても良質なイラストが作れるようになったことで、メリットはほぼなくなり、デメリットだけが極大化したと言うことができます。

さて、ここからが本題です。それなのに、なぜ「i2iパクリをされた報告」はSNS上で絶えないのでしょうか?

なぜ被害報告がなくならないのか

「わざわざ意味のないi2iパクリをする動機」について、さまざまな可能性を考えてみましょう。私が思いつくのは、以下の5つのケースです。

①誤解している初心者
まず第一に、謝罪した某漫画家さんのように、i2iパクリを禁断の行為と認識しておらず、「AIイラストとはこういうもの」と誤認しているケースが考えられます。日本では二次創作が盛んで、SNS上に多くのキャラクターイラストがあふれていることから、「ファンアート目的ならi2iも許される」と思っているケースもあるかもしれませんし、i2iの仕組み自体を「これを参考に描いてもらうだけ」と誤認していて、ただの加工であることに気付いていない初心者もいるかもしれません。

背景にあるのは、「手描きでやっちゃダメなことはAIでやってもダメ」という認識が根付いていないことかなと思います。画像生成AIに初めて触れる人には、代表的な「やってはいけない行為」の一つとして、i2iパクリの意味のなさを伝えていくことが極めて大切だと言えます。

②アイデア枯渇
最近はBANされることも多いのか、あまり見なくなってきましたが、1日に数回イラストを定時投稿するのがAIイラストレーターの「基本ムーブ」です。どんなに引き出しの多い人でも、ずっとイラストを流し続けるとなると、いつかはアイデアが枯渇してしまいがち。アイデアを出すのもおっくうになって、他人の著作物に手を出すケースがあるかもしれません。

ただ、こうしたパクリ作品はのちに残ってしまうわけで、忘れたころに発覚したら目も当てられません。それだけ沢山のイラストを日々投稿するほど熱心に活動しているのに、界隈から一発レッドカードになるようなi2iパクリをするかな?という疑問は残ります。

③完全マネタイズ目的
ウェブで誰とも交流せず、マネタイズできればいいと割り切っている悪質アカウントが、大量生成目的でi2iパクリを敢行するケースです。AIイラストを楽しんだり、投稿を通じて交流したりしたいAIイラスト投稿者とは全く違う文脈で、「ウェブ上の評判」といったものを一切考慮する必要がないマネタイズ系アカウントによる被害想定です。マナーを守る気がなく、ひたすら楽へ楽へ流れた結果、適当にi2iをしてパクリCG集を作り、大量販売して薄利多売を得る、という悪質なアカウントなら、いまさらi2iパクリをやる理由もやや理解できなくもない…と言えます。

FANBOXなどへの投稿は禁じられたとはいえ、kindleやFANZAなどではAI生成物の販売がまだできますので、そうしたところでこうしたアカウントによる被害が出る可能性はあるでしょう。ただ、個人的にはあまりこうしたケースの被害は耳にしませんし、繰り返しますがi2iパクリで大量生成したイラストが売れるとは思えません。それに、発覚すれば運営は即BANし、支払いも凍結されるでしょう。

④相手への嫌がらせ
これは既に起きていますが、パクったイラストを使用することが目的なのではなく、わざわざ相手にi2iしたことを露悪的に伝えてダメージを与えようとする動機です。相手に不快感を与えるためだけにimage2imageを行っているとみられるアカウントは、現在進行系でいくつも存在します。特徴は、他人のイラストをi2iしたと何らかの形でアピールすること。発覚すること自体が目的なので、①~③との違いはすぐにわかります。
絵師ではなく、AIユーザーへの嫌がらせとしてi2iを行っているというケースもあり、立場を問わず「SNS上での攻撃手段」としてi2iが使われてしまっていることは非常に残念です。


⑤被害報告が目的
これは陰謀論めいていて根拠もないので話半分に受け取ってほしいのですが、現在AIユーザーと反AIの間ではSNS上で中傷合戦のような様相を呈しており、互いに相手の所行を悪し様に紹介して印象操作しようという動きが目立ちます。中には相手陣営を悪く見せるための「ウソの被害報告」も混じっているかもしれません。

特徴は「誰にやられたかはっきりしないこと」。嫌がらせ目的以外でi2iされた場合、相手はそのイラストを密かに利用しており、見た人の既視感によってそれが露見するわけですから、誰が・何目的で・どのイラストを・どうi2iしたかは、露見した時点で客観的に明らかになります。「①誤解している初心者」なら単純に謝罪するでしょうし、「②」か「③」が原因なら本人の投稿の中に被害品が混じるわけですから、いずれにしても加害者が誰かは特定できます。

「i2i被害報告」が炎上

実は「加害者を特定できないi2i被害報告」というものが先日起きたのですが、AIイラスト投稿者からすると「いまどきi2iパクリをするメリットは全くないのに、加害者不明の被害訴えが出てくるのは怪しい」と強く感じられるものだったため、「本当に被害はあったのか」と逆に炎上するという結末に至りました。

個人的には情報が少なすぎて、i2i被害があったともなかったとも断定できない事案だと感じたため、何か言えば被害を訴えている方(AIユーザーに対して攻撃的投稿をしているわけでもなく、普通にイラストを楽しんでいる方に見えました)への中傷となると感じていました。被害を訴えている人のもとに乗り込んでいって「本当にi2iパクリをされたか証明してください」と迫ることは、i2iパクリ以上にAIユーザーの風評を著しく貶めることになりかねません。

今後、AIイラストを安心して楽しめる状況にするためには、まずAIイラストを楽しんでその楽しさをアピールしたほうがずっと良いと思います。論争にはできるだけ加わらず、こうした「自分の場所」において論考を書き記したほうがまだ健康的じゃないかなと思い、今回この記事を書きました。

終わりに

image2imageは正しく使えば、AIイラストをキレイにアップスケール(高解像度化)したり、破綻した部分を修正したりと、さまざまな用途に利用できるAIイラストになくてはならない機能です。ただ、その性質上安易な悪用が可能なだけに、LoRAと並んで悪質な行為の代名詞のようなものになってしまっているのが現状です。

こちらもi2i機能を使ったアップスケールの様子が分かる実験画像。本来はこのようにして、自分の用意した画像をクォリティアップさせるための機能なのですが…


この記事を読んでくださった方の中には、これからAIイラストを始めようかなと思っている人もいるかもしれません。AIイラストは、きちんとルールを決めて自己防衛すれば、とっても楽しいツールです。ただ、100%安全なツールではありません。ナイフやフォークと同じように、正しく理解して使わなければ人を傷つけますし、合法だからといって何をしてもいいわけではありません。「自分をトラブルに巻き込まないような使い方をすべき」というのは、SNSと同じですね。誰かのためにではなく、自分のために、リスクをよく勘案した使い方をすることを(自戒を込めて)オススメします。

それでは、本日はこのへんで。AIイラストに興味のある方は、こちらの記事も読んでみてくださいね。スタジオ真榊でした。
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andyleeyuan
この記事はとても良く書かれていると思いますが、中国語に翻訳して他のプラットフォームでシェアしてもよろしいでしょうか?出典リンクを付けます。
a year ago
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スタジオ真榊【AIイラスト術解説】
記事読んでくださってありがとうございます。出典リンクを貼っていただければシェアしていただいて構いません。
a year ago
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